F級テイマーは数の暴力で世界を裏から支配する

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1巻

1-2

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      ◇ ◇ ◇


 教会を出てからのことは、思い出したくもない。
 父からは罵倒ばとうされ、母からは軽蔑され――それにただ申し訳ありませんと言い続けた。
 親の愛とは、祝福ギフトだけでここまで変わるものなのかと、ひどく落胆したよ。
 そして、こうも思った。
 父と母はこれまでずっと、俺を息子として愛していなかった。
 ずっと、こまとしてしか愛していなかった……と。
 だから、価値のなくなった駒――俺を愛さなくなったのだ。
 屋敷に到着し、俺は自室のベッドに寝転がり、布団に顔をうずめていた。
 もうメイドをつける価値もないと思われたのか、今朝までいたメイドはいない。

「はぁ……ただ、この状況を悪くないと思ってしまっている自分もいるんだよなぁ……もとより、今世の家族への情ってあまりなかったし」

 意外にもあっさりショックから立ち直った俺は、ゴロリと転がって仰向けになると、天井を見上げながらそうつぶやいた。
 これで、フィーレル侯爵家の当主になるという未来はほぼ絶たれただろう。
 弟のレントが五歳になるまでは一応この家にいさせてもらえると思うが、レントがいい祝福ギフトをもらったら、用済みの俺は一家の恥として勘当かんどうされるだろう。
 しかし、これは俺にとっては好都合だ。
 邪魔だからと殺される可能性もなくはないが、流石にそんなリスクある行動を父がするとは思えない。
 グラシア王国では、子殺しは親殺しと並んでかなりの重罪として扱われているからね。確か、貴族でも死罪になったような。
 まぁ、ここには過激なお家騒動を防止する意味も含まれているんだと思う。
 で、何故なぜ俺が、勘当されて家を追い出されることを望んでいるのかというと、この世界を自由に冒険したいとずっと思っていたからだ。
 贅沢な貴族生活も、それはそれで結構好きだったのだが……こうなってしまうと、もう貴族に魅力は感じない。ある程度力をつけたら、ここから出て行ってやる。
 ただ、一つ問題があるとすれば……

「勘当されたとして、F級の《テイム》でどうしろというんだ……」

 そう。問題はそこだ。
 帰り道で父に、いかにF級の《テイム》が使えないか、散々罵倒されたおかげで分かったのだが、俺がテイムできるのは弱い魔物だけ。スライムはテイムできるが、ゴブリンやスケルトンは鍛錬しないと難しいという始末。
 これらの魔物は全て、最弱のFランクに属していて、魔物のランクは冒険者ギルドという組織が決定している。
 冒険者は魔物を倒したり、素材の採取をしたりすることで金をもらい、生活している人たちで、冒険者ギルドは彼らと依頼主の仲介を行っている。
 Fランクに区分される魔物は総じて、非戦闘員でも武器さえあれば一人で倒せるという弱さだ。
 てか、スライムにいたっては、子供に踏み潰されただけであっけなく死ぬって聞いたことあるんだけど。

「……まぁ、試してみないことにはなんとも言えんな。スライムならこの街の下水道とかにも普通にいるだろうし、今度試してみるか……」

 スライムの主な食事は他の生物の食べかす。故に、下水道とかにはゴキブリの要領で湧くらしい。
 ゴキブリと違って、室内には流石にいないけど。

「ん~……あ、そういや魔法もあったな」

 俺はベッドからガバッと起き上がると、ポンと手を叩く。
 五歳の誕生日が主神エリアス様から祝福ギフトを授かる日というのは有名な話だが、この日にはもう一つ特別な意味がある。
 それは魔法の解禁だ。
 魔法とは体内に宿やどる魔力を動力源に、火をおこしたり水を出したりと様々な現象を引き起こすもの。
 幼い頃から練習しまくって無双したいって思ったこともあるのだが、魔力回路という、血管のように体内を巡るものが未発達の状態で魔法を使うことはできない。
 魔力回路への負荷が大きすぎて破裂してしまい、最悪死ぬと知って、その案は即却下した。
 だが五歳になったことで、ようやく魔力回路が魔法の発動に耐えられるまでに発達したのだ。
 これはやるしかない。

「今度書庫に行って、魔法についての本を読んでこようかな?」

 本来なら、五歳で魔法の家庭教師をつけられるのが貴族家における習わしだが、この状況で俺につけてくれるという甘い考えは、捨てておいた方がいいだろう。

「いや~、頼む。どうか、魔法だけは上手くいってくれ……!」

 祝福ギフトがダメならせめて魔法の才能はあってくれ。
 俺はそう、神に祈るのであった。
 ……F級の祝福ギフトを授けてくれやがりました神に。


      ◇ ◇ ◇


 数日後。
 俺は着替えを済ませると、若干重い足取りで廊下を歩き、食事を食べに向かう。
 祝福ギフトを授かった日以来、もう両親と顔を合わせたくもないんだよな~。
 しかし、まだ俺はフィーレル侯爵家の人間だ。故に、この家の人間として相応しい行動をしなくてはならない。面倒だよな。貴族って。
 そんなことを思いながら扉を開けて中に入ると、侮蔑ぶべつの目を向けてくる父と母――ガリアとミリアに形式だけの挨拶をしてから、席に向かう。
 しかし、冷たい声で「待て」とガリアに言われ、俺は立ち止まった。そして、ゆっくりとガリアに視線を向ける。

「これから一か月、お前に魔法の家庭教師をつける。出来がよければ以後もつけるが、悪いようならそれで終わりだ」

 忌々いまいましいものを見るかのような目で俺を見つめながら、ガリアはそう言った。
 なるほど。ダメ元だが、一応魔法の素質も見ておこうって魂胆こんたんか。まぁ、たとえ一か月だけでも、得られるものは多いだろうから、普通にこれはありがたい。

「ありがとうございます。父上」

 俺は心が全くこもっていない礼を言うと、再び席へ向かい、腰を下ろした。
 そのあと、いつも通り朝食を食べ終えた俺は、自室に戻った。そして、しばらく待っていると、コンコンと扉が叩かれる。
 お、どうやら魔法の家庭教師とやらが来たようだ。
 どんな人だろうか……?

「入ってきてください」

 俺が言うと、ガチャリと扉が開き、一人の女性が中に入ってきた。
 黒のローブを羽織り、右手に杖を持っている、赤いショートヘアの若い女性だ。
 彼女はやや緊張した様子で一礼すると、口を開く。

「本日より魔法をお教えすることになりました。魔法師団副団長の、エリーと申します」
「はい。僕はシン・フォン・フィーレル。短い期間になるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 俺はエリーさんにぺこりと頭を下げる。
 へ~、この人が俺に魔法を教えてくれるのか。割と親しみやすそうだし、いいんじゃないかな?
 すると、エリーさんは驚いたように目を見開く。

「その年で、凄く礼儀正しい……あ、すみません。では、まず初めに現在の魔力容量と魔力回路強度を測ります」

 そう言って、エリーさんはテーブルまで歩いてくると、その上に金属製のプレートと水晶を置く。
 あ、これ本で見たことあるな。
 金属製のプレートは魔力回路強度っていうのを測る道具で、魔力回路強度は高ければ高いほど、より強力な魔法が使える。
 そして、水晶は魔力容量を測ることができる道具で、魔力容量が多ければ多いほど、体内で多くの魔力を生み出すことができ、魔法を沢山使える。
 五歳ではまだ大したことはないだろうが、それでも今の魔力容量と魔力回路強度で、最終的にどの程度まで成長するかは予測できてしまうため、この測定は結構重要な意味を持っている。
 もしこの測定結果がよかった場合、ガリアとミリアが手のひら返ししてくる可能性が結構高い。
 正直それは……ごめんだ。
 これまでの態度で、俺はあの二人のことが嫌いになった。より優秀な人を跡継ぎにしたいと思う気持ちは分からなくもないが、だからといってあれはないだろ。
 というわけでこの測定はちょっと手を抜くとしよう。

「では、まずは魔力容量を測りましょう。そちらの水晶に手をかざして、魔力を込めてみてください。体中の力を手のひらに集めて、グッと出すようなイメージをしていただければ、自然とできますよ」
「分かりました」

 俺は頷くと、手を伸ばして水晶に右手をポンと置く。そして、魔力を少しずつ込めた。
 水晶の中に浮かび上がってきた一という数字が、二、三、四……とどんどん増えていく。
 五歳の平均魔力容量は十だったので、それよりも一つだけ下の九になるように調節しよう。
 そう思い、俺はだんだんと力を緩めていく。すると、上昇していた数字が六でピタッと止まってしまった。
 おっと。力を緩めすぎた。もう少し多くしないと。低すぎると、マジで虐待されそうだからな。
 俺は魔力を込める力を少し上げる。
 だが、一つ上がって七になるだけ。そこで止まってしまった。
 あ、あれ? そこそこ力入れてるよ? この調子だと、本気でやっても十行くか怪しいんだけど……
 高いことを期待していた魔力容量が、まさかの平凡っぽいことで顔が青ざめるが、深く息を吐いて心を落ち着かせ、今度は全力で魔力を込める。
 八、九、十と上がり……十一で、完全に止まった。

「十一……で止まりましたね。平均ぐらいだから、悪い数字じゃないですよ」

 結果を見たエリーさんは砕けた口調でめる……というよりは励ますように言う。
 俺、そんなに残念そうな顔してたかな?
 まぁ……うん。平均か。
 最低位だった祝福ギフトと比べれば全然いいよ。
 ただなぁ……もうちょっと高くてもいいんじゃないかと思うんだけどな~。
 でも、しゃあない。これで頑張るしかないか。

「では、次は魔力回路強度を測ります。このプレートを両手で持って、今と同じように魔力を込めてくださいね」
「分かりました」

 続いて、俺はエリーさんから金属のプレートを受け取ると、両端を掴み、魔力を込める。今回は、最初から本気だ。
 金属プレートに彫られた紋様が淡く光り出したかと思うと、その上に数字が浮かび上がってきた。
 その数字は……九。
 五歳の平均はこっちも同様に十だから……うん。こっちは微妙に平均行ってないね。
 あー、予想はしてたけどさ。ちょっとこれはあんまりだろ……
 やべぇ。流石に泣きそう。
 すると、俺の感情を察知したのか、エリーさんがおろおろしながらなぐさめる。

「だ、大丈夫です。九は全然悪い数字じゃないから。基本的な魔法は全て使えるようになるレベルなので、安心していいですよ。世の中には、低すぎて、一切魔法が使えない人も結構います。だから、そんな顔しないで」
「だ、大丈夫です。使えるだけでも、全然嬉しい……です」

 うん。そうだよ。使えるだけでもありがたいんだよ。
 せっかく異世界に来たのに、魔法が使えないなんて言われたら絶望ものだろ?
 それに比べたら、俺はむしろ幸運なんだよ。
 うん。そうなんだ。俺は幸運なんだ。
 よし。魔法が使えることに感謝しながら生きよう。
 こうして、俺はなんとか平凡な測定結果を受け入れるのであった。
 その後、俺はエリーさんに連れられて、屋敷の裏庭にやってきた。
 これからやるのは、魔法属性の適性検査。
 各属性の検査用魔法を詠唱し、発動できるかどうか。そして、発動できた場合はその出力によって適性を判断するらしい。
 魔法の属性は全部で八属性ある。火属性ひぞくせい水属性みずぞくせい風属性かぜぞくせい土属性つちぞくせい光属性ひかりぞくせい闇属性やみぞくせい無属性むぞくせい空間属性くうかんぞくせいだ。
 大抵の人は、高い適性を持つ属性が一つと、そこそこの適性を持つ属性が一つ二つあるって感じだが、俺の場合はどうなのだろうか。
 流石にもう高望みはしない。
 ……ただ、できれば空間属性に適性があるといいなぁと思ったり。
 空間属性は、扱うのがもっとも難しい属性だが、その分極めれば超強力になりえる。
 転移したり、空間をったり、亜空間に物を収納できたりと、めっちゃ便利だ。
 まあ、俺の魔力容量と魔力回路強度では、今後の成長を加味したとしても、そうホイホイとは使えなそうだが……

「この本に書かれている詠唱を、最初のページから順番に言ってください。詠唱はハッキリと言ってくださいね」

 エリーさんが一冊の薄くて小さな本を俺に差し出した。

「分かりました」

 俺は頷くと、まず一ページ目を開く。
 そこには前に本で見たような詠唱呪文えいしょうじゅもんが書かれていた。
 この世界では、魔法は発動する際は基本的に呪文の詠唱が必要となる。
 鍛錬をすれば無詠唱での発動も可能らしいが、それは結構難易度が高いみたいだ。
 俺は「ふぅ……」と息を吐いて心を落ち着かせると、詠唱をする。

「【魔力よ。火となれ】」

 ……だが、特に何も起こらない。
 どうやら火属性には適性がなかったようだ。

「はい。では、次のページ、水属性をお願いします」
「分かりました」

 ぺらりとページをめくり、俺はそこに書かれている呪文を読む。

「【魔力よ。水となれ】」

 ……だが、これも特に何も起こらない。
 あー、水属性にも適性がないのか。
 水属性の応用で氷の魔法も使うことができる。氷の槍とかは、カッコいいから憧れてたんだけどなぁ……
 だが、裏を返せば空間属性に適性がある可能性が残っているということでもある。
 前向きに考えよう。
 そんな感じで、俺はそのあとも風属性と土属性の呪文を詠唱してみたのだが、結果は適性なし。
 あれ? まさかとは思うが、どの属性にも適性がないとか言わんよな?
 それだったら、流石に落ち込むんだが……
 だんだんと不安になりながらも、俺は次の光属性の呪文を詠唱する。

「【魔力よ。光となれ】」

 すると、ここで初めて変化が起こった。
 体から何かがすーっと抜けていく感覚を覚えた直後、眼前に小さな光の球が現れたのだ。
 目の前で浮遊する小さな光の球は、炎のようにゆらりと揺れたあと、ふっと消えてしまった。

「光属性に適性があるようですね。この感じを見るに、高い適性……ではなさそうですね」

 エリーさんがボソリとそう呟く。
 へー、これはまだ高い適性じゃないのか。でも光属性は回復系の魔法が多いから嬉しい。
 しかし、そうなると、まさか本当に空間属性に適性が――それも高い適性とか?
 不安から一転して、希望が見えてきた俺は、次のページにある闇属性の呪文を詠唱する。

「【魔力よ。闇となれ】」

 今度は目の前に薄黒いもやのようなものが現れた。
 だが、すぐに空気中に溶け込むようにして、すーっと消えてしまった。
 お、闇属性にも適性があるのか。
 てか、光と闇って、どっちも純粋な戦闘系じゃないんだよなぁ……
 どちらかというと、戦闘補助系なんだよ。この二つ。
 まぁ、エリーさんいわく、これも高い適性ではないらしい。
 つまり、残り二つ――無属性と空間属性のどっちかが、高い属性ということになる。
 え? もうこれで終わりの可能性もあるって?
 それは断固として認めたくない!
 こうして俺は固い決意を胸に、残りの詠唱を紡ぐ。
 そして、その結果は――

「光属性と闇属性の適性率は共に約四十パーセント。そして、空間属性の適性率は約九十パーセントですね。とてもいい結果だと思います」
「はい!」

 よし。やったぜ!
 いやー、マジで途中ヒヤヒヤしたけど、なんとか空間属性に適性があってよかったー!
 しかも九十パーセントだよ。
 高い適性の属性って、平均八十パーセントらしいから、これはもう超当たりと言っても過言ではない。
 まぁ、いくら適性が高くても、魔法を使うもととなる魔力容量と魔力回路強度が平凡じゃ、結構辛いんだけどね。
 すると、エリーさんが口を開く。

「では、これから少し実践じっせんといきましょう。ですが、その前に一つ注意を。今後魔法を使う時は、近くの大人に許可をもらってからにしてください。危ないですからね」
「分かりました」

 エリーさんの注意に俺はコクリと頷いた。まぁ、頷くだけで十中八九破るんだけどね。
 いやでもほら、俺って前世含めたらもう二十三歳よ?
 だから実質大人ってことで、覚えた魔法は隠れてこっそりと使うとしよう。
 両親が俺のことを大事だと思わなくなったおかげで、俺に対する監視がザルになったのも、だいぶ追い風になっているし。

「まずは光属性と闇属性の二つをやっていきましょう。空間属性は難しい魔法が多いので、その二つをある程度使いこなせるようになってからにしないと、習得するのは厳しいですからね」

 エリーさんはまた別の――今度は少し厚めの本を取り出すと、パラパラとページをめくる。
 やがて手を止め、そのページを俺に見せてくれた。

「ここに書かれているのが、光属性魔法です。属性について文章で理解するのは難しいと思うから、細かい説明ははぶきますね」

 そう言って、エリーさんは更にページを一枚めくろうと手をかける。
 あー! 別に省かなくていいんだよ!
 だが、無情にもめくられてしまった。
 説明は大事だろうに。パッと見でも結構いいことが書いてあるように見えたぞ?
 まぁ、俺は五歳児だからな。難しいことは分からないって思われてるんだよな……
 しゃーない。今度久々に書庫に行って、この本を探してみるか。
 で、エリーさんが開いたページには魔法の呪文と魔法名。そして、内容が詳しく書かれていた。

「この魔法は【光球ライトボール】。さっきシン様が出したものよりも大きくて、強い光を放つ球を生み出す魔法です。腕を伸ばして、手の先に生み出すようなイメージをしながら、詠唱してみてください」

 エリーさんは簡単な説明をして、呪文が書かれている部分を指差す。
 なーるほど。これは光属性の基礎中の基礎って感じだな。
 流石に成功させなきゃマズいだろ。
 そう思いながら、俺は右手を前に出し、光の球が浮かんでいる様子をイメージして詠唱する。

「【魔力よ。光り輝く球となれ】」

 さっきと同じようにすっと体から何かが抜けるような感覚がしたかと思うと、手のひらの上に直径十センチ弱の光の球がふらふらと浮かんでいる。
 よし! 成功だ!
 そう思い、俺は内心喜んだが、それで集中が途切れてしまったのがいけなかったのか、【光球ライトボール】は霧散むさんしてしまった。
 あーあ。消えちゃった。
 でも、一発で発動できたのは結構いいことだと思う。
 前世で、ファンタジー小説や漫画やアニメを沢山見まくったおかげで、魔法に関するイメージが人一倍鮮明なことが関係しているのだろうか。
 魔法はイメージが大切って、よく聞くからね。

「凄いですね。最初の一回で発動できる人はなかなかいません」

 エリーさんは拍手しながら、手放しで俺を褒める。
 お、やっぱり一発でできる人はあまりいないのか。
 いや~、これはもう前世のコンテンツに感謝だな。
 あとは無意識にできるようにしないと。さっきみたいに、ちょっと集中力が切れただけで発動できなくなるようでは、話にならないからね。

「では、この調子で闇属性の魔法も使ってみましょう」

 そう言って、エリーさんは再びパラパラとページをめくり、闇属性魔法のところで手を止めた。

「これは【黒霧ダーク】という、周囲に黒い霧を発生させる魔法です。まずは、自分を包み込むようなイメージをしながら、詠唱してみてください」
「分かりました」

 なるほど。今度は目くらまし系の魔法か。

「【魔力よ。黒き霧となれ】」

 再びイメージをしながら詠唱を紡ぐ。
 すると、体中から黒い靄のようなものが出てきて、またたく間に俺を包み込んだ。おかげで現在、視界は真っ暗だ。
 さておき、今は頑張ってこれを維持しないと。
 ある程度集中しつつ、リラックスするという難しいことを頑張ってこなすことで、少しずつ無意識に魔法が使えるようになるだろう。
 しかし、今の俺にはそんな芸当できるはずもなく、ものの数秒で【黒霧ダーク】は霧散してしまった。
 まぁ、さっきの【光球ライトボール】よりは長く持ったからよしとするか。

「うん。凄い。あとはこれを何度も続けて、少しずつ魔法に慣れていきましょう。それと、体がだるくなってきたらすぐに教えてくださいね。それは、魔力切れの症状ですから」
「分かりました」

 俺は頷くと、再びエリーさんの指導のもと、魔法を使うのであった。


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