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アーム
正体
しおりを挟む植民地アームについたら、きっと全てがうまくいく。奴隷を解放すれば救世主になれる。そんな風に想像していたが、ベリアルは失敗していた。
積乱雲を手に入れた俺たちは、アームにある8つの『ツリー』と呼ばれるルジアからの監視係のいる司令塔をあっさりと手にすることはできたが、ルキフェルの怒りをかうことを恐れた奴隷たちから責め立てられていた。
俺たちは、ツリーの中に立てこもったが、外からは群衆が罵る声が聞こえる。
「ルキフェルに殺されたらどうするんだ?」
「俺たちは、奴隷のままでよかったんだ」
「出ていけ!!」
そんな奴隷どもの声が響き渡る。
くそっ。腹立ちまぎれに、その編にあった椅子を蹴飛ばした。だけど、全然、スッキリとしない。
「この状況、どうするんだ」
「こんなつもりじゃなかったわ……。全部、私のエゴだった。奴隷解放してあげたら、私に感謝するなんて、バカだったわ」
「じゃあ、逃げるか」
ネプトとバルドルと逃げることならできるだろう。だけど、どこに逃げたらいい?
「……なさい。ごめんなさい」
ネプトは、顔を覆ってその場にうずくまって、呪文のようにそればかり唱え続けた。
「あんただけのせいじゃないだろう」
「……違うの。そうじゃないの。私……ネプトじゃないの」
すすり泣きながら、彼女は変なことを言い出した。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味なの。私は、ネプト・オルトロスじゃないの」
「お前も知っていたのかよ!!」
「ああ……」
バルドルは目を背けながらも、そう返事をした。
「ふざけるな!」
バルドルの胸倉をつかみ上げ、今にも殴りたい気持ちを我慢しながら怒鳴りつける。
「俺をだましてからかっていたのかよ!!何も知らない奴隷をからかって遊んでいたのかよ!!!俺をあざ笑っていたんだろ!!」
頭に火をつけられたみたいに、怒りでカッとなる。
何が王家を取り戻すだ。ふざけるな!俺に夢を見せやがって、本当はそんな夢を見る資格がないことくらいわかっていたんだろう!!!
自分がバカにされていたことが悲しかった。
そして……二人とも知っていたことを自分だけが知らないことが悔しかった。
「バルドルは悪くないわ。全部、私のせいなの」
バルドルだけが正体を知っていたことも、ネプトがバルドルをかばっていることも気に食わない。結局、俺だけ仲間はずれだったんじゃねーか。奴隷には、本当のことなんて教える気はなかったんだな。
もう殴る気すらなくなり、全てがむなしくなってバルドルから手を放す。
「私……ネプトになりたかったの」
噓つきな少女は、降り始めた雨みたいにポツリと呟いた。
「ああ、そうかよ」
「本当の名前は、エミーリア・オルトロス。ネプトの従妹よ」
だから、従者もついていたのか。道理で育ちがいいわけだ。俺みたいな奴は、騙されて当然だ。
「小さい頃から、ネプトにいじめられていた。でも、王家の人間であるネプトの方が、権力が上だから逆らうことなんてできなかった。私は、ネプトのおもちゃだった」
……勝気で傲慢な彼女がそんな目にあっていたことが予想外だった。
「ずっとネプトになりたかった。イフリートの娘で、何をしても許される。何でも手に入る。そんなネプトに嫉妬をしていたの。でも、血の革命事件で、ネプトもネプトを知っていたものも死んだわ。私も、殺されそうになったけれど、侍女に化けて逃げたの」
淡々としながら、話し続ける。彼女の声は、スッと耳に入っていく。
「知り合いを頼って、両親の仇を打とうとしたわ。ルキフェルを倒してもっといい世界を作りたかった。だけど、ただのエミーリアじゃ誰もついてきてくれなかった。だから、思ったの。ネプトになれば、みんなついてきれくれるんじゃないかって。そうすれば、正当な後継者として認めて助けてくれる人も現れる。ただのエミーリアでいるよりもチャンスはあるはずだって……。どうせネプトを知っている人は死んだから、ばれないはずだ」
淡々とした声に感情がこもり、揺れ始める。震える彼女の声を聞くとたまらなく……かわいそうになった。
「ただのエミーリアじゃ、誰もついてこない。正統な後継者になれば、支援してくれる人も現れると思ったの。こんなことになると思っていなかった。ネプトだったら、みんなついてきてくれると思っていた。ごめんなさい……。ごめんなさい……」
エミーリアは、下を向いて顔を隠した。バルドルは、そんなネプトを慰めるように頭を撫でた。
「泣いてないで何とかあがけよ。あんた……俺にあんなに啖呵きっといて、肝心なところで逃げる気かよ」
ハッとしたように彼女は顔を上げる。
「人生は一度きりなんだろう。やりたいことをやりきれよ」
そうだ。これは、あんたが俺に言ったセリフだ。あんたが俺を変えてしまったんだ。
「あんたはあんただ。噓つきのあんたも、夢を語るあんたも、両方あんただ。名前が変わったって、本質なんて何も変わらないんだ。ネプトになったのなら、最後までなりきれ。夢を語るなら、最後まで語り続けてくれ」
エミーリアの涙が止まった。
そして、これ以上泣かないようにこらえるように唇をギュッと結んだ。彼女の水色の瞳には、闘志の炎がきらめいた気がした。
「……私、行かないと。まだ、終わってなんかいない。ここが始まったばかりだわ」
彼女はゆっくりと立ち上がった。彼女は、俺が初めて出会った時と同じオーラが流れている気がした。
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