トンネルを抜けると異世界だった~荒れ狂うと言う名を持つ乙女~

ゆき

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16 後は野となれ山となれ①

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 人間世界で初めて奴隷と言う、悲しい事実を知ってから、私は、下手ながら裁縫に没頭しています。
 何も考えないで気が付くと朝なのだ。
 でなきゃ、眠れないんだよ。
 自分よりも小さな子の・・あの空虚な目がーーーーっ!

 力もお金もない私には、あの小さな子供一人も救えません。
 救うなど、そもそもおこがましい。
 自分が如何に恵まれた子供かを、感謝しないといけません。

「ヴェルジュ、シグルーン、ロイ爺さん。ヴァイオレットさんとノアに感謝します」
「何? 私は、ヴェルジュ様と狩りの女神様とカンナちゃんの胡桃パンに感謝いたします」

 ギルド内の食堂で、新たなる食事前のお祈りかと、ノアも真似る。
 今朝はカンナちゃんの胡桃パンが無かったので、ギルドでの朝食だ。

「なんて言うか、私って恵まれているな~と。」
「そうね。ヴェルジュ様が育ての親って所で、特別だよね。それに運もいい。あの部屋を手に入れたってのが証拠。」

 ノアのヴェルジュへの崇拝度は高い。
 あと女冒険者のベルセルクこと、ウール様にも。

「ヴェルジュって有名?」

 ガシャーン!

 それは、隣りの席に座っていた大きな熊の獣人だった。
 え~と・・確か・・。

「ギルマス!」

 ノアは立ち上がり一礼した。
 私も慌ててお辞儀する。

「ごほんーっ! 座って食事を続けろ。俺もここでよく食事するから気をつかうな」
「あ、はい」

 ノアが返事し、私も頭を下げた。

「一応、知らないカーラに教えておこう。ヴェルジュとは、聖職ギルドに所属する白い聖女様だ。人を選ばず、等しく治癒魔法を施し、放浪の白き聖女とも言う。ヴェルジュ様の回復魔法や浄化魔法はトップクラスだ。だが、俺は容姿、人格、才能全てを持ち合わせる上で、一番と思う。」
「そうなんだ~。」

 勝ち誇るようにヴェルジュを褒めて語るギルマスに、嬉しさもある。
 ただ教えてくれたので知らなかったふりをした。

「顔が緩んでいるわ」
「嬉しいなって。大好きなヴェルジュが、人に凄く良く思われているのは、自分までうれしくって」
「私もよ。」

 互いにヴェルジュを慕う私とノアだ。

「ウール様が、S級に上がるクエストに行ったって聞いたか?」
「すげーよな。サングリーズの討伐だってさ。」
「ドラゴンとどっちが強いのかしら?」
「このギルドから二人目のS級誕生だぜ。ルリジオン神国の宝だぜ」
「パーティーメンバーは聖職ギルドからの派遣のプリーストだけだろ?」
「他のA級冒険者たちの参加を断りまくったとか」

 女冒険者のウール様は有名人だ。
 ノアも私もその話に耳を傾ける。

「なんでも、自分に勝ったら認めてやろうって言ったそうよ」
「カッコいいーーーーっ!」

 やたら、女性冒険者に大人気だ。
 私もカッコいいと思う。
 言ってみたいセリフだ。
 でも二人で討伐なんて・・。
 気を抜くなと優しく頭をポンポンされた。
 シグルーンを思い出す女冒険者。
 無事に帰ってきてほしいです。

「サングリーズってとても大きな虎のような災厄モンスターだよ」
「そうなんだ!」
「火を吐くし、ドラゴンとどっちってくらいの凶暴で残虐な魔獣。」

 頭の中で龍と虎が戦っている刺しゅうがあるブルゾンを想像してしまった。
 
「負けてられないね」
「うん。気持ちを切り替えて、今日こそ依頼を完了します」

 
 南門を抜けて森へと入る。
『気を抜くな』と言う言葉を復唱する。

「もっと奥の方に行かなきゃ」
「うん。気配はあります」

 今日は大丈夫です。
 森の奥、もう少し行ったらプラトーダンジョンがある。
 その近くで、森狼が三匹いた。
 大型犬くらいのグリーン色した狼のモンスターは、こちらに気付く。

「ドローシショック!」

 右手から五本の細めの鎖が、放たれる。
 それは獲物を捕らえ、放電により麻痺状態になった。

「任せて!」

 ノアが三本の矢を一度に放ち、見事に命中した。
 
「森狼の毛皮は需要が多いから」
「うん。放電を強くしたら焦げちゃうもんね」

 綺麗な毛皮が焦げては、引取り価格が下がる。
 かと言ってドローシを直接的な攻撃に使うと、ノアのように急所に一発で当てるのは、まだ私には無理。
 まぁ、それでも仕留めれれば良いのだが、獲物の状態がピカイチだと言われたならば、落としたくない評価なのですよ。

「パーティーメンバー登録したから、カーラにもレベルアップポイントが入るけど。プラトーダンジョンの地下に行ったら、素材の状態を気にしないで戦えるのにね」
「そっちのほうが、伸び率がいいけど、まだ私たちには早いよ。」
「そうだよね。だったらこっそりプラトーダンジョンの一階で虫倒ししない?」

 虫退治か・・。
 電撃の威力操作もできるし、ドローシとレージングルの操作訓練には、あの虫モンスターの変則的な動きは、良い訓練になる。

「入口近くなら。大丈夫かな?」
「私も動く的に当てる訓練をするわ」

 基本、ブロンズカードと青銅のカードだけでプラトーダンジョンへ行くのはダメだ。
 ギルドで聞いた女冒険者ウール様の話は、私もだが、ノアにとっても向上心を刺激していたみたい。

 薄暗い洞窟内は変わらない。

「光の精霊よ、シャイン!」

 洞窟内が明るくなる。
 いますよ、います!
 気配は感じていたが、ちゃんと視界に入ると、うじゃうじゃと昆虫モンスターが徘徊しています。

「ドローシ大ショック!」

 ただ放電の魔力を強くしただけ。
 うん!
 焦げていた。

「あははぁ。これは魔石しか持ち帰りできないや」
「あははぁ。そうだね。でも威力がわかったし、どれくらいできるかやってみたら?」

 そう言いつつもノアが矢を放つ。
 が、急所には当たらず、より一層昆虫モンスターが凶暴化した。

「レージングルチョップ! ドローシパーンチ!」

 ボコボコにしました。

「当たったよ!」
「だけど・・やっぱダメね」
「そんなことない! 全く当たらないのがあたったんだから」
「うん・・ありがとう」

 それから私は、特訓に励む。
 ノアも何度も挑戦していた。

「シャインアロー!」

 光をまとった矢がダンゴ虫モンスターをかする。

「レージングル」

 転げるダンゴ虫モンスターを拘束した。

「シャインアロー」

 もう一度ノアがチャレンジだ。
 それは見事にダンゴ虫モンスターの急所を射抜いた。

「精霊魔法を纏う矢って」
「いつかはこの地下に行ってブロンズカードからアイアンカードになりたいから」
「うん!」

 頑張り屋さんだよ。
 二人でなら、やっていける。

「魔石回収だけしてそろそろ出よう。日がくれるとヴェルジュ様に怒られるわ」
「そうだね」

 何度もヴェルジュが、お迎えに来てくれるとは限らない。
 二回も同じ事をしたら、きっと今度は会ってくれないかもしれないし。

 ダンジョンを出ようとした時だ、入口から冒険者たちが入ってくる。

「誰か先客か?」

 思わず岩陰に隠れた。
 ブロンズカードと青銅のカードだけで、入ったのがばれたら・・。

「あれは、光の竜ってチーム。剣を持ちのケインがリーダーのアイアンカード所持者達。」

 ノアが教えてくれた。
 剣士であるソードマンのケインに、魔法使いであるウィザードのイリスとプリーストのアリア。
 闘士ウォーリアのガリオンと・・大きな荷物を持つ小さな子供?

「きっと荷物持ちの奴隷だよ。地下に潜るから、食料とか持たせているんだわ」

 あの子・・
 あの時見た獣人の奴隷。
 空虚な目で、重く大きな荷物を背負い、四人の後をついていく。

「光の竜は、アイアンカードのC-4くらい。実力もある。お金も持っているから、奴隷を買ったんじゃないかな」

 ロイ爺さんやヴェルジュや私が所持する収納袋は、超お高く、手に入りにくい。
 特に私のウエストポーチみたいな、鮮度が落ちない袋は、ノアも聞いたことがないらしい。
 だから、ほとんどが、サポーターを雇ったりしている。
 ダンジョンや遠出の狩りでは、力持ちで、戦う事もでき、詳しいサポーターが必要不可欠だそうです。
 ベテランサポーターになると、金額もはるらしい。
 かえって奴隷を買う方が安い。
 育てていかないといけないが、獣人ならば、人族よりも力も強く、特化した能力もあるそうだ。
 最悪の場合、奴隷を残し自分達は逃げる。
 囮にも使える。
 それを聞き、ノアが厚化粧のミラーに言われた言葉を思い出した。
 彼女も、そんな事を言っていた。

「ちょっとカーラ!」

 ノアの声が聞こえたが、足は彼等の後を追う。
 地下へと向かう大きな扉が開かれていた。
 後は野となれ山となれって感じ。
 頭ではダメだってわかっているのに、心が勝手に進むってか、体が動いた。
 後のことはどうなろうとかまわない!
 って。

「待って! ダメだから」
「嫌だ! あの子を・・ノアは帰って」

 ばちーんっと頬が熱くなった。
 それはノアにぶたれたからだ。

「帰ってって何? 私達はパーティーを組んだんだよ。カーラが、小さな子供を気にする気持ちはわかる。奴隷を見てから調子を崩していたのも」

 ノアが、私の手をつないで下へと降りる。

「このまま帰ったら、また調子を崩すでしょ? 呪われたようにちくちくちくって・・。怖いから!」
「・・ごめんなさい」

 耳についてノアも眠れなかったのだ。
 私の集中した裁縫は怖かったらしい。

「きっと相手は私達の気配を察知している。どうする?」
「気配を消す方法ってあるの?」
「あるけど・・私はできない。父親と兄が、出来てたけど」

 そんなスキルがあるみたい。
 気配を消すって無心だよね。
 石の心とか・・?
 座戦って感じかなと思うが、それだと移動できないじゃない!?
 ゲーム知識に潜伏や隠密ってスキルがあった。
 潜伏は先制攻撃が当たりやすかったり、姿を消したりだったような。
 隠密は忍者のスキルだったかな?
 そんなのがわかっても、どうすれば?
 誰か教えてください。
 
「にぃにぃが、言っていたんだけど、森と同化する感覚とか・・木になりきるとか?」

 余計にわからない。
 私ができるのは、浄化の膜くらい。

 ピンぽ~ン!
 なんか閃いた。
 浄化の膜ができるなら、気配を消す膜は出来ないかな?
 イメージが大事。
 それもわかりやすい。

「分厚い膜・・そう、気配を遮断できる幕・・」

 ブツブツつぶやく。

「だから遮断って言うか同化・・あれれ?」
「分厚く分厚く分厚くーーーっ!」

 何だかカプセルの中にいるみたいな感覚だ。

「出来た! ノア」

 そう言ってノアの手を引っ張り、そのままおんぶした。

「えっ!?」
「行きます。これはきっと潜伏か隠密スキルだと思います。」

 そう告げて、早足に駆け出す。

「ちーちーアンデットぉぉぉーーーぉ!」
「声は聞こえるから静かに!」
「でもアンデットがぁ!」


 どうもノアはアンデット系が苦手なようだ。
 私?
 前世は怖かったな。
 だけど、ロイ爺さんの怒った顔や、シグルーンのしごきに比べれば。

「アンデットだって気付かないわ」

 余裕で、ゾンビっぽいやつや、ホネホネに向かって行った。
 なんと!
 気配を消しているのに、攻撃してくるんだよ。

「なんで?」
「だからーーーぁ!」

 しかしアンデット達の攻撃は、虚しく、そのまま煙のように姿が消えて行った。
 残ったのは魔石だけ。

「下して!」

 ノアは私の背中から降りて、魔石を拾い、私の手に乗せる。

「収納しておいて。カーラが潜伏や隠密と思っているのは、ただのピィリフィケイションの強化版」
「へっ?」

 私は、自分の気配を遮断するカプセルをイメージしたのに。

「あのね、スキルって職業で、習得したりできるんだよ。もともとカーラのように、プリーストのような事が出来る人もいる。家族に聖職者がいて、毎日暮らす中でね。」
「そうなんだ~」

 魔法使いだって鍛冶師や、ノアの家族のように猟師だって、職業を選ぶ前から、一緒に暮らしていれば、備わる能力があるそうだ。
 私は、ヴェルジュの血とシグルーンの血を糧に、ロイ爺さん達に、教育されて育った。
 だから、浄化魔法や、癒し魔法が使え、雷魔法と言う強力な魔法まで。
 放電だけだど。
 身体能力も厳しい特訓で、高いらしい。

「もう、バレバレなんだからいいんじゃない。そんなに気配を消すスキルが欲しいなら、ブロンズカードになって暗殺者とか、盗賊とかそんな職業を取得したら?」

 暗殺者とか盗賊だとか、実際に言葉とおりの職業?と言ってよいのかは、疑問だが、生業にしている者もいる。
 冒険者としての職業スキルは、中々使える能力を開花し、活かせるという。

「カーラは、あの小さな子供が気掛かりで、無事がわかれば、いいんでしょ?」
「・・・うん。」

 本当は奴隷じゃなく仲間として扱ってくれれば・・な。
 だが、この世界は無情なんだ。
 プラス思考も今は考えられない。

「兎に角行こう。同じギルマスに、怒られるなら、がっぽり魔石を集めるわ!」
「うん!」

 ノアの気遣いが嬉しい。
 前向き発言が、私を浮上させる。
 やります!
 これは出来るのです。
 
「ピュリフィケイション!」

 アンデットよ成仏しなさい!
 心の中でお経を唱えたわ。




================

 冒険者ギルドのカウンターに座り、時計をチラチラ見る。

「どうした? マリアンヌ」
「あっ! ミィーシャ」

 何とも情けない声をだしてしまう。

「受け持つ子達が帰って来ないんです」
「そんなの普通じゃない。それより、飲みに行こうよ」

 ミィーシャは、同じ年齢の冒険者。
 ムササビ族と言う木の上で生活する獣人です。
 茶の髪に青い目の可愛い女の子なのだが、とてもお酒が大好きで、暗殺者いわゆるアサシンを職種にしている。

「あなたみたいなアイアンカード上位者ならいいけど、まだヒヨコちゃんと、やっとヒヨコから脱出した子たちなの。それに、ヒヨコの保護者がぁぁぁぁ」

 がくがくと震えが来た。
 いくら仲良しのミィーシャにでも言えない。
 ウールヴへジンこと、ウール様が、シグルーンと言う、カーラの保護者そのニとは。
 その一はヴェルジュ様で、大元締めは伝説のブラックスミスのロイ様。
 何かあったらーーーーーーっ!!

「ちょっと、マリアンヌ? 白眼だよ」
「はぁっ!」

 私としたことが。
 顔をくいくいと作る。

「ミィーシャ、お願いを聞いてください」
「嫌だ」
「ミィーシャ~」

 カウンターを乗り越えて、細い彼女の腰にすがった。

「どうせヒヨコちゃん達の様子を見てきてだろ?」

 うんうんと首をふる。

「ほっとけ! それもヒヨコの選んだ事だ」


 それができたら頼まなねーよ!
 もしも、あの筋肉凶暴女がいない間に、ヒヨコに何かあったら、このギルドは一日で残骸になるんだよぉぉぉ!
 そうなれば、私も違う職場に移動し、こんなところなんてくそくらえだ。
 だけど、その前に、きっと昇天させられるんだ・・・。

「何を考えているか知らないけど、百面相だな。樽酒で!」
「へっ? 樽・・酒」

 私のお給料・・・
 ここはお給料よりも、我が命が大事。

「カーラと言う赤毛で、ココナッツ色のーーー」
「知っている。異国のお姫さんと、動く的に当たらないハンターのハーフエルフ。」
「そう! その子達が無事ならいいの。 もしも危ないなら」
「樽酒追加」
「あ・・あ・・はい」

 ミィーシャに、彼女達のクエストを言う。
 彼女は、それだけ聞くと、煙のように消えた。

 無事に帰って来やがったら、ヒヨコのやつらに、樽酒を奉納させてやるぅぅぅ!
 表情は笑顔を保つ。
 そう、これが受付嬢の基本姿勢ですから。


 
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