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第11話 彼女はアットーテキなものを探している
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ちょうどPH7のライヴ増強月間だったので、FAVは何度か都内各所で行われる彼女達のライヴに足を運んだ。
十一月はホームグラウンドにしているオキシドールだけではなく、他のライヴハウスにも出かけている。とにかく一つのライヴと次のライヴのタームをどんどん詰めているようだった。
彼女達は対バンの客を実力で横取りしてしまうことで有名だった。他バンド目当ての客が、ライヴ全編を終了した時点で、彼女達の方が良くなってしまっているのだ。
だけど、その理由も客側で観ていると判る気がする。気迫が違うのだ。
いろんなところでいろんなバンドがあって、いろいろ演奏する。だが、個性という奴はこんなに出すのが難しいものだったんだろーか? とついFAVも考えてしまう。その頃はあまりににも似たような音が多かった。
ライヴハウス出身のハードなロック…… ポップスとはいまいち一線を引いているようなバンドは、明かに当時は洋楽もどきだったのだ。
FAVの所も正直言って、その感は否めない。
もともと洋楽好きで、そういう音を出したかった、というのが始まりなんだから、仕方ないといえばそうなんだが、それでもその中で、次第に「自分の音」を見つけかけているのも事実なのだ。
「自分の音」。言い換えればそれはオリジナリティという。
だが、その「コピー」から「オリジナル」へ一歩踏み出す瞬間というのは、ひどく簡単そうで、それでいて難しい。特に、自分がプレーヤーである以前にリスナーであった時間が長ければ長いだけ、そうなってくる。
本当の意味で「オリジナル」というのは既にこの音楽世界では無いように思われている。実際そうだろう。誰もが自分の生きてきた中で聴いたもの何かしらの影響を受けている。「コピー」ではないにしろ、「オリジナル」ではありえない。
ただ、「限りなくオリジナルに近いコピー」は、その分野に初めて触れた者にとっては「オリジナル」と同意語である。
ところでその頃流通しているCDで主流だったのは、ビート系ロックであった。明るい太陽の下でもできるロックという奴。
ニューウェイヴも多少表に出てはきたけれど、少数派ではあったことは変わりない。ポジティヴ・パンクもインディーズの中ではまだごく少数。
そしてヒットチャートに上がるような「ロック」はメッセージ色強いものか、軽くてノリやすいビートとメロディ。
そのあたりは欧米の影響抜けつつある、「日本人のロック」という感触はあるけれど、一歩間違えば、陳腐な歌謡曲に成り下がってしまう危険性も十分持っている。
そのあたりをFAVはHISAKAに聞いたことがある。すると彼女はこう答えた。
「や、別にメロディが歌謡曲だっていーのよ」
「は?」
「日本の歌謡曲のメロディってのは結構凄いわよ。それ一つで曲が成り立ってしまうんだから。逆に言えば、アレンジ一つでどうにでも変わる可能性を持っているってことじゃない」
「あ、そーか」
「だから、問題はそういうことじゃあないのよ。メロディがよいのもよし、メッセージもよし。別にそれはそれでいいのよ。でも、ただ、あたしの探しているものじゃあないわ」
「じゃあHISAKAはどういうものを探しているのさ?」
「そうね」
HISAKAは首を傾げて、
「圧倒的なもの」
「アットーテキ?」
「そう。それこそロックなんか知らない、という人でも、気がつくと首がこっちを向かずにはいられない、耳をかたむけずにはいられない、みたいな」
「……へえ……」
「極端な話、『お茶の間』の人が今すぐどんな手段使ってもライヴ会場へ行きたくなるよーなモノ、かな」
「それって一般ウケってこと?」
「そう言いたければどーぞ。ただ、ロック的なモノを求めている人にそういう音楽を伝えるのは簡単なのよ。もともとそういう人達は、速いリズムもめちゃくちゃな客席も、破壊的な歌詞も、無闇に大きな音も、もともと好きなんだから。ケーキが好きな子にケーキをどうぞ、と勧めるようなものじゃない」
「と、いうと、あんたは、『ケーキなんかあんな甘ったるいもの大っ嫌い』って子に、ケーキはうまいんだ、と思わせるような音を作りたいと?」
「まあそういうものよね。だから、もっともっとたくさんの人に聞いてもらうチャンスってのが欲しいのよね」
「雑誌とか……」
「それこそケーキ好きしか見ないじゃない。だいたいどれだけの人がロック雑誌を読んでる? それこそ人と違う情報を持っていることが自分の価値だと思っている子が多いんじゃあない?」
「あんた結構きついねー」
「きついとは思うけどさ、本当のことだよ? こっち側の人達が、結構気付かないフリをしている、ね」
「どーしてだと思う? HISAKAは」
「自分の作った音楽を大事に思っていないんじゃあないの? みんな。作ってしまった曲をただ演るだけで、どうすればもっとよくなるか、どうすればもっとたくさんの人に聞いてもらえるか、もっと頭使えってのよ。今までの方法が駄目ならもっと別の方法があるはずなのよ。それをしないってのは、結局あきらめてるのよ。食えれば充分と思ってるのよ。近視眼的なのよ。や、別にそれが主義な人はいいのよ?ただ、売れたいくせにその努力怠ってる奴にあたしゃ同情はしないね」
「……ほー」
FAVは思わずコトバを失ってしまった。さらさらとこれだけのコトバがこの美人から流れてくるとは思わなかった。
十一月はホームグラウンドにしているオキシドールだけではなく、他のライヴハウスにも出かけている。とにかく一つのライヴと次のライヴのタームをどんどん詰めているようだった。
彼女達は対バンの客を実力で横取りしてしまうことで有名だった。他バンド目当ての客が、ライヴ全編を終了した時点で、彼女達の方が良くなってしまっているのだ。
だけど、その理由も客側で観ていると判る気がする。気迫が違うのだ。
いろんなところでいろんなバンドがあって、いろいろ演奏する。だが、個性という奴はこんなに出すのが難しいものだったんだろーか? とついFAVも考えてしまう。その頃はあまりににも似たような音が多かった。
ライヴハウス出身のハードなロック…… ポップスとはいまいち一線を引いているようなバンドは、明かに当時は洋楽もどきだったのだ。
FAVの所も正直言って、その感は否めない。
もともと洋楽好きで、そういう音を出したかった、というのが始まりなんだから、仕方ないといえばそうなんだが、それでもその中で、次第に「自分の音」を見つけかけているのも事実なのだ。
「自分の音」。言い換えればそれはオリジナリティという。
だが、その「コピー」から「オリジナル」へ一歩踏み出す瞬間というのは、ひどく簡単そうで、それでいて難しい。特に、自分がプレーヤーである以前にリスナーであった時間が長ければ長いだけ、そうなってくる。
本当の意味で「オリジナル」というのは既にこの音楽世界では無いように思われている。実際そうだろう。誰もが自分の生きてきた中で聴いたもの何かしらの影響を受けている。「コピー」ではないにしろ、「オリジナル」ではありえない。
ただ、「限りなくオリジナルに近いコピー」は、その分野に初めて触れた者にとっては「オリジナル」と同意語である。
ところでその頃流通しているCDで主流だったのは、ビート系ロックであった。明るい太陽の下でもできるロックという奴。
ニューウェイヴも多少表に出てはきたけれど、少数派ではあったことは変わりない。ポジティヴ・パンクもインディーズの中ではまだごく少数。
そしてヒットチャートに上がるような「ロック」はメッセージ色強いものか、軽くてノリやすいビートとメロディ。
そのあたりは欧米の影響抜けつつある、「日本人のロック」という感触はあるけれど、一歩間違えば、陳腐な歌謡曲に成り下がってしまう危険性も十分持っている。
そのあたりをFAVはHISAKAに聞いたことがある。すると彼女はこう答えた。
「や、別にメロディが歌謡曲だっていーのよ」
「は?」
「日本の歌謡曲のメロディってのは結構凄いわよ。それ一つで曲が成り立ってしまうんだから。逆に言えば、アレンジ一つでどうにでも変わる可能性を持っているってことじゃない」
「あ、そーか」
「だから、問題はそういうことじゃあないのよ。メロディがよいのもよし、メッセージもよし。別にそれはそれでいいのよ。でも、ただ、あたしの探しているものじゃあないわ」
「じゃあHISAKAはどういうものを探しているのさ?」
「そうね」
HISAKAは首を傾げて、
「圧倒的なもの」
「アットーテキ?」
「そう。それこそロックなんか知らない、という人でも、気がつくと首がこっちを向かずにはいられない、耳をかたむけずにはいられない、みたいな」
「……へえ……」
「極端な話、『お茶の間』の人が今すぐどんな手段使ってもライヴ会場へ行きたくなるよーなモノ、かな」
「それって一般ウケってこと?」
「そう言いたければどーぞ。ただ、ロック的なモノを求めている人にそういう音楽を伝えるのは簡単なのよ。もともとそういう人達は、速いリズムもめちゃくちゃな客席も、破壊的な歌詞も、無闇に大きな音も、もともと好きなんだから。ケーキが好きな子にケーキをどうぞ、と勧めるようなものじゃない」
「と、いうと、あんたは、『ケーキなんかあんな甘ったるいもの大っ嫌い』って子に、ケーキはうまいんだ、と思わせるような音を作りたいと?」
「まあそういうものよね。だから、もっともっとたくさんの人に聞いてもらうチャンスってのが欲しいのよね」
「雑誌とか……」
「それこそケーキ好きしか見ないじゃない。だいたいどれだけの人がロック雑誌を読んでる? それこそ人と違う情報を持っていることが自分の価値だと思っている子が多いんじゃあない?」
「あんた結構きついねー」
「きついとは思うけどさ、本当のことだよ? こっち側の人達が、結構気付かないフリをしている、ね」
「どーしてだと思う? HISAKAは」
「自分の作った音楽を大事に思っていないんじゃあないの? みんな。作ってしまった曲をただ演るだけで、どうすればもっとよくなるか、どうすればもっとたくさんの人に聞いてもらえるか、もっと頭使えってのよ。今までの方法が駄目ならもっと別の方法があるはずなのよ。それをしないってのは、結局あきらめてるのよ。食えれば充分と思ってるのよ。近視眼的なのよ。や、別にそれが主義な人はいいのよ?ただ、売れたいくせにその努力怠ってる奴にあたしゃ同情はしないね」
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