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全てを捧げる精霊魚
97 いつか見た貴方
しおりを挟む材料は薬草から鉱物、仙の組織等、なかなか揃えにくいものが多かったのだが、『身体組織強化剤~精霊魚の花肉に変わる素材製造法~』という紙を持ってクオラジュの前に現れたイツズは、製造法を教えるので材料を揃えて欲しいとクオラジュの前に突き付けてきた。
イツズは精霊魚の花肉は身体の組織を補う役割があるとみていた。無闇に繋ぎ合わせた身体を、より強固にする為に必要なもので、一から一個体を作る場合に必ず必要になるらしい。
精霊魚の花肉は、精霊魚の神聖力を生み出す元となる魂の核に近い存在で、花肉が心臓と融合して血を巡らせ神聖力も同時に巡らせている。だから精霊魚は花肉を奪われると死んでしまうわけだが、イツズはその花肉自体を作ろうと言ったのだ。
「精霊魚の花肉を作るにはやはり精霊魚の体組織が必要にはなりますが、それは花肉でなくてもいいのです!そう、より神聖力を多く含んだものが望ましい!」
力説するイツズは人格が変わる。こと薬材や薬の製造に関しては誰も口を挟めなかった。
イツズが書いた紙を見ながら、クオラジュも熱心に頷いた。
「成程。出来そうですね。補う為の神聖力が大量に必要ですが、ツビィロランの透金英の花がまだ沢山あるので大丈夫でしょう。それで、サティーカジィのどの部分を使うのでしょうか?髪や爪ではおそらく無理でしょう?」
イツズとクオラジュは頷きあった。
お互い何を考えているのか理解し合っている。ツビィロランには理解出来ないので静観することにしていた。
今俺達は聖王宮殿の中にあるクオラジュ専用の執務室にいた。部屋の中には話し合っているクオラジュとイツズ、俺と俺の護衛のアオガとクオラジュの手伝いをしているトステニロス、ついてきたサティーカジィの六人だけだ。
「はい、僕はアレだと思います。」
ちょっと頬を染めてイツズは言う。
「私もそうではないかと…。」
クオラジュはニッコリ笑って言っていた。
「僕は前から番の成立になんで性交が最も適しているのかなって考えていたんです。相手を求める精神状態になった時、お互いの精神が繋がり番になるのですよね?でも性交時が最も繋がりやすいから媚薬を使って番う人達もいる。でもフィーサーラ様を見てると性交って気持ちがなくても出来るんですよね?それで聞いてきました。」
「何をでしょう?」
イツズはここに来る前にフィーサーラの執務室にも行ってきたらしい。
「中に入れてるんですかって聞きました。」
俺は口をポカンと開けた。
「へえ~、で、どっちだったの?」
大人しく聞いていたアオガが早く答えを聞きたくて尋ねた。顔が興味津々だし前のめりだ。
「入れてないんだそうです!外に出すか希釈剤を使うかするんだそうです!」
この世界にはゴムというものがない。だからコンドームというものがないので、代わりに希釈剤と呼ばれる薬剤を使う。形状は液体だったり錠剤だったり色々あるそうだが、飲むと神聖力が薄まるらしい。
薄める理由は治療目的が多いそうだが、性交時に使うと番いにくくなることから、遊びでやる人は希釈剤を飲んでいたりする。
と、俺は初めて知った。………クオラジュ飲んでたっけ?いや、俺の魂は番える状態じゃないからいらないのか?
「いやいやいや、イツズそれフィーサーラに聞いてきたのか!?サティーカジィ止めろよ!」
「うっ……、すみません、何を聞きたいのか知りませんでした……。」
目の前で尋ね出してサティーカジィは慌てたらしいが、イツズはしっかり確認してきたらしい。
フィーサーラが教えてくれたことによると、番の成立に神聖力の多さが関係しているかは定かではない。何故なら神聖力が少ない人間もいるし、大陸の人間なんかはほとんど少ない人達だ。色無だって番の成立が出来るので、必ずしも神聖力が必要なわけではないが、あるに越したことはない。相手の身体の中に神聖力を入れる行為は、自分の分身を相手の中へ入れる行為なので、入れられてしばらくは同じ神聖力を纏う結果になる。その時に感情が高まると番いやすいので、フィーサーラは遊びでやる時は希釈剤を使って自分の神聖力を薄めてするようにしている。ということだった。
「あれ?中出ししたら赤ちゃんとか出来るのか?」
「何言ってるの?」
俺の素朴な疑問にアオガがはぁ?と呆れていた。
いや、だってこの世界ってば男同士でも番になるし、子供作ってるし?中に入れたら妊娠するのかなぁ~って。その残念な顔するのやめろ!
「ふふふふふ、番になる時どちらが孕む側か決めるのですよ。入れられたら孕む側です。因みに擬似番という状態にして孕む方法もあるんですよ。大陸の王侯貴族が愛妾にさせたりする方法です。でも私達はちゃんと番になって、孕ませてあげますね?」
「ぉ、お、おお………?」
変な返事しか返せなかった。人間突然わけ分からんこと言われたら理解不能に陥るものだ。
「それで、話の流れから精液には神聖力が多く含まれているという話かな?」
いつもは黙っているトステニロスが話を戻してきた。クオラジュが使い物にならない時はトステニロスがフォローするんだな。
「はいっ、そうなんです!」
「じゃあ、イツズが採るんだ?」
アオガがすかさず確認した。
「感情の高まりは神聖力の高まりにも繋がりますから、お二人でされるのが一番ですよ。」
クオラジュも後押ししてきた。
「……………。」
イツズの目が点になっている。そこまで考えてなかったんだな?
「時止まりの術が掛かった容器を用意してこよう。入れやすいのがいいよね。」
トステニロスがさっさと部屋から出て行った。クオラジュに普段からこき使われているからか行動が早い。
「そうなると液体状ですから固形にするより仙の種に直接注入した方がいいのでしょうかね………。作成時に神聖力で……。いえ、術式を変えた方が良さそうですね。」
クオラジュは既にイツズの書いた紙を見ながら何か考え込んでいる。
「頑張れよ。」
俺は固まっているイツズの肩をポンと叩いて励ました。
イツズは今日も本を読んでいた。
これはアオガ様から渡された指南書だ。
「ふぐっ………、こ、こんな……。」
恥ずかしい……。
イツズはそこに描かれた霰もない体位に両手で顔を覆った。
サティーカジィ様とこんな格好を?裸で?
ベッドの隅には精液を採る為の容器が置いてある。採れるなら沢山採っておいてほしいとお願いされている。
そしてその容器の隣には小さな瓶が三つ。全部媚薬だった。
一つはツビィロランが渡してくれた媚薬。男性のソコはナイーブだから、容器に出すとなった時力を無くして出ないかもしれない。だからこういうのを使って興奮した方がいいかも。と言って親切心で渡してくれた媚薬。
二つ目の媚薬はフィーサーラ様から。変なことを聞きに行ったせいで、とうとうサティーカジィ様とイツズが番になるのだと思い、奥手そうな二人の為にと持ってきた興奮剤と弛緩剤がセットになった媚薬。
三つ目はアオガ様から。ニコニコ笑って渡された。よく分からない。
コンコンと叩かれる扉にイツズはビクゥと震えた。入ってくるのはサティーカジィ様しかいないのに緊張しすぎだった。
「は、はい!」
大きな声が出過ぎてしまった。
扉はカチャリと開き、サティーカジィ様が遠慮がちに入ってくる。
二人は勿論緊張していた。物凄くしていた。しかもサティーカジィはベットの上に並べられた小瓶とイツズが手に持つ指南書を見て目が泳いでいた。
今回のことを知る皆んなが、サティーカジィとイツズの初夜が失敗すると思っていることをサティーカジィは知っていた。皆んなの自分達を見る目が生暖かいので、言われなくてもよく分かる。
サティーカジィは自分がしっかりしなければと深呼吸した。
イツズのもとまで行き、ベットに腰掛けるイツズの隣に座る。
二人ともすぐ脱げるようにと前開きで腰紐を巻いて留めただけの簡素な寝巻きを着ていた。
「イツズ。」
「は、はい……。」
イツズの不安そうな赤い瞳がサティーカジィを見上げる。こんなに可愛い子が自分の重翼なのだと思うと嬉しくてたまらない。
イツズは色無であることに自信がないようだが、サティーカジィにはそんなこと関係なかった。イツズと触れ合うととても温かい。ふわりと包み込まれる感覚に、いつも幸せを感じている。サティーカジィに笑いかけてくれると凄く幸せな気持ちになるのだ。
「まだ他の材料も集まってませんし、練習だと思い気軽にやってみてはと言われました。」
「誰から言われたんですか?」
「クオラジュですよ。」
クオラジュ様が……。なんと一番まともな助言をくれたのはクオラジュ様なのだと驚いた。
「もっと強制的な言葉を言われるのかと思いました。」
「……クオラジュはやることは凶悪ですが、普段はそうでも無いのです。」
少なくとも仲のいい人間には優しい。だからこそ、サティーカジィの花肉を求めてきた時は本当に最後の手段なのだと思っていた。
「あの、必ず作りましょうね。」
その為にも!
イツズはふんっ!と鼻息荒く拳を作った。そしてサティーカジィの腕を掴む。サティーカジィは驚いた顔でイツズを見下ろした。
「…………イツズはもしかして孕ませる側がいいのですか?」
サティーカジィの本当に不思議そうな顔にイツズはガクリと力が抜けた。
「ち、違います!」
赤くなって否定したイツズに、サティーカジィはホッと息を吐く。
「良かったです。」
イツズの腕が逆に掴まれる。体重が乗せられパタンと後ろに倒れた。イツズの上に跨るサティーカジィを、今度はイツズがキョトンと見上げる。
「一応知識だけの教育は受けているのです。その本のように上手に出来るかは分かりませんが…。」
なにせ実践は断ってしまったので……。と恥ずかし気にするサティーカジィをイツズはぽけっと見上げた。
こんなに綺麗な人がそういうことのお勉強をしたのかと思うと、それこそ不思議でならない。
長い金の睫毛は薄桃色の瞳を縁取り、今は長い金の髪は緩く後ろに三つ編みにしている。頬が上気した姿は色っぽい。
恥ずかしいより緊張の方が大きかったイツズだが、恥ずかしさの方が増えてきた。自分の顔に熱が集まるのが分かる。だって漸くサティーカジィ様が言っていたことを理解した。
サティーカジィ様が「したい」と言った時の眼差しを、今のサティーカジィ様はしている。
「よろしくお願いします……。」
イツズは震える声で頼んだ。
二人の吐息が静かな部屋に響く。
ゆっくり話すなんて出来ない。どちらも緊張しているし、肌と肌を合わせる興奮に余裕がなかった。
「あぁ………、ん゛ん、…………はぁ、ぁ!」
「はぁ、はっ…………あ、痛い?……ですか?」
まずは愛撫からと接吻をして愛しくて身体中に唇を落としていった。それから手で撫でながら気持ちの良いところを探して、探したらそこを愛してあげる。
シトシトと濡れ出した後孔をゆっくりと拡げながら、「愛しています。」、「可愛い。」と何度も囁いて、人が見たら教本通りと言われるかもしれないが、サティーカジィは一生懸命だし、今はこれで良いと思っている。
実際はクオラジュやアオガが見れば執念いのではと言われるくらい長い時間を掛けているのだが、そんなこと今のサティーカジィには知る由もない。
それからこれくらい拡がれば良いのですよねと心の中で確認する。イツズの後孔は十分柔らかく拡がってサティーカジィの指を飲み込んでいた。
それからこれまた慎重にゆっくりと自分の陰茎を挿れていったわけだが……。
「あ、あ、さ、さてぃ、かじーさまぁ…………。」
イツズの目はトロトロだった。
サティーカジィの愛撫は長く、何度も射精して、プチッと何かが切れてしまっていた。
揺らすと可愛く喘ぐ為、サティーカジィも教本のことなど忘れて夢中になってくる。
「あ、あ、もっとっ!きもち、ぃ………!」
「可愛いっ、イツズっっ!」
…………だから本来の目的を忘れてしまったのだ。
「おめでとう~~~。やったな!イツズ!」
「そっちかぁ~~~。」
「だから気軽にやってみてはと言ったのです。」
「サティーカジィ様が番を得るなど感無量ですね。」
「まぁ、良かったよね。」
それぞれのお祝いの言葉にサティーカジィとイツズは真っ赤になり俯く。
精液は取り忘れたが、二人は見事番になっていた。
それから二人は今度こそと何度もチャレンジして、両手を超える頃に漸く成功する。
「サティーカジィ様!見て下さい!こんなに……!」
ぱあぁぁぁぁぁーーーと顔を輝かせるイツズを見て、あぁこれかぁと涙を流す。
これを幼い頃に見たわけだ。
まさか自分の精液を漸く採れたと喜ぶイツズを見ようとは。
後からクオラジュに話したら、またもや肩を震わせて笑い、暫く笑いは止まらなかった。
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