支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

夜刀神さつき

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アーム

演説

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「くそ女だ!!」

 ネプトが顔を出した途端に水を得た魚のように、群衆が叫んだ。

「どうしてくれる!!」

「お前のせいで反逆者として処刑されたら、どうすればいいんだ!」

「ルキフェルが俺たちを皆殺しにしにくるはずだ」

 彼らにとって、俺たちは、救世主ではなかった。人々はルキフェルに怯え、俺たちのせいで罰せられると怯えている。

「俺たちは別に奴隷のままでもよかったんだ。それで仕方なかったんだよ」

「お前らを殺してやる!!!そして、責任を取らさせてやる!!!!」

「そうだ!!お前らを殺せば、俺たちは無事で済むんだ!!!」

 こんなところにネプトを一人で行かせたくない。だけど、ネプトは小さく笑って、俺の頭を安心させるようにポンと叩いた後に、ハイヒールの音をカツ、カツ、カツと響かせながら、群衆の前に歩いて行った。

 ネプトが現れた途端に、ブーイングはますます激しくなる。このまま彼女を射殺す人間も現れるかもしれない。だけど、ネプトはブーイングなんて気にせず、女優のように優雅に微笑んだ。


「本当にそれでいいのかしら」


 凛とした声が響き渡る。
 ざわざわとしたざわめきが小さくなっていく。まるで、嵐前の静けさみたいに彼女がなんて話すのか人々は待っているのだろう。

「この世界は不自由です」

 彼女がそう告げた途端、辺りは水を打ったように静まり返った。
 それは、ここにいる誰もが感じていたことだったからだろう。
 そんなことわかっている。だけど、必死で目を背けようとしていた。

「横柄な王が世界を支配しています。私たちには、思想の自由がありません。自由に生きていく権利がありません。権力者は、自分たちの支配が続くように私たちの自由を縛る法律を作りました。奴隷は奴隷のまま生きていくように、王を批判する人間を投獄するために……」

 小さなすすり泣きの声が聞こえる。誰かが嫌なことでも、思い出してしまったのだろう。

「スポーツの祭典では、ドーピングや不正ばかり繰り返されます。けれども、権力のある人間は一部の人達を特例として許しています。人々がどんなに不満に思っても、その残念な結果を変えられません。真面目に努力した人間が損をしています」

 彼女は、自分の怒りを落ち着けるようにそっと胸に手を当てて、深呼吸をしてから続けた。

「かつて、アームは独立国家でした。けれども、今では、イテミスに支配されて植民地と化しています。誇りを奪われ、文化を奪われ、言語を奪われ、お金を奪われ、愛する人達を奪われてきました。そして、罰を受けることを恐れて戦う声すらあげなくなりました」

 誰かがすすり泣く声がした。それに誰かの嗚咽も混ざっていく。

「力のない国は世界から見捨てられ、力のある国に吸収され奪われつくしました。どんなに自由と権利を訴えても聞き入れてもらえず、誰に助けを求めても助けてもらえず民衆は無駄死にしていきました。守られている人間は、そうではない人間を見て見ぬふりをしてきました。権力者は自分を守るために、次々と横柄な法律を作りました。それは、強いものを守り、力のないものから様々な権利を奪いました」

 ……ああ。そうだ。俺は奪われ続けただけだった。

「私は、歪んだ人間です。だから、歪んだものが好きです。そんなものが大好きです。けれども、国家維持法により、様々な小説や人間が迫害されました。スリルや過激な小説を排除、ノーマル以外の恋愛の迫害、変化を望む声をあげるものへの罰……。人々は、罰を恐れて世界を変えようと声をあげなくなりました。ありきたりで、つまらないものしか生み出そうとしなくなりました」

 人々は必死で彼女の話に聞き入る。

「人間の想像を妨げたり、自由を奪ったりするなんてバカげた法律です。そんな世界を認めてはいけません。私たちには、想像する権利があります。美しい理想を追い求める自由があります。自由を求めて声を上げる権利があります。だけど、それを今、奪われています。諦めて夢を描くことすらできなくなった人たちも大勢いるでしょう」

 言われたことをやって、できなければ殴られる。鞭で叩かれる。使い物にならなければ殺される。何のために生きているのかわからない。きっと、みんな同じだろう。

 生きたいように生きられず、生み出したいものを生み出せないのなら、人生に何の意味があるのだろうか。そんな簡単なことですら、彼女に出会ってから初めて生まれた疑問だった。

「私はこんな世界が嫌いです。だから、みんなと一緒に壊して新しい世界を作りたいです。人生は一度きりです。一生奴隷として働いても、大きな夢を叶えても、同じように時間は過ぎてしまいます。どんな人生が幸せだなんて断言はできないけれども、私は、一度きりなら夢をかなえて死にたいです。みんなの協力がないと達成できない大きな夢です」

 彼女の周りに光が差し込んだように、輝いて見える。
 ああ、何て大きな夢だろうか。
 そんな夢のために、俺は、死にたい。

「どうか力を貸してください」

 少女がお辞儀をした。
 すると、パチパチとした小さな花束のような拍手が起こった。拍手は、地震の余震のように少しずつ広がり、世界が割れそうになるくらい大きなものになった。
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