90 / 102
余命一週間 過去編
出会い
しおりを挟む1518年12月23日
その日、革命が起こった。
500年以上続いていたオルトロス家が終焉を迎えた。
「オルトロス家の滅亡を祝って、セールしているわああああ!!!」
「今日は、革命事件を祝って、全品半額だああああああ!!!」
「うちの店には、踊り子をよんだぞおお。さあ、ぜひ来てくれ。一緒に喜び合おう!!」
イフリート・オルトロスは、最低最悪の王であった。
支配の王冠をはめ、世界を思い通りにしていたが、ルキフェル・ダナトラス、ハデス・ダインスレイブ、モールス・ミュルダールの3人の同盟により倒されたのである。モールスは、ロタンの領主であり、赤の騎士団の所有者でもあるため、数名の赤の騎士団も暗躍したそうだ。
絵に描いたような悪役である狂王が殺され、暴虐の限りを尽くしたオルトロス家も終わりを告げた。
世間は、新しい世界の誕生を祝っていた。
……僕の隣にいるやつを除いて……。
「ソリトが……。俺の神様が……。ソリトが……ああああああああああああああああああああああああああ……。ああ、世界を呪いたい……」
世間は新しい世界が始まると浮かれていたが、僕の隣にいる男は涙と鼻水を滝みたいに流しながら酒を飲んでいた。せっかくのイケメンが台無しである。
彼は、ノーチ・フォティアといって、切れ長の琥珀色の瞳をしているイケメンである。町でかっこいいと評判で、剣の腕も騎士団トップクラスであり、花形のエースポジションにいる男である。
そんな男が、何で地味で冴えない僕とつるんでいるかといえば、彼が娼館の息子であり、上流貴族出身の人間から疎まれているからだ。
いや、それだけじゃない。ノーチの両親は、金儲けのことしか考えていなかった。だから、娘は娼館の商品とし、息子は奴隷として売り飛ばしていた。幼かったノーチは、スリが上手くて両親から売られなかった。彼は、小さい頃から、自分の居場所をなくさないために必死でスリをしていた。
一方。僕は、騎士団に入る前は死体漁りをしながら生きていた。そんな暗い過去を抱えた人間同士だから、居心地がよかったのかもしれない。
娼館の息子と、孤児の僕は、6歳も離れているのに、話や価値観もよくあって、よく一緒にいた。
「くそっ……。ハデスも、ルキフェルも、モールスも許さない!」
「おい、二人はともかくモールス様の悪口はダメだろう」
モールスは、ロタンの領主だ。死体漁りをしていた僕を拾って騎士団に入れてくださった方でもあり、僕にとっては命の恩人みたいなものだ。
「どうして……俺には計画が伝えられなかったんだ……」
「それは、お前がソリトオタクだからだろう」
こいつは、小さい頃、オルトロス家の後継者であるソリト・オルトロスに助けられた恩がある。それ以来、ノーチはソリトの信者となって、将来、ソリトが皇帝に即位するときを誰よりも楽しみにしていたのである。
そんなオルトロス家に陶酔している男に、オルトロス家打倒の計画を伝えるバカなんていないだろう。
「ソリト様は死ぬわけありません……。絶対に生きている……。いつか、俺がソリト様を助けて、王にします。俺は、ソリト様が王になって微笑む瞬間を楽しみに生きていたんです……。そうだ。ソリト様は神の血が流れている……。簡単に死ぬわけないんだ……」
ノーチはいつものように、バカげたことをぶつくさつぶやいていた。相変わらず気持ち悪い奴だな。
「今日はとことん飲みます。人生、最悪の日ですよ~。先輩のことも朝まで返しません」
「いいんです……。ソリト様はどんな存在になっても永遠に俺の心で生き続けるので……。やっぱり、ソリト様ほど神様に愛された人間なんて存在しないじゃないですか。だから、ソリト様は死ぬはずがありません……。ああ、ソリト様……。今頃、どんな気持ちでいるんだろう……」
……お前、相変わらずキモイな
光のない濁った瞳が、自分を恨めしそうに見つめている。いや、自分というよりも世界を恨んでいるようだ。あの美しい瞳には、きっと自分なんて認識されていない。
革命の次の日は、上層部が混乱に陥ったため仕事は休みであったが、騎士団の奴らは訓練のための出勤していた。ノーチは精神的なショックを受けすぎたせいか、来なかった。ノーチのいない騎士団は居心地が悪かっため、昼休みは早めに食堂から退室して、自主練をすることにした。
素振りをしていると、不意に背後から、とある男に声をかけられた。
「元気でやっているか」
「領主様!」
モールス・ミュルダールは、緑の髪に黒縁メガネをしている細身で長身の男で、ただの死体漁りだった僕を騎士団に入団させてくれた恩人のような人間である。彼は、ロタンの統治者であるモリス・ミュルダールの長男である。モリスは病気であるため、実際はモールスが統治者とも呼ばれている。
「あのイフリート・オルトロスを打倒するなんてすごいですね」
「運がよかったんだ。シオン・リジルも強くて、何度も死ぬかと思ったよ」
「ジギルに頼みがあるんだ」
「領主様の頼みだったら、何でも聞きます」
「とある少年に食事を届ける役をして欲しい」
「訳ありっぽいですね。誘拐でもしたんですか」
「そうじゃない……。判決が出るまで、世話をするだけだ」
判決……。オルトロス家の生き残りだろうか。ソリト・オルトロスとかかもしれない。彼のことは、一度見たことがある。貴公子みたいに美しい少年だった。
「少年の名前は何て言うんですか?」
モリスは、気まずそうに目を少し伏せて打ち明けた。
「エリュシオン・リジル」
その名前を聞いた途端、驚きのあまり息をのんだ。
エリュシオンのことは聞いたことがある。英雄シオン・リジルの一人息子だ。そして、シオン・リジルは、先日の血の革命事件で死んだばかりだ。過去には、イテミスとの合同軍事演習でシオン・リジルには鬼のようにしごかれた苦い思い出があるが、あれだけの才能がありながら忠誠を誓ったイフリートと共に倒されたシオン・リジルには同情をしてしまう。
おそらくエリュシオンは、シオン・リジルの息子であるため危険因子と見なされ拘束されているのだろう。
「かしこまりました。僕は、必ず任務を全うします」
モーリス様に任されたんだから、しっかりと彼に食事を届けなければいけない。
多くの罪人が収容され拷問される罪人塔、通称ミソロギアに彼はいるらしい。そこは、ゾッとするほど汚い場所だった。「助けてくれ」「食べ物をくれ」など叫び声で溢れていた。何日も風呂に入っていない人間がたくさんいるのか、腐臭も満ちている。
しかし、上の階にいくほど罪人の数は減っていき、悪臭もましになってきた。エリュシオンは、収容所ミソロギアの最上階である13階に一人でいるらしい。その日の食事であるパンとミルクを持って塔を上り続ける。
「くそっ。上っても上ってもきりがない」
最上階にたどり着く頃には、全身、汗まみれになっていた。
「はあ、はあ、はあ……」
毎日、こんなことをしないといけないなんて……。だけど、モールス様の頼みだ。断るわけにはいかない。
階段を登りきると、沈みかけた夕日に照らされた一人の少年が見えた。
幽霊みたいに青白い肌、人形みたいに整った顔立ち、風になびいているパールホワイト、夜明け色の空を切り取ったみたいに透き通るアメジストの瞳……まるで絵画のように美しい少年が、無気力に壁に寄りかかっていた。
赤黒くなった血と泥がついた白いシャツに破けた黒いズボンを履いている。靴は履いていおらず、やせ細った白い足首が見えていた。
僕の存在に気がついたみたいだけど、誰のことも認識しないないビー玉のような目で世界を映していた。まるで、出会ったばかりのナサニエルみたいに輝きがない瞳だと思った。
11
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる