【完結】異世界転生したら死刑にされる予定の悪役だった

夜刀神さつき

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番外編

大人になったロデオ4

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 いつの間にか夕日が沈みかけている。ローニャの街も、橙色のカーテンのような光に包まれている。

 結局、俺は、ハイデンに謝る勇気が出ないまま自宅へ向かい歩き出した。
 病院の近くを通りかかったとき、入り口から、松葉杖をついて出てくるハイデンを見つけた。
 ハイデンは、足を怪我したのだろうか。松葉つえを使って、必死に歩いている。

 俺達ローニャの市民を救うために、あんなにボロボロになるまで戦ったんだ。

 そう思うと、言葉にできない感情が溢れてきて、涙が溢れそうになった。

 ハイデンの姿を遠くから見守っていると、彼は、傍にあった石につまずいて、こけてしまった。
 俺は、気がついたら、倒れたハイデンに向かって走り出していた。

「大丈夫か?」

 そう話しかけながら手を差し伸べると、ハイデンは、目をキラキラと輝かせた。

「ロデオじゃないか!久しぶり。元気だったか」

 そんな態度をされるなんて思っていなくて、戸惑ってしまう。

「うん……」
「よかった。あ、助けてくれて、ありがとう」

 ハイデンは、俺の手をとって立ち上がり、再び松葉杖を脇の間に挟んでバランスをとった。

「……お礼を言われる資格なんてない」
「どうして?」

 ハイデンには、会わない方がいい。そう散々言われてきたか、本人を前にしてしまうとダメだった。
 どうしても謝りたい。
 その衝動が抑えきれない。

「ハイデン。あの時は、ごめん。本当に悪いことをした。すまなかった」

 心の底からそう伝え、頭を深く下げる。

「ロデオ。頭を上げてくれ」
「でも……」
「いいよ。もう昔のことだ。怒っていないよ。俺も、お前にひどいことばかりしていた。悪かった。ごめん」
「また俺と仲良くしてくれる?」

 そう聞くと、ハイデンは、毒林檎でも食べたかのように青ざめ危機感に満ちた顔をした。

「俺の尻の危機が……じゃなくて、お、俺は、嫉妬深い犬を飼っているんだ。だから、他の人の匂いがつくのは、よくないんだ」

「犬……。そんな犬、距離を置いた方がいいんじゃないか」

「でも、俺は、そいつのことがけっこう好きなんだ」

 ハイデンは、まるで恋でしているように頬を染め、照れくさそうに笑った。

「あ、そろそろ迎えも来るし、そろそろ離れた方がいい。ロデオ。お前の幸せを遠くから、祈っているよ」

 ハイデンは、慌ててそう言ってきた。誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。

「わかった。俺も、ハイデンの幸せを願っている」
「ありがとう」

 ハイデンの笑顔は、昔見た人を馬鹿にするような歪んだものでなく、日だまりのような温かさを感じた。


 ロデオは、ハイデンと別れ、少し離れた場所を歩いていると、アトラスが彼に近づいて行く様子が見えた。

 ああ、迎えはアトラスのことだったのか。どうりでハイデンが、怯えていたわけだ。ハイデンは、俺がまだアトラスに謝っていないと思っているのかもしれない。

 その時、背後から「ハイデン。ロデオと何を話していたんですか?」というアトラスのナイフのように鋭い声が聞こえた。

 アトラスは、やけに俺のことを警戒していないか。そして、ハイデンも地雷を踏んだ軍人みたいに怯えていないか。
 
 とある考えが頭に芽生える。

「まさかな……」

 俺は、頭に浮かんだ一つの考えを振り払い歩き出した。

 夕日でできた影法師は、小さい頃のものより長くなっている。それを見ていると、自分も大人になった気がした。
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