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【序】
しおりを挟む一人になると甦る。――あの美しい鬼の幻が。
染まった血の緋に彩られて、まざまざと眼裏に映し出される。
――私は、禁忌に触れてしまったのだろうか。
心は、今でもこんなにも彼を求めている。彼に会いたくて堪らない。
だが一方で、あの血に染まる姿の彼を、彼ではないと否定したい自分も居る。
――あれは鬼だ。
京の夜には鬼が棲む。
夜の闇の狭間には、人の姿で誑かしては人を喰らう、決して人とは交わらぬ存在が、ひっそりと…でも確かに、息衝いているという。
私は、きっとそれに出会ったのだ。
黄昏の闇に包まれた、昼と夜とを隔てる時の境界。
それこそ、まさに“逢魔が時”。
――えもいわれぬ恐怖だった。
朱の残り火を背負い、緋に染め上げられて尚……あの鬼は、何故あんなにも凄絶なまでに美しいのだろう―――。
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