【完結/改稿済】転生して妖狐の『嫁』になった話

那菜カナナ

文字の大きさ
26 / 41
第3章:妖狐の嫁

26.結婚式

しおりを挟む
「新婦様の入場じゃ~い!」

 唐傘からかさ小僧の吉兵衛きちべいさんの号令を受けて歩き出す。

 プロポーズを受けてから2週間後のこの日、晴れて結婚式の日を迎えた。会場はリカさんの家。俺は白無垢姿で式にのぞんでいた。ぶっちゃけ全然似合ってない。『女顔のひょろガリもやし』も、所詮は男なんだよな。どうにも違和感が拭えない。リカさん、ガッカリしないといいけど。

「焦らずゆっくりね」

「はっ、はい……」

 俺の手を引いてくれているのは、ろくろ首のなつめさんだ。今は首をのもあって、見た目の上では人間と変わらない。塩顔のTHE★和美人って感じの人だ。黒いまげ頭に、琥珀こはく色のかんざしスタイルで、黒い着物を完璧なまでに着こなしている。

「おぉ! 主役の登場だ!」

「幸せになれよ!!」

 祝福してくれたのは職場の先輩達・屈強河童の皆さんだ。庭先にずらっと並んでる。数にして20人ほど。ほぼ全員参加してくれていた。今日も忙しいのに。本当にありがたいな。

 大五郎だいごろうさんは……やっぱ不参加か。まぁ、あの調子じゃ仕方ないよな。切り替えてけ、俺!

「おわっ!?」

 中にもたくさんの妖さん達の姿が。豆腐小僧、一つ目小僧、小豆洗い、提灯ちょうちんお化け、化け草履ぞうり、のっぺらぼう……本当にたくさん。この2週間の間に仕事を通じて仲良くなった妖さん達だ。沈みかけていた気持ちがぐっと跳ね上がっていく。 

「「「ゆー坊!」」」

「綺麗~」

「あの猫達、中々いい仕事をするじゃないか♡」

 凄く賑やかだ。結婚式ってもっとガチガチで厳かなものだとばかり思っていたけど、案外カジュアルなんだな――っ!

 キョロキョロしているうちに見つけてしまった。リカさんの姿を。部屋の一番奥にいる。髪型はいつもと同じで、結ばずにさらりと流してる。けど、服装はいつものと少し違う。袴姿だ。黒の無地の着物に、縦縞模様の袴を合わせてる。

 お世辞抜きでカッコイイ。おまけに品の良さも際立っていて、何って言うか……そう、凄く綺麗だ。ああいうのを、眉目秀麗って言うんだろうな。正直ずーっと見てられる。ああ、俺あの人と結婚するのか。未だに実感が湧かない。

「っ!」

 目が合う。その瞬間、リカさんはふにゃりと笑った。ぽかぽかだ。幸せって顔に書いてある。俺は嬉しいやら恥ずかしいやらで、堪らず目を伏せた。

「綺麗だ」

「あ、ども」

 横に座るなりリカさんが褒めてくれる。良かった。ひとまずガッカリはさせずに済んだみたいだ。

「『夫婦固めのさかずき』じゃ~い!」

 黒猫又の椿つばきちゃんが朱色の盃を、キジトラ猫又の皐月さつきちゃんが金色の柄杓ひしゃくみたいなものを持ってきてくれる。

「ありがとう」

 リカさんの手に小さな盃が渡った。そこに皐月ちゃんがお酒を注いでいく。3回に分けて丁寧に。

 父さん、母さん。俺、結婚するよ。相談もなしにごめんね。でも俺、ちゃんと幸せだから。だから、安心してほしい。

「ゆーた?」

「えっ? ああっ! ごめんっ」

 俺は慌てて盃を受け取った。リカさんの時と同じ要領でこぽこぽとお酒が注がれていく。お酒を飲むのはこれが初めてだ。ちゃんと飲めるかな?

 そっと盃に顔を近付ける。これはさっきまでリカさんが使ってた盃だ。ようはあれだよな。この儀式って、西洋式のウエディングで言うところの『誓いのキス』みたいなもんで……。

「~~っ」

 顔が熱くなる。心臓はバクバク。みんなの視線をやたらと強く感じて。うおぉおおぉお!!! 気付けば俺はお酒を呑んでいた。それもイッキに。3回に分けてって言われてたのに。

「ゲホっ! ゲホっ!!!」

「優太様!?」

「おやおや」

 リカさんの手が俺の背に触れる。擦ってくれてるみたいだ。

「すみ、ませ……っ」

「たぶん、私も同じことを考えてたよ」

「っ!? えっ!?」

 顔を上げるとへらへら笑顔のリカさんと目が合った。嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感が。

「同じなら……いいよね?」

「ちょっ――!?」

 唇が包まれる。リカさんの唇でふんわりと。

「「「ニャハーー!!!!!!!」」」

「「「~~♪」」」

 式場全体が大歓声に包まれる。いやいやいや!? 何してるんですか!? 俺は直ぐさまリカさんの胸を押した。すると意外にもあっさりと解放される。

「~~っ、リカさ――」

「愛してる」

「なっ……」

 言いたいことは山ほどあったはずなのに、愛の囁き+はにかみを喰らった俺は何も言えなくなってしまった。

「「「きゃーーーーー!!!!!」」」

「お熱いね~♡♡♡」

「ありゃ相当ご執心だな?」

 大盛り上がりだ。それこそ収拾がつかないぐらい。ああ、ほんとあったかいな。リカさんも俺も男なのに。そういう偏見は欠片もないんだな。

「ほニャほニャ! たんと呑め! たんと食うニャー!!」

「っ! えっ? もう終わり?」

 女中猫又’sが大皿に乗った料理やら、お酒やらをジャンジャン持ってくる。どうやらこっからパーティが始まるみたいだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...