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再会
久しぶりに会った親友はオタクの夢を叶えていた
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魔族の残党は、ロタンの騎士団と、海賊により処理された。魔力を使い切り、疲れ果て倒れていたナサニエルは、オリビエ・タラサという船長に連れていかれた。きっと、あの船長なら、ナサニエルに対してひどい扱いはしないだろう。
エリュシオンは、バラキエルを殺して世界を救った英雄として貴族や民衆から賛美されている。彼のことを次期国王に望む声も多い。しかし、エリュシオンはそんな地位は望んでいないようで、周囲と話し合っている。
バラキエルを殺して、死の呪いから解放されたため、僕の寿命は伸びた。だから、親友であるノーチ・フォティアに会いに行くことにした。辺りの混乱に乗じて、こっそりと馬を一頭盗んで、ロタンまで走らせる。そして、一晩中、馬を走らせ続けると、ロタンについた。
娼館ヘブンのすぐ近くの木陰にノーチがいた。赤茶色の髪は、太陽の光を浴びて金色のようにも見える。すぐ近くには、見慣れた切り株がある。あの切り株を僕とノーチが椅子にしながら、ご飯を食べていたことが懐かしい。
ノーチは、友達と一緒にいるのだろうか。黒髪に黒縁眼鏡をかけたださそうな男と一緒にいる。騎士団で見たことがない人間だ。体系もひょろそうだし、騎士団の人間ではないだろう。
一言目は、一体何を言ったらいいんだろうか。そんなことを考えていると、僕の気配に気がついたノーチが勢い良く顔をあげた。
「ハデス・ダインスレイブ!!!!」
顔を見た途端に、ノーチは素早く剣を抜き飛びかかってきた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
慌てて何とか剣を構えるが、力の差はどうやらノーチの方が上みたいで押されていく。
「てめぇをぶっ殺してやる」
そう右手をひらひらさせながら、弱々しく微笑むと、ギロリと殺気を込めて睨まれた。
「は?お前と話すのは初めてだろう」
「僕だよ、僕」
「何のつもりだ?」
「えっと……親友に会いに来たんだ」
「ふざけるなっ!!!お前が、血の革命事件でオルトロス家を裏切ったことを俺は、忘れていない。ぶっ殺してやる!!」
だから、こいつに会いたくなかったんだよ!!絶対にこんなことを言われると思った。そして、このままじゃ殺されるどころか、死体を切り刻まれてしまうだろう。
「違う!!俺は、ジキルだ。ハデスの見た目をしているが、お前の親友ジキルだ」
「ジキルは死んだはずだ」
更に剣先を僕の方に近づけてくる。
「だから、生きているんだって。あ、そうだ。僕しか知らないことを話すよ。お前、ソリト・オタクだろう。『この道はソリト様が通った尊い道だ』とか言って、ロタンの中央の赤道を何往復もするようなアホだろう」
「お前……まさか、俺のストーカーだったのか」
「真のストーカーであるお前にだけは言われたくねぇ!!!!!!!!!」
「俺は、ストーカーじゃない」
噓だ。僕は、お前以上のストーカーはこの世界に存在しないくらいに思っている。お前はストーカーの中でも頂点に立てる男に違いない。
「僕もストーカーじゃないんだって。だから、本物のジキルなの!僕がナサニエルを失って落ち込んでいた時は、ビーフシチューを作ってきてくれただろう。僕の悪口を言ったジルベールの着替えを切り刻んだ犯人だろう」
「そんな話信じられるわけない。俺に関する情報収集しだだけだろう」
「だったら、僕にジキルしか知らないようなことを聞いてみてくれ」
「……俺がクリスマスをどう過ごしていたか覚えているか」
そんな質問、めちゃくちゃ簡単だ。すぐに答えられる。あれほどインパクトがあるクリスマスもなかなかないだろう。
「作曲したソリトへの愛の歌を歌っていた」
「曲のタイトルは?」
「『地上に舞い降りた翼のない天使』」
彼は、このくだらない曲を泣きながら歌っていたのだ。
「正解だ……。まさか、本当にジキルなのか……」
琥珀色の瞳が揺れている。混乱したように剣を降ろし、唇はわなわなと震えだした。
そんな彼に対して、肯定するようにフッと笑いかけた。
「僕に初めて話しかけた時、『お前、ソリト・オルトロス様を知っているか』なんて言葉だっただろう」
「ああ……。そうだ」
そう言いながら、彼の琥珀色の瞳からツーと美しい涙が零れ落ちた。
「ふざけんな!!!!お前がジキルなら、どうしてもっと早く言わなかった?」
胸倉をつかまれ、グッと持ち上げられる。
「うぐっ……」
「俺……お前が死んだと思って……。あの時、お前を止めていればってずっと後悔していたんだ。何度も何度もあの日のことを思い出していた。馬鹿野郎!生きているなら、もっと早く言えよ!!俺がどんな思いをしてきたと思っている!!」
彼の右手の拳はブルブルと震えていた。返答次第では殴られるだろう。
「いいか。僕がハデスに入れ替わったのは、今年の1月のことだ。死んだと思ったら、6年後の世界になっていたんだ」
「そうだとしても、もっと早くに言えただろう。この間の大会だって、もっと早くにいう機会があっただろうが!!」
「お前に二度も親友を失う痛みを味わってほしくなかったんだ」
「どういう意味だ?」
「ハデスの身体には死の呪いがかかっていて、死ぬ予定だったんだ。だけど、呪いをかけた相手が死んで寿命が伸びたところだ」
「……だったら、もっと早くに俺を頼れよ」
「ごめん……」
「……っしょう」
彼は、僕の胸倉から手を放して、赤茶色の髪をぐしゃっと歪めた。
「ふざけるな……。ふざけるなよ……。俺、お前が死んだと思っていたんだ……」
気が狂ったように彼は、ぶつくさと呟く。
「……ノーチには、全部、許して欲しい。お前にだけは、全部、許されたいんだ」
「お前、ずるいよ」
「そうだ。だけど、本心だ。……お前なら全部、許してくれる気がするし、許されたいって思う」
「そんなこと言われたら、許すしかないじゃないか。ジキルううううううううううううううううううううう!!俺……俺……。お前に会いたかったんだ……」
ノーチは、泣きながら僕に抱きついてきた。僕も、同じくらいの強さで抱きしめ返す。
「ノーチ!!!!お前、強くなったなあ……。本当によく頑張ったよ……」
赤茶色の髪にポンポンと手を叩く。
初めて会った時のノーチの少年だった姿が脳裏に思い浮かぶ。
僕は……本当にこいつと友達になれてよかった……。
そう思いながら、感謝の気持ちを込めて抱きしめた。
ひとしきり再会を喜んだ後、ようやく二人とも気持ちが落ち着いた。
涙が止まった後、ノーチは思い出したように咳払いをした。
「そうだ。ジキルに報告したいことがある」
「何?」
「俺、実はソリトに出会って、付き合っているんだよね」
ノーチは、恥ずかしそうに頭をかきながら、ありえないことを言ってのけた。こいつ、オタクの夢みたいなことを語っていやがる。僕がいなくなったショックで頭がおかしくなったのだろうか。やはり、妄想を聞いてあげる人間は必要だったみたいだ。
「お前……前からやばい奴だと思っていたが、とうとう完全にいかれてしまったか……。安心しろ。そんなお前でも友達でいてやるよ」
やはり騎士団のエースとして、ストレスは半端なかったか……。ついに幻覚まで見るようになったのか……。ここまで幸せな夢を見れるなんて、人間って恐ろしい。
「ち、違う!!!本当に、ソリト・オルトロスを見つけたんだ!!!」
「そうなんだねー」
もうこんな奴に何て言葉をかけたらいいかわからず適当に返事をするが、感情がこもらず棒読み口調になってしまった。
「ほら、彼を見てみてよ。ソリト・オルトロスだろう。髪の毛は、変装のため染めているが、彼は、ソリトなんだ」
ノーチは先ほど話していた黒髪眼鏡の男の背中を押しながら、僕の前へと誘導した。
ん?そういえば、ノーチの部屋にあったソリトの顔に似ているな。
あれ?泣き黒子の位置もそっくりじゃないか。
いや、まさか……。そんなはずないだろう。そんなバカな……。だって、ソリトは今頃、どこかに閉じ込められているはずだ。あ、違う。僕が知っている情報は何年も前のものだ。だからといって、本人を見つけられるはずない。ノーチは間違えているかもしれない。
「た、確かに似ているけれど、ソリトのわけない」
「俺がソリトを間違えるとでも」
「う……。でも……」
こいつが、ソリトのわけがない。
そんな偶然、あるはずない。
そう僕が怪しむような態度をしていると、男は「しょうがないな」と呟き、小さなため息をついたあと右手を握りしめてからパッと開いた。すると、雪の結晶と光の粒が部屋の中を祝福するように舞い上がった。一見、簡単そうに見えるが、王族にしかできない『祝福』の魔法だと言われている。
「ぎょえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
目ん玉が飛び出そうなほど驚き、飛び上がりながらブルブルとした指先で男をさす。
「ま、ま、ま、ま、まさか本物!!」
そんなばかな!!隕石が落ちたような衝撃が全身に起きる。
「ああ、そうだ。イフリート・オルトロスの息子、ソリトだ」
「ノ、ノ、ノーチと付き合っているというのは、こいつの妄想ですよね」
「おいっ!」
「……いや、事実だ」
ソリトは、頬をリンゴのように染めて目を背けながら肯定した。
「そ、ソリト様。本当にこいつでいいんですか!!こいつの部屋は、ソリト様の絵姿で溢れている気持ち悪いやつですよ!!!毎年、絵姿の前で、ソリト様生誕祭を開くようないかれたオタクですよ!!」
「ば、バカ!なんてことを言うんだよ」
「事実じゃないか」
「俺の評価が下がるだろうが!」
「いや、こういうことは最初にばらした方がいい。ソリト様がかわいそうだ」
「大丈夫です。ノーチがちょっとおかしいことは、僕もわかっていますから」
いやいや、ちょっととかいうレベルじゃない。こいつ、絶対ソリトの触れたものとかをこっそりと収集しているだろう。
まさか本当にノーチの言っていた通りソリトは、天使であったかもしれない。
ソリトが仕事に行った後も、話は尽きなかった。
休む間もなく思い出話や、これまでの話を語り続けた。
そして、日が沈み話がようやく途切れた後、ノーチは「これからどうするんだ?」と不安そうな顔をしながら聞いてきた。
「……人目につかないところで一人で生きていく。もしかしたら、いろんな場所を点々とするかもしれない」
「ずっとロタンにいればいいだろう。お前が遠くに行ったら寂しい」
「僕は……ハデス・ダインスレイブだ。大量殺人者で、民衆の嫌われ者だ。ゼクゼーに戻ったところで、そのうち殺されるかもしれない。誰もいないところを探した方がいい」
「……一人でか?今度は、誰も連れて行かないのか」
「ああ」
きっと居場所を追われ続ける逃亡生活になる。そんなものに、誰も付き合えないだろう。
「たまには会いに来いよ。娼館のチケットならいつでもやるから」
「ああ」
遠い昔、エリュシオンをミソロギアから連れ出した夜のことを思い出す。
今度は、あの時とは違う。全部捨てて一人で旅立つ。英雄になったエリュシオンを連れていくことはできない。
エリュシオンは、バラキエルを殺して世界を救った英雄として貴族や民衆から賛美されている。彼のことを次期国王に望む声も多い。しかし、エリュシオンはそんな地位は望んでいないようで、周囲と話し合っている。
バラキエルを殺して、死の呪いから解放されたため、僕の寿命は伸びた。だから、親友であるノーチ・フォティアに会いに行くことにした。辺りの混乱に乗じて、こっそりと馬を一頭盗んで、ロタンまで走らせる。そして、一晩中、馬を走らせ続けると、ロタンについた。
娼館ヘブンのすぐ近くの木陰にノーチがいた。赤茶色の髪は、太陽の光を浴びて金色のようにも見える。すぐ近くには、見慣れた切り株がある。あの切り株を僕とノーチが椅子にしながら、ご飯を食べていたことが懐かしい。
ノーチは、友達と一緒にいるのだろうか。黒髪に黒縁眼鏡をかけたださそうな男と一緒にいる。騎士団で見たことがない人間だ。体系もひょろそうだし、騎士団の人間ではないだろう。
一言目は、一体何を言ったらいいんだろうか。そんなことを考えていると、僕の気配に気がついたノーチが勢い良く顔をあげた。
「ハデス・ダインスレイブ!!!!」
顔を見た途端に、ノーチは素早く剣を抜き飛びかかってきた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
慌てて何とか剣を構えるが、力の差はどうやらノーチの方が上みたいで押されていく。
「てめぇをぶっ殺してやる」
そう右手をひらひらさせながら、弱々しく微笑むと、ギロリと殺気を込めて睨まれた。
「は?お前と話すのは初めてだろう」
「僕だよ、僕」
「何のつもりだ?」
「えっと……親友に会いに来たんだ」
「ふざけるなっ!!!お前が、血の革命事件でオルトロス家を裏切ったことを俺は、忘れていない。ぶっ殺してやる!!」
だから、こいつに会いたくなかったんだよ!!絶対にこんなことを言われると思った。そして、このままじゃ殺されるどころか、死体を切り刻まれてしまうだろう。
「違う!!俺は、ジキルだ。ハデスの見た目をしているが、お前の親友ジキルだ」
「ジキルは死んだはずだ」
更に剣先を僕の方に近づけてくる。
「だから、生きているんだって。あ、そうだ。僕しか知らないことを話すよ。お前、ソリト・オタクだろう。『この道はソリト様が通った尊い道だ』とか言って、ロタンの中央の赤道を何往復もするようなアホだろう」
「お前……まさか、俺のストーカーだったのか」
「真のストーカーであるお前にだけは言われたくねぇ!!!!!!!!!」
「俺は、ストーカーじゃない」
噓だ。僕は、お前以上のストーカーはこの世界に存在しないくらいに思っている。お前はストーカーの中でも頂点に立てる男に違いない。
「僕もストーカーじゃないんだって。だから、本物のジキルなの!僕がナサニエルを失って落ち込んでいた時は、ビーフシチューを作ってきてくれただろう。僕の悪口を言ったジルベールの着替えを切り刻んだ犯人だろう」
「そんな話信じられるわけない。俺に関する情報収集しだだけだろう」
「だったら、僕にジキルしか知らないようなことを聞いてみてくれ」
「……俺がクリスマスをどう過ごしていたか覚えているか」
そんな質問、めちゃくちゃ簡単だ。すぐに答えられる。あれほどインパクトがあるクリスマスもなかなかないだろう。
「作曲したソリトへの愛の歌を歌っていた」
「曲のタイトルは?」
「『地上に舞い降りた翼のない天使』」
彼は、このくだらない曲を泣きながら歌っていたのだ。
「正解だ……。まさか、本当にジキルなのか……」
琥珀色の瞳が揺れている。混乱したように剣を降ろし、唇はわなわなと震えだした。
そんな彼に対して、肯定するようにフッと笑いかけた。
「僕に初めて話しかけた時、『お前、ソリト・オルトロス様を知っているか』なんて言葉だっただろう」
「ああ……。そうだ」
そう言いながら、彼の琥珀色の瞳からツーと美しい涙が零れ落ちた。
「ふざけんな!!!!お前がジキルなら、どうしてもっと早く言わなかった?」
胸倉をつかまれ、グッと持ち上げられる。
「うぐっ……」
「俺……お前が死んだと思って……。あの時、お前を止めていればってずっと後悔していたんだ。何度も何度もあの日のことを思い出していた。馬鹿野郎!生きているなら、もっと早く言えよ!!俺がどんな思いをしてきたと思っている!!」
彼の右手の拳はブルブルと震えていた。返答次第では殴られるだろう。
「いいか。僕がハデスに入れ替わったのは、今年の1月のことだ。死んだと思ったら、6年後の世界になっていたんだ」
「そうだとしても、もっと早くに言えただろう。この間の大会だって、もっと早くにいう機会があっただろうが!!」
「お前に二度も親友を失う痛みを味わってほしくなかったんだ」
「どういう意味だ?」
「ハデスの身体には死の呪いがかかっていて、死ぬ予定だったんだ。だけど、呪いをかけた相手が死んで寿命が伸びたところだ」
「……だったら、もっと早くに俺を頼れよ」
「ごめん……」
「……っしょう」
彼は、僕の胸倉から手を放して、赤茶色の髪をぐしゃっと歪めた。
「ふざけるな……。ふざけるなよ……。俺、お前が死んだと思っていたんだ……」
気が狂ったように彼は、ぶつくさと呟く。
「……ノーチには、全部、許して欲しい。お前にだけは、全部、許されたいんだ」
「お前、ずるいよ」
「そうだ。だけど、本心だ。……お前なら全部、許してくれる気がするし、許されたいって思う」
「そんなこと言われたら、許すしかないじゃないか。ジキルううううううううううううううううううううう!!俺……俺……。お前に会いたかったんだ……」
ノーチは、泣きながら僕に抱きついてきた。僕も、同じくらいの強さで抱きしめ返す。
「ノーチ!!!!お前、強くなったなあ……。本当によく頑張ったよ……」
赤茶色の髪にポンポンと手を叩く。
初めて会った時のノーチの少年だった姿が脳裏に思い浮かぶ。
僕は……本当にこいつと友達になれてよかった……。
そう思いながら、感謝の気持ちを込めて抱きしめた。
ひとしきり再会を喜んだ後、ようやく二人とも気持ちが落ち着いた。
涙が止まった後、ノーチは思い出したように咳払いをした。
「そうだ。ジキルに報告したいことがある」
「何?」
「俺、実はソリトに出会って、付き合っているんだよね」
ノーチは、恥ずかしそうに頭をかきながら、ありえないことを言ってのけた。こいつ、オタクの夢みたいなことを語っていやがる。僕がいなくなったショックで頭がおかしくなったのだろうか。やはり、妄想を聞いてあげる人間は必要だったみたいだ。
「お前……前からやばい奴だと思っていたが、とうとう完全にいかれてしまったか……。安心しろ。そんなお前でも友達でいてやるよ」
やはり騎士団のエースとして、ストレスは半端なかったか……。ついに幻覚まで見るようになったのか……。ここまで幸せな夢を見れるなんて、人間って恐ろしい。
「ち、違う!!!本当に、ソリト・オルトロスを見つけたんだ!!!」
「そうなんだねー」
もうこんな奴に何て言葉をかけたらいいかわからず適当に返事をするが、感情がこもらず棒読み口調になってしまった。
「ほら、彼を見てみてよ。ソリト・オルトロスだろう。髪の毛は、変装のため染めているが、彼は、ソリトなんだ」
ノーチは先ほど話していた黒髪眼鏡の男の背中を押しながら、僕の前へと誘導した。
ん?そういえば、ノーチの部屋にあったソリトの顔に似ているな。
あれ?泣き黒子の位置もそっくりじゃないか。
いや、まさか……。そんなはずないだろう。そんなバカな……。だって、ソリトは今頃、どこかに閉じ込められているはずだ。あ、違う。僕が知っている情報は何年も前のものだ。だからといって、本人を見つけられるはずない。ノーチは間違えているかもしれない。
「た、確かに似ているけれど、ソリトのわけない」
「俺がソリトを間違えるとでも」
「う……。でも……」
こいつが、ソリトのわけがない。
そんな偶然、あるはずない。
そう僕が怪しむような態度をしていると、男は「しょうがないな」と呟き、小さなため息をついたあと右手を握りしめてからパッと開いた。すると、雪の結晶と光の粒が部屋の中を祝福するように舞い上がった。一見、簡単そうに見えるが、王族にしかできない『祝福』の魔法だと言われている。
「ぎょえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
目ん玉が飛び出そうなほど驚き、飛び上がりながらブルブルとした指先で男をさす。
「ま、ま、ま、ま、まさか本物!!」
そんなばかな!!隕石が落ちたような衝撃が全身に起きる。
「ああ、そうだ。イフリート・オルトロスの息子、ソリトだ」
「ノ、ノ、ノーチと付き合っているというのは、こいつの妄想ですよね」
「おいっ!」
「……いや、事実だ」
ソリトは、頬をリンゴのように染めて目を背けながら肯定した。
「そ、ソリト様。本当にこいつでいいんですか!!こいつの部屋は、ソリト様の絵姿で溢れている気持ち悪いやつですよ!!!毎年、絵姿の前で、ソリト様生誕祭を開くようないかれたオタクですよ!!」
「ば、バカ!なんてことを言うんだよ」
「事実じゃないか」
「俺の評価が下がるだろうが!」
「いや、こういうことは最初にばらした方がいい。ソリト様がかわいそうだ」
「大丈夫です。ノーチがちょっとおかしいことは、僕もわかっていますから」
いやいや、ちょっととかいうレベルじゃない。こいつ、絶対ソリトの触れたものとかをこっそりと収集しているだろう。
まさか本当にノーチの言っていた通りソリトは、天使であったかもしれない。
ソリトが仕事に行った後も、話は尽きなかった。
休む間もなく思い出話や、これまでの話を語り続けた。
そして、日が沈み話がようやく途切れた後、ノーチは「これからどうするんだ?」と不安そうな顔をしながら聞いてきた。
「……人目につかないところで一人で生きていく。もしかしたら、いろんな場所を点々とするかもしれない」
「ずっとロタンにいればいいだろう。お前が遠くに行ったら寂しい」
「僕は……ハデス・ダインスレイブだ。大量殺人者で、民衆の嫌われ者だ。ゼクゼーに戻ったところで、そのうち殺されるかもしれない。誰もいないところを探した方がいい」
「……一人でか?今度は、誰も連れて行かないのか」
「ああ」
きっと居場所を追われ続ける逃亡生活になる。そんなものに、誰も付き合えないだろう。
「たまには会いに来いよ。娼館のチケットならいつでもやるから」
「ああ」
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