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17 緑の精霊王の頼み
緑の蛙が窓の枠に止まっていた。
大きな黒い目がパチリと一回瞬きをする。
「可愛い………。」
チロリと赤い舌が伸びた。
掌を見せるとピョンと乗ってくる。
やけに人懐っこい?
覗き込むとペロリと鼻を舐められた。
あ、これ緑の精霊王のお使いだ。
緑の精霊王が精霊殿へ召喚した合図。
初めてだった。
自室にいた為、簡素な白の上下だった。上から羽織を羽織って精霊殿へ急ぐ。
「お待たせ致しました。」
緊張しながら扉を開けると、中には緑の精霊王が立っていた。
鮮やかな緑の長髪を三つ編みにし、深い緑の瞳の精霊王。
以前助けてくれた緑の精霊王が待ち構えていた。
そして何故か緑の蔓でぐるぐる巻きにされた金の精霊王。
「???何故金の精霊王様がぐるぐる巻きに?」
「逃げれない様捕まえたからだな。」
逃げる?
「早く気付いて介入しとけば良かったと無茶苦茶後悔してんだよ。今回の黒の巫女との伴侶選びに制約が掛かってるのは知ってたか?」
制約?そー言えば、招霊門から落ちても死ぬ前に戻してくれるとか言ってたやつかな?
後は白の巫女の素顔を晒さないという関連の制約しか知らない。
顔に出てたのか緑精霊王は、あ~と天を仰いだ。
「あんまり知らなそうだな。」
いいか、と緑の精霊王は説明を始めた。
この天霊花綾は精霊王五人で作った箱庭であらゆる制約を掛けて住人を守っていること。
五人の中では金の精霊王を主軸として後の四人で精霊力を補い天霊花綾を守っている事。
色々な細かい制約が元からあるが、今回金の精霊王がほぼ独断に近い状態で黒の巫女を召喚し、銀の精霊王が呼んだ弓弦と翼をお互い競争させる様な制約を作っていた事。
一つ、どちらか一人だけ残る。
一つ、金、緑、青、赤の順で優劣を付ける。
一つ、負けた方は招霊門から落ちる。
一つ、落ちた方は元の時間軸に戻す。
一つ、この制約は終了と同時に消滅する。
「つまりこの制約を止めたくとも、金は世界の時間軸に対して干渉する為に世界に対して制約を組んだ。制約が強過ぎて終了するまで終わらないんだ。」
終了するまで?つまり、私か翼のどちらかが負けて落人になれば終了?
でも、もう私が落ちるようなもんじゃないか!
涙目で佇む私へ、緑の精霊王は金の精霊王を差し出した。
殴っていいぞと。
「銀の精霊王復活のために銀泰家を戻すのは賛成だったんだ。一人足りないのは俺達的にもキツいからな。やり方を金に任せっきりにしたせいでお前に迷惑を掛けた。申し訳ない!」
「はぁ…………。」
謝る精霊王の隣ではぐるぐる巻きの金の精霊王がブツブツ文句を言っている。
「はよ銀に起きて欲しかっただけじゃ。」
「それでせっかく維持してた天霊花綾を混乱させてんじゃねーーー!!」
緑の蔓が唸り金の精霊王ごと地面に叩きつけた。
石の床が抉れ、金の精霊王がドゴンドゴンと跳ねた。
「ま、とりあえず現状じゃお前が落人になる。」
緑の精霊王は申し訳なさそうにしている。
「そうですね。でも、もし精霊王様達がどうにかしようと思われてても、私は諦めてしまいました。元の世界に帰って大学生として普通に生きていってもいいかなと最近思うのです。」
蒼矢とよりを戻すつもりもない。
ゲイである事をずっと隠そう。
大人しく静かに暮らしていけば、心が苦しむ事なく一生が終わる。
働いてお金を貯めて、一人でも大丈夫なようにしよう。
もう、そうするしか自分は生きていけない。
「…………金の泰子はあのまま霊薬漬けで放っといて離れるつもりか?」
「それは………。」
それは一番心が痛い。
本当は助けたい。
例え嫌われててもいい。
金の泰子には自由な心で次の金の泰子を産む為に伴侶を選んで欲しい。
「助けたいです……。」
ポツリと言った言葉に、緑の精霊王は笑った。
「じゃあ、制約で動けない俺たちの為に頼みたい事がある。」
緑の精霊王の頼みとは……………。
銀玲の歌が毎日響く。
それは夜に銀の月が登る時。
愛しく、優しく、眠りを誘うように響く歌。
いつもは激しく幻視を運ぶ精霊達が、静かに光り、歌を運ぶ。
銀の花弁を撒いて、優しくお休みなさいと歌を届ける。
翼は歌を締め出すように窓を閉めた。
この歌を聴くと苛々する。
足元に転がる青の泰子は最近吐いてばかりで痩せ細ってしまった。
こんななよなよした男なんて要らない。ただ顔が女みたいに綺麗なだけだ。
「眠れないのか?」
本当の金の泰子なら倒れて気絶する青の泰子を助けるだろう。
しかし、金の眼は翼しか見えていない。
黒い瞳を覗き込み、愛おしげに頭を撫でる。
「歌で起きてしまって。」
金の泰子は不思議そうな顔をした。
うた?と周りの音を拾おうとする。
「この光る精霊も寝るのに邪魔じゃないですか?」
金の泰子は更に不思議そうに困った顔をした。
「精霊がいるのか?私には見えないが………。」
翼は驚いた。
銀玲の歌と幻視が見えていない?
青の泰子の様に壊れない様に慎重に霊薬虹色の恋花は与えてきた。
よく効いている。
意識もちゃんとあるし、受け答えもちゃんとしている。
仕事をしてと言えばしてくる。
青泰家からは青の泰子へ戻る様にと催促が煩くなってしまったから、金泰家から何も言われない様にさせている。
「金の泰子は精霊力を使えますか?」
「ん?ああ、問題ないよ。」
金の泰子は掌に精霊力を溜めた。
近くをふわふわと飛んでいた精霊が、金の泰子の精霊力を求めて集まってくる。精霊力を貰った精霊達は、金の泰子の周りを回って何か言っている様だ。
「ホントだね……。」
金の光を見つめながら考える。
銀玲の歌が聴こえていないだけ?
じゃあ問題ない。
もう直ぐジオーネルは招霊門から落ちるのだから。
金の泰子をベットに引き摺り込み、泰子の頭を抱え込んで胸を押し付ける。
金の泰子の舌が蕾を舐め出した。
ふふ、犬みたいだ。
ベロベロと涎まみれにして、ジュウと吸い付いてきた。
「……っんんっっ………あっ、はぁ…。」
含んで吸ったり甘噛みをしたりしながら、快感を与えてくる。
よく出来ましたと後頭部を撫でると、長い金の睫毛が上がり、蕩けるように金の瞳が潤んでいる。
瞬く金のなんと美しいことか。
翼の黒い瞳は全ての精霊力を含んでいるはずなのに、その輝きはただただ黒い。
実はジオーネルは愁寧湖で歌っていた。
目立たない様に夜にだけ、小舟を出して人知れず歌っている。
なるべく銀の精霊王に目覚めててもらう為に、直ぐ側で精霊力を注いで欲しいと頼まれた。
精霊殿の外で歌舞音曲を披露するのは禁止ではない。
元々は問題なかったらしいのだが、銀の精霊王が銀泰家を招霊門から落として精霊力不足で愁寧湖で眠りについた際、金の精霊王が祭事の際精霊殿で歌舞音曲を披露する時は白巫女装束を着る事、白巫女装束で素顔を隠す事と制約を掛けただけなので、外で歌って良かったらしい。
天霊花綾の住人は真面目で純粋なので素直に守り過ぎているだけなんだとか?
そこから考えると泰家と精霊王は切っても切れない存在なのだろう。
泰家は精霊力を集めて精霊王に渡す機能でもあるのだろうか。
緑の泰子が言うには人は精霊が居なくても生きていけるが、精霊は人の信仰が無いと生きていかない。
その為にも天霊花綾の住人は必要な存在らしく、お互い補い合う存在になっているらしい。
翼の行動は今や害悪であり、緑の精霊王の中では排除対象なのだが、金の精霊王の作った制約の所為で動けなくなったとか。
元々翼が来るまでのジオーネルの性格もよろしくなかったので、別にいいかな?と安易に考えたのが良くなかったと反省していた。
ジオーネルは自分なので本当に申し訳ない。
落ちた後はこっちで上手くやるので、とにかく歌ってて欲しいと言われた。
招霊門から落ちるのはもう仕方ないけど、金の泰子の為にも最後まで頑張って歌おう。
貴方の心が健やかになります様に。
銀の光が湖の水面を銀色に染めていた。
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