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全てを捧げる精霊魚
84 また落ちるのか!?
クオラジュとサティーカジィが行方不明になった二人を探している間、俺とイツズは農地改革を行っている場所に来ていた。
勿論イツズの薬材集めの為だ。
イツズは珍しくサティーカジィ抜きで俺の所にやって来て、気晴らしがしたいと誘ってきたので出ることにした。やっぱイツズの気晴らしと言えば薬材採集だろう。
「モグラですか?」
「そうっ、モグラ!」
若き花守主当主ヌイフェンが俺達を案内してくれた。ヌイフェンの髪はリョギエンと一緒で鈍色だ。これも透金英の花を食べているからと聞いている。
「忙しいだろ?大丈夫か?」
イツズはワクワクし過ぎていつもの遠慮がちな性格がどこかに行ってしまっているので、俺が代わりにヌイフェンに気を使って尋ねた。
「指示さえ通れば問題ない。」
ぶっきらぼうな話し方はリョギエンと一緒だなと思いながらも、ヌイフェンは俺達に好意的な態度があるので気にならない。
「天空白露のモグラってね、神聖力たっぷりの土を取り込んですっごく大きいんだよ!」
「ああ、確かに。大陸のモグラは小さいよな。」
天空白露育ちのヌイフェンからすると、小さいモグラの方が珍しいらしい。俺達からすると大きいモグラという奴が想像できない。
「どうやって捕まえるんだ?」
「炙り出すよ?」
チャッとイツズは道具を取り出した。何かの草を丸めた物と着火剤。丸めた草の中央部分に土色の団子状の物が入っている。
ヌイフェンには事前に穴を探してもらうよう頼んでいた。こっちだよ、と言ってちょうど開拓中の土地に連れて行かれる。
この場所は聖王宮殿を囲う町の外になる。盆地になっていて、広い平野は畑に出来そうな感じなのだが、今までは放置されていたらしい。
大陸の方で開墾に人手を募集すると直ぐに応募者が殺到し、厳正に選んで雇い入れた人達が、今せっせと土を掘り返していた。天空白露に住める上に給料まで出るので、相当な数が集まったらしい。
今はモグラを捕まえる為に彼等には場所を空けてもらって、少し離れた場所を開墾してもらっていた。
連れて行かれた場所には大きな穴が空いていた。
「…………まさか、モグラの穴?」
態々モグラの穴探しなんてしたことがなかったので見たことはないが、普通のモグラの穴は小さかった気がする。目の前にある穴は一メートルくらいあるのではないだろうか。
「うう~、期待大!」
イツズは何を期待しているんだ。ヌイフェンは首を傾げながら、ちょっと待ってとイツズを止めた。
「流石に飛び出て来たモグラは危険だから、助っ人を呼んでる。」
「助っ人?」
コクリとヌイフェンが頷く。
「もう直ぐ時間だから待ってて。意外と時間通りな人なので。」
誰だろう!俺とイツズが待っていると、空から羽音がしてきた。見上げると見知った顔が降りてくる。
「神子?」
げげっ、フィーサーラじゃん!
今日も真っ赤な髪は後ろの方に流して編み込んだ複雑な髪型をしている。そうやって髪型を変えるのが好きなんだろう。服装は神官服ではなく動きやすそうな軽装だが、鮮やかな色合いの織物に刺繍が施された派手なものを着ている。フィーサーラは顔がいいのでこれでおかしくないが、そこら辺の奴が着たら浮いていることだろう。
「どうして神子もいるのですか?」
嬉しそうに顔を綻ばせて俺の手を握った。
イツズがムッとした顔でその手を奪い返す。
「触らないで!」
俺が拒否する前にイツズが眦を上げてキッと睨みあげる。
「フィーサーラにモグラを捕まえてもらう。」
ヌイフェンが呼んだ助っ人はフィーサーラだったらしい。
「なんでフィーサーラ?」
「開墾してるとよく大型の何かが出てくるから、毎度地守護に討伐申請してるのに、忙しいと断られるんだ。だから赤の翼主に文句言った。」
フィーサーラは地守護長の息子だしな。
「ヌイフェン強いな。」
「?俺は弱いよ?」
精神的なものを言っているのだが、ヌイフェンは実力的なことと勘違いして否定した。
「地守護は今、大陸の各地に巡行に出てこちらまで手が回らないと言うので、私に直接依頼が来るようにしているのですよ。」
フィーサーラは水色の瞳を細めて嬉しそうに説明する。
そういえばクオラジュが地守護長に何か言いつけてたな。だからって本来の仕事を疎かにしていいのか?地守護の仕事は天空白露の治安維持が主だったはずだ。外に向けた軍隊のようなものがないからそうなるのかな?
「フィーサーラは呼んだらダメだったのか?」
ヌイフェンは俺が襲われたことを知らないのかもしれない。子供だし態々教えるやつはいないかもな。俺から言うのも憚られる。
仕方ないので今日は我慢することにした。ヌイフェンとイツズがいるし、離れた場所からは開拓者達も見ている。おかしなことはしないだろう。
それにこのメンバーじゃ争い事が無理なのは理解出来る。今日もクオラジュはサティーカジィの屋敷と聖王陛下の執務室を行ったり来たりだ。神聖軍の護衛はついて来ているが、今は周辺に異常がないか見て回っていた。離れた場所で何人か神聖軍の制服を着た人達がチラチラと見える。直ぐに戻ってくるだろう。
イツズも同じことを思ったのか、仕方ないねと言って穴の前に移動した。
今日はいつもお守りについているタヴァベルもいない。基本タヴァベルは予言者の屋敷の中で仕事をしているので、今日は神聖軍に任せてあった。
「じゃあ僕がコレに火をつけて穴に投げ込むね。そうしたら煙が出てきてぇ、モグラが慌てて出てくるから、それを捕まえてね。」
イツズは基本目上の人には敬語だしちゃんと相手を敬うのだが、フィーサーラにはタメ語だった。プンスカしている。
「承知しました。神子の周りは似たもの同士が集まるのですね。」
どういう意味だ。
イツズは丸めた草に火をつけ穴に放り投げた。同じ様に続けて三個放り投げる。暫くすると煙が穴からモアモアと上がりだす。
「うおっ、煙たい…、というか臭い?」
異臭だ。刺激臭だ。
「あ、吸わないでね。人間の身体には害はないけど、涙と鼻水が出るよ。」
イツズは顔にタオルを巻いていた。先に言ってて欲しい。
フィーサーラが真っ赤な羽を出してパサパサと羽ばたかせた。風がおきて煙を遠ざけてくれる。
「…………どうも?」
お礼を言うとニコリと笑い返してきた。
そこからまた数分待つと、穴から何かが飛び出してくる。
モグラ……、と言うよりむかーし津々木学だった頃にどこかの動物園で見たカピバラに似ている。
「ちゃんと目ぇあるし。」
「ありますよ?」
いや、モグラに目はなかったはず?退化してねーじゃん。あれモグラじゃねーよ。
「土に潜り罠を張って動物を捕食するんですよ。」
罠とは落とし穴のことらしい。そしてたまに人間も落ちて怪我をするのだとか。開墾中もそうやって落ちて怪我をする人が続出していた為、イツズが捕まえたいと言い出したのだ。
モグラって虫とか食べるイメージだったのに肉食なのか…。怖いな。しかもモグラって音とか振動には敏感だと思ってたけど、臭いも感じるのか?ここが天空白露だからだろうか。
「神子は下がっててください。ヌイフェン達も。」
フィーサーラが前へ出ていたイツズとヌイフェンに声を掛ける。二人はフィーサーラに場所を譲り俺と一緒に穴から離れた。
モグラって穴に一匹しかいないんじゃ…?なんで何匹も出てくるんだよ!
「こわ…。アレ違う。アレ、カピバラ。」
「カピバラ?なにそれ?」
カピバラはこっちにいなかった!
「神子、静かに。」
フィーサーラに怒られた。
次々と出てくるモグラモドキをフィーサーラは切っていく。
「あっ、フィーサーラ!切ってもいいけど目ん玉は綺麗にとっといて!」
「何故呼び捨て!?」
フィーサーラがイツズに呼び捨てにされてショックを受けている。イツズの中でどんだけフィーサーラの価値が下がっているのか。
「ぷぷ、ウケる。」
ヌイフェンが可笑しそうに笑っていた。ヌイフェンもフィーサーラ嫌いなの?
哀れフィーサーラ。
暫くはフィーサーラが一人で切っていたけど、トトンっと身軽に下がってきた。
「おかしいですね…。」
そう言って足を上げ、力強く地面をドンッと叩く。
ガガガガッッツ!と音を立てて地面から棘が出てきて次々と出てくるモグラを串刺しにした。
「ああっ!?目ん玉ぁ!」
イツズが叫ぶ。
「そんなことを言っている場合ではありません。」
フィーサーラが叫んだイツズをチラリとみるが、直ぐに目の前に視線を戻した。
「何がおかしいんだ?」
俺が聞くとヌイフェンも同じ様におかしいと言ってモグラ達を見ている。
「数が多すぎる。」
あ、本当はこんなに出てこないのか?初めて見たからこんなもんかと思ってた。
普通は一つの穴に家族分として十匹程度らしい。
フィーサーラが得意なのは土を操ることなのか、地面から棘が次々と出てきては串刺しにしていく。
「穴を塞いで窒息させるのがいいかもしれません。」
「コレだけ目ん玉有ればいいよな?」
フィーサーラとヌイフェンに説得されてイツズが諦めた。イツズは戦えないしな。ヌイフェンも傍観しているのでフィーサーラしか戦っていないけど。
「?そういえば神聖軍の兵士は?」
戻ってきて一緒に討伐しても良さそうなのに、誰一人戻ってこない。
「………まずいですね。」
え?と思う暇もなく地面が揺れる。
「……………っ!…マナっ………!」
遠くからクオラジュの叫ぶ声がした。
「クオラジュ!?」
見回すが姿は見えない。
グラグラと揺れる地面に、イツズが俺に抱きついてきた。ヌイフェンも一緒に反対側から引っ付いてきたので動けなくなる。
「いや、ちょっ……!お前ら!!」
慌てた俺に気付いたフィーサーラが、腕を伸ばして三人を庇う様に立つ。
「これは、誰の……!?」
フィーサーラは何かに気付いた様だが、俺達はどうすることもできなかった。
グラッと身体が傾き足が宙に浮く。
「またぁ!?」
以前神仙国に無理矢理連れて行かれた時のことを思い出した。
俺の身体が傾いた。
視界には驚いて見下ろすイツズとフィーサーラが見える。俺の落ちようとする身体の下側にいたヌイフェンは巻き込まれる様に一緒に落ちていた。
「イツズ様っ!このことをだれかに!」
そう言ってフィーサーラが落ちる俺とヌイフェンを抱き込む。
イツズは手を伸ばしたが、今回は届かなかった。
「ツビィっ!!」
ゴオッと下から湿った風が吹く。気持ち悪いまとわりつく様な風だ。
俺は落ちていく感覚に意識を失った。
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