支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

夜刀神さつき

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彼の終着点

劣等感

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 ノーチと別れ、娼館から少し離れた馬を止めていたヴォルクの崖に行くと、近くの大木に一人の男が腕組みをしながら寄りかかっている様子が見えた。男の銀髪は、月明かりで照らされて輝いていた。

「エリュシオン……」

 そう声をかけると、視線だけこちらに向けてきた。

   *                   *


 小さい頃は、いつも胸にぽっかりと穴が開いているような感覚がしていた。
 自分が欲しいものは、いつも誰かが手にしていて、誰かに憧れることさえ似つかわしくない感情に思えた。
 誰かになりたいけれど誰にもなれなくて、ただの大嫌いな自分でいることしかできなかった。
 嫌われていることは痛いほどわかっていたから、視界に入ってしまうことさえ恐れていた。だからといって、一人でいれば幸せでいられるわけではなくて、誰とも感情の一つも共有できない時間ばかり流れていた。

 自分が愛されないことを理由ばかり見つけて、自分を嫌いになってばかりだった。春の光で溶けていく雪だるまみたいに、消えてしまいたかった。

 俺の母親は魔族で、人間だと偽り父親との間に俺を産んだらしい。そして、二人の間に何が起こったかわからないが、俺が3歳の時に母親は、俺を置いていなくなった。さようならさえも告げられなかったから、俺は自分が捨てられたと気がついた。

 父親は、評判がよく民衆から英雄扱いされていたため、子供に魔族の血が混ざっているという事実を周囲に隠した。世間での評判を下げないため、俺のことも捨てなかった。けれども、魔族の血が流れている俺を誰よりも嫌っていた。人に見えないところで暴力ばかり与えられた。

「化け物死んでしまえ!!気持ち悪いんだよ!!」とか「お前みたいな奴が俺の子だと思うと吐き気がする」などと暴力を吐かれながら、殴られた。

 最低の父親だった。

 同時に、憧れの人間だった。誰よりも強くて、偉大な父を心から尊敬していた。父は、多くの人間から尊敬され、感謝されていた。そんな父がかっこよく思えていた。

 いつか……父さんが僕を認めてくれる日が来るかもしれない。剣の腕を磨いていけば、『さすが俺の息子』だって認めてくれる日が来るはずだ。こんな僕を許してくれる日が来るかもしれない。そう信じて、必死で剣の腕を磨いていた。

 けれども、そんな日は来なかった。俺の剣の腕があがればあがるほど、父親の暴力は悪化していった。
 父には魔力がないけれども、自分には膨大な魔力があることに気が付いていた。けれども、そんな化け物じみた能力を使ってしまうと、心まで化け物になる気がして使えなかった。

 ミスティルティンや、アイゼアが持っているような特別なものが、キラキラとして眩しく見えた。
 優しい母親、愛のある父親、温かい食事、称賛の言葉、暖かそうな手のひら、光のある家……そんなものに胸が焦げそうになるくらい憧れていた。憧れていただけだった。


 そして、血の革命事件が起きた。
 イフリートの専属護衛であった父さんは、当然、命の危機にさらされるはずだ。誰よりも早く駆け付けた。
 そして、父はそんな俺の姿を見て喜んだのだ。俺を見て喜ぶ父親の顔は初めてで、俺はようやく認められたと嬉しくてたまらなくなった。

「どうせ、こんな事件が起きたんだ。お前が死んでも、ルキフェルの仕業にされるだろう」

 そう言って父は、俺を殺そうとした。
 必死で逃げて何とか一命をとりとめたが、力尽きて倒れてしまった。
選ばれたかった。

 求められたかった。
 愛されるべき存在でいたかった……。
 ただ誰かに愛されて生きたかっただけなのに……。
 ただそれだけだったのに……。

 倒れた俺は、ミソロギアに投獄された。生きていく気力がわからず、ぼんやりと壁を見ていた。何も考えたくなかったし、何も感じたくなかった。二度と期待や夢なんて持ちたくなかった。ただ呼吸が終わる瞬間だけを待っていた。

 そして、絶望の淵にいるときにジキルにあった。ジキルは、生まれて初めて俺に手を差し伸べてくれた人だった。
 けれども、俺は、ハデスに命じられてジキルを殺した。
 死にたかった。出会ったことを後悔ばかりしていた。

 そして、ジキルとまた出会った。
 どういうわけかハデス・ダインスレイブは、ある日、魂がジキルになっていた。自分に都合のいい夢を見ている気分だった。だけど、夢は覚めなかった。

 彼を殺した自分なんかが、隣にいる資格がないことはわかっている。ジキルだって、魔族の血が流れている俺を気持ち悪いと思っているかもしれない。

 だから、ジキルは、俺を置いていこうとしているのだろう。俺なんてジキルにとってどうでもいい存在だから、簡単に捨てられるのだろう。ジキルは、俺がいなくても生きていける。

 小さい頃、俺を置いて去っていった母親の後ろ姿と重なった。

『ごめんね、エリュシオン』

 そんな寂しいことを言って去っていった。あの時、必死に手を伸ばしたが、置いていかれた。
あの日から、自分には捨てられたという感情が烙印を押されたように消えなかった。自分は価値がないから捨てられた。そんな劣等感は、大人になっても消えていない。

    
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