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全てを捧げる精霊魚
71 九老会議
しおりを挟む本日の九老会議は俺も参加した。ま、座ってるだけだけど。予言の神子として初参加になった。
クオラジュが参加するように言ってきたからだが、顔見知りの六主は兎も角、三護は俺を見て怪訝な顔をしている。
何故今日に九老会議が行われることになったかと言うと、本日から赤の翼主フィーサーラが復活するかららしい。フィーサーラがいない間行われなかったのは不利になるからで、謹慎前は週一で三護から議案が提出されていた為毎週開いていた。
本日の議題は『農地改革における利益の独占』だ。先週クオラジュが聖王陛下に説明していたやつなのだが、農地改革自体は俺が言い出した案件だった。
元々この議題の前に行われた九老会議での議題内容から始まる。
天空白露が海に落ちてから、天空白露で浮遊に使われていた神聖力が使われなくなった。この神聖力は自然発生なので、浮いた神聖力は大地に溶け込み大気に混ざった。
天空白露内の神聖力の濃度が上がってしまっていた。
元から天空白露に住み着いていた金持ち連中は、ここぞとばかりにそれを喜んだ。体内に吸収される量が増えた為だ。
それを聞いた各国の王侯貴族や富豪達は、こぞって天空白露の土地を求め出し、地価が爆発的に上がった。元々高いのに、更に上がったのだ。
しかも天上人の多い聖王宮殿内の信徒達からは、大気に含まれる神聖力もお金を取るべきだとか言い出す者が現れ出した。主に三護あたりから広がりつつあり、それは聖王宮殿内に広がっていった。
そんなバカな、空気に税金をつけるつもりなのかと聖王陛下は却下したわけだが、問題解決には至らなかった。
その資料を見ていたクオラジュが説明してくれて、俺はじゃあ余剰分の神聖力は農地とか畜産とかやってみたら減らないのかと聞いてみた。透金英の森の復活が手っ取り早そうだったけど、それはスペリトトの問題が解決しないとやる気になれない。
なので代わりに他のものを育ててはどうかと思ったのだ。
育てた野菜や畜産動物を大々的に流通させるにしても、天空白露には商品を売り捌く為の物流が固定されていない。今までは空を飛んで大陸を回っていた為、その場その場、その時その時出荷出来る物を卸していたらしく、今のように一つ所にいたことがなかった。なので今から産業を広げるにしても、それに合わせて物流も広げる必要があるのだが、正直天空白露にそこまでの余裕はない。と言うのがクオラジュの答えだった。
「じゃあ、イリダナルに委託しよう。」
俺がそう言うとクオラジュはちょっと考えて、それなら天空白露からマドナス国に直接だと、天空白露がマドナス国の属国に見られかねないので、花守主の家を責任者として携わらせようということになった。なんでもイリダナルの国は今勢いが凄く、急成長中らしい。そのうち大陸一の大国にのしあがりそうなので、間を入れておいた方が良さそうだということになった。
要は花守主の存在を商人として中間に置くわけだ。
国で作って、それを花守主の一族が買い取り、マドナス国に売る。元々透金英の花もそうやって売っていたので、全部任せましょうということになった。
そこまで思い出していて、ハタと気付く。リョギエンはめんどくさいことをやらされるので逃げたのか?と。いやでもイリダナルのとこにお世話になってるし、むしろリョギエンで良かったのではと思ったが、仕事をしていると植物の世話が出来なくなるのでそうなのかもなと思った。
兎も角花守主の一族は今後一定の巨大な利益を手に入れるかもしれない。それを独占するつもりなのかと三護は言い出したのだ。
本日の議題『農地改革における利益の独占』は、花守主だけ美味しい思いするんじゃねぇという議題なのだ。
花守主リョギエンの隣には小柄なまだ少年のような人物が座っていた。
挨拶でヌイフェンと名乗っていた。声変わりはしているけど、まだ少年らしい溌剌とした声で、リョギエンと同じ鈍色の髪をしていた。ヌイフェンも当主なので元々は白髪なのだろうと思う。透金英の世話の時以外は透金英の花を食べて身体の中に神聖力を入れているのは一緒だった。リョギエン程目付きは悪くないが、ちょっとキツめな印象はある。髪はふわふわっとしてて後ろだけ伸ばしていた。
テーブルは長丸で、奥にロアートシュエ聖王陛下が座り、左から神聖軍主アゼディム、青の翼主クオラジュ、緑の翼主テトゥーミ、赤の翼主フィーサーラ、花守主リョギエンとヌイフェン、予言者サティーカジィ、白司護長デウィセン、識府護長ノーザレイ、地守護長ソノビオという順に座り、聖王陛下ロアートシュエに戻っている。
ちなみに俺は神聖軍主アゼディムと青の翼主クオラジュの間だ。何で円形なんだ。
始まる前にフィーサーラから手を取られたが、クオラジュがすかさず奪い取っていた。仲悪いな。
「では本会議の提出議題について話し合いましょうか。」
おっとりと聖王陛下が話し始め、それが開始の合図になった。
手元には今後予想される収益予測が配られている。これクオラジュがイリダナルと話し合って作っていた。これを元に農地の整備は進み今育てている真っ最中だ。
まだ苗も動物も少ないので、年々増やして出荷数量を上げていき、それに合わせた利益が出るようになっている。
「何故花守主が一任しているのですか?」
真っ先に口を開いたのはソノビオ地守護長だ。フィーサーラを少し厳つくした感じで、そっくりな赤毛の髪を頭のてっぺんの一部だけ伸ばして結んでいる。水色の瞳は親子そっくりだった。
「元々透金英の花も任せていましたので、一番適任のはずですよ。」
聖王陛下の返答は柔らかい。ソノビオ地守護長の声が低く喧嘩腰なのに対してそよ風のようだ。
「それでは今後予想される利益は花守主がほぼとることになりますか?」
聖王陛下は笑顔で固まっている。最近は執務も追いついてちゃんと寝れているはずだが、お尻を叩かれながらの書類仕事に全体像を把握しきれていなかった。
俺はクオラジュを見ると、クオラジュはしれっと資料を見ていた。自分で作ったから見る必要はないはずなのに、知らんぷりだ。
笑顔の聖王陛下の頭上に転々が見えた気がした。
「花守主はあなた方と一緒で天空白露の機関の一つですよ?働きに対する報酬はありますが、殆どの利益は天空白露に戻る仕組みです。農地改革については青の翼主からの提案で進めていますので、クオラジュに返答をお願いします。」
聖王陛下は逃げた。
クオラジュは視線を上げると、薄っすらと笑顔でソノビオ地守護長をひたと見た。
ちょっと身体が大きくて厳ついソノビオ地守護長の身体がビクッとなるのが見てて分かり笑える。
俺は聞いていた。ソノビオはフィーサーラと入ってくる時、席にクオラジュが座っているのを見て、マズいとこぼしたのだ。
クオラジュがこの九老会議に出席するのは稀らしく、出る必要がないと思う時は欠席している。なので農地改革を裏で指揮を取っていたと知らなかったソノビオ地守護長とフィーサーラは、クオラジュがいると思っていなかったようだ。
「役職にあった適切な仕事の割り振りです。花守主の一族は植物や土の育成に長けておりますし、透金英の花を出荷していた経験もありますよね?適材適所です。それとも地守護長がやれるとでもおっしゃるのですか?」
「任せていただければ。それに現在の花守主は衰退気味でまともに機能するとも思えません。」
クオラジュの投げかけに、ソノビオ地守護長は出来ると言い切り、更に花守主の一族を貶めた。
「お言葉ですが、農地改革自体まだ走り出し。苗も育てる動物も足りない状態です。今から育て広げていかなければならない事業に、未経験者が務まるとも思えません。人が足りないと言うのなら雇えば良いだけです。」
黙って聞いていた次期花守主当主ヌイフェンが口を開き反論した。十四歳とは思えない堂々とした口ぶりに俺は感心した。リョギエンよりしっかりしていそう。十四歳で任命されるのも頷けた。
子供と侮っていたヌイフェンに強く反論され、ソノビオ地守護長の表情が険しくなる。
あのう~と一人、雰囲気を割るように手を上げる人物がいた。
「どうぞ?」
手を上げたのはデウィセン白司護長だ。クオラジュが発言を促しているが、ロアートシュエ聖王陛下はニコニコと見学に回っている。
「利益が出た場合、その利益はどこにいくのでしょう?」
「勿論天空白露の運営にです。」
「我々にも回ってきますか?実は天空白露が大陸西の海に落ちたことにより、大陸東側が手薄になってきているのです。」
デウィセン白司護長は焦茶の髪に瞳の人で、髪はキッチリとなでつけ一つに結んでいた。地味な感じがヤイネに似ている。
白司護はヤイネが所属する部署のようなものだ。各地に存在する司地を取りまとめる役割があり、シュネイシロ神の教えを説いたり、各地の学問や治安維持など、宗教的なこと以外のボランティアもやっている。
天空白露が西に固定された為、教えを信じる人達…、というより天空白露が浮遊していた時に溢れていた神聖力の恩恵がなくなった為、先を見越して土地が荒れる前に西側に移動しようとする人達が後を絶たないのだという。
今現在各地の司地達はその対応に追われていた。
どうやら資金の増額を提案したかったのだが、見込める利益の恩恵には預かれないだろうとソノビオ地守護長に言われて一緒に九老会議に議案を提案したらしい。
クオラジュはその話を聞いてノーザレイ識府護長にも何か意見があるか尋ねた。
ノーザレイ識府護長は黄土色の髪に右側の一房だけ緑色をしており、その緑の一房を三つ編みにしていた。黄緑色の瞳で、全体的なイメージは淡白な感じがする。荒事には関わらず、ツビィロランの勝手なイメージでは図書館にいそうとか大学の准教授や講師やってそうとかいう見た目をしている。あくまでイメージが教授ではないのは印象の薄さの所為だ。
「私からは何も。」
愛想笑いを浮かべてそれだけを言った。その笑顔も特徴がなく薄っぺらく見える。
「承知しました。」
クオラジュはほんの少し目を細めて笑顔を作るが、俺から見ると目が笑っていない。
「白司護には前期より多めに加算致します。それにより今後各地の司地へ地域の人口や経済の詳細な情報を逐一報告させて下さい。毎月まとめて推移を計測するように。東側には定期的に天空白露から巡行する部隊を出す必要がありますね。地守護の役割としてお任せいたします。花守主より余裕があるようですので大丈夫でしょう。場所によっては戦場にもなるかと。十分にお気をつけ下さい。」
クオラジュはサクッと白司護と地守護長に仕事を割り振った。
ソノビオ地守護長とデウィセン白司護長が二人して、え!?という顔をする。
「これこそ適材適所ですね。」
ロアートシュエ聖王陛下の言葉は、そのままクオラジュの言葉を肯定したことになる。
「今後の九老会議はこちらから開催の日程をお知らせします。天空白露が海に落ちたことにより大陸の情勢は大きく変わろうとしています。今後小さな事案で申し込まないように。」
「そんな!?」
ソノビオ地守護長が叫んだが、皆何も言わずに席を立ち出した。クオラジュの一言で終わってしまった。
フィーサーラが大人しかったのが意外だった。父親に加勢するのかと思いきや無言だったのだ。一緒に悪巧みするくらい仲良いのかと思っていたが、意外とあまり良くないのか?
「俺も帰っていいの?」
隣に座るクオラジュへ尋ねると、俺にはニッコリと笑った。
「一緒に戻りましょう。今後予言の神子として活動をお願いしたいことがあります。」
「え、俺も何かしなきゃなの?」
クオラジュは俺の手を取り申し訳なさそうな顔をした。俺には相変わらずスキンシップが多いし感情豊かだ。
「はい、天空白露での貴方の評価があまりよろしくありませんので、それをどうにかしましょう。」
あー、未だにホミィセナ信者いるもんな。俺も率先して近寄らないしな。
このままここにいることになるならどーにかしなきゃなのかなと思い、渋々分かったと頷いた。
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