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ファントムアイランド
契約
しおりを挟む竜が軽く息を吐くと、炎が生まれて残りの数少ない魔族も辺りに散って消えていった。
『私に何の用だ』
「お前の力を貸してほしい」
『もしかして、私の言葉がわかるのか』
「ああ。俺の名前は、ベリアル・カラドボルグ。お前と契約したい」
『残念ながら、私は契約に縛られているんだ』
「どんな契約だ?」
『昔、カリロスと契約して、カリロスに協力する代わりに高潔しか食べないと約束した。けれども、レイカー村が所有していた高潔が脱走したのだ。おかげで、しばらく人間を食べれていない』
「わかった。だったら、新しい契約をしよう。ネプトが女王になったら、俺の命をあんたにやる。だから、俺に仕えてくれ」
『お前の命だけか』
「ああ。長いこと人間を食べていないんだろう。だったら、悪い選択肢じゃないはずだ」
『そうだな。それで契約しよう。私は、お前に力を貸す。その代わりにお前を食べる』
「わかった」
『ああ……。だけど、高潔の味が実に恋しい。ラウェルナとかいう極上の少女がいたのに、とある少年が逃がしたのだ。確かヴァルなんとかとか言ったな……』
「だから、あんたは、レイカー村を滅ぼしたのか」
竜に滅ぼされた村の話は、ネプトから聞いたことがある。
『ああ。少年の悲痛な泣き声は見ものだった。忘れるな。私を裏切った時は、お前に関する全てのものを滅ぼしてやる』
「あんた最低だな」
『ふん。人間の命なんて、私のとっては虫けらみたいなものだ。お前が虫を殺すように、私も人間を殺す』
「大変よ。再び魔物の大群がやってくるわ。おそらく今度は、高魔族も来るわ」
ネプトは、慌てた様子でやってきた。
「高魔族?」
「人間の姿をした高い魔力を持つ魔族よ」
「どうする?早くしないと」
パニックに陥りかけた二人がやってきた。
「仲間なんだ。一緒に助けてくれ」
『お前もカリロスと同じで、竜使いが荒いな。まあ、いい。乗れ』
「乗れだって」
そう言って、ベリアルがそっと鱗を傷つけないように乗り込むと、バルドルとネプトも後に続こうとしてきた。
運動神経のいいバルドルは、あっさりとベリアルの後ろについたが、身長の低いネプトは上手く登れず、ずるりと滑った。スノーとロキは、ぴょんぴょんと飛んで難なくバルドルと俺の間に入り込んだ。
「す、滑るわ」
「つかまれ!」
角らしきものを右手で掴み、左手を最大限に伸ばして、ネプトの手をしっかりと掴む。
次の瞬間、カタストロは浮き上がりだした。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
足場の安定しないネプトを死ぬ気で引っ張りあげて、自分の前に座らせた。カタストロは、グングンと上昇して、あっという間に空を猛スピードで駆け抜けた。
下方では、魔物の大群の悔しそうな鳴き声が聞こえてくる。
「うわあああああああああああ!!!!」
「きゃあああああああああああああ!!!」
「まじかよ……。俺たち……。空を飛んでいるのか……」
いつもは、冷静なバルドルも間抜けな顔をしている。
「すごい……。すごいわ……」
あまりの絶景に言葉をなくして、必死でつかまりながら下を見つめる。
悔しそうにする魔物達に、カタストロは勝ち誇ったように炎を吹いた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ」
「きゅいいイイイイイイイイイイイイ!!!」
「きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
数十匹の魔物が、地獄の業火みたいに強力な炎で包まれて燃え上がる。風に運ばれて焦げ臭い匂いが漂ってきた。
『さあ、行くぞ。しっかりつかまれ』
そうカタストロは声をかけた後に、加速していった。
ファントム・アイランドからどんどん遠ざかり、分厚い雲をくぐり抜けると、青い空と海が視界で埋め尽くされた。霧はすっかりと晴れて、ダイヤモンドを散りばめたような海がキラキラと光り輝いている。
カタストロは遊び心を発揮するみたいに高度を落として、海のすれすれを飛び出した。
「うわあっ!」
「きゃああああっ!!」
羽に当たった水しぶきが顔に飛んできて気持ちいい。
すぐ近くに3匹のカモメも一緒に空を飛んでいる様子が見える。
風に撫でられるといよりも、殴られるような強風だ。だけど、海風によって髪なびいて、気持ちいい。俺の前に座るネプトは、ショートカットだから、すごい髪型になっていた。
「ネプト。お前凄い髪型になっているな」
「おかっぱ頭なんだから仕方ないでしょう」
「おい、お前。姫様を侮辱するな」
「侮辱しているわけじゃない。面白すぎて、からかいたくなっただけだ」
「失礼ね!!」
「そうだ!そうだ!」
「そんなに怒るなよ」
こんなに遠くにいると、これまでの世界がちっぽけに思えた。
『これからどうするつもりだ?』
「ドラゴンのカタストロがこれからどうするかだって」
「アームよ。そこで、私たちは奴隷を開放して救世主になる。そして、海を渡りルジアを攻める」
『それなら、積乱雲という剣を手に入れた方がいい。カリロスの墓に眠っている』
「カリロスの墓はどこにあるのか知っているのか?」
『ああ。私しか知らない場所だ。彼の生まれ故郷アームにある』
「その剣は何なんだ?」
『お前と同じ稲妻使いであるカリロスが使用した剣だ。それがあれば、雷の魔力が増幅する』
「だったら、手に入れないとな」
『じゃあ、まずそこへ向かう』
カタストロは、南へと猛スピードで風を切るように駆け抜けていく。バルドルとネプトにも、今の会話を簡単に説明もした。
「……大丈夫かしら。うまくいくかしら」
ファントム・アイランドでひどい目にあったせいか、ネプトはすっかり弱気になっていた。
「あんたの計画は無茶苦茶だが、俺がいるから大丈夫だろう」
「姫様の計画は素晴らしいだろうが!!」
「あーはいはい。完璧な計画です」
「……ねぇ、ベリアル。この旅が終わったらあなたに言いたいことがあるのよ」
「悪い話か?」
「たぶんいい話よ。きっとあなたは驚くかもしれない。だけど、どうしても聞いてほしいの」
「わかった。楽しみにしている」
ネプトは、何を言おうとしているのだろうか。すごく気になる。知りたくてたまらない。だけど、この旅が終わった時の楽しみにとっておくのも悪くないだろう。
きっと、旅の終わりでは3人で笑えているに違いない。
未来を想像すると、まるで朝日を浴びたての世界みたいに輝いている気がした。
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