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14 胡桃~ノア~

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 パンを焼く匂いが、部屋まで届いてくる。
 真っ赤な髪の異国の女の子カーラに紹介してもらった、ダンクの宿屋。
 一泊朝夜食事付きで五千ジオンは、私にとっては高い。
 だけど、次の抽選には必ず!
 冒険者ギルドの青銅のカードとブロンズカードの者が入居できる格安のアパートメント。
 たくさんの応募希望があり、ギルドでは、本当に今一番ピンチな者から順に入居者を決めた。
 私は、カーラのお陰で、ブロンズカードとなれたし、魔物や魔獣の換金で、こうして宿に宿泊できるお金を稼ぐことができたが、地盤となる所に住むのが、金銭的にも将来的にも必要なの。
 それはカーラも同じで、次こそはと誓い合った。
 
 ブロンズカードを見る。
 そこにはノアと言う名前と、冒険者・ハンターと言う職業が記されている。
 サブ職は猟人。
 一緒なのだが、サブ職はただの猟人。
 獲物を仕留めて生計を立てる。
 父や兄の職業がそれだ。
 冒険者の狩人ことハンターは、扱う武器と戦い方。
 スキルには『心眼』と大層なものがあるけど、ただ急所に矢を当てやすくなるスキル。
 青銅のカードの時には書かれていない。
 あれは本当に身分証明書って感じ。
 
「お兄ちゃんのような『鷹の目』ってスキルが欲しいな」

 それは、大空を飛ぶ鷹のように、獲物を捉えて射抜く。
 それこそハンターだ。
 動く獲物を瞬時に射抜くことが、私の課題。
 それが出来なくて、冒険者達の仲間には入れなかった。

「下手くそ」
「足手まとい」
「矢が当たらないなら他の武器にしろよ」
「お前いらないから」


 等々。

 冒険者ギルドの青銅のカード(見習い期間)からブロンズカードへ、レベルアップしないと、青銅のカードは消えて、冒険者ギルドにはいられない。
 そんな時にカーラと出会った。
 崖っぷちの私は、入ったばかりなのに、装備品が異常に優れものにしか見えない、異国のお嬢様?のようなカーラが、一日で、ミラクルストーリーを成しえた新人冒険者への感嘆の声で、知り合った。
 カーラは新人冒険者なのに、D級の上位にいる冒険者と一緒にダンジョンへ行くと言うのだ。
 あまり良い噂を聞かない先輩冒険者達だけど、藁にも縋る気持ちで、便乗させてもらったわ。
 強引だけど・・。
 まだ冒険者でいたい!
 
 初めてのダンジョン。
 向かう途中に、ビッグハニーを仕留める事ができた。
 このモンスターの蜜袋から取出す蜜で、胡桃入りの甘いお菓子やパンが大好き。
 木の枝に止まっていたから。
 赤い点が見えて、そこを狙うと即死する。
 カーラはキラキラした目で褒めてくれたが、先輩方は、動かないものしか仕留められない私を、他の人と同じくダメダメの烙印を押した。
 でもカーラだけは違った。
 嬉しかったよ。
 家族にすらダメダメ烙印を押されていたんだもん。
 
 ダンジョンで、事件は起きた。
 先輩冒険者達は、カーラの装備品目的で、優しく親切なふりをしてダンジョンへ誘ったのだった。
 ダンジョン内での生死は裁けない。
 やはり噂は本当だったの。
 新人冒険者が、よくダンジョンや、任務中に亡くなるって。
 その冒険者達の装備品が、闇市で見かけたとか。

「光の精霊よ! シャイン!」

 これでも半分はエルフ。
 小さな精霊くらいは召喚できる。
 カーラの視界を確保して、逃げて欲しかった。
 もちろん自分も逃げるが、簡単につかまりました。
 相手は格上だ。
 だけど、カーラは強い。
 鎖を武器って珍しいけど、意のままに操り、その上雷系の魔法まで。
 装備品が豪華だから?
 違う。
 ちゃんと実力もある。
 跳躍力も普通じゃない。
 小さな獣だよ。
 
 カーラが、鎖で昆虫モンスターを動けないように捕縛し、私が急所を射抜く。
 この連携は素材を最小限しか傷つけない。
 それに、カーラの収納袋は、いくらでも入り鮮度が落ちないと言う。
 やっぱり、異国のお姫様?


 ダンジョンから出ると、とっくに日は暮れ、森での野宿は危険。
 街にある寝泊まりしていた森とは違う。
 魔物や魔獣の森なのだから。

 そしたらカーラが私が仕留めたビッグハニーを解体し、なんと!
 大好物の胡桃パンにたっぷりと蜜をかけてくれた。
 なんとも~
 幸せなの。
 すると、彼女は生のまま、ビッグハニーを食べたのよぉぉぉ!
 調理しないと、魔物や魔獣には毒素がある事をしらないみたい。
 炙ってあげたら、美味しそうに食べた。
 大丈夫とは言っているが・・・。
 どれだけ世間知らずのお姫様?

 そこに現れた女神様。
 白く長い髪に、優しく綺麗な赤い目。
 カーラはヴェルジュと呼ぶ。

 私が冒険者ギルドに入ったのは・・。

「ノアです。白の聖女様。あの時、父を助けてくださりありがとうございました」

 言えました!
 そう、放浪の白い聖女様に会ってお礼が言いたかった。
 彼女と会うには、冒険者ギルドに登録し、どこへでもいけるカードが必要。
 亡き母の面影・・。

 あれはまだ私が一歳半かぐらいに、父親が、毒をもった魔獣に襲われ、危険な状態を、放浪の白の聖女様が助けてくれたと、兄に散々聞かされた。
 村にある小さな聖堂に、慈愛の女神様の彫像があり、それと同じだったと兄は、手を合わせる。
 私の記憶には白く綺麗な母親と重なっていた。
 母親はエルフ族。
 父親は人族。
 母親は事故で亡くなったそうだ。
 ただ家の敷地にある胡桃の木は、私が産まれた時に、母親が植林したと父親から聞いた。
 
 ノア・・。
 胡桃って事。
 胡桃の木は、栄養のある木の実。
 木も家具を作れば、私の花嫁道具を作れると。
 だから庭の胡桃の木は、私。
 父親に小さな弓矢を作ってもらい、胡桃を落とす練習をする。
 小さな胡桃を落とすには、いっぱいいっぱい練習した。
 大きくなるにつれ、弓矢の大きさは変化し、百発百中胡桃を落とせるようになった。
 その頃から、目標物に赤い点が見えるようになったかな。
 しかし動く獲物には全く当たらない。
 動く動物に見える赤い点が流れるからだ。
 見習いで父親や兄の所属する生産ギルドにある猟人として見習い期間の二年間頑張った。
 だけど・・・。
 日々の自分一人だけの獲物ならば、寝込みを狩るか、餌を食べているところを狙うかで、何とか。
 だけど、売りさばく程は・・・。
 兄の結婚もあり、家を出る決心をしたのだ。
 聖女様に会いたくて。
 そしてダメダメな私でも、冒険者ギルドで、伸びるかもと。

 白の聖女様と出会えた。
 カーラの育ての親だった。
 目的は果たしたが、まだハンターとしてはダメダメちゃんなのだ。
 いつか、兄や父親の目の前で、飛んでいる野鳥や魔物狩りを見せてやりたい。
 青銅のカードとは違う綺麗な色のブロンズカード。
 一緒に仲間としてならカーラがいいな~。
 彼女は私を、バカにしない。
 世間知らずだから心配だし。
 うん!
 申し込んでみよう。







 コンコンと部屋の扉を叩く音がした。

「はい」

 ガチャとノブが回る。

「起きてた?」
「今起きたところ」
「鍵があいたまま?」
「・・・!?」

 カーラに言われて気付く。
 締めないで寝ていた。
 ダンクの宿屋が、ちゃんとした宿屋で良かったと思う。
 ずっと木の上での生活だったから。

「朝ごはんを食べに行こう! 今日はどんなクエストがあるかな?」
「次のアパートメントが出来るまでの宿代を稼がなきゃね」
「おう! でも良かったよ。」
「気前のいい、オーナーさんだ」

 冒険者ギルドの青銅のカードとブロンズカードの者に貸し出されるアパートメントは、また新たに建設してくれる。
 あまりに多い希望者で、初めに建てた物件では足りない。
 それでも、独身者の1DKは全部で、十二部屋。
 パーティーメンバーでもいける2DKの部屋は十八室あった。
 三階建てで、クローゼットや、寝具とテーブルや椅子まで、備え付けられ、小さいがバスとトイレ付き。
 ギルドに張り出された間取り図を見た時に、カーラと二人住みたいと叫んだわ。
 だけど、住む期限もある。
 その期限の内に、お金を稼ぎ、違う家を探す。
 自分にあったサブ職を付けてもいい。
 生活に困窮しないで、考える事が出来る空間をオーナーさんは与えてくれる。
 だってひと月の家賃が一人三千リオン。
 一日百リオン。
 一日、薬草採取をして、日割り計算で家賃百リオンとギルドで食事をしたら、まだ残る。
 ずっと住みたいならば、実力をつけて、オーナーさんに認められなきればならない。

 階段をおりる。
 赤く癖のあるカーラの髪がピョンピョンしていた。

「カーラの髪って櫛でとかさないの?」

 何となく聞くと、その表情は「えっ!?」と物語っていた。

「まさか・・」
「そのまさかです。髪をブラッシングしたことがなーい!」
「ヴェルジュ様がしてくれなかった? あんなにサラサラの綺麗な髪で、女性だから髪をすいていたんじゃないの?」
「ヴェルジュは雄だし」
「雄? あぁ男ね・・・ええええええっ!」

 初めて知った真実に衝撃を受けた私だった。



 ダンクの宿屋の看板娘事、カリンが、焼き立てのパンを入れた籠をワゴンにのせている。

「今日は、渦巻きレーズンパンがオススメです。」
「うわぁ~。」

 カーラが嬉しそうだ。

「胡桃パンはないの?」
「作りたかったけど、胡桃が手にはいらなくて」

 聞けば、カリンが作っているという。
 ダンクの宿屋は、食堂も兼ねている。
 そこで出されるパンは、全て彼女の手作り。
 家の仕事を手伝いながら、調理師ギルドの見習いを経て、やっと駆け出しの調理師さんへと昇格。
 商業ギルドにも登録し、いつかはパン屋さんをと、自分のお店を持つことが目標だと言った。

「同じ年齢なのに・・。しっかりしているな」
「私からしたら、ノアもしっかりしていますよ。一年間も一人で頑張ってきたじゃないですか」

 レーズン渦巻きパンを食べながら、お世辞でなく言うカーラだ。

「ねぇカーラ!」
「何?」
「今日は胡桃を収穫しよう。依頼とかじゃなく。私、カリンちゃんに胡桃のパンを焼いて欲しいんだ」

 大好きな胡桃パン。
 母が残してくれた物。

「うん! だったら蜂モドキはゲットだね」
「ビッグハニーね。外せないわ」

 明日の朝はきっと胡桃パンが出る。
 それに、た~ぷりと蜂蜜をかけて食べる。
 アパートメントに行ったとしても、カリンの作ったパンを食べたい。
 食事はギルドでだろうけど、パンだけ買うって出来ないかな?
 これは交渉してみなきゃと思った。
 だって毎日だって胡桃パンだけでも良いくらいだから。

 
 

  
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