氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 

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 この世界には郵便局というものはない。
 代わりに手紙や遠方へ物を送る場合、ギルドへ依頼する。ギルドからギルドへ冒険者を使って受け渡され、確実に配達先へ渡してくれるので、皆これを使って依頼するのが一般的だ。お金があれば直接冒険者を雇って現地配達してもらってもいい。
 
「はい、では承りました~。」

 カウンターに座る女性が明るく挨拶をしてくれた。

「よろしくお願いします。」

 小包と配達料を渡してギルドを出ると、ソマルデさんが待っていてくれた。
 
「ご用件はお済みですか?私に言い付けていただければ宜しいのですよ。」

「いえ、個人的なことですし。俺の責任ですし……。」

 少し苦笑して断った。一人で行くから大丈夫と言ったけど、ソマルデさんはずっとついてくる。定期的に刺客が来るのもあるし、俺が消えたりしないか心配しているのだろう。

 ファバーリア侯爵邸へ帰りながら、小包の中身に不足がなかったか考える。
 中身はお金と手紙と小さなおもちゃだ。
 ある所に預けっぱなしになっている子供に送った。

「……………ソマルデさんは何も聞きませんね。」
 
「そのような詮索を主人に対してするべきではありません。」

「俺の方が大分年下ですよ?」

「関係ありませんよ。」

 ソマルデさんは何を聞いても変わらない。

「聞いてたんでしょう?扉の前で。」

 『剣人』スキルは耳もいい。聞こえてたはずだ。

「申し訳ありません。助けが入ればすぐに対応できるよう待機しておりました。」

 それってどちらの助けだろう?

「俺がファバーリア侯爵の側にいられなくなったら、ソマルデさんはどうしますか?」

「勿論、ユンネ様とそのお子様のところに行きますよ。」
 
 それってラビノアもついてきそうだな……。
 でもソマルデさんが一緒に来てくれたら、少しは安心かもしれない。

 さっき送った小包の中の手紙には、もうすぐ迎えに行くと書いている。
 小包は小さな村の孤児院宛だ。

 燻んだ金の髪と明るい水色の瞳の小さな子を、俺は置いて死のうとした。
 その子がいなくなったと思って、自暴自棄になった。
 俺が下を向いて黙り込むと、ソマルデさんが背中をポンポンと叩いてくれた。

「ユンネ様の夫を信じてみても宜しいのでは?」

「ファバーリア侯爵を?」

 横に並んだソマルデさんを見上げると、優しく笑っていた。

「なんなら前の通りに旦那様と呼んであげれば、なんでもすると思いますが。」

 俺はちょっと考えて、そんなバカなと思った。
 だって結婚してるのに違う人間と子供を作ったのだ。それが故意ではなかったとしても、裏切りだ。
 記憶を封じて期間を置いたから、少し冷静になって死のうという気は無くなったけど、今でも心は苦しい。
 はぁ、と溜息を吐いて俺はトボトボと屋敷に帰った。






 普段足音を立てずに歩くソマルデは、態とカッカッと靴を鳴らして扉を開けた。
 中にはやや意識を飛ばしがちなエジエルジーン・ファバーリアが執務机に座っていた。

「お帰りになりましたよ。いい加減気持ちを切り替えて下さい。」

 あの日ユンネに子供がいると言われて、エジエルジーンは呆然と部屋へ戻った。
 詳しく聞きたかったが、もう少し頭の中を整理したいと言われて、渋々部屋に戻ったのだが、内心は荒れ狂っていた。
 子供?ユンネに子供が?
 勿論自分の子供ではない。
 初夜すらする暇が無かったのだ。そういう営みすらしていない。

「ソマルデ…………。ユンネの体調は大丈夫そうか?」
 
「エジエルジーン様がもう少し堂々としてくださればもっとよろしいかと。」

「堂々と………。だが子供がいるということは相手がいるということだろう?私よりそいつのことが好きなのだと言われたら……。」

 離婚………。
 いや、それは二重血判がある為容易ではないので、別居!?
 さあぁぁーーーーと顔色が変わる。

「何を考えているのかは予測つきますが、お相手がいるとは思えません。子供は孤児院に預けているようですよ。本日ギルドに荷物の配達を依頼されましたから。」

「孤児院!?」

 エジエルジーンはささっと今後の手順を考えた。
 ならばその孤児院を突き止めよう。何事も先に調べておいた方がいい。
 
「手配されますか?」

「ああ、頼めるか?」

 ソマルデは頷いた。王都にきてからソマルデは手下を作るようにしていた。主人ユンネ様には詮索しないと言ったが、裏で調べて悟られなければ良いと思っている。

「ですが早めにお話をされた方がよろしいのでは?」

 それは理解しているが、ユンネの気持ちを考えると踏み込めずにいた。結局あの日も聞けずに帰るしか無かったのだ。

「もう一度聞けば教えてくれるだろうか。」

「おそらく。それに、その子を人質にでも取られては困りますので、早めに身柄を確保した方………。」

 最近ボブノーラ公爵とソフィアーネが送ってくる刺客の量が桁違いだ。

「監視は厳しくしているが、向こうも公爵家だ。容易ではない。ファバーリア領地には明日の午後に出発する。」

 既にルキルエル王太子殿下へ黒銀騎士団を動かす許可をとり、ワトビ副官を向かわせていた。
 領地本邸にいたソフィアーネの身柄は取り押さえ、部屋に閉じ込めている。関係した使用人達も全員牢屋に突っ込んでもらっていた。
 こちらの側近を数名先行させて業務が滞らないよう手配させているが、早く向かう必要があった。
 外と連絡がつかないよう監禁しているはずのソフィアーネがどうやって刺客を送っているのかも分かっていない。ソフィアーネに手を貸す者の予測は付いているが、それは実際領地に帰って自分で決着をつけようと思っている。

「先に私が孤児院に向かいましょうか?」

 ソマルデが自分が行くと申し出た。
 エジエルジーンも考えてその方が確実かもしれないと思い直す。

「そうしてくれるか?」

 ソマルデはほんの少し笑って頷いた。
 早く二人で話し合った方が良いのにと思う。
 ユンネ様は自分こそが噂通り不貞を働き子を儲けてしまったことに後ろめたさを持っているが、エジエルジーン様はユンネ様に子供がいることも不貞を働いたことも咎める気がない。むしろ自然に親子引き取るつもりでいる。
 そのことをちゃんと説明すれば良いのだ。

「エジエルジーン様。」

「なんだ?」

「戦場では誰よりも強いのに、私事になると途端に頼りなくなるところは相変わらずですね。」

「うぐっ……。」

「恋愛も戦だと思いませんか?駆け引きです。」

「駆け引き…………。」

 ソマルデはエジエルジーンに近付き立ち上がらせた。促し扉の前に立たせ、いってらっしゃいませと頭を下げる。
 エジエルジーンはこの慇懃無礼なソマルデに何度も尻を叩かれ鍛えられた。

「行ってくる………。」

「行ってらっしゃいませ。」

 にっこりと笑うソマルデに見送られて、エジエルジーンはユンネの下に向かった。






 ユンネに与えた部屋は侯爵夫人の部屋だ。
 本来は寝室を同じにするべきなのだが、ユンネの許可をもらってからするつもりだった。
 ソマルデに送り出されて勢いで来てしまったが、どう切り出せばいいのか未だに迷っている。
 これが黒銀騎士団ならば簡単なのに。

 ユンネの部屋の前で深呼吸をした。
 まだ剣を握って戦う時の方が冷静だ。
 数度ノックすると、中からユンネの返事が返ってきた。

「………私だが、少しいいだろうか。」

 思い切って声をかけると、中から慌ただしく扉が開いた。

「あ、あの、………こんばんは……。」

 慌ただしい室内の様子とは打って変わって、扉はそっと開かれた。
 眉を垂らして緊張しているのが分かる。

「この前の続きを聞かせてくれないだろうか……。」

 ジッと見つめて問い掛けると、ユンネは迷いながらも小さく頷いた。
 やや安堵して中に入れてもらう。拒否されたらまた悶々と悩みそうだった。
 扉が閉まるのを確認して、ユンネの手を取った。
 引っ張ると大人しくついてくる。
 二人掛けのソファに座らせ、自分も隣に座った。
 対面では距離を感じ本音で話してくれない気がしたからだ。

「話を聞く前に一言言っておきたい。」

「はい………。」

 ユンネが何を言われるかと緊張した面持ちで待ち構える。

「君の子供は引き取りたい。養子にしてもいい。だから、…………その、一緒に暮らさないか?」

「……………え?」

 ユンネがキョトンとした。口を小さく開けてもう一度「え?」と言っている。

「私も仕事ばかりで反省している。どう償えばいいのか分からない状態だ。こういうのは苦手なんだ。だから、一緒に暮らしてこれから良い関係を築いていければと思っているが、君はどうだろうか?」

 ユンネはポカンと黙ってしまった。
 ソマルデから恋愛は駆け引きだと言われたが、全く駆け引きが出来ていない気がする。

 ユンネの細目からポロっと涙が出てきた。
 ポロポロと頬を伝っていく。
 泣かせてしまった………!駆け引きと言われても泣く理由が分からず途方に暮れた。

「すまない、何故泣いているか聞いてもいいか?」

 駆け引きは諦めて素直に聞くことにした。
 ユンネはふふっと泣きながら顔を綻ばせた。

「騎士学校の時の話をしてもいいですか?」

 是非聞きたかった。
 子供がいると言うなら行方不明だった時に産んだのだろうと予測がつく。その時何があったのか聞きたかった。

「聞かせてくれ。」

 ギュウと手を握ると、ユンネが困った顔をした。

「っ!………すまない、力が入り過ぎた。」

 慌てて力を緩めると、今日は握り返してくれた。
 それが信用を得たようで嬉しかった。








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