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建国 編【L.A 2064】
ん~、なんかばくはつした
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「……これが、相殺ということですか」
「そうだよ」
魔術を初めて認識したものもいるだろう、魔術をおそろしいものと忌避するものもいるだろう。驚き、畏怖、希望、それぞれの思いは様々だった。
「原理は……まぁ、分かったような分からないような……ですが、皆さまはどうやって発動しているのですか」
「そもそも君たちはできないと決めつけて学ぼうとしなかった、今初めてエレメンタルやビロスト、そしてアンドーラの存在を知った子も多いんじゃないかな。アンドーラという世界があって、そこにすむエレメンタルたちが4種類あって、ビロストという魔術陣から手助けしてくれる。それをちゃんと理解できただけで十分だよ」
「は、はぁ……」
男はボサボサの後頭部をポリポリと掻いて背中を丸める。十分と言われても、こんなことで魔術が使えるようになるなら皆、苦労はしていない。隣のものと顔を見合わせては首を傾げてアオイを見上げても、何も変わっていない。
「あとは実践だね」
「えっ、8つの言葉とかいうのは!?」
思わず身を乗り出してしまったが、立ち上がりそうになったのは彼だけではない。
「とりあえず必要なものだけ覚えよう。ジェイソンくん、さっきはどうやって水を出したの?」
姿勢を戻し、何もなかったかのようにちょこんを座るジェイソンへと視線が注がれる。いきなり自分に話題が振られたことに、ジェイソンは無邪気にもコテンを頭を傾けていた。
「呼んだの」
「はい?」
「水のエレメンタルさんって。水は『イズム』だよ」
「イ、イズ……」
「まま、待て!待て待て!」
ジェイソンの左側に座っていた女性が復唱しようとした途端、ドレアスがジェイソンを押し退けて彼女の口を塞ぐ。本のように折り畳まれてしまったジェイソンからは聞き取ることのできない呻きが漏れていた。
「おいトーマ、分かってるくせに止めねぇのかよ!」
壁を背にしてこの授業を聞いているのはトーマとサイロンの二人だけ。アオイの言葉に納得できない彼らは同じように腕を組んで同じように始終、眉間に皺を寄せていた。
「……今のは詠唱です。エレメンタルはただ呼ぶだけでビロストから出てくるわけではありません。術者の魔力の量に応じてエレメンタルの多さも変わります。魔力が多いほど、魔術の威力も強くなります。従って……魔力量の調整を分かっていなければ、ここが水浸しになる……ということです」
ドレアスが血相を変えて止めたのはそのためだった。魔術が使えても自身で制御ができないときに巻き込まれるのは周囲のものたちなのだ。それをドレアスは身を以て知っている。
「魔力があれば、の話なのです。だから、魔術を使えるものと使えないものの差がはっきりしているのです」
「さぁて、話をサイロンくんのあたりに戻そう」
マテウスはずっとアオイを見据えていた。隣に座っているベネットはマテウスの知識と理解の早さにずっと感心し通しだった。
名前を出されたサイロンはむっと唇を尖らせて顔を顰めている。
「アンドーラの成り立ちは至って簡単だ、ビロストさえあればエレメンタルは出てくる。そして魔力……エレメンタルは術者の魔力の量によって威力が変わる。けれどエレメンタルはビロストがなくてもこちらに姿を現すことができるんだよ。落雷、豪雨、竜巻、噴火、地震………災害という形でね。なぜ魔力の量によって威力を変えるエレメンタルがそれほど巨大になるのか。魔力も元素と等しく、空気中にあるからだ」
ベネットの表情が少しだけ翳る。ユリウスが死んだあの日、無意識に魔力を暴走させてしまったときのことを思い出していた。あの時、アオイが機転を利かせていなければ自分自身が災害の中心になっていたのかもしれない。全てが終わった後、あたりを見渡し崩れ落ちた壁や剥がれた石畳を見て絶句した。これを引き起こしたのが自分なのか、と。
魔術をあまり使わなかったから暴走したのだと言われたけれど、制御さえできていればあんなことは起きなかったはず。魔術の基本を覚えなければ皆を危険に晒してしまうという気持ちが大きかったからこそ、アオイに頼み込んだのだ。
自分がまた暴走しても、皆が自分自身の身を守れる術を持っていられるように。
「なら大きく息を吸えば強くなるの?」
「吸い込んで吸収できる人もいる……かもしれない。君たちは常に魔力を取り込んでいるんだ、呼吸で、素肌で」
「それならドレアスは相当取り込んでいるんですかね」
「喧嘩売ってんのか? あ゛?」
魔力は吸い込んで吸収できるという仮説にトーマは嘲笑と皮肉で嗤う。だったらなぜ、前世で魔術を使えていたものが転生したら魔術を発動できなくなっているという話があるのか。
「でもそれをわずかにしか吸収できない人もいる。それはもはや生まれつきとしか言いようがない……もしくは……まぁ、手立てはある。ただし吸収を促進する装置や薬を開発しなければならないんだ」
「よほど……そのような体質の存在でなければ、みんな、魔術を使えるというのですか」
「そういうこと」
聞いている皆が皆、その話が夢物語のように感じていた。もっと早く魔術が使えていれば、あのときに発動できていれば……変えられない過去ばかりを悔やみ、奥歯を噛みしめる。
「というわけで鉢と固まった土を配るよ。土を操る言葉は『オド』、水は『イズム』、この二つを使って土を柔らかくしてね」
「えぇ!?」
宙に浮いた鉢が一人ひとりの目の前にどん、どん、と着地していく。早速実践……もとい、遊び始めたのはジェイソンだった。こねて土団子にするまで時間はそう掛からなかった。
「オドは大丈夫だと思うけどイズムは~……まぁ、濡れて困ることはないし。成功した人は火と空気をやって早速作業に取り入れてみよう! 制御できない人は、俺と個人授業だからね」
よほどの物好きじゃない限り、それは御免被る仕打ちだ。しかしはなから制御なんてできるなら暴走という現象なんて起きない。一体この中の何人がアオイの個人授業を受けるはめになるやら……とドレアスは鼻で笑っていたが真後ろにその心当たりがいることを思い出す。後ろを振り返って見れば、立って聞いていたはずの二人がいない。代わりに、ジェイソンの両脇に鉢が一つずつ置かれ魔術が使えることに浮かれたジェイソンの餌食となったのだった。
「あの……言葉が、言えないヒトも、いるのです……」
「……そっか、教えてくれてありがとう」
マテウスはアオイを見上げず、俯いたまま告げる。舌を切られたり、精神的なショックから言葉を話さなくなったものたちを多く見てきた。その存在は近くにいて、他の者たちは気付かなかったけれどマテウスは気付いていた。魔術の発動に成功し、歓喜の声を上げる者、汗を垂らしながら奮闘している者、その中でじっと鉢を見つめて動かない少女の存在。ベネットも自分の鉢を持ち上げよし、と意気込んだ後だった。だが突然立ち上がったマテウスへの視線はその少女へと移る。
アオイの声色はやさしいものだった。そして、マテウスの頭を耳ごと撫ぜる手もやさしかった。
「い、いえ」
耳はピンと立ち、服の裾から覗くしっぽの先はボッと毛が立つ。すい、と流れるような動作でアオイは少女の前にしゃがんだ。やはり少女は視線を鉢に向けたまま、動くことはしなかった。
「君かな、ごめんね、気付いてあげられなくて。でも大丈夫だよ、さっきから俺は言葉を使わず火を出したり鉢を浮かせたりしたでしょう? 君には文字を教えよう」
石畳に土を薄くのばす。その上からアオイは文字を書き始めた。
「これをじっと見つめて、よく覚えて」
「あ、あの……文字を、なぞっても、できますか?」
ベネットは少女の隣に膝をついて問いかけた。可能性を少しでも広げられたら、そう信じて。
「……うん、できるはずだよ。よし、じゃあなぞってみようか。文字は何度も書いて覚えるものだもの」
少女の手に同じくらいの大きさの手が重なる。強張った少女は、そこで初めて感情というものがようやく表に出た。怯えるような視線と指先から伝わる震え。ベネットは優しく両手で包み込み、石畳の上に書かれた文字へと少女の指を誘う。
「……これが『オ』、これが……『ド』、です」
やがて少女の手は彼女自身の意志で動き始め、ひとりでも文字をなぞるようになった。鉢に手を伸ばし、乾いた土に同じ字を描く。しん、と静かな鉢に少女は悲しむように口を引き結ぶ。
「…………あっ」
僅かすぎる動きで、気のせいかもしれないとも思った。しかし乾いた土が脈打つようにもぞもぞと隆起を繰り返す。乾きすぎて石のようだった土がほろほろと砕ける様子を、少女は目を輝かせながら見つめ続けた。
「できた! できましたよ!」
少女よりもベネットの方が喜んでいるようだった。自身の鉢のことなど忘れているのかもしれない。だって、今度はお水ですよ!などと言って張り切っているのだから。
その光景を見て安心したようにマテウスは息をつく。微動だにせず、どこを見ているのかも分からないアオイに目を向けてみても、やはり彼は動かなかった。
「……あの、アオイ、さま」
「うん?」
思いのほか、返事が早かったことにマテウスは緊張してちょっと後ろに下がったかもしれない。
誰も聞かないから気にしているのは自分だけかもしれない、けれど自分の追究心を抑えきれなかった。
「さきほど、魔力を吸収できないヒトについてお話していましたが……なにを、言いかけたのですか」
魔力は空気中にあり、それは皆に吸収され続けている。だから、魔力がないヒトという存在はよほどの理由……生まれつきのものであり、他にも理由があるような言い方がマテウスには気になっていた。
「う~ん……ちょっと難しいし怒りそうなのが居たから言わなかったんだけど……君は賢い子だからね。教えておこう、魂そのもののあり方がこの世界の理から逸脱している、そういう人がいるかもしれない」
マテウスは何度かその言葉を頭の中で繰り返した。けれど、10回くらい繰り返してやはり理解できずに首が曲がっていく。
「そのうち分かるよ、そしてそういう人を見つけるかもしれない……君は本をたくさん読みなさい、疑問に思ったことを調べなさい。この世界には、君のように疑問に思ったことを調べる人が少なすぎる」
もう一度頭を撫でられたはずだが、マテウスはアオイが何を言いたいのかがやはり理解できず固まっていた。
あなたは違うのですか。疑問に立ち向かい、皆にそれを説くのはあなたではないのですか。
分からないことだらけなのに……それに答えてくれるのは、あなたじゃないのですか。
「そうだよ」
魔術を初めて認識したものもいるだろう、魔術をおそろしいものと忌避するものもいるだろう。驚き、畏怖、希望、それぞれの思いは様々だった。
「原理は……まぁ、分かったような分からないような……ですが、皆さまはどうやって発動しているのですか」
「そもそも君たちはできないと決めつけて学ぼうとしなかった、今初めてエレメンタルやビロスト、そしてアンドーラの存在を知った子も多いんじゃないかな。アンドーラという世界があって、そこにすむエレメンタルたちが4種類あって、ビロストという魔術陣から手助けしてくれる。それをちゃんと理解できただけで十分だよ」
「は、はぁ……」
男はボサボサの後頭部をポリポリと掻いて背中を丸める。十分と言われても、こんなことで魔術が使えるようになるなら皆、苦労はしていない。隣のものと顔を見合わせては首を傾げてアオイを見上げても、何も変わっていない。
「あとは実践だね」
「えっ、8つの言葉とかいうのは!?」
思わず身を乗り出してしまったが、立ち上がりそうになったのは彼だけではない。
「とりあえず必要なものだけ覚えよう。ジェイソンくん、さっきはどうやって水を出したの?」
姿勢を戻し、何もなかったかのようにちょこんを座るジェイソンへと視線が注がれる。いきなり自分に話題が振られたことに、ジェイソンは無邪気にもコテンを頭を傾けていた。
「呼んだの」
「はい?」
「水のエレメンタルさんって。水は『イズム』だよ」
「イ、イズ……」
「まま、待て!待て待て!」
ジェイソンの左側に座っていた女性が復唱しようとした途端、ドレアスがジェイソンを押し退けて彼女の口を塞ぐ。本のように折り畳まれてしまったジェイソンからは聞き取ることのできない呻きが漏れていた。
「おいトーマ、分かってるくせに止めねぇのかよ!」
壁を背にしてこの授業を聞いているのはトーマとサイロンの二人だけ。アオイの言葉に納得できない彼らは同じように腕を組んで同じように始終、眉間に皺を寄せていた。
「……今のは詠唱です。エレメンタルはただ呼ぶだけでビロストから出てくるわけではありません。術者の魔力の量に応じてエレメンタルの多さも変わります。魔力が多いほど、魔術の威力も強くなります。従って……魔力量の調整を分かっていなければ、ここが水浸しになる……ということです」
ドレアスが血相を変えて止めたのはそのためだった。魔術が使えても自身で制御ができないときに巻き込まれるのは周囲のものたちなのだ。それをドレアスは身を以て知っている。
「魔力があれば、の話なのです。だから、魔術を使えるものと使えないものの差がはっきりしているのです」
「さぁて、話をサイロンくんのあたりに戻そう」
マテウスはずっとアオイを見据えていた。隣に座っているベネットはマテウスの知識と理解の早さにずっと感心し通しだった。
名前を出されたサイロンはむっと唇を尖らせて顔を顰めている。
「アンドーラの成り立ちは至って簡単だ、ビロストさえあればエレメンタルは出てくる。そして魔力……エレメンタルは術者の魔力の量によって威力が変わる。けれどエレメンタルはビロストがなくてもこちらに姿を現すことができるんだよ。落雷、豪雨、竜巻、噴火、地震………災害という形でね。なぜ魔力の量によって威力を変えるエレメンタルがそれほど巨大になるのか。魔力も元素と等しく、空気中にあるからだ」
ベネットの表情が少しだけ翳る。ユリウスが死んだあの日、無意識に魔力を暴走させてしまったときのことを思い出していた。あの時、アオイが機転を利かせていなければ自分自身が災害の中心になっていたのかもしれない。全てが終わった後、あたりを見渡し崩れ落ちた壁や剥がれた石畳を見て絶句した。これを引き起こしたのが自分なのか、と。
魔術をあまり使わなかったから暴走したのだと言われたけれど、制御さえできていればあんなことは起きなかったはず。魔術の基本を覚えなければ皆を危険に晒してしまうという気持ちが大きかったからこそ、アオイに頼み込んだのだ。
自分がまた暴走しても、皆が自分自身の身を守れる術を持っていられるように。
「なら大きく息を吸えば強くなるの?」
「吸い込んで吸収できる人もいる……かもしれない。君たちは常に魔力を取り込んでいるんだ、呼吸で、素肌で」
「それならドレアスは相当取り込んでいるんですかね」
「喧嘩売ってんのか? あ゛?」
魔力は吸い込んで吸収できるという仮説にトーマは嘲笑と皮肉で嗤う。だったらなぜ、前世で魔術を使えていたものが転生したら魔術を発動できなくなっているという話があるのか。
「でもそれをわずかにしか吸収できない人もいる。それはもはや生まれつきとしか言いようがない……もしくは……まぁ、手立てはある。ただし吸収を促進する装置や薬を開発しなければならないんだ」
「よほど……そのような体質の存在でなければ、みんな、魔術を使えるというのですか」
「そういうこと」
聞いている皆が皆、その話が夢物語のように感じていた。もっと早く魔術が使えていれば、あのときに発動できていれば……変えられない過去ばかりを悔やみ、奥歯を噛みしめる。
「というわけで鉢と固まった土を配るよ。土を操る言葉は『オド』、水は『イズム』、この二つを使って土を柔らかくしてね」
「えぇ!?」
宙に浮いた鉢が一人ひとりの目の前にどん、どん、と着地していく。早速実践……もとい、遊び始めたのはジェイソンだった。こねて土団子にするまで時間はそう掛からなかった。
「オドは大丈夫だと思うけどイズムは~……まぁ、濡れて困ることはないし。成功した人は火と空気をやって早速作業に取り入れてみよう! 制御できない人は、俺と個人授業だからね」
よほどの物好きじゃない限り、それは御免被る仕打ちだ。しかしはなから制御なんてできるなら暴走という現象なんて起きない。一体この中の何人がアオイの個人授業を受けるはめになるやら……とドレアスは鼻で笑っていたが真後ろにその心当たりがいることを思い出す。後ろを振り返って見れば、立って聞いていたはずの二人がいない。代わりに、ジェイソンの両脇に鉢が一つずつ置かれ魔術が使えることに浮かれたジェイソンの餌食となったのだった。
「あの……言葉が、言えないヒトも、いるのです……」
「……そっか、教えてくれてありがとう」
マテウスはアオイを見上げず、俯いたまま告げる。舌を切られたり、精神的なショックから言葉を話さなくなったものたちを多く見てきた。その存在は近くにいて、他の者たちは気付かなかったけれどマテウスは気付いていた。魔術の発動に成功し、歓喜の声を上げる者、汗を垂らしながら奮闘している者、その中でじっと鉢を見つめて動かない少女の存在。ベネットも自分の鉢を持ち上げよし、と意気込んだ後だった。だが突然立ち上がったマテウスへの視線はその少女へと移る。
アオイの声色はやさしいものだった。そして、マテウスの頭を耳ごと撫ぜる手もやさしかった。
「い、いえ」
耳はピンと立ち、服の裾から覗くしっぽの先はボッと毛が立つ。すい、と流れるような動作でアオイは少女の前にしゃがんだ。やはり少女は視線を鉢に向けたまま、動くことはしなかった。
「君かな、ごめんね、気付いてあげられなくて。でも大丈夫だよ、さっきから俺は言葉を使わず火を出したり鉢を浮かせたりしたでしょう? 君には文字を教えよう」
石畳に土を薄くのばす。その上からアオイは文字を書き始めた。
「これをじっと見つめて、よく覚えて」
「あ、あの……文字を、なぞっても、できますか?」
ベネットは少女の隣に膝をついて問いかけた。可能性を少しでも広げられたら、そう信じて。
「……うん、できるはずだよ。よし、じゃあなぞってみようか。文字は何度も書いて覚えるものだもの」
少女の手に同じくらいの大きさの手が重なる。強張った少女は、そこで初めて感情というものがようやく表に出た。怯えるような視線と指先から伝わる震え。ベネットは優しく両手で包み込み、石畳の上に書かれた文字へと少女の指を誘う。
「……これが『オ』、これが……『ド』、です」
やがて少女の手は彼女自身の意志で動き始め、ひとりでも文字をなぞるようになった。鉢に手を伸ばし、乾いた土に同じ字を描く。しん、と静かな鉢に少女は悲しむように口を引き結ぶ。
「…………あっ」
僅かすぎる動きで、気のせいかもしれないとも思った。しかし乾いた土が脈打つようにもぞもぞと隆起を繰り返す。乾きすぎて石のようだった土がほろほろと砕ける様子を、少女は目を輝かせながら見つめ続けた。
「できた! できましたよ!」
少女よりもベネットの方が喜んでいるようだった。自身の鉢のことなど忘れているのかもしれない。だって、今度はお水ですよ!などと言って張り切っているのだから。
その光景を見て安心したようにマテウスは息をつく。微動だにせず、どこを見ているのかも分からないアオイに目を向けてみても、やはり彼は動かなかった。
「……あの、アオイ、さま」
「うん?」
思いのほか、返事が早かったことにマテウスは緊張してちょっと後ろに下がったかもしれない。
誰も聞かないから気にしているのは自分だけかもしれない、けれど自分の追究心を抑えきれなかった。
「さきほど、魔力を吸収できないヒトについてお話していましたが……なにを、言いかけたのですか」
魔力は空気中にあり、それは皆に吸収され続けている。だから、魔力がないヒトという存在はよほどの理由……生まれつきのものであり、他にも理由があるような言い方がマテウスには気になっていた。
「う~ん……ちょっと難しいし怒りそうなのが居たから言わなかったんだけど……君は賢い子だからね。教えておこう、魂そのもののあり方がこの世界の理から逸脱している、そういう人がいるかもしれない」
マテウスは何度かその言葉を頭の中で繰り返した。けれど、10回くらい繰り返してやはり理解できずに首が曲がっていく。
「そのうち分かるよ、そしてそういう人を見つけるかもしれない……君は本をたくさん読みなさい、疑問に思ったことを調べなさい。この世界には、君のように疑問に思ったことを調べる人が少なすぎる」
もう一度頭を撫でられたはずだが、マテウスはアオイが何を言いたいのかがやはり理解できず固まっていた。
あなたは違うのですか。疑問に立ち向かい、皆にそれを説くのはあなたではないのですか。
分からないことだらけなのに……それに答えてくれるのは、あなたじゃないのですか。
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