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8 棚から牡丹餅

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 氷の世界から人の世界へと来た私ことカーラは、育ての親達と別れ、一人立ちの為に、西国の大国、ルリジオン国のプラトーの街に入る前で、大きな壁にぶち当たっています。
 この異世界でも、何事もお金が大事だと言う事を痛感します。
 通行料がないので、プラトーの街にさえはいれないのです。
 冒険者ギルドに行きたくとも、大きな門さえくぐれない。


 マジにどうしたら?
 
 おんぎゃぁぁ~と泣く赤ちゃんの声に、顔を上げた。
 若いお母さんと赤ちゃん。

「もう少しで、街だから」

 よしよしと、あやすが、赤ちゃんはめちゃくちゃ泣いています。

「どうしたのですか? お腹がすいたの?」

 声をかける。

「オムツの替えがなくなって」

 よく見れば、赤ちゃんを包むおくるみまで、湿っています。
 わかります!
 その耐え難い不快感。
 名前の由来の原因がそれだから。

「良かったら、私の幼い頃に使っていたものです。綺麗にしてあります。今すぐ替えてあげてください」
「でも・・・」
「あの気色悪さはたまりません!」

 ウエストポーチから、ヴェルジュが入れてくれていたロイ爺さんお手製のオムツを全て渡す。
 決して大量の不用品を押し付けたのではありません!
 ええ、決して。

 若いお母さんは、手慣れていて、私から手渡されたオムツを、泣き叫ぶ赤ちゃんはに巻いてあげる。
 赤ちゃんは気持ち良いのか、やっと泣き止んだよ。
 そりゃ、ロイ爺さん手作りのタンポポ綿のオムツだ。
 私の下着もそれ!
 最高の着心地抜群。

「これって!?」
「オムツです」
「それはわかっています。このオムツの素材! 貴方様は異国の貴族様?」

 急に迫力あるお母さんです。

「ち・・違います。冒険者ギルドへ・・登録・・でもお金がないから街に入れなくて・・それは祖父がくれたの」

 若いお母さんの目が怖かったです。
 ロイ爺さんを祖父にしてしまった。
 祖父みたいには思っていたけど。

「・・そう・だったら門の通行料は三千リオン。冒険者登録に三千リオンは最低必要。それプラス私の知る良心的で食事が美味しい宿代一週間分! しめて四万一千リオン!さらに四千リオンプラスで、このオムツを譲って」
「中古のオムツですよ」
「そう、オムツよ。はっきり言って、持ち合わせが、それでギリギリ」

 早口で、バンバン値段を言う若いお母さんに、首を縦にふります。

「ありがとう! 私は、ヴァイオレット。娘のリリィ。このプラトーには両親がいるの。」

 不用品が前途多難な私を、助けてくれました。
 棚から牡丹餅と言うのよね。
 思いがけない幸運を得ましたよ。
 私は、オムツを、ウエストポーチに再び入れた。
 赤ちゃんを連れ、大きなリュックを担ぐヴァイオレットさんが大変そうだから。
 だから大きなリュックも担いだよ。
 だって私のピンチを救ってくれたのだから。
 リュックは重たそうだったのに、背負うと軽かったわ。
 私が軽々と持つと、ヴァイオレットさんは、びっくりしていた。
 大門で、ヴァイオレットさんと一緒に、通行料を支払う。
 私は、身分証明書などない。
 プラトーに来た理由など聞かれた。
 
「その肌の色は南の国の者か。その国の身分証明書は?」
「ないです。」
「旅の途中で産まれたのか?一人立ちで、このプラトーで冒険者登録するのだな」
「はい」

 わからないからイエスと言う。
 時間はかかったが、通してくれました。

「うわぁぁ~」
「ふふっ、賑やかな街でしょう」

 農地や牧草地が広がるかと思っていた。
 だけど、いきなりの文明!
 中世ヨーロッパ感がある建物が立ち並んでいる。
 ヴァイオレットさんは、フォレスタの街の商家に嫁いで、初孫を見せに、里帰りしたそうだ。
 ここまでは知り合いの商隊の人に乗せて貰って来たらしい。

「この西の大門はフォレスタの街とベルクヴェルクの街へ繋がる街道があるから、商業地域って所。東と南は農耕地域よ。中央は貴族様達の家や、高級なお店や宿などあるし、リゾート地でも有名で、他の街からも多くの貴族様が来られるのよ。」

 だからとても大きな街で賑やかだそうです。
 街と言うより、国でしょう。
 きょろきょろと見ながらも
、ヴァイオレットさんの後を追う。
 
『ダンクの宿屋』と書かれている看板を指さすヴァイオレットさんは、次に冒険者ギルドのある通りを教えてくっる。
 そして、『ダンクの宿屋』の三件隣の商家へ入って行った。
 店の前で待っていたら、ヴァイオレットさんが、手招きする。
 中に入ると、綺麗な布地や、衣服が陳列されている。

「ありがとう。父と母を紹介するわ。」

 そう言うと、初孫を抱いたデレデレ親父と、ふくよかなヴァイオレットさんの母親が出てくる。
 私は、名を名乗り、大きなリュックを返して、ウエストポーチから、大量のオムツをカウンターの上に置いた。
 すると、デレデレ親父の顔が、みるみる真剣な表情に変わった。

「お父さん、凄いでしょう?」
「あぁ、これは・・伝説のブラックスミの作りし物。それに癒しの魔法が残っている。」

 なんで?
 わかるのか・・?
 首を傾げる私にヴァイオレットさんは、にこやかな表情をする。

「父と私は、鑑定ができるの。商業ギルドに所属する商人なのよ。母は裁縫職人よ。このオムツの布は、伝説のブラックスミでありながら、裁縫も織物もありとあらゆる職人の神!ドワーフのロイ様が手掛けた物。価値をしらなかったのね。私も商人の端くれ。悪いけど、ぼったくりさせてもらったわ」

「はへっ?」

 意味がいまいちわからない。
 ロイ爺さんの作品はとても価値あるもので、四万五千ジオンでは、ぼったくり価格ってことだ。
 だけど、いらないものだったしな~。
 それに、オムツは赤ちゃんが気持ち良く使って初めて価値がある。
 言わなきゃ私は、ぼったくられた事すら知らないのに、わざわざ教えたヴァイオレットさんだ。

「ありがとうございます。世間知らずの私に教えていただき、感謝します。ロイ爺さんの作った物には価値があるのですね。でもオムツは赤ちゃんが気持ち良く使ってなんぼですよね。リリィちゃんが、健やかに育つばらば、ロイ爺さんのオムツも本望です」

 一つ私は、賢くなりました。
 ヴァイオレットさんが、善人でよかったです。
 私の全身はロイ爺さんが作ってくれた装備品ですから。
 売れと言われても売らないけど。
 だってシグルーンの毛とヴェルジュの鱗や髭で織られた布地だから。

「売りません!」

 じっとこっちを見ている親父に言った。

「本当にどこの国の貴族様? ロイ様をロイ爺さんって呼ぶなんて。そんな装備品は駆け出しの冒険ではないわよ。気をつけなさい」
「はい!ヴァイオレットさん。では私は冒険者ギルドへ行きます。」 
「くれぐれも気を付けて。新人冒険者は危険よ。装備品を奪われないようにね」

 頭を深くさげた。
 知り合ったばかりなのに、心配して教えてくれる。
 お金もだけど、ヴァイオレットさんと知り合えた事が、本当の幸運だったのだろう。

 冒険者ギルドへ行く前に、教えて貰った『ダンクの宿屋』へ行く。
 可愛い同じ年齢くらいの少女が、受付してくれた。
 一週間分先払いした。
 お金をスラれたら宿無しだから。
 ちゃんとヴァイオレットさんの言葉を教訓にしました。
 鑑定ってのが使える人ならば、私の装備品はお宝なのだ。
 悪い人なら、何をするかわからない。
 身ぐるみはがれないように、気を引き締めて、気配を感じ取らないといけないよ。
 シグルーンとのスパルタ訓練を思い出す。
 常に敵の気配を感じ、読み取る。
 もう、それは、何度となく泣かされて染み込む。
 気配察知。
 私は、中々上手だったんだ。
 前世で、見えなくなって一年の間に、経験した感覚ってみたいなね。

 


 ブラトー冒険者ギルド。
 三階建ての風格あるギルドだ。

 扉を開けて中に入る。

「ひぃ!」

 武器を装備した強面の人達。
 妖艶な女性や、不良ぽい人達が、こっちを見た。

「冒険者登録ならばこちらです」

 受付嬢だろう、ニコニコとしたお姉さんが、声をかけてくれる。
 ぎこちなく歩きながら、広いカウンターへと進んだ。

「あの・・冒険者登録したい・・です。」
「はい! では登録料が三千リオン。」

 ウエストポーチから、ヴァイオレットさんに頂いたお金を払った。

「ではこちらに手を乗せてください」

 魔石が組み込まれた石版のような物に、青銅のカードが置かれている。
 その上に手をのせると、ぱわわぁ~と光る。
 やがて光が収まり、手をのけると、青銅のカードに文字列が刻まれていた。
 
「名前はカーラ様ですね。年は十二歳。初めはただのEランク冒険者からのスタートです。Dランクからは自分に適した職業が記録されます。プリーストならば、聖職ギルド登録もされるとより一層活躍されるでしょう。武器はお持ちですか?」
「はい。鎖を・・」
「それならばアサシンですかね。依頼をこなし、自分にあった職業を選んでおいてください。初心者向けのガイドブックはいかがかしら?」
「ください」

 そく返答しました。
 全く仕組みがわからない。

「では千リオンいただきます」

 残り三千リオンになりました。


 その夜、宿屋で、この世界初の火の通った料理を食べ、感涙しながら、これまた初のベット眠る。
 だが、シグルーンの毛にもふもふして眠るのが、やはり最高の至福だと知った私だ。


 
 
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