自殺志願者と生存志願者

きよ

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運命の日①

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*      *       *
11月12日

「うっ、ううまってくれ春野いなくならないでくれ」

ばっ、と布団をはじき飛ばして目を覚ました。

「はぁどうかしてるなであって1日たってないような人のことが夢に出てくるなんて。」

立ち上がり部屋の電気をつけた。時計は午前5時を指していた。机の上に昨日推敲してそのままにしておいた遺書が置かれていた。部屋をかるくみわたした。綺麗になったなあ。もう自殺の準備は大方済んでいる。あとは彼女がし...

「ん?なんだあれは」

タンスの後ろから何かが伸びていた。近ずいて見るとすぐに何かということはわかった。

「ああ、こんな所にあったのか。間接的にいえばこれが僕に自殺の道を教えてくれるきっかけになったのかな。」

タンスの後ろから伸びていたものを手に取りぼそっとつぶやいた。

「一ヶ月半くらい前になるのかな」


*        *        *
9月27日

「ただいま」

「おう、ちょうどいい時に帰ってきたな」

にっひっひと白い歯を見せて笑う。この人は僕のおじいちゃんの雪下元気だ。

「どうしたのおじいちゃん?」

「ちょうどヴァイオリンの教室に行くところだったんだ、お前もこい」

おじいちゃんは割と名のあるヴァイオリニストだったらしい。半ば無理やり車に乗せられヴァイオリンの教室に連れられていった。僕はヴァイオリンがひけないのにおじいちゃんはいつも僕をヴァイオリンの教室に連れていった。でも、ヴァイオリン教室が苦だったかと言えばそうでもない。むしろ家に帰ってからの暇を紛らわすのにはちょうど良かった。数時間のヴァイオリン教室が終わった。おじいちゃんの車に乗り込み家へと向かった。

「寿紀、お前ヴァイオリンは嫌いか?」

おじいちゃんがヴァイオリン自体について話をするのは珍しかった

「嫌いじゃないよ。聞く分には」

「ひくぶんにはどうだ?」

僕は少し考え込んだ。そして口を開いた

「まあ、ひいたことないけどあんまり好きじゃないかな、なんか楽器が音を出す手伝いをしている感じがして、あんまり楽しそうに感じない。ヴァイオリン教室に通っている人たちも必死にヴァイオリンから音が出るようにヴァイオリンにあわせてひいてるみたいだし。」

僕は真面目なことを言ったつもりだった。だがおじいちゃんはわっはっはと僕の言ったことを笑い飛ばした。

「楽器が音を出す手伝いってあんまり馬鹿なことは言うもんじゃねえぞ。」

真正面からの否定で少しムッときた

「なにか間違ったこと言った?音を出すのはあくまで楽器じゃん」 

「音を出すのがヴァイオリンだったらヴァイオリニストが有名にはならないだろう。」

ただただ正論だった。

「ヴァイオリンはなあ、人がひくんだよ、それも身体で引くんじゃねえ、心や経験全てを使ってヴァイオリンをひくんだ。ヴァイオリン教室の奴らはみんな自分の全てをヴァイオリンを使い表現しようとしている。いい音がだせるやつってのはヴァイオリンに対して能動に働きかけれる奴のことだ。一番ダメなやつはヴァイオリンにひかされてる奴だ、受動でやる奴は絶対にいい音がでない。まあこれはヴァイオリンに限ったことじゃねえ、受動的になるのは何事においてもあんま良くねえことなんだ。成功は常に能動にあるんだ。」 

とてもとても熱く語っていた。
珍しかったおじいちゃんがこんなに語りかけてくるなんて。そして僕にはこの言葉がとても痛かった。



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