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第3章:妖狐の嫁
26.結婚式
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「新婦様の入場じゃ~い!」
唐傘小僧の吉兵衛さんの号令を受けて歩き出す。
プロポーズを受けてから2週間後のこの日、晴れて結婚式の日を迎えた。会場はリカさんの家。俺は白無垢姿で式にのぞんでいた。ぶっちゃけ全然似合ってない。『女顔のひょろガリもやし』も、所詮は男なんだよな。どうにも違和感が拭えない。リカさん、ガッカリしないといいけど。
「焦らずゆっくりね」
「はっ、はい……」
俺の手を引いてくれているのは、ろくろ首の棗さんだ。今は首を引っ込めているのもあって、見た目の上では人間と変わらない。塩顔のTHE★和美人って感じの人だ。黒い髷頭に、琥珀色の簪スタイルで、黒い着物を完璧なまでに着こなしている。
「おぉ! 主役の登場だ!」
「幸せになれよ!!」
祝福してくれたのは職場の先輩達・屈強河童の皆さんだ。庭先にずらっと並んでる。数にして20人ほど。ほぼ全員参加してくれていた。今日も忙しいのに。本当にありがたいな。
大五郎さんは……やっぱ不参加か。まぁ、あの調子じゃ仕方ないよな。切り替えてけ、俺!
「おわっ!?」
中にもたくさんの妖さん達の姿が。豆腐小僧、一つ目小僧、小豆洗い、提灯お化け、化け草履、のっぺらぼう……本当にたくさん。この2週間の間に仕事を通じて仲良くなった妖さん達だ。沈みかけていた気持ちがぐっと跳ね上がっていく。
「「「ゆー坊!」」」
「綺麗~」
「あの猫達、中々いい仕事をするじゃないか♡」
凄く賑やかだ。結婚式ってもっとガチガチで厳かなものだとばかり思っていたけど、案外カジュアルなんだな――っ!
キョロキョロしているうちに見つけてしまった。リカさんの姿を。部屋の一番奥にいる。髪型はいつもと同じで、結ばずにさらりと流してる。けど、服装はいつものと少し違う。袴姿だ。黒の無地の着物に、縦縞模様の袴を合わせてる。
お世辞抜きでカッコイイ。おまけに品の良さも際立っていて、何って言うか……そう、凄く綺麗だ。ああいうのを、眉目秀麗って言うんだろうな。正直ずーっと見てられる。ああ、俺あの人と結婚するのか。未だに実感が湧かない。
「っ!」
目が合う。その瞬間、リカさんはふにゃりと笑った。ぽかぽかだ。幸せって顔に書いてある。俺は嬉しいやら恥ずかしいやらで、堪らず目を伏せた。
「綺麗だ」
「あ、ども」
横に座るなりリカさんが褒めてくれる。良かった。ひとまずガッカリはさせずに済んだみたいだ。
「『夫婦固めの盃』じゃ~い!」
黒猫又の椿ちゃんが朱色の盃を、キジトラ猫又の皐月ちゃんが金色の柄杓みたいなものを持ってきてくれる。
「ありがとう」
リカさんの手に小さな盃が渡った。そこに皐月ちゃんがお酒を注いでいく。3回に分けて丁寧に。
父さん、母さん。俺、結婚するよ。相談もなしにごめんね。でも俺、ちゃんと幸せだから。だから、安心してほしい。
「ゆーた?」
「えっ? ああっ! ごめんっ」
俺は慌てて盃を受け取った。リカさんの時と同じ要領でこぽこぽとお酒が注がれていく。お酒を飲むのはこれが初めてだ。ちゃんと飲めるかな?
そっと盃に顔を近付ける。これはさっきまでリカさんが使ってた盃だ。ようはあれだよな。この儀式って、西洋式のウエディングで言うところの『誓いのキス』みたいなもんで……。
「~~っ」
顔が熱くなる。心臓はバクバク。みんなの視線をやたらと強く感じて。うおぉおおぉお!!! 気付けば俺はお酒を呑んでいた。それもイッキに。3回に分けてって言われてたのに。
「ゲホっ! ゲホっ!!!」
「優太様!?」
「おやおや」
リカさんの手が俺の背に触れる。擦ってくれてるみたいだ。
「すみ、ませ……っ」
「たぶん、私も同じことを考えてたよ」
「っ!? えっ!?」
顔を上げるとへらへら笑顔のリカさんと目が合った。嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感が。
「同じなら……いいよね?」
「ちょっ――!?」
唇が包まれる。リカさんの唇でふんわりと。
「「「ニャハーー!!!!!!!」」」
「「「~~♪」」」
式場全体が大歓声に包まれる。いやいやいや!? 何してるんですか!? 俺は直ぐさまリカさんの胸を押した。すると意外にもあっさりと解放される。
「~~っ、リカさ――」
「愛してる」
「なっ……」
言いたいことは山ほどあったはずなのに、愛の囁き+はにかみを喰らった俺は何も言えなくなってしまった。
「「「きゃーーーーー!!!!!」」」
「お熱いね~♡♡♡」
「ありゃ相当ご執心だな?」
大盛り上がりだ。それこそ収拾がつかないぐらい。ああ、ほんとあったかいな。リカさんも俺も男なのに。そういう偏見は欠片もないんだな。
「ほニャほニャ! たんと呑め! たんと食うニャー!!」
「っ! えっ? もう終わり?」
女中猫又’sが大皿に乗った料理やら、お酒やらをジャンジャン持ってくる。どうやらこっからパーティが始まるみたいだ。
唐傘小僧の吉兵衛さんの号令を受けて歩き出す。
プロポーズを受けてから2週間後のこの日、晴れて結婚式の日を迎えた。会場はリカさんの家。俺は白無垢姿で式にのぞんでいた。ぶっちゃけ全然似合ってない。『女顔のひょろガリもやし』も、所詮は男なんだよな。どうにも違和感が拭えない。リカさん、ガッカリしないといいけど。
「焦らずゆっくりね」
「はっ、はい……」
俺の手を引いてくれているのは、ろくろ首の棗さんだ。今は首を引っ込めているのもあって、見た目の上では人間と変わらない。塩顔のTHE★和美人って感じの人だ。黒い髷頭に、琥珀色の簪スタイルで、黒い着物を完璧なまでに着こなしている。
「おぉ! 主役の登場だ!」
「幸せになれよ!!」
祝福してくれたのは職場の先輩達・屈強河童の皆さんだ。庭先にずらっと並んでる。数にして20人ほど。ほぼ全員参加してくれていた。今日も忙しいのに。本当にありがたいな。
大五郎さんは……やっぱ不参加か。まぁ、あの調子じゃ仕方ないよな。切り替えてけ、俺!
「おわっ!?」
中にもたくさんの妖さん達の姿が。豆腐小僧、一つ目小僧、小豆洗い、提灯お化け、化け草履、のっぺらぼう……本当にたくさん。この2週間の間に仕事を通じて仲良くなった妖さん達だ。沈みかけていた気持ちがぐっと跳ね上がっていく。
「「「ゆー坊!」」」
「綺麗~」
「あの猫達、中々いい仕事をするじゃないか♡」
凄く賑やかだ。結婚式ってもっとガチガチで厳かなものだとばかり思っていたけど、案外カジュアルなんだな――っ!
キョロキョロしているうちに見つけてしまった。リカさんの姿を。部屋の一番奥にいる。髪型はいつもと同じで、結ばずにさらりと流してる。けど、服装はいつものと少し違う。袴姿だ。黒の無地の着物に、縦縞模様の袴を合わせてる。
お世辞抜きでカッコイイ。おまけに品の良さも際立っていて、何って言うか……そう、凄く綺麗だ。ああいうのを、眉目秀麗って言うんだろうな。正直ずーっと見てられる。ああ、俺あの人と結婚するのか。未だに実感が湧かない。
「っ!」
目が合う。その瞬間、リカさんはふにゃりと笑った。ぽかぽかだ。幸せって顔に書いてある。俺は嬉しいやら恥ずかしいやらで、堪らず目を伏せた。
「綺麗だ」
「あ、ども」
横に座るなりリカさんが褒めてくれる。良かった。ひとまずガッカリはさせずに済んだみたいだ。
「『夫婦固めの盃』じゃ~い!」
黒猫又の椿ちゃんが朱色の盃を、キジトラ猫又の皐月ちゃんが金色の柄杓みたいなものを持ってきてくれる。
「ありがとう」
リカさんの手に小さな盃が渡った。そこに皐月ちゃんがお酒を注いでいく。3回に分けて丁寧に。
父さん、母さん。俺、結婚するよ。相談もなしにごめんね。でも俺、ちゃんと幸せだから。だから、安心してほしい。
「ゆーた?」
「えっ? ああっ! ごめんっ」
俺は慌てて盃を受け取った。リカさんの時と同じ要領でこぽこぽとお酒が注がれていく。お酒を飲むのはこれが初めてだ。ちゃんと飲めるかな?
そっと盃に顔を近付ける。これはさっきまでリカさんが使ってた盃だ。ようはあれだよな。この儀式って、西洋式のウエディングで言うところの『誓いのキス』みたいなもんで……。
「~~っ」
顔が熱くなる。心臓はバクバク。みんなの視線をやたらと強く感じて。うおぉおおぉお!!! 気付けば俺はお酒を呑んでいた。それもイッキに。3回に分けてって言われてたのに。
「ゲホっ! ゲホっ!!!」
「優太様!?」
「おやおや」
リカさんの手が俺の背に触れる。擦ってくれてるみたいだ。
「すみ、ませ……っ」
「たぶん、私も同じことを考えてたよ」
「っ!? えっ!?」
顔を上げるとへらへら笑顔のリカさんと目が合った。嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感が。
「同じなら……いいよね?」
「ちょっ――!?」
唇が包まれる。リカさんの唇でふんわりと。
「「「ニャハーー!!!!!!!」」」
「「「~~♪」」」
式場全体が大歓声に包まれる。いやいやいや!? 何してるんですか!? 俺は直ぐさまリカさんの胸を押した。すると意外にもあっさりと解放される。
「~~っ、リカさ――」
「愛してる」
「なっ……」
言いたいことは山ほどあったはずなのに、愛の囁き+はにかみを喰らった俺は何も言えなくなってしまった。
「「「きゃーーーーー!!!!!」」」
「お熱いね~♡♡♡」
「ありゃ相当ご執心だな?」
大盛り上がりだ。それこそ収拾がつかないぐらい。ああ、ほんとあったかいな。リカさんも俺も男なのに。そういう偏見は欠片もないんだな。
「ほニャほニャ! たんと呑め! たんと食うニャー!!」
「っ! えっ? もう終わり?」
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