支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

夜刀神さつき

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 キイイというきしんだ音がしながらドアが開き、それは現れた。

 濃厚な血の匂いがする。

 美しかった髪の毛も、血とホコリと灰で汚れていて、サラサラだった頃の面影もなくチリチリになっている。

「はあ、はあ、はあ……」

 荒い息遣いが聞こえる。

「ひっ」

 現れた彼のあまりの悲惨さに息を呑んだ。
 しわ一つなかった服は、ボロボロの布切れみたいになっている。
 
「王子様が助けに来ました」

 彼は、ニヤリと笑いながらそう話しかけてきた。
 これじゃあ、王子様というより醜いゾンビじゃないか。
 全然、美しくないし強そうにも見えない。小説や映画だったら、颯爽と駆けつけて余裕で敵を倒すものなのに……。

 だけど、ボロボロで今にも倒れてしまいそうなくせに、そんな彼のことが今まで一番かっこよく見えた。今までみ
たどんな物語のヒーローよりも輝いていた。

 ここに来るまでにどんな思いをしてきたか想像しただけで、心臓がギュッと押しつぶされたように痛んだ。

 どうしてお前はそんなところに立っているんだよ……。

 僕が自由にしてあげたじゃないか……。
 気がついたら、目頭が熱くなっていた。

 頬を熱い涙がつたっている。

 どういうわけか涙が止まらない。

 勝手に美しい理想だけ追い求めていればよかったのに。

 本当の僕のことなんて知らなくてよかったのに……。

 何で、こいつはこんなところまで来てしまったんだろうか。

「この人は、俺のものだ」

 凛としたテノールの美声が響き渡る。

「あははははははははははははははっはははははっははははは。これは、傑作だ。趣味が悪い男がいたものだな。これがシオンの息子か……」

「……」

「お前は本当にあの男に似ている。実に腹立たしいな。八つ裂きにして、踏みつけてやりたいくらいだ」

 バラキエルの視線は、エリュシオンにのみ向けられていた。こいつもシオン・リジルに怨念がある人物の一人なのか。

「まさかお前がこれほど強くなっているとはな……。シオンの血をひいていなければ、愛せたかもしれないな」

「結構です」

「どういう意味だ?」

 シオンの血をひいていなければ愛せた?どういう意味だ?二人は、知り合いだったのか。

「お前は知らなかったのか………。あれの母親は私の娘だ。私は、あいつの祖父だ」

 え?

 え?
 バラキエルが祖父?どういうことだ?

 エリュシオンは、魔族の血を引いていたのか……。言われてみたら、その悪魔のような強さや回復力にも納得する。こいつが、チート能力を持っていたのはそういうことだったのか……。

 エリュシオンは、罰が悪そうに眼をそらした。きっと、真実を知っていたのだろう。

「ハデス様に呪いをかけたのは、貴方ですね。どうしてハデス様に死の呪いをかけたんですか」

「お前が彼の玩具になっていることを恥だと思ったからだ。そんな風に生きるくらいなら、ハデスと一緒に死ねと思った。だが、その瞳を見て、少し気が変わった。お前だけは、生かしておいてもいい。お前の目はアリシアの目だ」

 バラキエルの瞳も同じ紫色だが、エリュシオンの瞳は少し憂いを帯びたような桃花眼になっている。おそらくアリシアも、バラキエルのようにギラギラした感じではなく、エリュシオンみたいな美しい瞳だったのだろう。

「断る。俺は、貴方を理解できない」

 エリュシオンは、いつでも攻撃できるように剣を構えた。

「お前はどうしてアリシアの息子のくせに、そっち側につく?お前の母親は、父親に殺されたようなものじゃないか!」

「……母さんだって、俺を捨てた」

「違う!あの忌々しいシオンが、アリシアを追い出しただけだ。アリシアが魔族であるというだけで、毛嫌いし、殺そうとしたんだ!」

「父を憎む気持ちはわかる。だけど、彼は死んだ。かつてお前の故郷を虐殺した連中も、死んでいるだろう」

「ああ。どうせならこの手で殺してやりたかった」

 彼の握りしめている手は怒りをこらえられないようにブルブルと震えていた。

「だから、代わりにお前を殺そう」

「やめろ!!!!!」

 ダメだ。こんな状況じゃ、エリュシオンは避けられない。
 その時、死んだと思っていたナサニエルがエリュシオンの足首を掴んだ。すると、ナサニエルの光の魔術によってみるみるうちにエリュシオンが回復していく。

「ナサニエル……」

 よかった……。彼は、まだ生きていたみたいだ。言葉にできない思いが湧き上がって、目頭がジンと熱くなる。

「お前、まだ生きていたのか。さすが光の魔術の保有者。しぶといな」

 忌々しそうにバラキエルが炎の塊をナサニエルに放つが、エリュシオンが氷の魔術によって防いだ。

「ジキルを……助けてくれ……」

 ナサニエルは、今にも死にそうなかすれた声でエリュシオンにそう告げた。

「言われなくても助ける」

「ふんっ。お前如きに私が倒せるわけないだろう。黒竜」

 激しい竜巻のような黒い渦が生まれエリュシオンに向かって進んでいく。

 しかし、エリュシオンが剣で切り付けると、その渦は衝撃によって消滅した。

「なかなかやるな。じゃあ、これはどうだ?」 

 先ほどバラキエルが使用していた紫色に光り輝く怪しい剣だ。

「かつてネロ・ディストリアが使っていた魔剣だ」

 ネロ・ディストリア!!!かつてカリロスの仲間だった伝説の剣士じゃないか!!

「これは魔力がある人間ほど効果を発揮する妖剣だ。これに私の魔力を吸わせるとどうなると思う?」

 そう言って魔力が注ぎ込まれた剣は、どくどく光り輝く。
 エリュシオンが切りかかるが、バラキエルはそれを受け止めていく。今度は、バラキエルが攻撃をし返すが、エリュシオンが受け止める。剣だけではなくお互いの魔力もぶつけまくっているため、気を抜くとどういう状況かわからなくなりそうだった。

 永遠を思わせるほど、激しい打ち合いが続いていった。 


 やがて、エリュシオンの剣がバラキエルの首を貫いた。
 
 カランと音がして、バラキエルの手から剣がこぼれ落ちる。
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