女性バンドPH7③子供達に花束を/彼女と彼女が出会って話は動き始めた。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
14 / 38

第15話 女の子は、人殺しだったとしても、女の子だと思う。

しおりを挟む
「どーしたんですか!」

 滅多に物事に驚かないはずのマリコさんが目をまん丸くして出迎えた。

「あれ?マリコさん、コンサートは?」
「もう終わりましたよ…… 遅いから」
「え?」

 壁に掛かった時計を見上げる。確かに、心配するような時間だ。すると、時間がやはりかかったのだなあ、とハルは思う。そしてマリコさんの視線が肩に掛かっている女の子に向いているのに気付くと、

「えーと、あれ? ユーキくんは」
「先輩に呼ばれたから、帰りは明日になるかも、ということですけどね…… 全く何拾ってきたんですか」

 貸してごらんなさい、とマリコさんは手を出す。さすがのハルもかなり疲れていたので、素直に肩を自分からマリコさんへと移しかえる。その時、マリコさんがぎょっとした顔になった。

「何ですかこりゃ」
「あ」

 それまで、月明かりしかない道を通ってきたので気付かなかった。白い服が汚れている。黒っぽい、ざらざらした砂。そして、もう赤黒く変色していた――― 血。
 何処をケガしているのかしら、とマリコさんは砂だけ払ってから、女の子をベッドに横たえる。
 てきぱきと服を脱がせる。気がつく様子はない。
 コットンの白い服が幾重にも絡まっている。それを一枚一枚取るごとに、血の染みは消えていく。海水の染みだのはあっても、色のキツイ染みはペティコートにはついていない。
 と、いうことは、血は身体にキズがあって出たものではない――― 強姦されたという訳でもない――― そう思いながら、身体の下に広がった服を取ろうと、彼女の身体をずらしたとき、それは見つかった。

「なにこれ」

 白い腕に、赤の太い線が描かれていた。固まって、既に血は止まっている。

「手にケガしてたの?」

 ハルはマリコさんの後ろからひょい、と顔をのぞかせる。マリコさんは無言で彼女の手を見せた。
 は? とハルは顔を歪めた。両の手首に、ひどく太い線が走っていた。血の染みの原因はここだった。

「何それ、いったい」
「もう止まってますから、見かけほどひどくはありませんよ。それに、これ、自殺用のキズじゃないですよ」
「は? どういう意味?」
「ちょっとよく見てください」

 彼女の手をベッドの上に戻して、手のひらを上に向ける。

「何か変だと思いません?」
「何かって何」
「向きですよ」

 向き? 

 そう言われてみれば、そうである。左も右も、同じ方向に走っているのだ。

「例えば」

 マリコさんは自分の手で示してみせる。

「たいてい自分からやるってときは、力加減の関係から、手のひらを上に向けた状態で、外側から内側に向かって走ってるはずです」
「逆だと力がうまく入らない?」
「それに、そんなところまで考える余裕がある人なら、もう少しましな方法とりますよ。手首なんてのは、首の頚動脈に比べて成功率高くないんですから」

 ハルは顔を歪める。血の飛び散る様子。生々しい臭気が脳裏によみがえる。これ以上死体は見たくない。

「この子は大丈夫?」
「まあショックはずいぶん受けているし、何処かから落ちたのか…… 結構打撲はあるようですけど、命に別状はないようですよ。ただ、これが自分でしたものでない、というのが気にかかりますねえ」
「自分じゃなければ」
「他人しかないでしょう?」

 あっさりとマリコさんは言った。

「誰かに、殺されそうになった、ということです。それも、この子にとって、結構大切な人だったんじゃないでしょうか?」

 よそいきの、としか思えないブランドものの服。それも全身白でまとめるくらいの…… 自分自身のためだけに着る、という人もなくはないが、相手が居たことが事実なら。

「だとしたら、起きた時に厄介なことが起こらなければいいんですけど」
「ベッドが四つあってよかった」

 ハルはとりあえずそう言うしかできなかった。



 簡易キッチンがついているような「別荘」でも、洗濯機まではついていない。
 「彼女」の擦り傷切り傷の手当や、打ち身で熱を持っているような所を冷やしたりしているマリコさんに代わって、ハルはバスルームでコットンの服の洗濯をする。ついでに自分のほこりに汚れた顔や手も洗う。
 結構せっけんという奴は、血の染みをよく落としてくれる。だが、破れた所はどうにもならない。
 後で繕うしかないだろうが、目を醒ますだろう「彼女」がそれを着たがるかどうか。
 とりあえず、着替えは少し多めに持ってきていたので良かった、とハルは思う。「彼女」は自分よりやや小さい。マリコさんよりはやや大きい。ハル自身、どう考えたって「大柄な女」、身長175センチだったと記憶しているくらいなんだから、大抵の女の子は自分より小さいのだが。
 だいたい妹と同じくらいだったな、と肩を貸した時の感触を思い出す。背の高さも、身体つきも、何となし似ている。顔は全く似ていないが、「女の子」の醸し出す雰囲気、というものは共通していた。何かふわふわした、掴み所のない、甘い空気。
 たとえ「彼女」が血染めの服を着ていたとしても、だ。

 女の子は、人殺しだったとしても、女の子だと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

処理中です...