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2巻
2-3
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青龍国の後宮には、当然のことながら、男性は入ることができない。
皇帝と宦官、太医くらいしか入ることを許されていないこの後宮で、この男装姿を見られたら、大騒ぎになってしまうかもしれない。
私は急いで男物の幞頭を脱ぎ捨て、結い上げていた髪を下ろした。
階段を上がってくる相手の視線から逃れるように、柱の陰に身を屈めて顔を伏せる。
「この書物、あなたのものではありませんか?」
「……」
「あら、どうなさったの? 大丈夫?」
高い声の女性はその場にしゃがみ込み、柱に隠れた私の顔を下から覗き込む。
間近で彼女と目が合って、私は言葉を失った。
遠くの明かりにぼんやりと照らされたその女性は、こぼれ落ちそうなほど大きな瞳で真っすぐに私を見ている。結い上げた黒髪には、蝶を象った銀の簪。小さな珠で飾られた歩揺が、冬の寒風に揺れて透き通った美しい音を立てた。
(絶世の、美女……)
突然目の前に現れた美女の姿に目を奪われてぼんやりしていると、彼女は不思議そうに首を傾け、ぱちぱちと目を瞬かせた。
男物の袍を着て、長い髪をまとめもせずに風に揺らす私の姿は、さぞや滑稽に見えるだろう。
案の定、彼女は困惑した様子で恐る恐る口を開いた。
「あなた、宦官なの?」
「いえ、そういうわけではなく……申し訳ありません。すぐに出て行きますからご安心ください。拾っていただきありがとうございました」
美女の持つ書物を受け取ろうと、両手を差し出す。
「これは四龍の昔話を集めたものよね。とても懐かしいわ」
私に手渡す前に、彼女はその大きな瞳で手元の書物をまじまじと見つめた。
「……懐かしい? それを読んだことがあるのですか?」
「ええ、私は玄龍国から来たから。玄龍国の昔話は、子どもの頃に父に何度も読んでもらったわ」
美女はにっこりと微笑んで、それから私の両手の上に書物を載せる。
(ああ、なるほど。やはり今回は青龍国だけではなく、四龍の各国から妃嬪を迎えたのね。この方は皇太后と同じ、玄龍国出身の妃嬪なんだわ)
私が男装してこんな場所に一人でいることも、青龍国にまだ慣れていない彼女にとっては、さほど不思議なことではないのかもしれない。
取り乱さず落ち着いた様子で微笑む彼女の姿に、私も安堵して胸を撫でおろした。
騒ぎにはならず、無事に馨佳殿まで帰れそうだ。私は美女から受け取った書物をもう一度包み直し、隠してあった襦裙と共に胸に抱えた。
しゃがんだ姿勢から立ち上がると、それに合わせて彼女もゆっくりと立ち上がって私にもう一度笑顔を見せる。
(やっぱり、お綺麗な方)
これほどまでの美女は、後宮の中でも見たことがない。妖艶な美しさと、天真爛漫で親しみやすい雰囲気を両方とも兼ね備えている。
それに、銀でできた簪はとても豪華で、裕福な家でなければ手に入らない高価なものに見える。
きっと彼女は玄龍国でも地位のある家の娘か、そうでなくても、良い後見人が付いているのだろう。
「ねえ、あなたは誰に仕えているの? 今日は大勢の妃嬪が入内したから、道に迷ってここに来てしまったの?」
「いえ、大丈夫です。私は馨佳殿のほうに戻ります」
「馨佳殿? それはどこかしら。私も今日入内したばかりで、道案内ができず申し訳ないわね」
「とんでもありません! 一人で戻れますので。夜半に大変お騒がせしました」
彼女の美しさに見惚れてつい長居をしてしまったが、いつまでもここで時間を潰していては、永翔様の訪いに間に合わなくなる。
私は大きく頭を下げ、彼女の横をすり抜けて階段を駆け下りた。
(こんな格好だけど、着替える場所もないし仕方ないわ。このまま馨佳殿に戻ろう)
闇に包まれた後宮の中を男装姿で走り抜け、私が馨佳殿に到着すると、何やら中が騒がしい。侍女たちが私の不在を心配して、騒ぎ始めているようだ。
雪と泥で汚れた男物の袍を身に付け、髪を振り乱して息を切らせた私を、馨佳殿の侍女たちは悲鳴を上げながら迎えるのだった。
「子琴、陛下はまだかしら。せっかく準備してくれた夕餉が冷めてしまうわね」
今夜は永翔様の好物を色々と用意したのに、当の本人がいつまで経っても馨佳殿に現れない。
(きっと、私が商儀に永翔様の足止めを頼んだからだわ。頑張って青龍殿に引き留めてくれているのかも)
私が後宮を抜け出したばかりに、侍女や商儀に手間をかけさせてしまった。心苦しく思いながら、私は殿舎の外に出て夜空を見上げる。
先ほどまで散らつく程度だった雪は、段々と強さを増している。青龍殿から馨佳殿まで移動するだけでも大変なのに、この寒さと雪では尚更だ。
「永翔様が風邪を引いてしまわないか心配だわ」
「そうですね。ささ、明凛様も早く中へ。皇帝陛下がお越しになるのに合わせて、お食事を温めなおすように致します。それにしても今夜は遅いですよね。皇帝陛下も冠礼の儀の準備でお忙しいのでしょうか」
「そうね。忙しくてお疲れだからこそ、しっかりお食事をしていただきたいのだけど……」
羹の入った器を下げて出て行く子琴と入れ替わりに、最近新しく侍女となった白容が入ってきて、私の前に跪いた。
「曹妃。皇帝陛下より、今夜は遅くなるため先にお休みになってほしい、とのお言伝でございます」
「まあ……やはりお忙しいのね。白容、陛下がどれくらい遅くなるか聞いている? ちょうど読みたい書物もあるから、少しくらい遅くなっても待てるのだけど」
「あの、どうやら今夜は……えっと……」
「どうしたの、白容。早く教えてちょうだい」
「……申し訳ございません! 本日は新しい妃嬪の入内が多くあり、そちらの対応で手いっぱいだそうです!」
報告を終えた白容は、そのまま床に叩頭して肩を震わせた。
(新しい妃嬪の対応で手いっぱい? 永翔様が?)
確かに、史館に向かう途中で青龍殿の門の前に多くの妃嬪たちが並ぶのを見た。永翔様は、あの方たち一人一人に対面しているのだろうか。
私が初めて後宮に来た日、青龍殿で再会した永翔様は、私に興味のかけらもない様子だった。曹明凛という名前を聞いて、初めてこちらを振り向いたくらいだ。
やはり鄭玉蘭以外の女人には全く興味を持たない人なのだなと、妙に納得したような記憶がある。
(それなのに……今回はどうして?)
動揺していることを悟られないよう、私は白容に手を差し出して立ち上がらせた。
「白容。あなたが何をしたわけでもないんだから、そんな顔をしないでちょうだい」
「でも、曹妃……」
「こんな季節に冷たい床に跪いたら、風邪を引くわ。今日はもう下がっていいから、ゆっくり休んで」
白容を房室から送り出し、誰もいなくなったのを確認して、私は小上がりになった炕の上に腰を下ろした。
炕の下には竈の焚口から引いた煙道を通してあり、床暖房のようになっている。今の季節でも暖かいこの場所は、寒がりの永翔様のお気に入りだ。
沓を脱いで炕に上がり、壁に背を預けて両膝を抱える。
ここ青龍国では、人前で足を見せることはあまり行儀の良いこととはされていない。だからこんな格好をするのは、誰も見ていない今だけ。いつも永翔様が座る定番の場所で、抱えた膝の上に自分の頭をだらりと預けた。
「あれだけ多くの妃嬪が入内したんだもの。いくら永翔様だって、無下に扱うわけにはいかないわよね」
後宮嫌いで知られる永翔様はこれまで、入内した妃嬪たちへの挨拶を顔合わせ程度で簡単に終わらせていた。
しかし、今回はこれまでとは違う。
永翔様が名実ともに青龍国皇帝として立つにあたり、四龍各国とは良好な関係を築いておきたい。皇太后率いる玄龍国出身の官吏たちの暴走に備えて、赤龍国や白龍国を上手く味方に取り込んだほうが得策に決まっている。
四龍のあちこちから集まった妃嬪たちを尊重してこそ、国同士の結束は強まる。
(だから今夜は、私のところに来られないくらいに、ほかの妃嬪たちに時間を割いているんだわ)
永翔様が心から愛する相手は、未来の皇后となる鄭玉蘭ただ一人だけだと決まっている。
それでも、曹琥珀として四歳の頃に永翔様と出会い、今も後宮で永翔様と共に過ごす私には、ほかの妃嬪たちとは違う特別な愛情を向けてもらえるのではないかと、心のどこかで期待していた。
玉蘭が癒すはずの永翔様の心の傷を、私なら代わりに癒すことができるんじゃないか。
永翔様にとって私は、玉蘭以上の寵妃になれるんじゃないか。
烏滸がましくも、そんな風に考えたこともある。
実際はこうして、玉蘭どころかほかの妃嬪たちにすら敵わないのに。
(私ったら……幼稚な嫉妬は見苦しいわ)
両膝を抱える腕にぎゅっと力が入る。
玲玉記の登場人物には、黄明凛という人も曹琥珀という人もいない。私一人だけが、この世界の部外者だ。
自分の立場をわきまえているつもりでも、時々こうして永翔様との距離を感じて切なくなる時がある。
(さっき出会った玄龍国からの妃、ものすごく綺麗な方だったな)
永翔様も、あの美女と対面してご挨拶しただろうか。
いくら後宮嫌いの永翔様だって、あれだけの美女に見つめられたら悪い気はしないだろう。
(むしろ、そのまま彼女の宮に足が向いて、今夜は共に過ごすなんてことも……)
嫌な想像ばかりが頭を巡る。
青龍国の皇帝という立場なら、むしろそれが普通だ。
後宮に住まう妃嬪は、誰もが永翔様のものなのだから。
「はあ……私らしくない。気持ちを切り替えよう。そうだわ、侯遠先生に借りた書物を読まなきゃ!」
あの皇太后のことだから、必ずや永翔様の冠礼の儀を邪魔してくるはずだ。皇太后が大人しく引きこもっている今のうちに、彼女が使う玄龍国の呪術の正体を突き止めておきたい。
書物を包んだ布の結び目を解き、一番薄くて早く読めそうな一冊を取り出す。
それは書物というよりも、黄ばんだ古い紙を無造作に紐で綴じた、冊子のようなものだった。破らないように慎重に頁をめくると、そこには箇条書きで文字が書き連ねられている。
「あれ……? 例の玄龍国の美女は昔話だと言っていたけど、この書物はまた別物ね。なんだか、ただの目録って感じ」
織物、反物、装飾品、驢馬、羊……箇条書きで並べられたそれらの単語の羅列に、私は首を傾げた。
「これは、妃嬪が入内する時に持ち込んだ、持参品の一覧……ってところかしら」
更に頁をめくって見れば、それぞれの持参品の項目の最後には、日付とともに妃嬪の名前らしきものが記されている。書かれた日付が正しければ、二十年近く前の記録のようだった。
「……ということは、前の皇帝、つまり永翔様のお父様の妃嬪についての記録ということになるわね。皇太后の名前もあるかしら」
皇太后――玄龍国の公主、夏玲玉。
青龍国に嫁ぐはずだった姉の身代わりとして、前の皇帝の妃となった悲劇の花嫁。
しかし、一通り最後まで目を通してみても、夏玲玉の名は見つけることができなかった。
その代わりに見つけたのは、夏雪媛の名。
雪媛というのは確か、玲玉の姉の名ではなかっただろうか。だとすると、元々青龍国に嫁ぐはずだったのは、この夏雪媛のほうということになる。
(玲玉記に、玲玉が青龍国に嫁ぐ前の幼少期の出来事が書かれていたわよね。どんな内容だったっけ……?)
前世の記憶の糸を、必死で手繰り寄せる。
しかし、私がこの世界に転生して既に十八年が経っている。十八年以上前に読んだ本の内容を事細かに思い出すのは、いくら玲玉記を愛読していた私にも至難の業だ。
「なぜ雪媛の代わりに玲玉が青龍国に嫁いだのかしら……やっぱり思い出せないわ」
永翔と玉蘭の悲恋の章ばかりを繰り返し読んでいたからか、一度しか読んでいない玲玉の幼少期の章の内容は、頭からすっぽり抜け落ちてしまっている。
なんともったいないことをしたんだろう。玲玉記の世界に転生することが予め分かっていれば、もっと詳しく全編読み込むこともできたのに。
夏雪媛について書かれた頁を開いた状態で小卓の上に書物を置き、私は頭を抱えた。
「雪媛の持参品の目録が存在するということは、直前まで雪媛が青龍国に嫁ぐ予定だったということよね。夏玲玉の入内は、姉の入内直前に急遽決まったものだったということかしら」
今の時点で分かったことを整理するが、真実にたどり着くにはまだまだ遠そうだ。
(こんな時に、玲玉記の語り手だった陶美人がいてくれたら、雪媛のことを詳しく聞けたのにな……)
懐かしい人のことを思い出し、思わず私の口からため息が漏れた。
私の額に毒を浄化する花鈿を与えてくれたのは、前の皇帝の妃嬪であった陶美人だ。正確に言うと、それは生前の陶美人ではなく、彼女が亡くなって幽鬼の姿となった後のことだったのだが。
陶美人は、密かに想い合っていた後宮太医の許陽秀を皇太后に殺され、陽秀との間に生まれた実の娘とも生き別れになったことで、成仏できずに幽鬼としてこの世にとどまった。
幽鬼となった陶美人は、私が四歳の頃に何者かに毒矢で射られたところに偶然居合わせた。尽きようとしていた私の命を救うために花鈿の力を授け、その見返りとして私の記憶を奪ったのだ。
そして陶美人は私の本当の名である琥珀を名乗り、玲玉記の物語の解説をする語り手として色々と私に助言してくれていたのだが――
私と永翔様が彼女の心残りを解消したことにより、陶美人は幽鬼の姿から解き放たれて成仏した。もしかしたら今頃、別人としてこの世に生まれ変わっている頃かもしれない。
「陶美人。今こそあなたの力を借りたかったです」
静まり返った房室の中で一人、私は小卓に突っ伏した。
侯遠先生から借りた書物を片付けることもできないほどの、急激な眠気が私を襲う。
重たくて半分閉じた瞼の向こう側にうっすら見えたのは、珠珠の姿だ。
珠珠は私の隣に寄り添うように寝転ぶと、しっぽを振りながら小さく鳴いた。
「もう……あなたは呑気ね」
珠珠のしっぽを思い切り掴んでやろうと手を伸ばしたが、眠気には勝てない。珠珠に触れる前に力尽きて、腕を小卓の上に投げ出した。
いつもはここにいるはずの永翔様の顔を思い浮かべながら、私は両目を閉じた。
◇
「にゃあ、にゃあっ!」
(ん? なに?)
「珠珠、騒ぐな。明凛が起きてしまう」
「んにゃああっ!」
珠珠の騒がしい鳴き声のせいで、突然夢の世界から引き戻される。
おかしな体勢で小卓に突っ伏していたからか、肩と腰が痛い。
ゆっくり体を起こすと、炕の上に座る私の目の前には永翔様と、その腕に抱かれた珠珠がいた。
「あれ、永翔様?」
「明凛、夜半に起こしてすまない。牀榻に運ぼうと思ったんだが、珠珠がこうして騒ぐから」
永翔様が軽く「めっ」と睨むと、珠珠はツンと顔を逸らしてどこかに行ってしまった。
「申し訳ありません、永翔様。うたた寝をしてしまっていたようです。子琴に言って何か準備させますね」
急いで炕から下りて沓を履くと、ちょうど子琴が温めたばかりの羹を運んできたところだった。永翔様の訪いに気が付いて、温め直してくれたのだろう。
卓の上に並べ終わると、子琴はニヤニヤしながら私に目配せし、そそくさと房室を出て行く。
(もう、子琴ったら)
子琴の笑顔を見ていると、今にも「明凛様、愛されてますね!」という冷やかしが聞こえてきそうだ。
椀を手にして羹を取り分けていると、永翔様は私が毒見をしてしまわないかと窺うように、手元をじっと見つめてくる。
いつもと変わらず私を心配してくれる永翔様の姿に、少し安心した。つい先ほどまでは新しい妃嬪の入内に嫉妬して落ち込んでいたというのに、私も現金なものだ。
「永翔様。ここで作る食事は、子琴が食材からしっかり管理してくれています。侍女が毒見をしてくれていますが、決して危険ではないのですよ」
「……そうか。私のために明凛や子琴にも手間をかけてすまない」
「永翔様はいつもそうやって謝ってばかり! 皇帝陛下がお毒見係を付けるのは当然のことなのですから、罪悪感でご自分を苦しめないでください。それに、私が後宮に来てもうすぐ一年経ちますが、一度も皇太后陛下から毒を盛られたことはありませんし」
羹をすくった匙にふうと息を吹きかけて冷まし、永翔様の口元に運ぶ。
すると、永翔様はそれを素直に口にした。
(幼い頃は、食事にたびたび毒が盛られたと聞いたけど……)
呪術を操ることができる皇太后のことだから、冠礼の儀を前に永翔様の毒殺を狙っても不思議ではない。
しかし実際はこの一年の間、永翔様は一度も毒を盛られたことはなかった。
一年前に入内して以降、皇太后が呪術を使ったのは、清翠殿での幽鬼出没事件のときだけ。
私には、それがどうしても腑に落ちない。
「皇太后陛下が永翔様に対して手を緩めたのはなぜでしょうか。清翠殿での一件を考えても、呪術が使えなくなったわけではなさそうですし」
「明凛。私の食事に盛られた毒が誰の手によるものなのか、調べても証拠は出てこなかったんだ。皇太后の仕業だったと決まったわけではない。毒の件で、不用意に皇太后の名を出さぬほうがよい」
「そうですよね、失礼しました。気を付けます」
「ああ。今のところ信頼できるのは曹侯遠と蔡雨月、それに商儀くらいのものだ。そのほかの者とは、呪術の話はしてはいけない」
永翔様は、「それと」と言って付け加える。
「毒を盛られることが明らかに減ったと感じたのは、前の皇帝陛下の駕崩の頃からだったかもしれないな」
顎に手を当てて、永翔様は考え込んだ。
前の皇帝陛下の駕崩というと、つまり永翔様が皇帝として即位したその時点から、明らかに状況が変わったということになる。
皇帝と宦官、太医くらいしか入ることを許されていないこの後宮で、この男装姿を見られたら、大騒ぎになってしまうかもしれない。
私は急いで男物の幞頭を脱ぎ捨て、結い上げていた髪を下ろした。
階段を上がってくる相手の視線から逃れるように、柱の陰に身を屈めて顔を伏せる。
「この書物、あなたのものではありませんか?」
「……」
「あら、どうなさったの? 大丈夫?」
高い声の女性はその場にしゃがみ込み、柱に隠れた私の顔を下から覗き込む。
間近で彼女と目が合って、私は言葉を失った。
遠くの明かりにぼんやりと照らされたその女性は、こぼれ落ちそうなほど大きな瞳で真っすぐに私を見ている。結い上げた黒髪には、蝶を象った銀の簪。小さな珠で飾られた歩揺が、冬の寒風に揺れて透き通った美しい音を立てた。
(絶世の、美女……)
突然目の前に現れた美女の姿に目を奪われてぼんやりしていると、彼女は不思議そうに首を傾け、ぱちぱちと目を瞬かせた。
男物の袍を着て、長い髪をまとめもせずに風に揺らす私の姿は、さぞや滑稽に見えるだろう。
案の定、彼女は困惑した様子で恐る恐る口を開いた。
「あなた、宦官なの?」
「いえ、そういうわけではなく……申し訳ありません。すぐに出て行きますからご安心ください。拾っていただきありがとうございました」
美女の持つ書物を受け取ろうと、両手を差し出す。
「これは四龍の昔話を集めたものよね。とても懐かしいわ」
私に手渡す前に、彼女はその大きな瞳で手元の書物をまじまじと見つめた。
「……懐かしい? それを読んだことがあるのですか?」
「ええ、私は玄龍国から来たから。玄龍国の昔話は、子どもの頃に父に何度も読んでもらったわ」
美女はにっこりと微笑んで、それから私の両手の上に書物を載せる。
(ああ、なるほど。やはり今回は青龍国だけではなく、四龍の各国から妃嬪を迎えたのね。この方は皇太后と同じ、玄龍国出身の妃嬪なんだわ)
私が男装してこんな場所に一人でいることも、青龍国にまだ慣れていない彼女にとっては、さほど不思議なことではないのかもしれない。
取り乱さず落ち着いた様子で微笑む彼女の姿に、私も安堵して胸を撫でおろした。
騒ぎにはならず、無事に馨佳殿まで帰れそうだ。私は美女から受け取った書物をもう一度包み直し、隠してあった襦裙と共に胸に抱えた。
しゃがんだ姿勢から立ち上がると、それに合わせて彼女もゆっくりと立ち上がって私にもう一度笑顔を見せる。
(やっぱり、お綺麗な方)
これほどまでの美女は、後宮の中でも見たことがない。妖艶な美しさと、天真爛漫で親しみやすい雰囲気を両方とも兼ね備えている。
それに、銀でできた簪はとても豪華で、裕福な家でなければ手に入らない高価なものに見える。
きっと彼女は玄龍国でも地位のある家の娘か、そうでなくても、良い後見人が付いているのだろう。
「ねえ、あなたは誰に仕えているの? 今日は大勢の妃嬪が入内したから、道に迷ってここに来てしまったの?」
「いえ、大丈夫です。私は馨佳殿のほうに戻ります」
「馨佳殿? それはどこかしら。私も今日入内したばかりで、道案内ができず申し訳ないわね」
「とんでもありません! 一人で戻れますので。夜半に大変お騒がせしました」
彼女の美しさに見惚れてつい長居をしてしまったが、いつまでもここで時間を潰していては、永翔様の訪いに間に合わなくなる。
私は大きく頭を下げ、彼女の横をすり抜けて階段を駆け下りた。
(こんな格好だけど、着替える場所もないし仕方ないわ。このまま馨佳殿に戻ろう)
闇に包まれた後宮の中を男装姿で走り抜け、私が馨佳殿に到着すると、何やら中が騒がしい。侍女たちが私の不在を心配して、騒ぎ始めているようだ。
雪と泥で汚れた男物の袍を身に付け、髪を振り乱して息を切らせた私を、馨佳殿の侍女たちは悲鳴を上げながら迎えるのだった。
「子琴、陛下はまだかしら。せっかく準備してくれた夕餉が冷めてしまうわね」
今夜は永翔様の好物を色々と用意したのに、当の本人がいつまで経っても馨佳殿に現れない。
(きっと、私が商儀に永翔様の足止めを頼んだからだわ。頑張って青龍殿に引き留めてくれているのかも)
私が後宮を抜け出したばかりに、侍女や商儀に手間をかけさせてしまった。心苦しく思いながら、私は殿舎の外に出て夜空を見上げる。
先ほどまで散らつく程度だった雪は、段々と強さを増している。青龍殿から馨佳殿まで移動するだけでも大変なのに、この寒さと雪では尚更だ。
「永翔様が風邪を引いてしまわないか心配だわ」
「そうですね。ささ、明凛様も早く中へ。皇帝陛下がお越しになるのに合わせて、お食事を温めなおすように致します。それにしても今夜は遅いですよね。皇帝陛下も冠礼の儀の準備でお忙しいのでしょうか」
「そうね。忙しくてお疲れだからこそ、しっかりお食事をしていただきたいのだけど……」
羹の入った器を下げて出て行く子琴と入れ替わりに、最近新しく侍女となった白容が入ってきて、私の前に跪いた。
「曹妃。皇帝陛下より、今夜は遅くなるため先にお休みになってほしい、とのお言伝でございます」
「まあ……やはりお忙しいのね。白容、陛下がどれくらい遅くなるか聞いている? ちょうど読みたい書物もあるから、少しくらい遅くなっても待てるのだけど」
「あの、どうやら今夜は……えっと……」
「どうしたの、白容。早く教えてちょうだい」
「……申し訳ございません! 本日は新しい妃嬪の入内が多くあり、そちらの対応で手いっぱいだそうです!」
報告を終えた白容は、そのまま床に叩頭して肩を震わせた。
(新しい妃嬪の対応で手いっぱい? 永翔様が?)
確かに、史館に向かう途中で青龍殿の門の前に多くの妃嬪たちが並ぶのを見た。永翔様は、あの方たち一人一人に対面しているのだろうか。
私が初めて後宮に来た日、青龍殿で再会した永翔様は、私に興味のかけらもない様子だった。曹明凛という名前を聞いて、初めてこちらを振り向いたくらいだ。
やはり鄭玉蘭以外の女人には全く興味を持たない人なのだなと、妙に納得したような記憶がある。
(それなのに……今回はどうして?)
動揺していることを悟られないよう、私は白容に手を差し出して立ち上がらせた。
「白容。あなたが何をしたわけでもないんだから、そんな顔をしないでちょうだい」
「でも、曹妃……」
「こんな季節に冷たい床に跪いたら、風邪を引くわ。今日はもう下がっていいから、ゆっくり休んで」
白容を房室から送り出し、誰もいなくなったのを確認して、私は小上がりになった炕の上に腰を下ろした。
炕の下には竈の焚口から引いた煙道を通してあり、床暖房のようになっている。今の季節でも暖かいこの場所は、寒がりの永翔様のお気に入りだ。
沓を脱いで炕に上がり、壁に背を預けて両膝を抱える。
ここ青龍国では、人前で足を見せることはあまり行儀の良いこととはされていない。だからこんな格好をするのは、誰も見ていない今だけ。いつも永翔様が座る定番の場所で、抱えた膝の上に自分の頭をだらりと預けた。
「あれだけ多くの妃嬪が入内したんだもの。いくら永翔様だって、無下に扱うわけにはいかないわよね」
後宮嫌いで知られる永翔様はこれまで、入内した妃嬪たちへの挨拶を顔合わせ程度で簡単に終わらせていた。
しかし、今回はこれまでとは違う。
永翔様が名実ともに青龍国皇帝として立つにあたり、四龍各国とは良好な関係を築いておきたい。皇太后率いる玄龍国出身の官吏たちの暴走に備えて、赤龍国や白龍国を上手く味方に取り込んだほうが得策に決まっている。
四龍のあちこちから集まった妃嬪たちを尊重してこそ、国同士の結束は強まる。
(だから今夜は、私のところに来られないくらいに、ほかの妃嬪たちに時間を割いているんだわ)
永翔様が心から愛する相手は、未来の皇后となる鄭玉蘭ただ一人だけだと決まっている。
それでも、曹琥珀として四歳の頃に永翔様と出会い、今も後宮で永翔様と共に過ごす私には、ほかの妃嬪たちとは違う特別な愛情を向けてもらえるのではないかと、心のどこかで期待していた。
玉蘭が癒すはずの永翔様の心の傷を、私なら代わりに癒すことができるんじゃないか。
永翔様にとって私は、玉蘭以上の寵妃になれるんじゃないか。
烏滸がましくも、そんな風に考えたこともある。
実際はこうして、玉蘭どころかほかの妃嬪たちにすら敵わないのに。
(私ったら……幼稚な嫉妬は見苦しいわ)
両膝を抱える腕にぎゅっと力が入る。
玲玉記の登場人物には、黄明凛という人も曹琥珀という人もいない。私一人だけが、この世界の部外者だ。
自分の立場をわきまえているつもりでも、時々こうして永翔様との距離を感じて切なくなる時がある。
(さっき出会った玄龍国からの妃、ものすごく綺麗な方だったな)
永翔様も、あの美女と対面してご挨拶しただろうか。
いくら後宮嫌いの永翔様だって、あれだけの美女に見つめられたら悪い気はしないだろう。
(むしろ、そのまま彼女の宮に足が向いて、今夜は共に過ごすなんてことも……)
嫌な想像ばかりが頭を巡る。
青龍国の皇帝という立場なら、むしろそれが普通だ。
後宮に住まう妃嬪は、誰もが永翔様のものなのだから。
「はあ……私らしくない。気持ちを切り替えよう。そうだわ、侯遠先生に借りた書物を読まなきゃ!」
あの皇太后のことだから、必ずや永翔様の冠礼の儀を邪魔してくるはずだ。皇太后が大人しく引きこもっている今のうちに、彼女が使う玄龍国の呪術の正体を突き止めておきたい。
書物を包んだ布の結び目を解き、一番薄くて早く読めそうな一冊を取り出す。
それは書物というよりも、黄ばんだ古い紙を無造作に紐で綴じた、冊子のようなものだった。破らないように慎重に頁をめくると、そこには箇条書きで文字が書き連ねられている。
「あれ……? 例の玄龍国の美女は昔話だと言っていたけど、この書物はまた別物ね。なんだか、ただの目録って感じ」
織物、反物、装飾品、驢馬、羊……箇条書きで並べられたそれらの単語の羅列に、私は首を傾げた。
「これは、妃嬪が入内する時に持ち込んだ、持参品の一覧……ってところかしら」
更に頁をめくって見れば、それぞれの持参品の項目の最後には、日付とともに妃嬪の名前らしきものが記されている。書かれた日付が正しければ、二十年近く前の記録のようだった。
「……ということは、前の皇帝、つまり永翔様のお父様の妃嬪についての記録ということになるわね。皇太后の名前もあるかしら」
皇太后――玄龍国の公主、夏玲玉。
青龍国に嫁ぐはずだった姉の身代わりとして、前の皇帝の妃となった悲劇の花嫁。
しかし、一通り最後まで目を通してみても、夏玲玉の名は見つけることができなかった。
その代わりに見つけたのは、夏雪媛の名。
雪媛というのは確か、玲玉の姉の名ではなかっただろうか。だとすると、元々青龍国に嫁ぐはずだったのは、この夏雪媛のほうということになる。
(玲玉記に、玲玉が青龍国に嫁ぐ前の幼少期の出来事が書かれていたわよね。どんな内容だったっけ……?)
前世の記憶の糸を、必死で手繰り寄せる。
しかし、私がこの世界に転生して既に十八年が経っている。十八年以上前に読んだ本の内容を事細かに思い出すのは、いくら玲玉記を愛読していた私にも至難の業だ。
「なぜ雪媛の代わりに玲玉が青龍国に嫁いだのかしら……やっぱり思い出せないわ」
永翔と玉蘭の悲恋の章ばかりを繰り返し読んでいたからか、一度しか読んでいない玲玉の幼少期の章の内容は、頭からすっぽり抜け落ちてしまっている。
なんともったいないことをしたんだろう。玲玉記の世界に転生することが予め分かっていれば、もっと詳しく全編読み込むこともできたのに。
夏雪媛について書かれた頁を開いた状態で小卓の上に書物を置き、私は頭を抱えた。
「雪媛の持参品の目録が存在するということは、直前まで雪媛が青龍国に嫁ぐ予定だったということよね。夏玲玉の入内は、姉の入内直前に急遽決まったものだったということかしら」
今の時点で分かったことを整理するが、真実にたどり着くにはまだまだ遠そうだ。
(こんな時に、玲玉記の語り手だった陶美人がいてくれたら、雪媛のことを詳しく聞けたのにな……)
懐かしい人のことを思い出し、思わず私の口からため息が漏れた。
私の額に毒を浄化する花鈿を与えてくれたのは、前の皇帝の妃嬪であった陶美人だ。正確に言うと、それは生前の陶美人ではなく、彼女が亡くなって幽鬼の姿となった後のことだったのだが。
陶美人は、密かに想い合っていた後宮太医の許陽秀を皇太后に殺され、陽秀との間に生まれた実の娘とも生き別れになったことで、成仏できずに幽鬼としてこの世にとどまった。
幽鬼となった陶美人は、私が四歳の頃に何者かに毒矢で射られたところに偶然居合わせた。尽きようとしていた私の命を救うために花鈿の力を授け、その見返りとして私の記憶を奪ったのだ。
そして陶美人は私の本当の名である琥珀を名乗り、玲玉記の物語の解説をする語り手として色々と私に助言してくれていたのだが――
私と永翔様が彼女の心残りを解消したことにより、陶美人は幽鬼の姿から解き放たれて成仏した。もしかしたら今頃、別人としてこの世に生まれ変わっている頃かもしれない。
「陶美人。今こそあなたの力を借りたかったです」
静まり返った房室の中で一人、私は小卓に突っ伏した。
侯遠先生から借りた書物を片付けることもできないほどの、急激な眠気が私を襲う。
重たくて半分閉じた瞼の向こう側にうっすら見えたのは、珠珠の姿だ。
珠珠は私の隣に寄り添うように寝転ぶと、しっぽを振りながら小さく鳴いた。
「もう……あなたは呑気ね」
珠珠のしっぽを思い切り掴んでやろうと手を伸ばしたが、眠気には勝てない。珠珠に触れる前に力尽きて、腕を小卓の上に投げ出した。
いつもはここにいるはずの永翔様の顔を思い浮かべながら、私は両目を閉じた。
◇
「にゃあ、にゃあっ!」
(ん? なに?)
「珠珠、騒ぐな。明凛が起きてしまう」
「んにゃああっ!」
珠珠の騒がしい鳴き声のせいで、突然夢の世界から引き戻される。
おかしな体勢で小卓に突っ伏していたからか、肩と腰が痛い。
ゆっくり体を起こすと、炕の上に座る私の目の前には永翔様と、その腕に抱かれた珠珠がいた。
「あれ、永翔様?」
「明凛、夜半に起こしてすまない。牀榻に運ぼうと思ったんだが、珠珠がこうして騒ぐから」
永翔様が軽く「めっ」と睨むと、珠珠はツンと顔を逸らしてどこかに行ってしまった。
「申し訳ありません、永翔様。うたた寝をしてしまっていたようです。子琴に言って何か準備させますね」
急いで炕から下りて沓を履くと、ちょうど子琴が温めたばかりの羹を運んできたところだった。永翔様の訪いに気が付いて、温め直してくれたのだろう。
卓の上に並べ終わると、子琴はニヤニヤしながら私に目配せし、そそくさと房室を出て行く。
(もう、子琴ったら)
子琴の笑顔を見ていると、今にも「明凛様、愛されてますね!」という冷やかしが聞こえてきそうだ。
椀を手にして羹を取り分けていると、永翔様は私が毒見をしてしまわないかと窺うように、手元をじっと見つめてくる。
いつもと変わらず私を心配してくれる永翔様の姿に、少し安心した。つい先ほどまでは新しい妃嬪の入内に嫉妬して落ち込んでいたというのに、私も現金なものだ。
「永翔様。ここで作る食事は、子琴が食材からしっかり管理してくれています。侍女が毒見をしてくれていますが、決して危険ではないのですよ」
「……そうか。私のために明凛や子琴にも手間をかけてすまない」
「永翔様はいつもそうやって謝ってばかり! 皇帝陛下がお毒見係を付けるのは当然のことなのですから、罪悪感でご自分を苦しめないでください。それに、私が後宮に来てもうすぐ一年経ちますが、一度も皇太后陛下から毒を盛られたことはありませんし」
羹をすくった匙にふうと息を吹きかけて冷まし、永翔様の口元に運ぶ。
すると、永翔様はそれを素直に口にした。
(幼い頃は、食事にたびたび毒が盛られたと聞いたけど……)
呪術を操ることができる皇太后のことだから、冠礼の儀を前に永翔様の毒殺を狙っても不思議ではない。
しかし実際はこの一年の間、永翔様は一度も毒を盛られたことはなかった。
一年前に入内して以降、皇太后が呪術を使ったのは、清翠殿での幽鬼出没事件のときだけ。
私には、それがどうしても腑に落ちない。
「皇太后陛下が永翔様に対して手を緩めたのはなぜでしょうか。清翠殿での一件を考えても、呪術が使えなくなったわけではなさそうですし」
「明凛。私の食事に盛られた毒が誰の手によるものなのか、調べても証拠は出てこなかったんだ。皇太后の仕業だったと決まったわけではない。毒の件で、不用意に皇太后の名を出さぬほうがよい」
「そうですよね、失礼しました。気を付けます」
「ああ。今のところ信頼できるのは曹侯遠と蔡雨月、それに商儀くらいのものだ。そのほかの者とは、呪術の話はしてはいけない」
永翔様は、「それと」と言って付け加える。
「毒を盛られることが明らかに減ったと感じたのは、前の皇帝陛下の駕崩の頃からだったかもしれないな」
顎に手を当てて、永翔様は考え込んだ。
前の皇帝陛下の駕崩というと、つまり永翔様が皇帝として即位したその時点から、明らかに状況が変わったということになる。
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