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15 ない袖は振れぬ

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 やりました!
 足長おじさんのような、オーナー様が、冒険者ギルドの危なっかしい冒険者たちの為に、アパートメントを貸してくれる。
 第一回目は、落選したが、二回目は大当たりしたのです。
 しかしノアはまたもや外れた。
 だから、一緒に住む事を提案しました。
 パーティーメンバーを組んだしね。
 第一回目に入居した人も、一人部屋に、複数人で住んでいるらしい。
 それでも、馬小屋や、野宿、安宿よりは雲泥の差だとか。

 ダンクの宿屋には、お世話になって、お礼は沢山の胡桃と、ビッグハニーの蜜袋。
 ノアが、看板娘のカリンが焼く胡桃パンを、非常に気に入り、パンだけでも売ってもらえる交渉をしていた。
 ノアの射撃は凄かった。
 一度に何本もの矢を放ち、胡桃を落とす。
 それが、動く標的に出来れば凄腕ハンターだよ。
 何故、当たらないのだろう。
 ノアが言うには、急所が見えるのに、動くとそれが流れた線のように見えるからだそうだ。
 カメラを早送りした時の夜空の星って感じかな?
 でもさ。
 急所がわかるって凄い。
 『心眼』と言うスキルらしい。
 カッコいいです。
 ノアは『鷹の目』と言うスキルが欲しいと言っていた。
 彼女のお兄さんが持っているらしく、狙った獲物を確実にとらえるらしい。
 『心眼』と『鷹の目』があったら、鬼に金棒だろう。




 

 ギルドから手渡された地図を見ながら、目的地に行くと、白い高級リゾートホテルのような三階建ての建物が続く。
 道路に面したバルコニー付きで、それぞれの部屋に入るホール的な入口。
 吹き抜けは天井から陽光が差し込むドーム型の天窓。
 
「このホール内だけで、充分に泊まれるわ。」
「噴水っているの?」
「ホールにオシャレなカウチがあるくらいだから。床なんて大理石よ! 王宮? 行ったことないけど王宮よ」
「そうなんだ~」

 どっかのホテルのロビーを思い出させる。
 まだ自分の部屋に入る前の段階で、ノアは異常に興奮し、私も呆けるしかない。
 あばら家とかを想像していたからね。
 木のギシギシした階段ではなく、石造りの広い階段。
 真ん中には、綺麗な青の絨毯が敷かれている。

 ホテルだよ~。
 柱や扉も細工が凝っている。
 すごいとしか言えません。

「私達の部屋は三階の端だよ」

 三階には三部屋しかない。
 他はワンフロワーに四つの扉が、あった。
 東側の端にある青い扉に、鍵を入れて回す。

「うわぁ~」
「何? この広さ」

 白を基調に、差し色は甘くないペールブルーの大きなリビング、ダイニング。
 対面キッチンって・・・。
 お風呂とトイレに、主寝室と二つの部屋。
 主寝室には天蓋付きの大きなキングサイズのベッドが、ど~んとあり、備え付けのクローゼットに、綺麗な猫足のドレッサー。
 残り二つの部屋にはシングルベットと備え付けのクローゼット。
 リビングには、白い革張りの大きなソファーと、六人掛けのダイニングテーブル。
 暖炉まであった。
 魔石もふんだんに使われていて、お湯やら水やら灯りやら。

「ねぇ・・。これってお貴族様の部屋よ。いえ、お姫様?」
「住んでいいのかな?」
「聞きたいのは私だよーーーぉ。他の部屋も見てくるわ」

 そう言うとノアはダッシュで、出ていった。
 他の人の部屋も同じならば、間違いない。
 きっとここは、もとお貴族様のお屋敷をリフォーム工事したのだと、納得できる。

 部屋の裏手は小さな森。
 その奥にある赤い屋根の建物。
 いくつも煙突があり、煙が出ている。

 ガチャとドアが開くと、ノアがゼイゼイ言いながら飛び込んできました。

「み、見せてもらったわ・・。」

 クッションの良いソファーに座る。
 私がその横に座ると、一気に話し出した。

「ここが一番広いわ! 一人部屋はこのリビングとダイニングを合わせたくらいの広さで、バストイレ完備は一緒。複数部屋は、このリビング、ダイニングの広さプラス、部屋一つ分多いわ。」
「それで、部屋の様子は?」

 どんな感じなのかが気になる。

「部屋の壁紙や、塗装は、なんとみな違う。ベットの感じも、それぞれにインテリアが違うわ。シンプルだったり、カントリー風だったり、色々。その部屋のイメージっていうか・・私達のこの部屋で言うならスィートロイヤル! そうお姫様の部屋。」

 それだけ見て回るだけで、楽しいらしい。
 一人部屋で、三人組でも余裕で、足らずのベットは、お金が出来たら買うそうだ。
 今は床に寝袋。
 だけど、それでも大満足だって。
 小さいがキッチンがあり、自炊もでき、毎日お風呂に入れ、水洗の清潔なトイレ。
 文句などないと言う。

 だろうな。
 外観もセレブな感じで、部屋にも、お高い魔石がたくさん。
 
「私達の部屋は、見せてはダメよ。」
「なんで?」
「カーラ! この部屋は、ロイヤルスイートなの。こんなに広くて、キングサイズのベットよ」
「うん」
「複数部屋でも、ダブルベット。わかる? キング!やっかみが怖いじゃない」
「はい!」

 ノアの顔が怖かったわ。
 ノアと一緒に住むことにして良かったです。
 一人でこの部屋は・・・流石に心苦しいです。

「私達も、今は二人だけど、信頼できる仲間が増えるかも知れない。そうしたら一緒に住む為の部屋と思う事にしましょう。」
「わかったです。言いません」

 その後、ロイ爺さんが、持たせてくれた調理器具を一応キッチンに並べた。
 だが、私もだが、ノアも料理は出来ない。
 なんでも、ノアの兄が、やってくれてたらしく、彼女は、洗い物係だったとか。
 私?
 前世でも、レンジでチン。
 またはお湯を入れるだけですかね。
 ごめんよ・・ロイ爺さん。
 せっかくのロイ印は、ただのインテリアです。
 でも、このキッチンにはバッチリ似合う。
 寝るのはキングサイズのベットで二人で寝ます。
 ノアは、個室で良いと言ったが、私が広すぎる寝室が寂しいのだ。
 






 さて、目覚めもバッチリ。
 カリンちゃんのパンを食べにダンクの宿屋へ向かう。
 
「きっと今日は胡桃パンよ~。」
「たくさん渡したものね。今日はどんなクエストがあるかな~」
「生活用品が欲しいし、部屋着も欲しい。あぁーー頑張らないと」

 目指すダンクの宿屋。
 ヴァイオレットさんの実家なら、ノアに似合う服がある。
 布地とかも売っていたし、下手ながらも自作するのも良いよな。
 裁縫道具もちゃんとあるのだから、せめてそれくらい使おう・・よ。

「ノア、お世話になったヴァイオレットさんって商人さんが、いてね。彼女の実家が服屋さんなんだ。ちょっと覗いていかない?」
「いいよ。買う服の下見もしたい」

 って事で、朝食をダンクの宿屋で食べてから、ヴァイオレットさんの実家のお店に行った。

「元気そうね。」
「はい。その節はありがとうございました。」
「良かったわ! 私も来週にはフォレスタの街に戻るから。油断大敵よ。」
「はい」

 ヴァイオレットさんの娘リリィちゃんは、すやすやと眠っている。
 ロイ爺さん手作りのオムツを愛用しています。

「やっぱりお値段が・・」

 ノアが見る服は、私達にとって高い。
 私は布地を見せてもらう。
 コットンや、リネンにシルクまである。
 ウールなども、寒くなるならいるかな?

「こっちの端切れは?」
「売っているわよ。小物作りにも使えるでしょう」

 頭に閃いたのはパッチワーク。
 うん!
 基本の布地と、端切れで、作れば可愛いし、安くできるかも。
 アイボリーのコットンの布地と、色々な端切れを購入した。
 あと、糸も。

「ありがとう。フォレスタの街に来たら、マリオンのお店に顔を出してね。」
「はい。気を付けて帰ってください」

 良かった。
 里帰りって言っていたもん。
 フォレスタの街に行くような、冒険者になれたら、会いに行こうと思う。
 きっとその頃には、リリィちゃんは大きくなっているだろうな。






 冒険者ギルドへ向かう。
 しっかり稼がないと、布地代が赤字になる。

「さっさと歩け!」

 じゃじゃらと鎖の音。
 それは、洞窟でのシグルーンを思い出させる。
 繋がれて歩くのは、人です。
 獣耳の獣人達もいた。
 中には私よりも幼い子供まで。
 空虚な目をした子供と一瞬目が合った。
 黒い髪に小さな黒い耳。
 獣人だろう。
 金色の瞳には光がないが、一瞬その子の瞳が大きく開いたようにも見えた。

「奴隷ね」
「奴隷って・・・」

 はっきり言ってショックだ。
 人が人を売り買いする。

「ノア・・奴隷って何で? 悪いことをしたから?」

 犯罪をし、奴隷として辛い仕事に就くとか?

「そうね。犯罪奴隷もいるし、お金に困り子供や妻を売る人もいる。あと、攫われたりして売られたりね」

 なんて恐ろしい。
 どの世界でも・・。
 嫌だな。
 助けたい。
 だけどない袖は振れません。
 私にはお金も力もない。
 それに一人を助けても・・・。
 ぎゅっと下唇を噛む。
 自分の両手の鎖の武器。
 かつてフェンリルを縛っていた呪いの鎖だ。
 今は自分を守り、獲物を狩る大切な武器。

「私は・・奴隷制度は嫌です。」
「私もよ。犯罪者は、別としても、売られたり、攫われたり・・悲しすぎる」

 何とも重い気持ちのままギルドに向かう。
 その日のクエストは、森狼の討伐だったが、私がダメダメで、達成ならず。
 身体の疲れは、お湯にゆっくりとつかると、ヴェルジュの血のおかげか・・回復するが、精神的な疲れは残っている。
 偽善だけど、幼い子供達が奴隷なんてのはやっぱり・・嫌だよ。


 お風呂から上がって、ロイ爺さんに持たせてもらった裁縫道具を、使っていない部屋で広げる。
 ノアもまた、空き部屋で、矢を作っていた。
 
「はぁ~。何も考えないで集中。」

 アイボリーの布地を広げる。
 ええっと型紙はっと!
 裁縫道具の底に型紙が数枚。
 私のサイズだから、ノアだともう少し身長もあるからっと!

 待ち針をうち、下描きの線を引く。
 ハサミで、切る。
 
「足らずはパッチワークで、何とかなるっしょ!」

 ぱちこーんと、頭を叩かれると思い、咄嗟に庇う。
 あはぁ・・。
 ロイ爺さんはいませんでした。

 ちまちまちまちまちまーーーーーーーちま
 ちまちまちまちまちまーーーーーーーちま

 それは深夜まで続く。
 気が付いたのは朝だった。
 何も考える事なく寝ていました。

 今日はダメダメではなくお仕事頑張るぞーぉ! 
 
 
 
 
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