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離婚された侯爵夫人は語る

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 引退した先代侯爵もその夫人である母君も、本当に優しいいい方々です。
 ただ、この家でただ一人、私にとって理解不可能なひとが居ました。

 彼の妹です。

 エレネージュという名で絵描きとしても有名な女性で、離れにある彼女のアトリエには、常に色んな人々が入れ替わり立ち替わりやってきていました。
 男女が昼夜問わず、芸術談義に花を咲かせていたようです。

 絵だけではありません。
 音楽や彫刻の方面で名を上げている人々が、何かと彼女のところへ集まっていたようです。
 一度二度、用事があって、離れに赴いた時は、大きな壁にどれだけの彩りの花を咲かせられるか、というのがテーマだったらしく、筆を走らせる者、壁に鑿を入れる者、それに合う音楽を作るべくピアノに向かうもの、皆がそれぞれのことを無言でやっていて、一種異様でした。

 その時私は差し入れを持ってきたのですが、その中でも何とか気付いた一人が私の手からありがとうと差し入れを受け取ってくれました。
 けど私は固まっていました。
 その一人、――男性ですよ――上半身裸だったからです。
 いえ、絵具がつくから、という意味もあったかもしれません。
 ですが女性も居る中でそれはどうなのでしょう。
 エレネージュ自身は男もののシャツをまとい、上のボタンは外し、腕まくりをしていた状態なのですが。
 そんな目で見てしまう私が悪いのでしょうか。
 いいえそんなことはありません。
 私は旦那様の従姉妹達にお作法も教えていたのです。
 彼等の様な振る舞いが常に許されるなら、お作法など何の役に立ちましょうか。

 エレネージュ自身はと言うと、彼女も場によって使い分けているとのことです。

「何もいつもこんなことしている訳ではないわ。それに宮廷に出る時とかにはちゃんとわきまえているもの」

 どうでしょう。
 普段の行動はおのずと出てしまうものです。
 私はそういったことがあってから、離れには近寄らないようになってしまいました。
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