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*19 タリーの台所 *

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 この店は、けっこう長くやってる感じがした。暖色系の色でまとめられた店内は、壁紙とかちょっと色あせてるけど、そのレトロさがいい感じだ。作り付けの棚には、絵皿が三十枚くらい飾られていて、ちょっとしたコレクションになっている。これだけ揃ってると圧巻だな。
 ただ、テーブルと椅子が半分くらい、店内の片隅に追いやられていた。一人でやってるって言ってたから、席数を減らしたのだろう。う~ん……なんか雰囲気が良くないな……。
「おい、どうした? 座らねえのか?」
「え? いや……」
 席数は全部で十席。その内、三席が空いているものの、食べ終えた食器がそのままになっている。残る七席のうち、食事中なのは二席で、一席は料理が出て来るのを待っているところ、って感じかな。あとの四席は、食事が終わっているよう。牛族の彼も食事が終わっている組。で、終わっている組の机の上も食器が残ったまま。
 俺は十秒ほど考えたあと、窓側の空いている席の食器を片付け、
「食器、カウンターここに置くから」
 キッチンに声をかけた。すると、寸胴鍋の中身をかき混ぜていた兎族の男性が、
「えっ? あ、ありがとう」
 こちらを見て、目を丸くする。年は俺と同じくらいかな? 真ん丸の目がどんぐりみたいでかわいい。大変そうだったので、
「他の席も片付けるよ」と声をかけた。
 余計なお世話かもしれないが、飲食店開業を目指している人間として、この状態は許せなかった。これじゃあ、お客さんが入り辛い。
 本当はキッチンまで持って入って、ちゃっちゃと魔法をかけてきれいにし、食器類も棚に片付けてしまいたいところだが、さすがにそこまでは無理。机は、カウンターにあった台拭きを借りて拭いた。
 お客さんがいる机の上の食器類も声をかけて下げ、全部カウンターへ持っていく。牛野郎は何も答えなかったけど、無視して皿を下げる。すると、苛立った声で
「おい! テメエ。何、勝手なことをしてやがる。それは、オルレアの仕事だろうが」
 と、いちゃもんをつけてきた。つか、オルレアって誰よ? たぶん、キッチンにいる兎族の彼の名前なんだろうけど。
「は? 何言ってんの? 食器を下げただけで、そのオルレアさん? にどんなデメリットがあるんだ? たったこれだけのことで、給料を払えなんて言うつもりはないし、彼の給料だって下がらないだろ? もちろん、評価だって下がらないはずだ」
「っな……」
「むしろ、デメリットになってるのはアンタなんだけど? 食べ終わってるってのに、いつまでも居座られたんじゃ、次のお客さんが座れないんだよ。ってことは、どういうことか分かる? アンタがしてることは、営業妨害! アンタがいることこそデメリット!」
 騎士団に通報してやろうか、全く。
 机の上のお皿の状態から、食べ終わってからそこそこの時間が経ってるっぽいんだよな。少なくとも、食後の一服レベルは超えている。となると、店側にとっては迷惑でしかない。
 十席しかないんだから、回転率を上げないと赤字営業だ。会計を済ませて、さっさと出て行ってもらいたい。
「っぐ……!」
 牛野郎は顔を真っ赤にして、ぐぬぬぬと悔しそうに顔をゆがめている。
 そもそも、客のアンタがなんだって、あんな偉そうにしてるんだ。ぐぬぬ以外になんか言うことはないのかと、牛野郎を真正面から睨みつけていると、
「えっ……と……その……通っていいかな?」
 兎族の彼がキッチンから出てきた。トレーの上には、美味しそうな匂いを漂わせるお皿が乗っている。店内の緊張した空気がほころんだ瞬間だった。
「あぁ、どうぞ」
 俺は、牛野郎から目線を外して一歩横にずれる。すると、牛野郎以外の迷惑客疑惑のある人たちが、そそくさと席を立ち、
「お会計をお願いできる?」
「はい、もちろん」
 兎族の彼は笑顔で応じると、まずは出来上がった料理を配膳。それから、席を立ったお客さんたちの会計を始めた。
 俺は、今のうちにと窓際の席に座る。
 牛野郎はというと、チッと大きな舌打ちをして、ずんずんと自分が座っていた席に戻った。まだ居座る気か? と眉を顰めかけたが、彼は座ることなく、「勘定、ここに置いてくぞ」と机の上に硬貨を投げ捨てるようにして置き、商売道具らしい物を持って、店から出て行った。
 本当に感じ悪いな、あの男。何なんだ、あの態度。
 食べ終わった全てのお客さんが店から出て行くと、心なしか店内が明るくなったような気がする。うんうん。今のほうが断然いいね。俺が自己満足に浸っていると、
「お。どうしたんだい、今日は。テーブルも店内もすっきり片付いてるじゃないか!」
 新しいお客さんが入って来て、信じられない! と大きな声で叫んだのだった。
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