ただ、きみを愛してる。

栗木 妙

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 俺がコルトと初めて出会ったのは、バーディッツのお屋敷で、だった。


 あれは、まだ冬の寒さの抜けきらぬ初春の頃だったと記憶している。
 サイラーク家から遣わされ俺を迎えにきた者に連れられて、フェルドから王都を経由し乗り合い馬車を乗り継ぎながら旅程を消化すること、だいたい二週間ちょい。
 ようやく到着したティルケルは、予想に違わぬ田舎町だった。
 それなりに賑わう市街地の中心で馬車を降り、その足で郊外に在るお屋敷へと向かう。
 お屋敷へ着いたら真っ先に祖父ジークに迎えられ、久々の挨拶と抱擁をひとしきり終えると、まず身なりを簡単にだが改めさせられ、さっそく旦那様へと引き合わせられることとなった。
「――じいちゃん。旦那様って……」
 一体どんな人? と、言外に含んだ言葉を見上げた視線に載せて問いかけるも、それをどのように解釈したものだろうか、見下ろした視線で祖父が「安心しなさい」と、やわらかに微笑みを返してくれる。
「おまえが不安に思うようなことは何も無い。ご立派な御方だよ、当家のご主人様は」
 返してくれたその表情には、呆れたような色どころか困ったような色の一つすら窺えなかった。
 だからそれは、祖父の本心からの言葉なのだな、と、ぼんやりとながら理解した。
 しかし、未だ“お家を傾かせるようなご当主様”という先入観が拭い去れない俺には、素直に受け入れ難いものでもあった。
 ――不安にさせまいと気を遣って嘘を吐いてくれたのだとしても……そんなん、どーせすぐバレるのに。
 重い足を床に縫い付けたまま動けずにいる俺を、まるで押し出そうとするかのように、祖父のあたたかな手が背中へと添えられる。
「さあ、あまり旦那様をお待たせしてはいけないよ」
「…………」
 そこで俺も観念し、不承不承ながらも重い足を一歩前に踏み出した。


 そうして引き合わされたご主人様を目の当たりにして……途端、抱えていた先入観をはじめとしたあれやこれやがすべて、一瞬にしてフッ飛んだ――いや、フッ飛ばされた。有無を言わせぬ力技で。
 ――なんっだ、この綺麗な人っっ……!!
 まずお目にかかったタメシもない、その抜きん出た美貌に圧倒された。あちこちから人が多く出入りするフェルドに居てさえ、男女問わず、ここまで美しい人間など見たことが無い。このご主人様を見てしまったら、フェルドで美形と評判だった人気の詩人でさえ霞んでしまうではないか。
 驚きのあまり頭が真っ白になって、ぽかんと開いてしまった口が塞がらない。
 そんな間抜けな姿で固まっている俺に、ご主人様は柔らかな笑みを向けてくれた。
「君がニールか。色々とジークから聞いているよ。遠いところ、よく来てくれた」
 穏やかに語りかけてくれる、その落ち着いた低い声が、耳に心地好い。――美しい人は、声まで綺麗なものなのか。それとも、自分がその美貌に目だけでなく耳までもが眩まされているために、錯覚しているだけなのか。
 いずれにせよ、このご主人様にどっぷり見惚れてしまっていた、ということには違いがない。
 不敬にも過ぎることに俺は、しびれを切らした祖父が「ちゃんとご挨拶なさい」と横から小突いてくるまで、ご主人様を見上げたまま何も言えずに、ひたすらその美貌を凝視しているしか出来ずにいたのである。


「――は…初め、まして……ニール・ランディ、と、申します……」
 ようやく我に返った俺は、普段らしからぬたどたどしさで、どうにかそれを口に出した。
 こう言いなさい、と、あらかじめ父や兄から教え込まされた挨拶の文句を、真っ白な頭を振り絞って何とか思い出しながら、つっかえつっかえ、先を続ける。
「このたび、は、ご子息様の、遊び――じゃない、お側付き? を、わたくしめに、お任せくださるとの、旨? を、いただき、大変、光栄なことと、存じます……旦那様の、ご期待に、副え、ますよう、精一杯、努め、させて、いただきます……」
 ――うん、確かこんなようなカンジの文句だったような気がする。
 はー何とか間違えずに言い切ったー! と、こっそり脱力する俺の向こう、やおら「『ご子息』…?」という訝しげなご主人様の声が降ってきた。――あれ? 俺なんか言い間違ったのか?
「…ああ、つまりは、そういう話になっているのか?」
「申し訳ございません。わたくしの独断で、そのようにいたしました」
 どこか納得したように続いて呟かれた、そのご主人様の言葉を引き受けるように、祖父がそれを返す。――ん? つまり、どういうことだ?
「まあ、いい。ジークの判断ならば、それが最善なのだろう。――では、改めて紹介しよう、ニール」
「はい……?」
 呼ばれて改めてご主人様を見上げた俺は、その向けられていた視線の先を辿って、そこで初めて、もう一人、その場に居たことに気が付いた。あまりにもご主人様に見惚れていたために、当のご主人様以外、全く目に入っていなかったようだ。そこまでだったかと我ながらビックリする。
 それは、ご主人様の身体の陰に隠れるようにして、ひっそりと佇んでいた小柄な人影――俺とそれほど変わらぬ年齢に見える少年。
 ――ひょっとして……こいつが、件の旦那様が養子にしたっていうガキンチョ、か……?
「名はコルトだ。九歳になったばかりだから、君の一つ下になるな。――さあ、こちらへ来て挨拶しなさい」
 そうご主人様に促されるようにして、おずおずとその身体の陰から俺の目の前へと出てきた、その少年――コルトは。
 くりんとした薄い茶色の瞳を一杯に見開いて、こちらを見つめてきた。
 そして、おもむろにペコリと頭を下げ、丁寧なお辞儀をした。
 その姿には、少なからずの違和感を抱く。
 ――こいつ旦那様の養子なんだろ? そう簡単に、使用人に頭を下げる、とか、やっちゃう?
 貴族として如何に振る舞うか、等の教育が、まだ充分ではないのだろうか? と、つい首を傾げてしまった俺の考えを読んだかのように、そこで「すまないな」と、ご主人様が口を開いた。
「コルトは声を出せない。挨拶しようにも、これで精一杯なんだ。許してあげて欲しい。――それに、どうやら行き違いもあったようだ。コルトは私の息子ではないよ」
「え……?」
「コルトは私の側仕えとして、簡単な身の回りの世話などをしてくれている。ニール、君にもこれからは、ジークの手伝いをしてもらおうと思っている。君たち二人は、立場も対等だ」
 ――つまり……このガキンチョは、ご主人様の養子、なんかではなく、ただの使用人、っていうことなのか……?
「コルトとは、主従の関係などではなく、同じ立ち位置に居る友人として、これから仲良くしてあげて欲しい」
「…………」
 咄嗟に何の応えも返せず、黙りこくってしまった。
 俺の目の前に立つコルトは、俺と同じ使用人。――それは理解した。
 だが、それならば何故? という疑問が、続いて湧き上がってくる。
 ――何故ご主人様は、こんな口もきけない、何の役にだって立ちそうにもない子供なんかを、こんなにも大事に扱っている……?
 わざわざバーディッツまで俺が呼び寄せられたのは、『ご子息の遊び相手として』って話だった筈だ。祖父の『独断』とやらで、その“ご子息”が、実は“使用人”であったことが判明したが、『遊び相手として』という部分に変わりは無いのだろう。現に今ご主人様は俺に、コルトを『友人として』面倒を見てやれ、と言ったのだから。
 たかだか使用人の子供のために、今後の“友人”となるべき同じ年頃の子供を身近に置くよう手配する、なんて……それこそ、本当に貴族のご子息なみの扱いではないか。
 あまりにワケがわからなさ過ぎて……何も言葉を出せないまま、ただただ俺は、目の前のコルトを見つめてしまう。
 こちらに向けられる円らな瞳は、綺麗に澄み切っていて邪心のカケラすらうかがえない。そこに無垢な子供の“可愛さ”を感じさせてくれる。そして、やや丸いが形の良い鼻、少し尖らされた小さくて紅い唇、薄い下がり眉毛に、女性のように色白の肌、――つまり、文句なしの可愛さ。“子供だから”ではなくて、普通に可愛いと思える可愛さ。ご主人様のように、目立って美形、というわけではないが、目立たないながらも造作が整っていて、そのどことなくふんわりとした雰囲気と、おどおどとした佇まいが相まったものなのか、護ってあげたいという庇護欲までもが掻き立てられるような……そんな可愛さ。
 俺の一つ年下…というわりには、あまりにも背丈が小さいことも、その可愛さを覚える一因となっているのかもしれない。俺が同年代の中でもわりとデカい方、だということを差し引いても、彼の頭部は俺の胸のあたりまでしか無い。それに、服を着ていてさえうかがえる細さ。袖から覗く手首など、ちょっと握っただけで折れてしまいそうだ。華奢…というよりは、ここまでくると、むしろ貧相と呼ぶべきか。全体的に、小柄、というよりは、発育不良、という言葉がぴったりくる。
 それでも、頭部が小さいためなのか、子供特有のずんぐりむっくりした感じは無く、身体の均整は取れているように見受けられた。成長期に入れば身長も伸びるのだろうし、これから年齢相応の良好な発育状態を保っていければ、将来はすらっとした容姿を持つ美しい大人に化けるかもしれない。
 ――ああ……成程、そういうことか……。
 そこまで考えて、ようやく俺の中で一つの“答え”に思い当たった。


「なんだ……じゃあオマエ、旦那様の“お稚児さん”か」


 思い当たったと同時、深く考えず何の気なしにぺいっとそれを口に出してしまった――途端、ごすんと脳天に重い衝撃が降ってくる。
「おまえは、何て失礼なことを……!」
「ふへっ……?」
 降ってきたのは、傍らに立つ祖父のゲンコツだった。
 痛む頭を抱え呻きながら、それでも何故こうやって自分が殴られるハメになっているのかがわからなくて、きょとんとした視線を向けてしまう。
 こちらを見下ろす祖父の表情は、明らかに怒っていたが……しかし俺と視線が合うと一転、嘆かわしい、とでも言いたげな呆れんばかりの表情へと変わり、おもむろに深く深くタメ息を吐かれた。
「いいですかニール、よく聞きなさい。今おまえは―――」
「――ジーク、お茶のお代わりを貰えないか」
 何事か言いかけた祖父を、遮ったのはご主人様の、そんな言葉だった。
 咄嗟に「しかし…」と反論しかけた祖父も、向けられたご主人様の表情から言わんとしている何かを覚ったのだろうか、すぐハッとしたように口を噤み、「かしこまりました」と一礼する。
 それを見止めたご主人様は、続いてコルトへと視線を向けた。
「コルト、おまえもジークを手伝ってあげなさい。来てくれたニールのために、歓迎のもてなしをしよう。お茶と一緒に、美味しい菓子も用意してきてくれないか」
 俺に面と向かって『お稚児さん』と呼ばれたコルトは、おそらくその言葉を知らなかったのだろう、何を言われたかがわからない、といった不思議そうな表情を浮かべていた。そして、間髪入れずに俺が殴られたのを目の当たりにして、わけがわからない、とでもいいたげな困った表情を浮かべ、どうしたらいいのかとおろおろしながら、その場に立ち尽くしていた。
 そんな表情が、ご主人様に向けられたその言葉ひとつで、ぱあっと華やかな屈託のない笑顔に変わる。――思わず見惚れてしまうくらいに。
 こくこく、こくこく、と、何度も首を縦に振ってご主人様に返事を返すと、やおら踵を返し祖父のもとへと駆け寄るや、その腕を取った。まるで“早く行こう”と急かすかのように。
「…では一緒に行きましょうか。お手伝い頼みますね、コルト」
 普段どおりの柔らかな微笑を浮かべた祖父は、そう急かすコルトを宥めつつその手を取ると、改めてご主人様へと向き直る。そして、「失礼いたします」と一礼し、コルトの手を引いて扉の向こうへと共に去って行った。
 部屋に残されたのは、俺とご主人様の、二人だけ―――。
 やおら、その場の沈黙が、自分の背にぐっと圧し掛かってくるかのように感じられた。
 わけもわからぬまま、ぽかんと祖父を見送ってしまったが……一人だけ残されてようやく、ご主人様が意図的に祖父とコルトを遠ざけた、ということを理解する。
 ――俺……旦那様に何を言われるんだろう……?
 じっとりとした冷や汗が、全身から吹き出してくるようだ。喉まで渇いてきたように感じられ、思わず生唾を飲み込んでしまう、そのごきゅりとした音が、やけに耳の奥で大きく響いた。
 俺だけここに残されたのは、コルトには聞かせたくない話をするため…なのだろう。おそらくは、俺を叱ろうとしたらしい祖父の言葉を止めたのも、きっと同じ理由でなのだ。
 つまりご主人様も、先刻の祖父と同じく、怒っているということなのか。俺は、祖父の代わりにご主人様に、これから怒られなければならないということか。
 何を叱られるのかもわからず、だがそれがとても怖ろしいことのようにも思えて、ご主人様の方を振り向くことが出来ない。
 ただ精一杯、視線を床へと据えたまま、両手の拳を握り締め、ともすれば震えそうになる身体を押さえていることしか、その時の俺には出来なかった。
「―――ニール」
 やおら呼び掛けられた、静かな…あまりにも静かな声が、しかしその場の沈黙を切り裂くかの如く、大きく鋭く、俺の耳に突き刺さる。
 我知らず、びくりと大きく肩が震えた。だが、それでもまだ、視線を上げることは出来なかった。不敬とは解っていつつも、ご主人様と正面きって向かい合うことは、まだ怖かったのだ。
 こつり…と、そこで柔らかな絨毯を踏みしめる靴音が聞こえた。そして、さわっとした衣擦れの音も。
 ――え……!?
 気付けば俺は、ご主人様の綺麗な双眸に捕らわれていた。
 俺の正面で膝を突きしゃがみ込んでいたご主人様が、俯いた顔を覗き込むようにして、ものすごく近くからこちらを見つめていたのだ。
 その視線は、どこまでも真っ直ぐで……だから尚更、まさに射竦められたかの如く、それを見返すことしか出来なかったのだ。自分から視線を外すなんてことも、勿論できよう筈がなかった。
「先程、君は『お稚児さん』と言ったが……」
 ぎくり、と背筋が凍る。――やはりそのことだったのか。やはりそれは出してはいけない言葉なのか。祖父が言った通り『失礼』に当たるものだったのか。そう今さらながら、自分の失言を悔やんだ。
「そもそもニール、君の方こそ、その『お稚児さん』という言葉の意味を、知っているのか?」
「へっ……?」
 お叱りを覚悟した俺にもたらされた言葉が意外すぎて……思わず拍子抜けしたあまり、そんな間抜けな一声を上げてしまう。
「知っていて言ったのであれば、どういう意味を持つ言葉なのか、私にそれを説明してくれないか」
「…………」
 問われても……見返す瞳に困惑の色を載せて返すしか、俺には出来ずにいた。
 何故こんな問答のような遣り取りを、こうも唐突に、ご主人様は仕掛けてきたのだろうか。その意図が全くわからない。
『失礼』だと、怒っていたのではないのか? ――怒っていないはずはないではないか。その証拠に、先ほどまでやわらかな笑みを浮かべていたはずの表情が、今は何も感情が読み取れない無表情になっている。落ち着いた口調こそ変わらないものの、その表情と相まってか、どこまでも冷淡にしか聞こえない。
 どこまでも表面に出さぬまま、間違いなくご主人様はお怒りだった。声を荒げることなく、手を上げることもなく、あくまでも静かに淡々と、俺を諫めようとしているのが感じられた。
「そもそも君は、その言葉をどこで知った? 誰に教えてもらった?」
 なおも畳み掛けてくるご主人様からは、もう逃げられないと、俺も観念した。
「――街中で……大人たちが話していたのを、聞きました……」
「ほう? その大人たちは、どんな話をしていたのだ?」
「最近どっかのお貴族サマが、お稚児さんを屋敷に迎えたんだってさ、いいご身分だねえ、って、そんなことを、言って、て……」


『――お稚児さん、か……ホントお貴族サマってヤツらは、ろくでもないな。幾ら見目が良くても、まだ小さい子供だろうに』
『そうはいってもさ、稚児として買われたからには、売りに出されたってことなんだろう? 子供を売ッ払う親のところで貧乏に喘いでいるよりは、貴族に囲われて何不自由なく生活できるんだったら、そっちの方が幾分かマシじゃないか? 高い金出して買うくらいなんだから、どっぷり可愛がってくれんだろうしさ。子供にとっちゃ、むしろそっちのが幸せかもよ?』
『そうかもしれねえけどよ……でも、所詮は貞操と引き換えの幸せだろーが。幼い子供を囲ってまで無体を働く貴族どもの常識にゃ、ヘドが出るぜ』
『まあまあ、それも慣れりゃイイもんかもしんねーだろ? 綺麗なおべべ着せられて、美味い飯がたらふく食えて、ついでに気持ちイイことまでしてもらえる、って考えりゃーさ。そこまで猫可愛がりされてたら文句なんぞ出てこねーって。一度くらい、俺も味わってみたいもんだねえ、そんな良い生活なら』
『…じゃあ、おまえやってみろよ』
『アホか。どんなに金積まれても、脂ぎったヒヒジジイにケツ掘られるのだけはカンベンだ』
『だったら、主人が若い未亡人もしくは美形の男前なら、どうだよ?』
『あー……そら、ちょっと揺らぐわー……』
『安心しろ。テメエなんざ、たとえ子供だったとしてもお呼びがかからねえよ』
『ははは、違いねえ! お互い不細工に生まれてよかったなあ』
『テメエと一緒にするんじゃねえよ! 誰が不細工だ、誰が!』


 確かそんなような会話だったと、たどたどしくではあったが、思い出しながら余すところなく、ご主人様に伝える。
「――だから俺、『お稚児さん』って呼ばれるのは、お貴族サマに引き取られて、何不自由ない暮らしを与えられて、猫可愛がりされている、見目の良い子供、のこと、だと、思って、て……」
 大人たちの会話の中には、俺には意味のわからない言葉もあった。でも、何となく理解できた部分だけを繋ぎ合わせて考えて、つまりはきっとこういうことなのだろう、という落ち着きどころを見出したのが、その俺の回答こたえだった。
「成程……よく解った。だからコルトのことも、私の息子でないのなら『お稚児さん』だと、そう思ったのか……」
 口を挟むことなく最後まで俺の話を黙って聞いてくれていたご主人様が、そこで一つ、嘆息する。
「君は賢いな、ニール。大人たちの会話からおまえが導き出したその認識は、確かに間違いではない。――だが、それを君自身は、どう受け止めている?」
「え……?」
「『お稚児さん』として貴族に引き取られ、何不自由ない暮らしを与えられ、猫可愛がりされる生活は、その子供にとって幸せだと思うか? 心の底から幸せだと、本当に、そう言えるものだと思うか?」
「え、だって……そうじゃないの、ですか?」
 投げかけられた問いに、ただただ困惑する。なぜなら俺には、そんな生活が幸せじゃないなんて、そう思える理由が一つも見当たらなかったのだ。
「――やっぱり、な……」
 そう呟いたご主人様が、再び嘆息した。



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