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辺境伯令嬢の婚約者は早く事件を解決したい
30 薬のルート
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制度の歪みや不備といったものは度々現れる。
全体的に引き締めが足りない、と情報を受け取る都度、俺達は思う。
「それが麻薬と繋がっているのか、それとも別ものなのか」
そこも問題だった。
麻薬ルート。
それはまず貴族の召使いの間で茶と共に「疲れがよく取れる薬」が出回ったらしい。
その後に「よく眠れる薬」がついてきた頃に、貴族そのものが飛びついた。
そして最終的に「憂さを忘れて気持ちよくなる薬」――阿片が登場したという訳だ。
最初の薬、これはこれで問題がある。
帝国では禁止されている興奮剤だ。南の地方の植物由来のものらしい。
これはなかなか入手が困難なものである。
トアレグの阿片よりもずっと希少である。
ただ、実際に使うにはほんの少しの量でいい。
使う側も召使いだった場合、沢山は買えない。
それに、大量に使った場合、明らかな常習性と副作用が出る。
それでは広告としての役割として困る。
ここでは「この売り手の薬には効果がある」と見せるのが大切なことなのだ。
次の薬は睡眠薬だが、幾つか種類がある。
相手の状況によって麻酔成分、気を静める成分、身体の力を抜けさせる成分のものと出し分ける。
ちなみにこの「よく眠れる薬」は禁止はされていない。
比較的常習性が少ないものに限るが。
ただ、この「よく眠れる薬」と「気持ちよくなる薬」には使う側に連続性があるのだ。
召使いにとっては、最初の薬が必要になることがあるのだろう。
そしてそういう家では、彼等をそういう目に合わせる者達が次の二段階の薬にはまっていく可能性が高い。
ほころびがあるところに仕掛けていくのだ。
それが茶という、やはり気持ちをゆったりさせる場面でありつつ、逆に社交の場面という緊張させるところで必要なものと同時に入ってくる。
構図としては、まあ、ありだと見た。
「お茶会の行われた記録です」
「裏」の調べたものをまとめたものを皆で見る。
「お茶会を良く行うところでも、特にお茶自体の味にこだわる人々が居る様ですね」
「そう言えば、セレジュ妃のところで呑んだ茶は、無性に美味かったなあ」
「……そう言えばそうですね」
「空気は冷え冷えとしてますが、いつも茶ばかりは美味しいんですよね……」
どうやってもセイン王子がやってくる気配は無いので、俺達はもっぱら訪問する方にしていた。
ただしセイン王子ではなく、セレジユ妃かクイデ王女相手ということで。
もっとも、クイデ王女は図書室か庭か林を散策していれば何処かで出会うので、わざわざ先触れの必要は無い。
必要なのはセレジュ妃のところへ行く時だけだ。
「申し訳ございません。今日も息子ときたら、何やら友達と前からの約束があると申しまして……」
「いえ本日は王子ではなくセレジュ様、貴女に用が」
「何でしょう?」
「あの壁に掛かっているのは、八角盤ですね?」
「ああ、あれはセインの教師だったデタームが土産に、と送ってくれたものです。綺麗な細工でしたので飾っておりますのよ。盤と言うと、チェスとかのですか?」
「ええ。帝都では様々な形の盤やルールで将棋をさすことですし。で、セレジュ様、一度私とチェスを一局お願いしたいのですが。何でも、貴女はとても上手いという噂で」
「噂ですわ。本当に駒を動かせる程度でございます」
「でもお願いします。一局で良いのです」
ふう、とため息をつくと、半分顔を隠した扇の下、彼女は了承した。
全体的に引き締めが足りない、と情報を受け取る都度、俺達は思う。
「それが麻薬と繋がっているのか、それとも別ものなのか」
そこも問題だった。
麻薬ルート。
それはまず貴族の召使いの間で茶と共に「疲れがよく取れる薬」が出回ったらしい。
その後に「よく眠れる薬」がついてきた頃に、貴族そのものが飛びついた。
そして最終的に「憂さを忘れて気持ちよくなる薬」――阿片が登場したという訳だ。
最初の薬、これはこれで問題がある。
帝国では禁止されている興奮剤だ。南の地方の植物由来のものらしい。
これはなかなか入手が困難なものである。
トアレグの阿片よりもずっと希少である。
ただ、実際に使うにはほんの少しの量でいい。
使う側も召使いだった場合、沢山は買えない。
それに、大量に使った場合、明らかな常習性と副作用が出る。
それでは広告としての役割として困る。
ここでは「この売り手の薬には効果がある」と見せるのが大切なことなのだ。
次の薬は睡眠薬だが、幾つか種類がある。
相手の状況によって麻酔成分、気を静める成分、身体の力を抜けさせる成分のものと出し分ける。
ちなみにこの「よく眠れる薬」は禁止はされていない。
比較的常習性が少ないものに限るが。
ただ、この「よく眠れる薬」と「気持ちよくなる薬」には使う側に連続性があるのだ。
召使いにとっては、最初の薬が必要になることがあるのだろう。
そしてそういう家では、彼等をそういう目に合わせる者達が次の二段階の薬にはまっていく可能性が高い。
ほころびがあるところに仕掛けていくのだ。
それが茶という、やはり気持ちをゆったりさせる場面でありつつ、逆に社交の場面という緊張させるところで必要なものと同時に入ってくる。
構図としては、まあ、ありだと見た。
「お茶会の行われた記録です」
「裏」の調べたものをまとめたものを皆で見る。
「お茶会を良く行うところでも、特にお茶自体の味にこだわる人々が居る様ですね」
「そう言えば、セレジュ妃のところで呑んだ茶は、無性に美味かったなあ」
「……そう言えばそうですね」
「空気は冷え冷えとしてますが、いつも茶ばかりは美味しいんですよね……」
どうやってもセイン王子がやってくる気配は無いので、俺達はもっぱら訪問する方にしていた。
ただしセイン王子ではなく、セレジユ妃かクイデ王女相手ということで。
もっとも、クイデ王女は図書室か庭か林を散策していれば何処かで出会うので、わざわざ先触れの必要は無い。
必要なのはセレジュ妃のところへ行く時だけだ。
「申し訳ございません。今日も息子ときたら、何やら友達と前からの約束があると申しまして……」
「いえ本日は王子ではなくセレジュ様、貴女に用が」
「何でしょう?」
「あの壁に掛かっているのは、八角盤ですね?」
「ああ、あれはセインの教師だったデタームが土産に、と送ってくれたものです。綺麗な細工でしたので飾っておりますのよ。盤と言うと、チェスとかのですか?」
「ええ。帝都では様々な形の盤やルールで将棋をさすことですし。で、セレジュ様、一度私とチェスを一局お願いしたいのですが。何でも、貴女はとても上手いという噂で」
「噂ですわ。本当に駒を動かせる程度でございます」
「でもお願いします。一局で良いのです」
ふう、とため息をつくと、半分顔を隠した扇の下、彼女は了承した。
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