支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

夜刀神さつき

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イリス山

残された少年

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「どりゃああああああああああああ!!!!」

 反射的に頭をエリュシオンのおでこにぶつけた。
 ゴツンと派手な男が響き渡る。

「あぐううううううう……」
 
 うううう。超絶痛い。
 頭が割れるみたいだ。
 こいつは、石頭だ……。

 気絶したエリュシオンは、どさりと地面に倒れ込んだ。

 こいつのこと、性欲とか皆無じゃないかとか勘違いしていたぜ。ふうう。危ないところだった。

 ほっと胸をなでおろしながらも、何故か服に張り付いた残り香と温もりが消えていくことをやけに寂しく感じてしまった。



 気を失ったエリュシオンは、しばらく目を覚まさなかった。その間、馬車から使えそうなものを盗むことにした。もちろん盗みは悪いことだが、生きていくためには仕方がない。

 食べ物や、服を一か所に集めていく。ディナヴィアは寒いからコートとかも必要かもしれない。そういえば、先ほどの少女が使っていた宝刀も使えそうだ。

 あんな風にスパッと大地が切れたら気持ちいいだろう。僕もやってみよう。
 落ちていた宝刀をしっかりと握りしめる。

「ていっ」

 かっこつけて勢いよく宝刀を振るう。

 しかし、何も起こらない……。

 あれ?何かの間違いかな。そんなはずはない。
 風が僕を嘲笑うように強く吹いている……。

「おりゃあっ」

 もう一回振ってみる。
 しかし、何も起こらない。
 これじゃあ、ただ素振りしただけだ……。

「おかしいな……」 

 そういえば、少女は血を一滴、刀に吸わせていた気がする。僕もそうするべきなのか。左の小指を少しだけ傷つけるが、刀は青く光ったりはしない。

「とうっ」

 剣を振るが、何も起こらない……。
 傷ついた小指がちょっと痛い……。

 やけくそになって素振りをし続ける。汗が流れてきたが、何も起こらない……。

「ひっく……。ぐすん……」

 不意に子供のすすり泣く声がして、動きを止めた。

「ひっく、ひっく……」

 誰か生き残りでもいるのか。
 泣き声は、どうやら馬車の方からするみたいだ。急いで馬車に入るが、誰もいない。だけど、座席の方から泣き声がする。
 座席を持ち上げてみると、5歳くらいの小さな子供が泣きながら丸くなっているのが見えた。
 そこにいたのは、はちみつ色髪に緑の目をしたマッシュルームカットの少年だったみたいだ。少年は、つぶらな瞳で僕を見てきた。

「……ぼくをころすの?」

「いいや、殺さない」

「ぼくのお母さんとお父さんは?」

「……遠くに行ったよ」

「わかっている。死んだんでしょう」

 少年は、全てを悟って唇をギュッと嚙んだ。

「……」

「ぼくも、もう嫌だ。死にたい。お母さんのところにいきたい」

 昔、エリュシオンもこんな目をしていた。彼も生きる希望がわからず、自分の死ぬ瞬間を冷たい牢獄で待っていた。光のない絶望で満ちた瞳だった。

 こいつは、あの時のエリュシオンに似ている。

「もうお父様もお母様も死んでしまった。自分だけ生きている意味がわからない」

 美しいエメラルドグリーンの瞳からは、洪水したみたいに大粒の涙があふれてくる。
 僕は、慰めるように少年の頭に手を乗せて撫でた。

「いいか。生きていれば……美味しいものが食べられる。悲しいことや、辛いこともたくさんあるかもしれない。楽しいことも、うれしいこともいっぱいある。そんなに早く死んでしまったら、時間がもったいない。君は特別に美しい。すごく恵まれている。いつか好きな人が出来た時、きっと愛されるだろう」

「うわあああああああああ……」

 少年は、耐え切れなくなったように僕にしがみついてきた。それを、優しく受け止め抱きしめる。そして、頭を優しく撫でる。ああ。あの時、エリュシオンやナサニエルにもこんな風にしてやれればよかっただろうか。 

「貴方がそんなことを言うなんて驚きました」

 不意に背後から、エリュシオンにそう話しかけられた。

「……起きたのか?何か覚えているか」

 頼むから全部、忘れていてくれ。

「いえ……。ただ幸せな夢を見ました。彼がダクリを追い求めた気持ちも理解できます」

 先ほどまで泣いていたせいか、彼の目は、少し赤かった。

「そうか」

「それよりその子は生き残りですか」

「ああ」

「そんな子供をどうするつもりですか。切り刻んで餌にして獣をおびき寄せるつもりですか」

 お前のその発想が怖ええええよ。少年は、青ざめた顔で震えだした。

「保護するに決まっているだろう。こんな森で一人なんてかわいそうじゃないか」

「……貴方に誰かをかわいそうと思う感情があることに驚きました」

 ハデス……。お前、一体、何をしでかしたんだよ。お前だって人間だったんじゃないのか。

 怯えたように更にしがみついてきた少年を守るように、強く抱きしめた。
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