〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
132 / 168
辺境伯令嬢の婚約者は早く事件を解決したい

29 集まる情報と気付く歪み

しおりを挟む
 そんな日々が一年程続いた。
 その間に「裏」からは各地の情報が集まってきた。
 麻薬ルートの拠点だろうトアレグの「飛び地」付近が、かつてはセレジュ妃の実家が本家をやっていた辺りであること。
 セレジュ妃とデターム氏とセルーメ氏は同じ一族であったこと。
 集めてみれば、割と簡単につながるものはあった。
 ただそこで、伯爵夫妻が早く亡くなっていることに関しては土地の者も口が固い、とのことだった。
 ので、バルバラはそこの辺りをよく洗う様に、と命じた。
 一方、国境近い領地を持つランサム侯爵の動向も気になるところだった。
 一見何の関係もなさげなところである。ただ、動向が怪しい、という報告だった。この時点では。
 田園生活を好む侯爵が二、三年前に急に隠居して遠縁に跡を継いでもらったという。

「館以外は周辺貴族に売り払ってその後継者は王都近くに家を借りて娘と二人で暮らしている」

 この報告に、バルバラは疑問を持って館の方をもう少し探る様にと命じた。

「何で館だけ残すか、だな」
「と言うと?」

 俺達はこの類いの話は家の中、特に物置としている場所でしていた。
 王宮の誰かがこちらの離れを調べているのは前提だ。
 たださすがにこれだけほこりだらけの物置に三人で密談しているとは思っていないだろう。
 辺境伯の、一応「令嬢」には回避したいところではないか、という頭がこの国の人間ならあるだろう。
 とは言え。

「まあいざとなったらお前といちゃついているところでも見せておけばいいさ」
「まあ!」

 ゼムリャが堪えきれずに笑った。

「それは止めておきましょうよ。一応貴女、ここに婚約者が居ることになっているのですし」
「いやいい加減私、お前の胸毛をわしゃわしゃしてやりたいと思ってるんだ。何かこう、手がうずいて」

 ゼムリャの笑いが止まらない。

「はいはい。どうせ俺の寝床で時々寝てるくせに」
「ちょ、それは……」

 駄目だこりゃ、とばかりにゼムリャは腹を押さえていた。

「まあ実際、俺や貴女の寝床にまで侵入できる訳ではないし、その前に誰か入ったらうちの連中なら捕まえますからね。と言うか、前に何度か捕まえましたよね」
「あー。確かに」

 その時は普通に「こそ泥だと思って」「痛めつけて叩きだした」訳だ。
 こで聞き出したところでろくなことは起こらない。
 下手な情報を持ってこられて攪乱させられても困る。
 現在「手を出してくる奴は居る」「が、捕まえて何やら白状させられることはない」ということが広まれば充分だろう、と考えていた。
 そしてランサム侯爵の館のことだが。

「全部売り払ってしまえばいいじゃないか。館に何かしらの思い入れがあるならともかく、新たに入ってきた遠縁とかいう奴だ。それに、そもそもその元侯爵は何処に行った? 確かに爵位返上の申し出はされていた。受理された。ただ当人は何処に行った? 何でそれをそのままにしておく?」
「つまり管理方面に問題があると」
「そこは後で突いていいと思う。あまりにも甘い」

 了解、と俺達はうなづいた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...