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冷たい牢獄
ソリトの一日
しおりを挟む目が覚めるといつも通りファルセイダーが話しかけてくる。
『おはよう、ソルト!!』
朝は、いつもソリトの陽気な声で目が覚める。
ファルセイダーの存在は、広く冷たい牢屋を明るくしてくれる。藁を敷き詰めただけの寝床も、ファルがいれば素敵な場所に思えた。
「おはよう、ファル。今日も朝から元気だね」
ファルセイダー・キノスは、ソリトと同い年の少年で、お日様みたいなくりんとした亜麻色の髪の毛に、好奇心旺盛なエメラルドグリーンの瞳をしている。
いろんなところを旅してきて、寝る前に物語を聞かせてくれる。
明るく陽気な性格をしていて、二人の少女の魂が入れ替わった話や、恋人を奪われて自殺した男の話、美少年が誘拐される話……そんな話を面白おかしく語ってくれる。
『ソリトは、今日はどんな話が聞きたい?昨日の夜寝る前に語ったカリロスの話なんかどう?』
「うん。聞かせて」
『どこまで話したっけ?』
「古代竜カタストロが、カリロスから欲しいものを聞かれて“イヴ・クルージン”と答えたところまでだよ」
ファルセイダーが、おもしろいところで止めるから続きが気になって仕方がなかった。
『ああ、そうだった。イヴ・クルージンはロタンのお姫様だった。通常だったら、一生、王族として優雅な暮らしが保証されていたはずだった。世界のために死ぬなんて、受け入れがたいことだった』
「そうだろうな。周囲の人間は彼女を監禁して自由を奪ったのか」
『イヴは、自分の人生を満喫することばかり考えていた。カリロスのことも門前払いして、顔を見ようとさえしなかった。だけど、彼女にはシルヴィエストとの子供アドリアが生まれて考えが変わった。人間と魔族との戦いを終わらせて、世界を平和にするために死を選んだ。子供のために、平和な世界をプレゼントしようと思ったんだ』
「それで……」
『ああ。カリロスは、イヴの親族から責められた。彼は、心労によるストレスのためか早死にした……』
カリロス・オルトロス。歴史を学んだものなら、全員が知っている有名な人物である。魔族との戦争に勝利して人間が中心となる世界を作り上げたが、彼が犠牲にしたものも多かった。
誰かが階段を上ってくる音がする。そして、覆面を被っている人間は、僕のいる牢屋の前に到達すると、カレーみたいなスープと、パン、水を鉄格子の向こう側に置いた。そして、任務は、終了したと言わんばかりに、その人は足早に帰りだした。
「待ってくれ!!聞きたいことがあるんだ」
そう必死に話しかけるが、いつもみたいに止まってくれない。
すぐにその人の背中は見えなくなり、靴音すらも聞こえなくなった。
『今日も、あいつ、ソリトのことを無視したの?』
「……うん」
『今日はカレーなの?いい匂いだね』
「……うん」
『大丈夫。俺がいるから』
そう言って、ファルセイダーが僕を慰めるように手を伸ばしたが、その手が僕に触れることはなかった。
だって、ファルセイダー・キノスなんて実在しないから。
ファルセイダーは、孤独な僕が作り上げた幻想だ。
カリロス・オルトロスの物語も、昔、読んだ小説の内容だ。
わかっている。ファルセイダーなんてどこにもいない。
彼に関する全ては、僕の心が見せた幻影だ。
もう幽閉されて5年以上経過した。
あまりにも孤独すぎる。
死にたい。
いつまで呼吸は続いていくのだろう。
いっそのこと自殺しようかと何度も思った。だけど、どうせ生きたなら誰かの心に何かを残したい。孤独死なんてしたら、自分が何のために生まれたのか、わからなくなる気がした。
「嫌われても、疎まれても、死んでしまえなんて思われたって構わない。このまま死にたくない。僕を一人にしないで……。一人にするくらいなら、殺して……」
広い牢屋でうずくまったまま、少年は誰かに殺されることを願い続けた。
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