未来で処刑さけれるはずだった令嬢は、氷の王子を選びました~ 巻き戻り令嬢の婚約から始まる逆転人生〜

あんこ

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閑話⑥ ノアside

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その日の予定は、元々“息抜き”として組まれたものだった。

殿下は表情には出さないが、連日の政務で確実に疲れている。
だからこそ、王宮内の案内という名目で外に出る。
理由としては、それで十分だった。

……少なくとも、表向きは。

実務館へ向かう回廊で、私は一歩後ろを歩いていた。
いつもの位置だ。殿下の半歩後ろ、少し斜め。

だが、その“いつもの位置”に今日はもう一人いる。

エーヴェルシュタイン家の令嬢、そして我が主君の婚約者――リズ様。

殿下は、彼女の歩調を確認しない。
合わせもしない。声もかけない。

それなのに彼女は遅れない。
立ち止まれば、同時に止まり、進めば同じ速度で進む。

……合図が、ない。

これは指示でも配慮でもない。呼吸が揃っている。


実務館では彼女は本の知識を口にした。
控えめだが、的確で、現実的だ。

殿下は訂正しなかった。評価もしない。
ただ、そのまま会話を進めた。

――もう“試す段階”ではない、という扱い。

魔導エレベーターでは、完全に想定外だった。

興味を抑えきれず、壁の魔術式に触れ、ぶつぶつと分析を始めるリズ様。婚約者を放り出すなど、普通なら咎められる。

だが。

「婚約者を放り出すやつがあるか」

殿下は、笑った。
確かに、笑った。

一瞬だったが、私は見た。
作ったものではない、自然な――


中庭では、さらに顕著だった。

侍女、庭師、騎士、料理場の補佐。
リズ様は、誰の名前も迷いなく呼ぶ。

親しげで、遠慮がなく、けれど馴れ馴れしすぎない。

そして殿下はそれを止めない。

通常、殿下の周囲は静かだ。人がいても会話は少ない。だが今日は違った。
賑やかさの中心にいるのは令嬢なのに、殿下はその“輪の外”にいない。

むしろ、輪の基点だ。

私は確信した。この方は、殿下の隣に“置かれている”のではない。殿下の世界に、最初から立っている。

だから説明がいらない。だから確認がいらない。
だから、無意識に守る。

氷の王子。
そう呼ばれる方の氷が溶けたのではない。

――溶かす必要のない相手が、現れただけだ。

その事実に気づいたのは、この王宮で私が最初だろう。

そしてきっと、最後まで見届けるのも私だ。
静かに、そう思った。



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