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*13 ホテルに行こう *

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 この女、頭が悪いんじゃなかろうか。くねくねと体を揺らして、無駄に瞬きをしたところで、アンタの態度の悪さはなかったことにはならねえんだよ。
「あたしが言うのもなんですけどぉ、登録するならぁここじゃなくて、高級志向のディ・マリヤーノに所属するべきだと思いますぅ」
「余計なお世話です。それより、さっさと登録を終わらせてもらえませんかね」
「っ、な! 人がせっかくアドバイスしてあげたのに! 何なのよ、もうっ!」
 何なのは、こっちのセリフだ。受付嬢はムッとした顔で、俺のタグを乱暴にカウンターに置く。
「はい、どーぞ! もう、登録は終わりましたっ!」
「どうも」
 俺はタグを受け取ると、さっさとギルドを後にした。彼女だけがおかしいのか、このギルド全体がおかしいのか。しばらく様子を見て、ギルドの雰囲気がよくなかったら、別のギルドに移ることも考えよう。ギルドはここだけじゃない。
「は~……なんか急に疲れたな。とりあえず、ホテルにチェックインして、休もう」
 幸いにして、俺が泊まる予定のホテルはこの近くだ。滞在費を上乗せして、宿をグレードアップしてもらったのである。ふっふっふ~。髪も目も色を変えているから分からないとは思うが、念には念を入れることにしたのだ。
 オフィス街から北上すると、町の雰囲気ががらりと変わる。
 通りを一つ挟んで、こちら側は赤レンガの建物。向かい側は真っ白な建物が並んでいた。
 真っ白な建物は、格調高いファサードを備え、一階部分は高級ブランドのショップっぽい店が軒を連ねていた。この通りが住む世界の境界線って感じだな。
 俺が泊まる予定のホテルは、「ユニライズホテル」だ。住所的には白い建物側のエリアのはずなので、とりあえず通りを渡る。でも、看板が見当たらなくて、どこにあるのか分からない。
 キョロキョロしていると、ちょうど人が通りがかったので聞いてみた。
「ユニライズホテル? 目の前だよ。看板が小さいから分かりづらいんだよね。玄関はあっちだよ」
「え? ここですか? ありがとうございます」
 目の前とは、格好悪い。教えてくれた人にお礼を言って、教えてもらった方向へ歩いていく。この建物、ホテルっていうよりは、外国のアパートって感じなんだけどな? 半信半疑で歩いていれば、「ユニライズホテル」とだけ書かれたシンプルな看板プレートが壁に取り付けられているのを発見。
「……本当だった。この建物、全部がホテル? よく分からないな」
 でも、看板があったんだから、入り口はここでいいんだろう。ドアを開けて、おそるおそる中へ入ってみる。
 エントランスは左右に広く、右側はバーラウンジになっていた。黒白のデザイン貼りの床。柱の装飾もすごいし、壁に飾られた絵画や配置された家具のセンスといい、
「チャールズさん~……ちょっといいビジネスホテルじゃなかったの?!」
 格式高い、高級なホテルとしか思えない。俺がひえぇぇとおののいていると、
「ようこそ、ユニライズホテルへ。何かお手伝いできることはございますか?」
 紺色の制服に身を包んだ男性が素早く近づいてきて、話しかけてくれた。
「あ、どうも。その、今日からお世話になる予定の者なんですが……」
「それは、それは。でしたら、あちらで宿泊の手続きをさせていただきます。ご予約票はお持ちでしょうか?」
「は、はい」
 彼は、非常ににこやか、かつスムーズにフロントへ案内してくれた。
 フロントスタッフの対応も実に丁寧で、にこやか。おまけに迅速。チェックインは、スムーズに終わらせることができた。これが一流ホテルマンの仕事なのか!
 最後に、ホテルに滞在するにあたっての注意事項の説明を受けて、部屋の鍵をもらい、
「では、お部屋までご案内いたします」
 ひえぇぇ~。俺、こんなホテルに泊まるの、初めてだよ! 俺はただの平民なのに。めちゃくちゃ恐縮していると
「我々にとって、お客様はお客様です。お客様は見た目で判断せず、どなた様にも公平に応対するよう、オーナーからはきつく言いつけられております」
 客だからと偉そうにされても困るが、今の俺みたいに恐縮されても困ると言われてしまった。そうか。スタッフは当たり前の仕事を当たり前にしてるだけだもんな。はい、反省します。
「あと、貴族だからといってお金持ちは限らないのですよ。伯爵家以上の方でも、日中は身なりに気を使うことはまれで、つぎはぎだらけのジャケットを平気な顔でお召しになっておられたりいたしますし」
 おっと、爆弾発言。階段で人目がないから、小声でぼそっと本音を教えてくれたのね。つまり、見た目で判断して適当な対応をしていたら、実は伯爵だったーとかあるってことか。
「そりゃ、公平な応対をせざるを得ないですね」
「どこで誰が見ているか分からないので、油断できなくて……」
 はあ、とこぼれたため息が、ホテルマンの気苦労を表しているようだった。お疲れ様です。
「お部屋は、三階にございます」
 こちらですと促され、部屋の前に立つ。いやあ、ドアまで開けてもらっちゃって。
「鍵は、内鍵となってございます。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
「ありがとうございました」
 礼儀として、彼にチップを渡し、部屋のドアを閉めた。
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