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*28 チャールズさんの正体 *
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チャールズさんが書いた手紙の裏側を見てから、オルレアは挙動不審になった。
俺は、彼がそうなる理由が分からなくてきょとーん。
チャールズさんはニコニコと笑っているように見えて、怒っている。怒りの矛先が俺たちじゃないって分かってるから、同じ席についていられるけど、めちゃ怖い。この年でちびりそうになるとは思わなかった。
とはいえ、いつまでもこの状態だと話が進まないので、
「え~っと……話題についていけてない俺に説明を求めます」
挙手をして、オルレアとチャールズさんに訴える。っつか、何かさっきから「え~っと」ばっかり言ってるような気がするんだが。
「ああ、それは失礼。簡単に言うと、週末探索者の俺がギルドを通じて、マートルさんを呼び出します。そのついでに、ギルド職員と無能なる鋼の規約違反の告発をします」
「無能じゃなくて勇猛……」
「あぁ、失礼。無謀なる鋼ですね」
「…………わざとでしょ。それ」でも、気持ちは分かる。しかし、週末探索者って? 俺が疑問に思ったのが分かったのか、
「週末探索者というのは、休みの日に趣味でダンジョンに潜る人のことを言います」
趣味ってナニ? そんな変人、チャールズさんだけじゃないのか? と思ったのだが、意外にいるらしい。依頼は受けずに、比較的浅い階層を日帰りや一泊二日くらいで、ダンジョンに潜るのだそうだ。
「肉食系獣人が闘争心を鎮めるためだったり、単にストレスを発散させるためだったり。後は、引退後も身体や勘をなまらせたくない、という騎士が潜ったりしていますね」
引退した騎士様は特別枠があって、通常の探索者とは違う研修コースが用意されているのだそう。まあ、ダンジョンの知識は別として、戦闘力や経験は普通の見習いとレベルが違うから当然の措置だろう。
色々あるんだなあと俺が納得したところで、
「あの、規約違反って?」
オルレアが首を傾げた。一般の人はご存知なくて当然ですが、と渋い顔をしながらもチャールズさんは親切に教えてくれる。
「ダンジョンにいる探索者への伝言依頼は、原則として断ることができません。依頼を受けたクラン、ギルドは探索者へ伝える努力義務が発生しますし、依頼者へ適時報告をする必要があります。依頼料がゼロであろうと、低価格であろうと、依頼は依頼ですので」
「依頼料ゼロ?」
今度は、俺が首を傾げる番。
「緊急連絡先として登録されている人からの依頼は、依頼料ゼロです。登録されていなかったとしても、依頼料は子供のお小遣い程度でしかありません。そのための会費なので」
彼が渋い顔をしたのは、そういう説明は探索者本人から、緊急連絡先として登録した人や家族に伝えておかなくてはならないことで、マートル、お前、ちゃんと説明したのか、ゴルァという感情の表れのようである。
「なるほど。でも、チャールズさんの依頼とか告発とか、無視されたりしません?」
「ちょぉっ?! っ何っ、バカなこと言ってるの、スバル!」
オルレアに大きな声を出されて、びっくりする俺。え? 俺の発言、そんなにおかしい? そんな変なこと言ったつもりはないんだけど。そろ~っとチャールズさんをうかがえば、
「無視できるものなら? やってみれば? って感じですかね?」
怖いよ、その笑顔。黒すぎるだろ。ぞくぅっ、って震えが来たわ。背筋が凍るって、このことなんだなと実感。
「エキザカムご夫妻には、とてもお世話になりましたし。スバルも、オリーにお世話になっているようですし?」
黒い笑い顔のままで、彼は続ける。
「俺、実は感動したんですよ。スバルが騎士を相手にひるまず会話ができていたことに。こちらに来る前のあなただったら、考えられなかったでしょう?」
「え? あ、そうですね」
ロゲンと話をしたときも、実は手が震えていたことに後から気づいた。
「ですので、移住局職員としての権限だけでなく、俺が持っているもの、全てを使ってあなたをサポートしようと思いまして。あと、俺の今後の豊かな食生活のためにも懸念材料は取り除いておきたい、という下心もあります」
ふっと表情を緩めたチャールズさんは、椅子から立ち上がると、
「俺はいったん、ここで失礼します。職場に遅刻扱いにならないよう、相談案件を受けていたことを報告しないと……。その後、ギルドに寄って呼び出しと告発をしてきます。一時間程度で戻って来られるかと」
封筒をケープマントの下にしまいこみ、「では、またあとで」と店から出て行ってしまった。そうか、チャールズさん、出勤前だったのか。彼の背中が完全に見えなくなってから、
「オリー、チャールズさんて有名人なの?」
「はぁっ?! この町には来たばっかりだって言ってたけどっ……! スバル、本当に知らないの!? あの印章、見たでしょ?! あれは、Sランク探索者、双頭の獅子の印章だよ!! 生ける伝説! 神速の踏破者! 聞いたことないの!?」
信じられない、という顔をして立ち上がるオルレア。
「えすランク……は? えぇ?! はぁっ?! チャールズさんがぁっ!?」
俺も思わず立ち上がって、オルレアを見た。偽者説……いや、ないな。あの人がそんなアホなことするわけがない。え? じゃあ、本物? 探索者なんてなるもんじゃないって、さんざん言ってたのは、経験則から? でも、Sランク……いや、Sランクだからこそか?
「ここ、何年かちっとも噂を聞かなくなったから、死亡説とか流れてたんだけど……。生きてたってことが分かっただけでもすごいのに、うちの常連さんだったなんて……」
はわわわわ~っと、オルレアはうっとり顔。さっきまでの悲惨さは、どこへ行った? いや、いいんだけど。今のほうが絶対にいいんだけど。おいおい、って思う俺もいる。
「え~っと……マートルさんの呼び出しは、チャールズさんに任せるとして──。オリー、店の片付けしようよ。大工さんに修理の依頼もしなくちゃだし」
なんかもう情報過多でついていけないけど、最優先事項は、店の片付けと修理だろう。
退職の件は、マートルさんが帰って来るまで保留になるだろうし。俺の店への勧誘は、タイミングを見計らって、だな。急いては事を仕損じるって言うしな。ここは慎重にいかねば。
「あぁ、そうだね。修理も依頼しなきゃ」
「それと、厨房の片付けと取引先への挨拶も」
動く気力が戻ったなら、さっさと動かないと。やることはいっぱいある。
俺は、彼がそうなる理由が分からなくてきょとーん。
チャールズさんはニコニコと笑っているように見えて、怒っている。怒りの矛先が俺たちじゃないって分かってるから、同じ席についていられるけど、めちゃ怖い。この年でちびりそうになるとは思わなかった。
とはいえ、いつまでもこの状態だと話が進まないので、
「え~っと……話題についていけてない俺に説明を求めます」
挙手をして、オルレアとチャールズさんに訴える。っつか、何かさっきから「え~っと」ばっかり言ってるような気がするんだが。
「ああ、それは失礼。簡単に言うと、週末探索者の俺がギルドを通じて、マートルさんを呼び出します。そのついでに、ギルド職員と無能なる鋼の規約違反の告発をします」
「無能じゃなくて勇猛……」
「あぁ、失礼。無謀なる鋼ですね」
「…………わざとでしょ。それ」でも、気持ちは分かる。しかし、週末探索者って? 俺が疑問に思ったのが分かったのか、
「週末探索者というのは、休みの日に趣味でダンジョンに潜る人のことを言います」
趣味ってナニ? そんな変人、チャールズさんだけじゃないのか? と思ったのだが、意外にいるらしい。依頼は受けずに、比較的浅い階層を日帰りや一泊二日くらいで、ダンジョンに潜るのだそうだ。
「肉食系獣人が闘争心を鎮めるためだったり、単にストレスを発散させるためだったり。後は、引退後も身体や勘をなまらせたくない、という騎士が潜ったりしていますね」
引退した騎士様は特別枠があって、通常の探索者とは違う研修コースが用意されているのだそう。まあ、ダンジョンの知識は別として、戦闘力や経験は普通の見習いとレベルが違うから当然の措置だろう。
色々あるんだなあと俺が納得したところで、
「あの、規約違反って?」
オルレアが首を傾げた。一般の人はご存知なくて当然ですが、と渋い顔をしながらもチャールズさんは親切に教えてくれる。
「ダンジョンにいる探索者への伝言依頼は、原則として断ることができません。依頼を受けたクラン、ギルドは探索者へ伝える努力義務が発生しますし、依頼者へ適時報告をする必要があります。依頼料がゼロであろうと、低価格であろうと、依頼は依頼ですので」
「依頼料ゼロ?」
今度は、俺が首を傾げる番。
「緊急連絡先として登録されている人からの依頼は、依頼料ゼロです。登録されていなかったとしても、依頼料は子供のお小遣い程度でしかありません。そのための会費なので」
彼が渋い顔をしたのは、そういう説明は探索者本人から、緊急連絡先として登録した人や家族に伝えておかなくてはならないことで、マートル、お前、ちゃんと説明したのか、ゴルァという感情の表れのようである。
「なるほど。でも、チャールズさんの依頼とか告発とか、無視されたりしません?」
「ちょぉっ?! っ何っ、バカなこと言ってるの、スバル!」
オルレアに大きな声を出されて、びっくりする俺。え? 俺の発言、そんなにおかしい? そんな変なこと言ったつもりはないんだけど。そろ~っとチャールズさんをうかがえば、
「無視できるものなら? やってみれば? って感じですかね?」
怖いよ、その笑顔。黒すぎるだろ。ぞくぅっ、って震えが来たわ。背筋が凍るって、このことなんだなと実感。
「エキザカムご夫妻には、とてもお世話になりましたし。スバルも、オリーにお世話になっているようですし?」
黒い笑い顔のままで、彼は続ける。
「俺、実は感動したんですよ。スバルが騎士を相手にひるまず会話ができていたことに。こちらに来る前のあなただったら、考えられなかったでしょう?」
「え? あ、そうですね」
ロゲンと話をしたときも、実は手が震えていたことに後から気づいた。
「ですので、移住局職員としての権限だけでなく、俺が持っているもの、全てを使ってあなたをサポートしようと思いまして。あと、俺の今後の豊かな食生活のためにも懸念材料は取り除いておきたい、という下心もあります」
ふっと表情を緩めたチャールズさんは、椅子から立ち上がると、
「俺はいったん、ここで失礼します。職場に遅刻扱いにならないよう、相談案件を受けていたことを報告しないと……。その後、ギルドに寄って呼び出しと告発をしてきます。一時間程度で戻って来られるかと」
封筒をケープマントの下にしまいこみ、「では、またあとで」と店から出て行ってしまった。そうか、チャールズさん、出勤前だったのか。彼の背中が完全に見えなくなってから、
「オリー、チャールズさんて有名人なの?」
「はぁっ?! この町には来たばっかりだって言ってたけどっ……! スバル、本当に知らないの!? あの印章、見たでしょ?! あれは、Sランク探索者、双頭の獅子の印章だよ!! 生ける伝説! 神速の踏破者! 聞いたことないの!?」
信じられない、という顔をして立ち上がるオルレア。
「えすランク……は? えぇ?! はぁっ?! チャールズさんがぁっ!?」
俺も思わず立ち上がって、オルレアを見た。偽者説……いや、ないな。あの人がそんなアホなことするわけがない。え? じゃあ、本物? 探索者なんてなるもんじゃないって、さんざん言ってたのは、経験則から? でも、Sランク……いや、Sランクだからこそか?
「ここ、何年かちっとも噂を聞かなくなったから、死亡説とか流れてたんだけど……。生きてたってことが分かっただけでもすごいのに、うちの常連さんだったなんて……」
はわわわわ~っと、オルレアはうっとり顔。さっきまでの悲惨さは、どこへ行った? いや、いいんだけど。今のほうが絶対にいいんだけど。おいおい、って思う俺もいる。
「え~っと……マートルさんの呼び出しは、チャールズさんに任せるとして──。オリー、店の片付けしようよ。大工さんに修理の依頼もしなくちゃだし」
なんかもう情報過多でついていけないけど、最優先事項は、店の片付けと修理だろう。
退職の件は、マートルさんが帰って来るまで保留になるだろうし。俺の店への勧誘は、タイミングを見計らって、だな。急いては事を仕損じるって言うしな。ここは慎重にいかねば。
「あぁ、そうだね。修理も依頼しなきゃ」
「それと、厨房の片付けと取引先への挨拶も」
動く気力が戻ったなら、さっさと動かないと。やることはいっぱいある。
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