支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

夜刀神さつき

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ユリアとアイゼア

裏切りの騎士

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「痛たたたたっ」

「大丈夫ですか」

 コロシアムから森に移動したアイゼアは、周囲を確認した後、抱っこしていたユリアを石の上にもそっと下した。ユリアの右足には傷ができている。

「あと、もう少しで馬車に到着します。少しだけ休んでから行きましょう。あと、それから……これをあなたにあげます」

 アイゼアが差し出した赤いルビーのような魔石が埋め込まれている短剣……宝刀紅華を見てユリアは目を丸くした。

「あなたが奪ってきちゃったの!?」

「どうせ持ち主であったミゲルも死んだので、問題ありません」

「エリュシオンが優勝していたけどね……。まあ、ありがとう」

「どういたしまして」

「エリュシオンといえば、あなたの義理の兄弟じゃない。過去に何があったの?」

「……みんなが知っている通りです。父親が死んで、俺は、シオン家の養子になった。そこで、実の息子以上にかわいがられていた……それだけです」

「……」

「そう。師匠はとても優しく俺が何かを習得するたびに褒めていました。エリュシオンのことは、空気みたいに扱い、夜になると彼に暴力を奮っていました」

「あんなにかっこいいのに」

「あの家は……歪んでいた。俺も居心地が悪かった」

 シオン・リジルに優しくされればされるほど、自分が侵した罪の重さに耐えきれずに死んでしまいたくなった。『君の父さんには世話になった』『アイザックの子供である君のことを実の息子のように思っている』なんて言われるたびに、消えてしまいたくなった。

「それだけ?」

「……はい」

「そう。あなた、私に隠していることがあるんじゃない?」

「どうして?」

「だって、アイゼアはとっても苦しそうだから」

 ああ。そうだ。
 ずっと胸を真っ黒に塗りつぶされたように苦しかった。裏切り者の烙印を押される前から、呼吸すらできなくなりそうだった。

 アイゼアは、ふとどうしようもない感情に襲われた。

「俺……父親を殺したんです」

 8歳の頃だった。父親から、誕生日プレゼントにもらっていた子供用の剣で父親を刺して殺した。そして、父さんは、何者かに殺されていたなんて、しゃあしゃあと噓をついたのだ。誰も俺を疑うことなく、被害者として精一杯甘やかそうとした。

「あらそうなの?あなたが羨ましいわ。あたしも、あんな奴、殺せばよかった……」

 ユリアは、天気の話題でもするように軽々しくそう言ってのけた。

「薬で幻覚を見ていた父さんに殺されそうになったから、殺しました」

「あら、あなたのしたことは正当防衛じゃない」

「そして、父親の親友だった男の家に住んで息子のように大事にされていたんです。父さんの息子なら俺の息子であるのも同然だと……」

「……どうしてそんなことあたしに話すの?」

「あなたに聞いてほしかったんです。俺がどんなにひどい人間かを……」

 ずっと俺のことを過剰評価してくる人達が気持ち悪くてたまらなかった。いっそのことばらそうかと思った。だけど、ばらしたら、手にしたものが泡みたいに消えてなくなることがわかっていたから、黙って利益だけを貪り続けた。

「そして、あたしに許されたかったのね」

「え?」

 時が止まってしまったかのような感覚になる。どういう意味でユリアがそんなことを言ったのか、わからない。

「いいわ。免罪符をあげる。あなたの罪はあたしを守ったことで帳消しよ」

 自分なんて生まれてこなければよかった。
 何度もそう思った。
 罰が欲しかった。
 責められ、なじられたかった。
 誰かから、傷つけられたかった。
 それで、自分の罪が少しでも軽くなればいいと卑怯なことを考えていた。

 ああ。
 だけど、本当は許されたかったんだ。
 たった一人の人間に許されたかった。自分ですら許せなくなった自分を認めてほしかった。ただ受け止めてほしかった。

 この神様みたいな少女を失いたくない。だけど、終わりの瞬間が来ることを知っている。
 不意に自分の目から、涙が流れた。それを誤魔化すためだったかわからない。
 気がついたら、衝動的にユリアを背後から抱きしめていた。

「アイ、ゼア……」

 戸惑ったような声が聞こえてくるが、今だけはユリアを手放したくない。
 永遠の自分の腕に閉じ込めてしまいたい。

「あなたが好きです」

「アイゼア、あたしは……」

「どうしようもなく好きです」

「……」

「俺と一緒に逃げてくれませんか」

「……。あたしに、ルキフェルを裏切れって言っているの?」

「安心してください。俺は、ユリア様のために何でもします。あなたをどんなものからも守って見せます。あなたを失いたくないんです」

 嗚咽じみた声ですがるように、そう伝える。
 ずっと剣が羨ましかった。感情なんてない剣であれたら、どれほど幸せだろうかと思っていた。だけど、ユリアに出会ってから、初めて感情があってよかったと思えた。

「アイゼア……。あたしね、幼い頃は、陳腐な夢を見ていたの。あたしは、恋愛ドラマの主人公で、ある日、完璧な王子様が現れて私を幸せにしてくれる夢を。バカみたいで、陳腐な夢を……」

「そんな夢ならいくらでも見せます。覚めることのない夢を」

「……アイゼアの手を取れたらどんなに幸せだろうかと思ってしまう。これからたくさん美味しい物を食べて、美しいところに言って、楽しいことをして、笑っていきていける。そんな明るい未来が想像できるの。女の子が描く幸せってものが、全て手に入るのよ」

「……」

「だけど、あたしは、きっとルキフェルのことを考えてしまう。ルキフェルといたら、どんな未来があっただろうかと想像してしまう。本当にこれでよかったのかと問い続けることになる」

「時が経てば、そんな感情もなくなります」

 そう催眠術でもかけるように甘く囁いて抱きしめる手に力を込めたけれども、ユリアから抱きしめ返されることはなかった。

「あたし……自分のことは自分が一番わかっているの。自分のどうしようもないところも、自分が一番欲しいものも、自分がどんなにバカかも自分で一番よくわかってしまうのよ」

「何で……」

 我慢できなくなって、声がかすれてしまう。

「あなたと一緒にはいけないわ」

「どうしてですか……。俺は……あなたを幸せにしたいのに……。俺は、あなただけでいいのに……」

 世界に何億人の人間がいようと自分にはユリアさえいればいい。どれだけ多くの人間に嫌われたって構わない。ユリアさえ俺の傍にいてくれたら何もいらない。

 だけど、ユリアがいなくなったら、この世界はただの砂の塊になってしまう。主を失った剣は、錆ついて使い物にならなくなって最後の時を待つだけになるだろう。

 このままだとユリアは、死んでしまう。
 彼女は、ルキフェルが愛した女を生まれ変わらせるために生贄になろうとしている。

 言葉にならない嗚咽が響き渡った。
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