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怯えるメイド

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 ふぅ……。疲れた。

 あいつ、もしかして護衛の男とかだろうか。
 自分が誰か、銀髪の男が誰か。その答えのヒントになりそうなものは、ないだろうか。
 引き出しを開けてみると、金の印鑑を見つけた。これがあるってことは、相当、偉い奴なのだろう。よく見ると、そこに『ギル・ノイルラー』と刻まれてあった。『ギル様』と呼ばれていたから、これこそが僕の名前だろう。

 あ、クローゼットがある。今、バスローブ姿だからちゃんと服に着替えないと。お金持ちの服ってどんなものがあるんだろう。高級スーツとかかな。かっこいい服とか着れたら、うれしいな。

 ガチャリ。

 扉を開けた僕は、メン玉がとび出そうになった。

「な、な、何じゃこりゃああああああああ!」

 まるでウェディングケーキのようなフリフリのデコレーションのドレス、全身金色のスーツ、宝石が散りばめられた目が潰れそうになるような服。真っ赤なマント付きの服とか、中二病っぽくって死んでも着たくないんだが。

 僕の身体の元持ち主は、相当趣味が悪かったらしい。想像してみろ。デコレーションケーキのようなフリフリのワンピースを着る人殺しのように目つきの悪い男を。軽く目まいと吐き気がしてくる。

 つーか、こいつには女装癖でもあったのか。ちょうど、今の、僕のサイズにあいそうなフリフリドレスがたくさんある。

 おええええ、気持ち悪い。

 それに、何だ、これは……。パンツに金の刺繍で名前とかお金の無駄遣いなんだが。よくこんなパンツを作ろうと思ったな……。
 バスローブ姿のままでいるわけにもいかない。

 とりあえず一番まともそうな服を探そう。
 どれも本当にひどいな。もういっそ、裸の上にコートを羽織った方がまともなのかもしれない。

 散々迷った挙句、一番ましそうなラメの入ったセーターと緑のズボンを履いた。

 こんなキラキラとした服は、恥ずかしいから好きじゃないんだけどな……。いや、でも、ギルは、そこそこかっこいから似合っているかもしれない。

 ちょっとかっこつけて鏡の前で、髪をかき上げて、モデルのようにポーズを決めてみる。


 ふっ。ガイヤがもっと俺に輝けと囁いている。


 ……はい、冗談です。僕は、そんなナルシストキャラじゃありません。





 ふいに、ガチャリとドアが空いて一人の少女が入ってきた。

「失礼します」

 こいつがべッティーナか。

 キタコレ。メイド服の美少女!しかも、胸がデカそうでかわいいっ。

 丸縁眼鏡をしているせいか、めちゃくちゃ真面目そうな印象を受ける。

 茶髪に茶色の目をしていて小動物みたいだ。しかも、三つ編み。十分かわいいけれど、髪を解いた姿も見てみたい。絶対に、眼鏡をとって三つ編みを外したら、めっちゃかわいいだろうな。

 何故かわからないけれど、めっちゃプルプルしている。

「ギ、ギ、ギ、ギル様。ほ、本をお持ちしました」

 何だ。緊張をしているのか?声が裏返ってしまっている。

 『ギ、ギ、ギ、ギル様』とかふざけてやっているようにしか思えない。だめだ。……笑ってしまいそうになる。だけど、この雰囲気、絶対に笑ったらいけないよな。 

「ありがとう」

 ニコッと微笑みかけると青ざめた顔で「ひィ」と叫ばれた。


 そして、そのまま流れるように美しく華麗な土下座をされた。


「あ、いえいえ、何でもありません。申し訳ありません。本当にすいませんでした」


 ……やはり、お礼を言ったことがいけなかったのか。

「いや、謝る必要はない。早く立ち上がってくれ」

「は、は、は、はい。み、見苦しいものを、お、お見せしました。も、も、申し訳ありません」

 べッティーナは、電光石火のスピードで立ち上がった。さっきよりも彼女の顔色が悪くなっている気がする。何だかかわいそうだし、解放してあげよう。

「じゃあ、もう下がっていいよ。本は、机の上に置いておいてくれ」

「は、はい」

 本を置いた後、べッティーナはくるりと背を向けた。そして、お辞儀をした後、よほどテンパっていたのかゴンと扉に頭をぶつけた。

「……」

「し、し、失礼しました」


 そう言うと、右手と右足を同時に出す歩き方で、去って行った。

 なんかよくわからないけれど、怯えられていたのか。


 あんなかわいい子を傷つけるつもりなんてないのに……。















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