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25 罪を憎んで人を憎まず

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 カリンちゃんの焼きたて胡桃パンも、ウエストポーチに入れました。
 いよいよワースティアの街へ向かいます。


 船はパドル船で、大河の流れに逆らいながら進んでいきます。
 大河と言うより、海みたいに広くて岸が見えません。
 私は船のデッキの上で、ぼけ~っとしていた。

「ねぇ、リズ」
「なんじゃ。ふわふわをもう一つじゃ」

 小さな体の何処にはいるのか?
 ウエストポーチから、焼きたての胡桃パンを出して渡してあげる。

「シグルーンや、ヴェルジュにも、色々とあるんだよね」
「知らぬ。じゃが、昨夜の話は昔語りじゃ。魔獣は魔獣じゃからの。人族にとっては危惧すべきもの。わらわも、また残酷な思念が育てば、この世界を破壊するだろうよ」

 他人事のようだ。
 実際、残酷な思念が大きくなれば、リズの意思など無いに等しくなる。
 シグルーンは氷の世界で、鎖に繋がれていた。
 それは何かしたからだろう。
 はじめは超怖かったしね。

「カーラ!」

 息を切らせてノアが来た。

「今回引率者ってあのS級冒険者のヘルヴォル・アルヴィトル様よ。超絶かっこいい!それにねアサシンのミィーシャさんもいるの。私達をダンジョンから助けてくれた。」
「ほんと! お礼を言わなきゃ」
「こっちよ」

 ノアが引っ張って行ってくれた。

 ミィーシャさんは何故かイライラしているヘルヴォル・アルヴィトルの近くで、魔石が埋め込まれた小箱を首からぶら下げています。

「ミィーシャさん。」
「ノアちゃん。ちょっとは動く的に当てれるようになった~ぁ?」
「ぐさっ! いえ、たま~に偶然に・・練習あるのみです」

 それを聞き、ミィーシャさんは笑う。
 笑顔がとても可愛らしい女性だ。

「あの、カーラと言います。」
「おっ! お姫様じゃない。今回治癒師見習いで参加だったね」
「あ、はい。ダンジョンではありがとうございました。でもお姫様じゃありません」
「ふ~ん。その魔力増幅の腕輪ってサハラーァ王国の紋章じゃないの?」

 忘れていました。
 完全にアクセサリーとしての腕輪だった。
 魔力増幅の腕輪とロイ爺さんに貰ったよ。
 なんか、ロイ爺さんには許せない物で、手を加えたとか言っていたような・・。
 細工はそのままとは言っていたけど、サハラーァ王国の紋章が施しているなんて知らなかったです。
 でも私が、初めから持っていたものではない。
 それは、女の人が持っていたのだ。
 氷の世界で、亡くなった私の母親かも知れない人。

「ロイ爺さんに頂いた物です。」
「そうなの。まぁロイ様と懇意にしているならお嬢様ね。いいんじゃない。あなたの戦いぶりって面白いし」

 悪気はなさそう。
 厚化粧のミラーとはまた違う。

「・・遅い」

 美声が聞こえる。
 それはヘルヴォル・アルヴィトルの声だ。

「あなたにしたら遅いかもね」
「かもじゃなく、遅すぎる」

 ヘルヴォル・アルヴィトルのイライラの原因は船のスピードが許せないくらいに遅いと言う。

「ミィーシャさん。げっ!」

 その声に振り向けば、そこに槍使いのダニエルと鼻ピアスのガイルに厚化粧のミラーがいた。

「げっ!? あ~なるほど。カーラちゃんとノアちゃん。この三人組とは縁があるのよね」
「因縁ですか?」

 ノアの言葉のストレートパンチがヒットする。

「あの時はすまなかった。」
「俺達は許されない過ちを犯していた」
「ごめん・・。」

 三人組は深々と頭を下げる。

「まだ可愛いの~。な! カーラよ。自身が犯した過ちを悔いると言うのは知性のある人のみが出来ることじゃ~。」
「そうなの?」
「そうじゃ~。まぁ、高い知性を持つ魔物や魔獣も、そう言う行為をとるものもいるかの。干し肉を出してたもう」

 良いことを言ったから、干し肉を催促ですか。

「・・・見本となる先輩冒険者でいてください」
「いいの? カーラ」
「うん、ノア。もしもまたするなら、同じ方法で、私がダンジョンにて今度は放置します」

 ダンジョンでの悪事は裁けない。
 それなら、麻痺状態にし、放置すれば、ダンジョンの魔物や魔獣が処理してくれる。

「甘々ちゃんだと思ったけど。いいんじゃない」

 魔石の付いた小箱を向けるミィーシャさんだ。
 それは、記録石と言う魔石で、今回、復興支援での参加者の記録を撮る物だと教えてくれた。
 ビデオカメラだろう。
 ミィーシャさんは記録、判定を任されて同行しているそうだ。

 罪を憎んで人を憎まず
 犯した罪は憎むべきだが、罪を犯した人を憎んではいけないって事。
 だけど、これが、身近な愛する者が、被害にあったら、きっと私は、憎むだろう。
 前世の私は、車を運転していた人を憎んだ。
 目を元に戻してよーーーぉってね。
 このことわざは、凄く難しいと思うわ。
 私は、聖人じゃない。


「・・もう我慢できない」

 突然立ち上がるヘルヴォル・アルヴィトルだ。
 手には、ギンレイヴと言う名の大きな斧が輝いている。

「ち、ちょっと何をするの?」
「・・魔石に魔力流す」

 この船は魔石を動力に動いている。
 魔力を与えて、加速させるとヘルヴォル・アルヴィトルは言った。

「え、えーっ!」

 ミィーシャさんは船長に話すべく、消えた。
 あれが、アサシン。
 かっこいい~です。

「おい、加速って。俺達も行こうぜ」
「早く現地に着かなくちゃ、行ったは何もする事がなかったなんて・・」
「あぁ、もう俺はランドグリスさんの罰は嫌だ」

 三人組は慌ててヘルヴォル・アルヴィトルの後を追う。

「じゃ、私達も行った方が良いよね」

 ノアも行こうとするが、私は、船首に向かいます。

「ノア、凄い加速なら、凄い風圧とかくるよね」
「そうよね・・わかんないけど」

 この世界に来る時、ヴェルジュが気圧の影響を受けないように、調節してくれた。
 ここは風圧で、船や、乗る者達を守り、よりスムーズに進むことだろう。

「え・・と。まずはイメージが大事」

 がくっーっと船は大きく揺れる。
 ヘルヴォルさん~!
 待ってください。

「ドローシ!」

 右手を突き出し、五本の鎖を船にさす。

「ノア、つかまって!」
「ひぃぃぃぃーーー」

 凄い風圧が来た。
 もう、びしょ濡れです。

 心を落ち着かせる。
 ちゃんとイメージしないと、不発に終わるから。
 早い乗り物って新幹線しか思い出せず、流線型の車両をイメージした。
 分厚い分厚い膜。
 風の抵抗を流す。

「バリヤー!」

 はい。
 超単細胞です。
 だけどしっかりとイメージが出来ている。

「全く、風が来ないわ」
「うん。だけど結構キツイです。魔力の増援を探してきてください」
「カーラ、頑張るのじゃぞ。」
「はい」

 リズは応援だけは出来ると、肩の上で、はしゃぐ。
 集中させて欲しいです。
 でも一応リズなりに協力してくれているのだろう。

 しばらくして魔法ギルドの見習い達が来てくれた。
 どこのギルドも見習いや駆け出しばかりだ。

「魔力を貴女に送ればいいの?」
「はい。おねがいします。この形は変えたくないので」
「変わったシールドプロテクトですね」

 バリヤではなくシールドプロテクトと言うのかと知りましたよ。
 でもバリヤの方が、私は、イメージしやすいです。
 バリヤは見えない障壁や防壁。
 よく、鬼ごっこで「バリヤー」とか言ったっけ。
 
 何人かの魔法使いのたまごさん達が、魔力を流してはくれるが・・・。
 うん! 頑張ろう。

 いったい何キロで船は進んでいるのだろう。
 景色が流れています。

「凄いじゃない。お嬢様」
「ミィーシャさん。ヘルヴォルさんに、いつまでって聞いて来てくださいよ」

 マジにこれが、続くとぶっ倒れる。

「ちゃんと腕輪も作動しているけど、あなたの魔力自体多いみたい」

 観察しなくていいから。

「ノアちゃん、これでも飲ませてあげて。皆も限界まではやめなさいよ」

 ノアは小瓶をミィーシャさんから受け取った。
 それは魔力回復のお薬。
 魔法使いや、魔力を使う者ならば、必ず携帯しているもの。
 
 見れば、何人かの魔法使いのたまごさん達も、持っていて、魔力を回復している。

「飲む?」
「うん。飲ませて。」

 両手が塞がっているから、ノアに飲ませてもらう。
 あまり美味しくはなかったが、魔力は回復したようで、まだこのバリヤは、はれますね。

「あれってフォレスタの街の船よ。材木があんなに」
「あっちはベルクウエルクの船だ。すげーぇ石材だぜ」
「追い抜いたわ!」

 いけいけーっと騒ぐけど、ちゃんと魔力を流してください。

「・・・中々の衝撃壁だ。」
「へ、ヘルヴォル様!」

 ノアの声に振り向くと真後ろにヘルヴォルさんがいた。

「なんじゃ~。おぬしは子守かの」
「・・あぁ。ランドグリスに言われた・・会いにいきたかったのだがな」
「ほほぉ~シグルーンは今は留守じゃぞ。修行にサク坊を連れていきよったわ」

 シグルーン?
 

「シグルーンとお知り合いですか?」
「・・あぁ」
「そうですか。私は、カーラです。シグルーンに名を付けてもらいました」
「・・・・また・・とんでもない名を」

 意味がわかるのだろう。
 ヘルヴォルさんは、哀れな子を見る目で、私を、見ました。

「後・・数時間・・そのままで」

 そう言うと彼はその場に座り込む。

 手伝ってくれるんじゃないのかよーぉ!?
 と心の中で突っ込みました。

 ヴェルジュでも、シグルーンでもロイ爺さんでもない、ある種のしごき訓練のような感じで、私は、バリヤを張り続けた。

 
 
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