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*26 有能相談員の手腕 *

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「さて、ビッケルさん。いくつか、質問をさせていただいても?」
「あ、はい。あ、ぼくのことはオリーで……」
「ありがとうございます。俺もチャールズでいいですよ。それで、クランとギルドに伝言を依頼しても届けてもらえなかったというのは?」
「身内以外の伝言は届けられないって断られて……。先代が亡くなったときも、身内からじゃないと伝言は受けられないって言われて、そんなことってあります?!」
「ないわ~。そういうことなら、何とか連絡取ろうとするもんでしょ。普通」
 俺がドン引いている横で、チャールズさんの顔は険しさを増していく。
「ギルドも同じく?」
「はい。どうしようかと思ってたら、隣町からセリオさんが来てくださったんです。ダニエルおじさんのお兄さんで、セリオさんがギルドのほうに依頼してくれて、それで何とか……」
 ダニエルというのが、亡くなった旦那さん。奥さんのほうはナンシーさんというそうだ。
 ギルドに依頼して、一週間ほどで息子さんマートルが帰宅。とはいえ、その頃には葬儀は終わり、お墓に埋葬された後だったそうだ。
 ご夫婦がなくなって、十日ほど経っていたそうである。マートルさんは、ご夫婦のお墓の前で「遅くなってすまねえ」と何度も泣きながら謝っていたそうだ。クランのメンバーが、彼に対してどんな言葉をかけ、どんな態度を取ったのかは分からないままだそう。
「マートルは役所への手続きとかで、一週間くらい町にいたんですけど……仕事があるからって、金貨百枚を置いて、またダンジョンに──」
「…………なんかもやっとするのは俺だけ?」
「いえ。気持ちは分かります。中途半端なことをしてんじゃねえと、関係者全員しばき倒したいですから」
「雇われ従業員でしかないぼくの権限じゃ、新しい給仕も雇えなくて……マートルは、緊急連絡先をぼくに変えておいたから、連絡はすぐにつくって言ってたんだけど……」
 ついてねえな。だから、こんなことになってるんだろうけども。大丈夫か、そのクラン。
「……それから戻って来てないんですか? 一度も?」
 眉間に皺を寄せたチャールズさんの質問に、オルレアは無言でうなずいた。
「どこのダンジョンの何階層にいるとか、いつ頃戻るとかの連絡は?」
 次の質問には首を左右に。勇猛なる鋼は当てにならないからとギルドへ相談に行ったらしいのだが、こちらもけんもほろろに断られたらしい。
 チャールズさんの眉間の皺がさらに深くなる。「潰すか」
 うん? 今、何かすっげー物騒なことを言わなかったか?
「あのぅ、チャールズさん? 今、何か言いました?」
「いいえ? ところで、オリー。これからどうしますか?」
「え? …………これ、から?」
 チャールズさんの質問に、オルレアはきょとんと目を丸くした。チャールズさんは「そうです」とうなずき、
「店を続けたいですか? それとも、やめますか?」
「やめ……店……を?」
 オルレアは、チャールズさんが出した二択に対し、露骨にうろたえだした。彼はうなずき、
「エキザカムご夫妻に申し訳ないとか、常連さんたちをがっかりさせてしまうかもとか、そういうことは考えないで。オリー、あなたがどうしたいか、です」
「ぼく……ぼくは……」
 真っすぐな相談員の視線とは反対に、オルレアの視線は迷いまくり。何か、大きな葛藤があるのかもしれない。俺は彼の背中にそっと手を当て、
「オリー。料理を作るのは好き?」
「好き」
「じゃあ、料理を作る仕事はどう? 好き? まだやりたいって思ってる?」
「う、うん。まだ、やりたい」
 ウサギさんの背中をゆっくり撫でながら、短い質問をしてみた。
「じゃあ、この店でやりたい? それとも──」他の店で? と続けようとしたとき、
「むっ、無理だよぉっ! この店で、一人で、だなんて無理だよぉぉっ! ぼくっ、〈料理〉スキルしか持ってないぃ~っ! あと、三年で〈調理師〉スキルなんて無理だよぉぉ~っ!」
「えっ……と?」
 何それ。どういうこと? 思わずチャールズさんを見れば、彼は小さく肩をすくめ
「スバルには関係ない話なので、しなかっただけです」
 どういうことかというと、地球との交流が始まり、ミーヌスラジアには新たな知識がもたらされた。その中に衛生観念というものがあり、国際的にいろんなことを取り決めたそうだ。
「当然、食品衛生も含まれています。この国では、来年から食品衛生に関する法律が施行されるんですよ。その中に〈調理師〉スキルがないと飲食店の開業を許可しない、というものがありまして……三年の猶予期間を設けたのちに完全施行される予定になっているんです」
 この情報は、〈調理師〉スキルを買った俺には不要なものだとチャールズさんは判断して、伝えなかったそうだ。いや、そうかも知れないけど、教えといてよ。びっくりするじゃん。
 でも、それだと色々と不都合があるんじゃないか?
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