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終着点
その頃……
しおりを挟むジキルと別れたエリュシオンは、行く当てもなく無気力に路地裏で座り込んでいた。
ジキルは、今頃俺のことを考えているだろうか。どうかな。忘れているかもしれない。
ジキルが俺のことを考えてくれればいいのに……。俺がジキルのことを考える10分の1でも俺のことを考えてくれればいい。俺のことを考えすぎて気が狂って泣き出す彼を見てみたい。
一体誰がハデスに魔術をかけたのだろうか。
いっそのこと、魔術師を全員殺してしまおうか。
「お兄さん、お金ある?」
不意に目つきの悪い男に声をかけられた。
「あんた色男だね。人生って不公平だね。お金くらい奪わないとやっていられねーな」
「有り金全部よこしな。ついでにその剣も」
自分の周りを5人くらいの男たちで囲まれる。男達は、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら近づいてくる。
こっちは、機嫌が悪いんだよ。いっそ全員、切り刻んでしまおうか。
そう思って、剣に手を伸ばした時、突風が吹き抜け、男たちがあっという間に倒れていった。
「ぐはあ」
「ああ」
「ぎゃああああああ」
「きええええええ」
彼らは痛みをこらえるようにその場にうずくまっている。一人の灰色のロープを着ている男がゆっくりと剣をしまって、こちらを振り返った。白髪に灰色の目をした老人で、年齢は高そうだが、背筋はピンと伸びている。
「お前さん、だいじょ……」
白髪に灰色の目をした老人が凍りついたように動かなくなる。彼は、幽霊でも見るように怯えたように俺を見ていた。
誰だ?どうしてそんな目で俺を見ている?記憶を必死に探るが、彼が誰だかわからない。
何故か彼は、不意に涙を流した。
何なんだ?こいつ……。
驚いていると、彼は、更に涙を溢れさせ、ついには嗚咽まで始めてしまった。
「……っ……。ひっく……。ぁあ……。こんなところで会うとは……」
「お前は誰だ?」
「わしは……ヨーラン・ベルク……。お前の父親の師匠であった。お前は……シオンに生き写しだな」
「……父さんから俺について何か聞いているか」
「もちろんだ。だけど、彼は、多くは語らなかった」
「……」
彼は、父さんが俺を嫌っていたことを知らないのか。真実を知ったら、俺に向かってこんな態度は取らないだろう。
「ついてこい。お前に父親の話をもっとしよう。温かいご飯も用意する」
* *
ヨーラン・ベルクと名乗った男は、ロタンの街外れにある山のふもとに住んでいた。
「お前は彼女の一人や二人くらいいないのか」
「……いません」
「その年でもったいない。わしがお前くらいの年の頃には、女の3人くらい調教して性奴隷にして飼っていたものだ」
……何やっているんだ、このくそじじいが。
「お前ももてるだろう。女の子に情熱的に告白されてきたんじゃないのか」
「まあ、それなりに……」
確かに自分は容姿がいいため、多くの人間から好意を寄せられてきた。アン・プルーストなんかは、その代表的な一人でハデスの愛人のくせに、ハデスに隠れながら自分にアピールしてきた。けれども、ハデスにばれて、俺が自らの手で首を絞め殺すことを命じられて実行した。
「シオンも、若い頃はモテモテだった。お前の母親に出会ってから、女遊びもパタリとやめてしまったけれども」
「父親の話に興味ありません」
「お前が興味なくても、わしは話したい。もうあいつの知り合いに会うことも少なくなったものだから」
ヨーランは、遠い目をしながら語りだした。
「北西にあるカモールという山奥の村で、初めて彼に出会った。シオンを見た時、すぐに才能があるとわかった。だから、母親に頼んで王都に連れて行った。わしの目に間違いはなかった。あの子は誰よりも才能があった。あの子が活躍して名をあげていくことが、わしの一番の自慢だった」
「そうですか」
「けれども、彼がアイザックと共に村に帰った時に、村は魔物に襲われて彼の母親は死んでいた。それから、彼は、人が変わったように復讐に取りつかれていた。お前の母親に出会うまでは」
ヨーランは、喉が渇いたのかワインを飲んでからまた続けた。
「知っているか。あのディナヴィアの有名な噴水の前で、彼はお前の母親にプロポーズしたんだ。二人は誰もが羨むような夫婦になった。シオンは、アリシアを心から愛して家族のために遠征もしなくなり、家では料理もするようになったと聞いた」
「……」
「だけど、どういうわけか二人は別れてしまい、アリシアはいなくなってしまった。息子の話をシオンにしても、イライラされるだけになった。お前はどうしてだかわかるか」
「……さあ。もう昔の話です。考えるだけ無意味です」
父が俺を嫌っていた理由も、母が俺を捨てた理由も痛いほどわかっている。それを誰かに告げたところで、何も意味なんてない。
逃げるようにお酒を飲み欲した。どうして今でもあんな昔のことを覚えているのだろう。全てを忘れてしまいたいのに……。
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