じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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1 妖精さん!?

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 異世界ってね、本当にあるんだってしみじみと思うんだよ。
 オギャーと産まれたら転生してましたってね、嘘かまことか天国か。死んだらあの世じゃなくて異世界ってね。
 たぶん、たぶんね。僕は女性でそこそこいい年齢まで生きてたと思うんだ。あんまり詳しいところは覚えてないけどね。
 そこでだ。転生したのならば、ここがどんな世界か気になるもの。漫画とか小説とかゲームとか一通り遊んでいた気がするから、国名とかキャラ名とか聞いたらピンとくるはず!
 早く知りたくてうずうずしていたけど、何せ最初は赤ちゃんだったから全く情報が足りなかった。
 せめて父と母くらいは知りたい!
 そう思っていたのに何故か僕の両親は会いに来てくれない。世話をしてくれるメイド達っぽい人達が、僕は愛されていない子なのだと笑いながらよく喋っていた。
 いやいや、そんな話はいいから父と母の名前を教えてよ。
 と言いたかったのに、二歳くらいまで上手く喋れませんでした。がっかり。
 メイド達は父のことを「こうしゃくさま」。母のことを「こうしゃく夫人」と言っていた。
 こうしゃくさま?こうしゃくって公爵か侯爵か………。どっちだろう?こんなつまらんことに二年も悩んでしまった!
 因みに僕の名前はヨフミィと言うらしい。なんか変な名前っ!と思いつつ、僕は自分の名前を頭にインプットした。出来れば誰か家名も言って欲しかった。
 僕が自分のフルネームを知ったのは三歳の頃だった。

「ヨフミィ・アクセミア公爵子息にご挨拶申し上げます。」

 三十代くらいの男の人がやって来て、最初に僕にそう挨拶をした。この人は家庭教師の先生だった。
 先生の名前はフブラオ・バハルジィだと名乗ってくれた。アクセミア公爵家の傍系出身で、公爵家の事業を任せられたり、こうやって直系に子供が生まれればその世話役や教育係などを任せられたりなど、様々な補佐をしている家門らしい。
 バハルジィ家は子爵家らしいが、フブラオ先生には特に爵位はないのだと説明してくれた。
 そして「こうしゃく」は公爵のことだと判明した。

「当主とは全てアルファ性が継ぐことになりますから。」

「アルファ…?」

 アルファ?いや待って!アルファって言った!?

「この世には男性と女性の他に第二の性としてアルファ、ベータ、オメガという性がありまして…。」

 あ、お決まりの説明が始まった!
 優れたアルファに、普通のベータに、発情期があるオメガね!知ってる~!
 ええ!?もしかしてここってオメガバースがあるんだぁ!?
 一気に僕は興奮した。

「先生はなに?」

「私はベータですよ。」

「僕は?」

「ヨフミィお坊っちゃまはまだ分かりませんが、正確に判明するのは十歳頃でしょう。当主様はアルファであり、公爵夫人はオメガですので、アルファかオメガである可能性が高いと思いますよ。」

 あ、十歳くらいにならないとわからないってことかぁ。

「ベータにはならないの?」

「ごくまれにアルファとオメガの間からもベータは産まれますが、本当にごく少数です。」

 へぇ~。どっちだろう?たのしみぃ~!
 にぇへへ、と笑うとフブラオ先生もつられて笑い返してくれた。
 この日からフブラオ先生がやってきて授業が始まったけど、僕はまだ三歳。文字すらわからない。まずは一文字ずつ教わった。
 うん、言葉がね、話してる会話が全然日本語でも英語でもないからそりゃー文字も知らない文字だよね。
 なんだかふにゃふにゃした文字を僕は必死に覚えたよ。だって早くこの世界のこと知りたかったしね。
 今住んでるお屋敷って物凄く広くて、どっかに図書館があるらしい。字を覚えたら通ってみるつもりだ。だってここがどんな世界なのか早く知りたいし!
 あと残念なことにこの世界には魔法がなかった。
 いやいいんだもん。アルファとオメガがいればそれだけで楽しめる!
 でもフブラオ先生曰く、アルファもオメガもあんまり多くないんだって。だからこそアルファが産まれたら当主候補として家門一丸となって教育していくらしいし、オメガが生まれれば早くから婚約関係を繋いで家門の繁栄を望むらしい。何故ならオメガはアルファやオメガを産みやすいから。
 つまり僕はアルファとオメガの間に生まれた血統書付きってことね。
 うーん、でも……。

「もしかしたらベータってこともある?」

 フブラオ先生はおや?と笑顔を作った。

「それはどうでしょうか。まだ三歳だというのにこんなに賢いのですから、普通のベータではないのだと感じますよ。それに、アクセミア公爵の榛色の瞳と公爵夫人の柔らかな白髪を譲り受けたこんなにも愛らしいお子様が、ただのベータであるはずありません。」

 おお、褒めまくりだ!ちょっと照れちゃうなぁ~。
 テレテレと照れる僕を、フブラオ先生はとても可愛がってくれた。
 ま、賢いのは前世の記憶があるからだけどね!


 フブラオ先生が来てから約二年、先生の授業を受けつつ、僕は公爵邸の散策を日課にして行動範囲を広げていった。なにしろとんでもなく敷地が広い。
 乗馬もできるし、小さな森もありますよと言われてしまった。屋敷もまだまだ全部把握できていないくらい広いし、庭師達によって整えられた庭園も凄く立派だった。
 だからか知らないけど、相変わらず僕は両親に会えない生活が続いていた。父上は何回か会えたけど、お母さんには会えていない。
 おかしくない?僕前世の記憶があるから、今世も赤ちゃんの頃からしっかりと記憶があるし判断能力もあるんだよ?会ったことあれば覚えてる。でも全くお母さんの姿を記憶していないから、一度も僕に会いに来たことがないんだ。
 これは何かある!
 まさか公爵は愛人を囲っているのか!?
 僕はコソコソと屋敷の中を動き回り情報収集を続けた。
 そこで次のことがわかった。
 その一、公爵は妻とは別に好きな人がいる。
 そのニ、好きな人は王太子妃様だ。つまり片想い。
 その三、王太子妃は物凄くモテモテらしい。
 その四、王太子は嫉妬して公爵に結婚を命じた。
 お喋りな使用人達が話すことを要約するとこんな感じだった。
 つまり無理矢理王命で結婚させられて、仕方なく子供を作った。両親は元々婚約者同士で政略結婚だったので、公爵は夫人を愛していないということだ。
 公爵は王宮勤めで次期宰相と言われるくらいの人らしい。
 そして公爵夫人の噂は悪いものばかりだった。
 政略結婚に不満があった公爵夫人は、子供を一人産んだらいいだろうとばかりに離れにある離宮へ引っ込んでしまったらしい。そこで贅沢三昧に過ごしているともっぱらの噂だ。
 なんかガッカリ。
 だってアルファもオメガも超美形が定番でしょ?見たかったけど仲悪いんじゃ家族一斉に揃うことはなさそうだ。僕を含めた美形一家を見る日は来ないってこと。

 とりあえず前世の記憶の中からアクセミア公爵家なんて名前に聞き覚えはなかった。
 公爵の名前はリウィーテル・アクセミア三十歳だと分かった。そして公爵夫人の名前はジュヒィー・アクセミア二十四歳!そして僕ヨフミィ・アクセミア現在五歳だ。三人家族だね。
 先生から名前は教えてもらったのだが、全く聞き覚えがなかった。
 いや、あるような気もするんだけど、前世で読んだりゲームしたりと数々の作品を網羅していたから、正直一つ一つ覚えていないというのが正しい。

「うーん、でもなぁ。」

 むむ、と考える。
 気になるのは王太子妃の話だ。王太子妃は元々王宮メイドの一人だった。だけどとても美しいオメガの女性で、王太子をはじめうちの公爵様や他にも何人かが王太子妃に夢中になっていたらしい。数々のプロポーズの中から彼女は王太子を選んだ。そして王太子はオメガの王太子妃が心配で、それまで王太子妃に秋波を送っていたアルファ達に結婚を命じたらしい。その中の一人がうちの親だとさ。
 なんだかそのシチュエーションが乙女ゲームっぽい。
 そう考えると、今いるこの世界は乙女ゲームが終わった後ということになるんじゃないかな?
 はぁ、ヒロインでも悪役令嬢でも攻略対象者でもなく、終わった後の選ばれなかった攻略対象者の子供とか?
 どこを楽しめばいいのやら。
 しかもヒロインが女の子だったなら、悪役は令嬢だろうし?
 せめてBLならもう少し楽しめたのかもしれないのに~。
 残念に思いつつ僕は日課の探検を熟していた。これでたまに使用人達の隠し事とか噂話とか拾えるんだもんね。
 今日は森の方へやってきた。
 ガサゴソと歩いていた、なんだか寂れた小さめの屋敷が見えてくる。
 木造二階建てで、色の褪せた木の壁や屋根が今にも崩れ落ちそうだ。

「…………いや、まさかね。」

 離宮に住んでいる僕の生みの親。
 贅沢三昧って聞いている。こんな所に住んでるはずないよね……?
 念の為、念の為に…。
 僕はコソコソと屋敷に近付いた。
 カタンと音がする。錆びれた蝶番のギイィという音と、トストスと軽い足音がする。
 僕は植木という名の雑草に隠れて覗き込んだ。

「……!」

 天使!?妖精さん!?
 真っ白の長髪を緩く後ろで無造作に結んで、眠たげに薄紫の瞳を空に向けている人が外に出てきた。白い肌は柔らかそうで、華奢な身体は儚げな頼りなさがある。
 ほ、ほ、ほえ~~きれぇ~。
 ボウとしながら見ていると、その人は出てきたドアの周辺をキョロキョロと見ていた。
 何してるんだろう。
 よく分からないが、見回してから溜息を一つ吐いて戻って行った。
 僕はそのままジッと屋敷を見ていた。
 ボロボロのお屋敷。さっきの人以外は誰もいなさそうな静かな場所。本邸からは少し離れてはいるけど、僕の足で来れる程度。でも森の中なので誰も近寄らない。
 さっきの人は綺麗な人だったけど、着ている服はヨレヨレだった。痩せて疲れた感じがある。顔色も悪い。
 
 あの人は誰?

 ジッと考えて僕は本邸の方へ戻ることにした。











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