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*98 年が明けました *
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年明けは、大鐘楼前の広場で迎えた。リ~ンゴ~ンと鳴る鐘の音に合わせて、ブドウを12個食べるというのは、なかなか忙しい。でも、皮ごと食べられる小ぶりのブドウを選んだので、何とかクリアできた。果汁で口の周りがベッタベタになったけども。
エルは口がでかいので、難なく12個クリアできたのがずるい。別に種族による違いなのだから、ずるいもへったくれもないのだが、それでもなんだか不公平に思えて、ジトッとした目で彼を見ていたら、
「可愛すぎるだろ、アンタ」
ガバッと抱きしめられてしまった。
「ちょ⁉ こんなっ、とこで!」
「誰も気にしてねえよ!」
エルの言う通り、あっちこっちで「あけましておめでとう!」の声が聞こえてくる。というか、大合唱だ。ハグをしている人もいる。そして、どこからか木のカップが回ってきた。
「え? 何、これ?」
回して、回してと言われるので、よく分からないまま、隣の人へ渡す。
「はい、次」
と、また新しいカップを渡される。それをまた、隣の人へ渡す。エルも同じように、カップを渡されては、隣の人へ渡すという作業をしていた。カップが回ってくるスピードがやや落ちてきたころ、
「そろそろ、渡さなくていいぞ」
「え? あ、うん」
隣の人もカップを持っているし、持っていない人が見当たらなかったのもあって、俺はもらったカップをそのまま持っていた。よく見るとカップには、エンブレムの焼き印がされている。盾? みたいな物の両脇に虎っぽい動物がデザインされていて、よく分からない。
何だろうと思っていると、今度は小鐘楼のガランゴロンという鐘の音が聞こえてきた。
と、同時に「乾杯!」の声と「あ~あ」の声の大合唱。
なんだ、なんだときょろきょろしていたら、
「ほら、乾杯」
「え? あ、うん。乾杯」
エルがカップを寄せて来たので、それにカップを軽く当てて乾杯。隣の人からも「乾杯!」と声をかけられたので、「乾杯」と返す。乾杯の声が落ち着いたので、カップに口をつける。
「あ、美味しい。ホットワインだ」
寒いから、これは嬉しい。ほーっと息を吐いて、もう一口。
「で、これ何なの? 振る舞い酒?」
「フルマイザケか何なのかは分からねえが、毎年侯爵閣下が送ってくださるんだよ」
やっぱり振る舞い酒のようである。侯爵閣下は、領主様のことだ。
もう何十年も続いている、町の名物行事なんだとか。大鐘楼の鐘の音が鳴り響いた後、広場の外側から中に向かって、ホットワイン入りのカップをさっきみたいに人伝いにどんどん回していくんだそう。カップを配る時間は、小鐘楼の鐘が鳴るまで。小鐘楼の鐘の音が鳴るまでにカップが回って来た人は、今年一年、無病息災で過ごせると言われているらしい。
「へ~え。でも、もらえなかった人は可哀そうだね」
「広場の真ん中あたりにいるヤツは不利だけどな」
「でも、まあまあいるよね」
「真ん中あたりにいて、カップが回って来たヤツは、番に会えるってジンクスがあるんだよ。で、そのジンクス通りになった」
「え? マジで?」
俺が目を丸くすると、得意げな顔でうなずかれた。ひゃ~、すごいな、このジンクス。
「ちょうど日が暮れるあたりで仕事が終わったんで、仮眠してから広場に来たんだよ。この日は、タダで美味いワインが飲めるからな」
どういう流れでそうなったのかは覚えていないらしいが、大鐘楼の鐘の音を聞く頃には、広場の真ん中あたりにいたそうだ。それで、たまたまカップが回って来たので、そのまま小鐘楼の鐘の音に合わせて、ワインを飲んだらしい。
「連れには、お前だけずるいって言われたけどな」
その時のことを思い出したのか、エルは肩をすくめた。
広場にはたくさんの人が来ているが、ライブなどの観客数よりも少ない。もともと、町の人口自体が、ドームの観客席数と同じくらいって話だしな。
だから、人込みで身動きが取れない、なんてことは全くなかった。ちょっと通りづらいかな、というくらいだ。
どれだけの人が来ているのかは分からないが、15分じゃ時間は全然足りないはずだ。そりゃ、カップが回って来たら、今年は無病息災で過ごせるとか、番が見つかるとか言われるのも分かる気がする。
ただ、振る舞い酒自体はまだまだあるらしい。領主様だけじゃなく、ギルドや大きな商店、著名人などもお酒やピンチョス、おつまみなどの振る舞いをしており、みんな朝までここで飲んで食べて、踊って歌って、騒ぐらしい。元気だなあ。
エルは口がでかいので、難なく12個クリアできたのがずるい。別に種族による違いなのだから、ずるいもへったくれもないのだが、それでもなんだか不公平に思えて、ジトッとした目で彼を見ていたら、
「可愛すぎるだろ、アンタ」
ガバッと抱きしめられてしまった。
「ちょ⁉ こんなっ、とこで!」
「誰も気にしてねえよ!」
エルの言う通り、あっちこっちで「あけましておめでとう!」の声が聞こえてくる。というか、大合唱だ。ハグをしている人もいる。そして、どこからか木のカップが回ってきた。
「え? 何、これ?」
回して、回してと言われるので、よく分からないまま、隣の人へ渡す。
「はい、次」
と、また新しいカップを渡される。それをまた、隣の人へ渡す。エルも同じように、カップを渡されては、隣の人へ渡すという作業をしていた。カップが回ってくるスピードがやや落ちてきたころ、
「そろそろ、渡さなくていいぞ」
「え? あ、うん」
隣の人もカップを持っているし、持っていない人が見当たらなかったのもあって、俺はもらったカップをそのまま持っていた。よく見るとカップには、エンブレムの焼き印がされている。盾? みたいな物の両脇に虎っぽい動物がデザインされていて、よく分からない。
何だろうと思っていると、今度は小鐘楼のガランゴロンという鐘の音が聞こえてきた。
と、同時に「乾杯!」の声と「あ~あ」の声の大合唱。
なんだ、なんだときょろきょろしていたら、
「ほら、乾杯」
「え? あ、うん。乾杯」
エルがカップを寄せて来たので、それにカップを軽く当てて乾杯。隣の人からも「乾杯!」と声をかけられたので、「乾杯」と返す。乾杯の声が落ち着いたので、カップに口をつける。
「あ、美味しい。ホットワインだ」
寒いから、これは嬉しい。ほーっと息を吐いて、もう一口。
「で、これ何なの? 振る舞い酒?」
「フルマイザケか何なのかは分からねえが、毎年侯爵閣下が送ってくださるんだよ」
やっぱり振る舞い酒のようである。侯爵閣下は、領主様のことだ。
もう何十年も続いている、町の名物行事なんだとか。大鐘楼の鐘の音が鳴り響いた後、広場の外側から中に向かって、ホットワイン入りのカップをさっきみたいに人伝いにどんどん回していくんだそう。カップを配る時間は、小鐘楼の鐘が鳴るまで。小鐘楼の鐘の音が鳴るまでにカップが回って来た人は、今年一年、無病息災で過ごせると言われているらしい。
「へ~え。でも、もらえなかった人は可哀そうだね」
「広場の真ん中あたりにいるヤツは不利だけどな」
「でも、まあまあいるよね」
「真ん中あたりにいて、カップが回って来たヤツは、番に会えるってジンクスがあるんだよ。で、そのジンクス通りになった」
「え? マジで?」
俺が目を丸くすると、得意げな顔でうなずかれた。ひゃ~、すごいな、このジンクス。
「ちょうど日が暮れるあたりで仕事が終わったんで、仮眠してから広場に来たんだよ。この日は、タダで美味いワインが飲めるからな」
どういう流れでそうなったのかは覚えていないらしいが、大鐘楼の鐘の音を聞く頃には、広場の真ん中あたりにいたそうだ。それで、たまたまカップが回って来たので、そのまま小鐘楼の鐘の音に合わせて、ワインを飲んだらしい。
「連れには、お前だけずるいって言われたけどな」
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だから、人込みで身動きが取れない、なんてことは全くなかった。ちょっと通りづらいかな、というくらいだ。
どれだけの人が来ているのかは分からないが、15分じゃ時間は全然足りないはずだ。そりゃ、カップが回って来たら、今年は無病息災で過ごせるとか、番が見つかるとか言われるのも分かる気がする。
ただ、振る舞い酒自体はまだまだあるらしい。領主様だけじゃなく、ギルドや大きな商店、著名人などもお酒やピンチョス、おつまみなどの振る舞いをしており、みんな朝までここで飲んで食べて、踊って歌って、騒ぐらしい。元気だなあ。
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