じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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50 薬の材料を調べよう!

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 追い出されちゃった!あの優しいジールさんに追い出されちゃったよ!

「皆んながふざけるからだよぉ~。」

「一番ふざけた存在なのはお前だ。」

 ソヴィーシャ、ひどくない?
 今日皆んなが集まった理由は、例の薬の治療薬が出来そうだという話になったからだ。薬の材料に、あの紫の汁を出す種から生えた植物を使用するのがいいということがわかり、リュハナがまた植物の各部位が欲しいと言って、進捗状況の確認の為に全員集まることになったらしい。
 僕はついでのようにくっついてきた。クエスト進めたいからね!
 元々調査はラニラルが個人で命じられたものだったけど、四人で調べているみたい。こういうところは昔通り仲良いんだねぇ。なんか嬉しいなっ!
 
「ヨフとフヒィルはオメガなんだから薬作りには来ない方がよくないかな?」

 移動した場所はリュハナの研究室だった。
 王族は一人一人担当の医師がついていて、リュハナは当たり前のようにレジュノ王太子の担当医師をしていた。
 リュハナって遊んでそうでいろんなところに顔出してるよねぇ。こんな所に研究室まであるし。
 王宮医師はそれぞれ自分の部屋を与えられているらしいけど、研究室まで持っている医師は少ない。それは担当している王族の力に左右されるからで、資金をいくら出資してくれるかによる。
 リュハナの資金源は勿論レジュノ王太子だった。

「王太子ってちゃんと偉かったんだね。」

「……たまに思うが何故私の評価が低いんだ?」

「なんでだろ?」

「………。」

 レジュノ王太子ってば黙っちゃったよ。だって駄女神の小説がねぇ。あれからいくとレジュノ王太子には厳しくしないと道を踏み外しそうって言うかね?ちゃんと王太子の将来も心配してるんだよ?

「こらこら、僕が言ってること聞いてる?今からこの植物使って調合始めるからさ。いるならちゃんと口に布巻いて!」

 リュハナからギュッと顔に布を巻かれてしまった。フヒィルはちゃんと自分で口を覆っている。
 
「なんか息が出来ないよ?」

「締めすぎですよ。」

 リュハナが遠慮なく巻いた布をラニラルが丁寧に巻き直してくれた。

「……では、僕が説明しますね。」

 そう話し出したのは僕達よりちょっと歳上の男性だった。痩せ型で自信なさげにオドオドとしている。
 研究室の部屋に入った時紹介された。
 リュハナの薬剤部門で助手をしているエユド・ベグデーンという青年だった。水色の髪と灰色の瞳をした影の薄い人で、この人もオメガなのだと教えてくれた。首にネックガードをつけているのでこの人はオメガだとわかりやすい。
 リュハナが提案する薬の研究と、必要分の薬を作るのがこの人の仕事になるらしい。
 薬剤師さんってことかな?頭いいなぁ。
 おとなしそうな人で、いきなり入ってきた人の多さにビクビクしていた。家は子爵家というけど、あまり貴族らしくない人だった。
 エユドもちゃんとマスクをしていた。全員マスクなり布なり巻いて話を聞く態勢になる。

「ラニラル様が持って来られた薬の成分を調べて、それを打ち消す薬の開発をしてきました。既存の発情促進剤と類似した成分が含まれているので、強抑制剤を主成分に、依存性を緩和させる為の成分を作れないかを調べてきました。」

 仕事の話になると説明は流暢になった。
 エユドは広いテーブルに成分表を広げてみせる。………見ても分かんないけどね。皆様どうしてそんなに真剣に見てるの?

「幻覚作用についてはどうなのですか?」
 
 ラニラルが質問した。

「幻覚というか錯覚…、番の思い込みを起こさせる成分だね。」

 リュハナが頷いている。

「それもこの植物の実に含まれている成分が影響しているようです。脳に快楽と興奮を与えて性行為をした者に依存させ、その人でないとならない。この人が番だと錯覚させるわけです。そこにはアルファのフェロモンは関係なく、相手がオメガやベータでも番だと錯覚させるほど強い感覚麻痺を起こさせます。」

 え、怖…。

「つまり発情促進剤の治療薬というより、その植物がもたらす錯覚の効果を打ち消せればいいんだな?」

 レジュノ王太子の言葉に、エユドはそうですっ、と頷く。
 そこで、とまた紙を出してきた。何やら数字やらよく分からない図式やらが複雑に細かく書かれていた。

「????」

 コレなんだろう?僕は異世界転生とやらをしてると思うんだけど、この紙の方が異世界だよ。

「該当しそうな成分を使って調合を試みましたが、全部ダメでした。それでよく同じ植物で違う部分を使うと全く逆の効果を出す植物があることを思い出して、試しにやってみたんです。」

 ジャンっとまた新たな紙を広げてくれたけど、本当に分かんない。こうなるとボーとしちゃうよね。

「毒性があるのは実の部分ですが、その反対の作用を持つのは葉の部分のようなのです!」

 ただ………、と今度は肩を落とした。忙しいね、この人。
 落ち込んだエユドの代わりにリュハナが話した。

「効果は認められたんだけど、どうしても実の毒性の方が強くてね。このまま葉で作る製法と他の部位でも同じ効果を得られるかもっと調べてみようと思うんだ。」

 それを聞いて僕はハッとした。これってクエストだよね!?

『②上級解毒剤を作れ!、希少な薬草を手に入れよう。薬草の鮮度で解毒剤の品質が変わるよ。』

 ……あれ?希少な薬草?

「はい、はい、はーい!質問っ!」

 僕が手を上げると皆んなに注目された。

「どうしたの?」

 リュハナに尋ねられて、疑問を訊いてみることにした。

「その紫の汁出す植物って希少なの?」

「これ?」

 そうそれ。リュハナはジールさんがビンごとに各部位を入れた植物を指差した。
 うーん、と首を傾げる。

「確かここより南の方の山奥に生えてるんだよね?」

 そう言いながらリュハナはラニラルに尋ねた。

「その地域では希少ではないそうです。祈祷師と呼ばれる者達が炙って使うとかいう話でした。幻覚作用を起こさせ占いのようなことをするのですよ。」

 リュハナとラニラルが教えてくれる。
 希少じゃない?じゃあクエストがいう希少な薬草じゃないってことだ。

「もっと似たようなやつであんまり無いような希少な植物は無いの?」

 全員で似たような植物?と考え込む。
 エユドがあっと声を上げた。

「何かあるの?」

 リュハナが尋ねる。

「希少というので思いつきました。成分には相性というものがあります。発情促進剤を抑える強抑制剤は既存のものでいいと思い込んでいましたが、もしかしたらそちらを変えると効果も変わるかもしれません!」

 灰色の目がキラキラしていた。おお、なんか閃いたらしい。

「ありがとうございますっ!ヨフ様っ!」

 ヨフ様?
 そう言うや否やエユドは棚から色々な薬の粉末を取り出すと、次々と何か作業を始めた…

「数種類試す必要があるので時間がかかります。」

 エユドはリュハナに告げた。

「そっか。じゃあ今日はお開きにして結果は後日伝えるからね。」

 そう言われて僕たちは解散した。



 それから数日後、僕達は再度同じ研究室に呼び出された。集まったのは前回と同じメンバーだ。
 
「結果から伝えるね。」

 リュハナはトンとテーブルの上に液体の入ったビンを置いた。

「殿下はこのビンに見覚えあるよね?」

 リュハナの問い掛けにレジュノ王太子は頷く。

「王家が使っている強抑制剤だ。オメガの発情期に当てられてもアルファのフェロモンを完璧に抑えてくれる緊急用だな。製造する為の材料が少なく数がない。だから王族用としか使用されていない。」

 王太子の答えにリュハナは頷き、その隣にもう一つ似たようなビンを置いた。
 
「色が紫…。毒々しい~。」

 思わず呟いてしまう。でもこれってあの材料になる種から出てた紫の汁と同じ色になる。

「ヨフが言う通り希少な薬草が一番効果が高かったよ。でも薬草も少なくてねぇ。」

 リュハナとエユドはずっと泊まり込みで作り続けたらしい。いくつもの種類を作ったが、結局この治療薬が一番効果が高いという数値が出た。
 但し問題が一つ。

「薬草が少ないんだよね。」

 リュハナは溜息を吐きながらボヤいた。
 おかげで試験的に作り効果の程は分かったが、もっと品質のいい治療薬が作れるかどうかが試せない。数を作ろうにも作れない。という問題があった。
 
「そんなに少ないの?」

「この植物自体が王家の管理下にあるんだよ。」

 僕の問いにも溜息混じりで返事をしている。こんな悩ましげな様子もモテる秘訣かな?アルファのフェロモン出てないと思うんだけど、なんか匂いを放ってそうな気がするよ。

「………少しは用意できるかもしれん。」

 そんなリュハナにレジュノ王太子が答えた。リュハナとエユドはえっ!?と目を見開く。

「でもこの植物って王の許可がないと使用出来ないんだよ?僕だってレジュノ殿下の専属だから数枚貰えただけで、いちいち申請しないとくれなかったんだ。」

 リュハナがいつになく興奮気味に王太子に詰め寄っている。そしてレジュノ王太子もいつになく気まずそうにしている。

「………庭園総管理人の所へ行こう。」

 王太子は僕達を庭師の管理室に向かうよう促した。






 庭園総管理人ことジール・テフベル男爵は僕の保護者で、とっても頼りになる人だ。そしていっぱい秘密があるんだなと改めて知った。

「私が以前頼んでいたものは上手くいったのか?」

「…………。」

 僕達は管理室に行こうとして、他の庭師から温室で植物の状態を見に行ったというジールさんを探し出した。だからここは温室の中になる。温室は王族の持ち物なのでレジュノ王太子がいればジールさんがいなくても出入り自由だ。
 それで作業中のジールさんに主語もなく王太子は話し掛けた。ジールさんがハシゴの上で固まっているよ?
 ジールさんは今ハシゴを登ってかなり高い位置にいた。温室のガラスをはめている金属が緩くなっていたということで補強中だった。
 
「殿下、テフベル卿の作業は私が変わりますので用件を済ませて下さい。」

 見かねたソヴィーシャが交代を申し出てくれた。ジールさんがハシゴを降りてきて、ソヴィーシャが代わりに登って補強を始めている。
 剥がれ落ちそうな金属を止めて太い釘を打ち込み始めた。騎士団の上着を脱いで重たそうなハンマーを振るソヴィーシャの筋肉に見惚れていたら、ラニラルにニコッと邪魔されてしまった。何すんのさっ!
 僕の護衛でついていたフヒィルをソヴィーシャのもとに手伝いとして残し、僕達は移動することにした。

「殿下が頼んだものというのはあの植物の繁殖ですか?」

「そうだ。」

 ラニラルの問い掛けにレジュノ王太子は頷いた。

「まさか王室管理の植物を秘密で育てたのですか?」

 ラニラルが純粋に驚いている。

「…………効果のある物なのに出し渋るからな。」

 なんとレジュノ王太子は例の希少な植物を独断で増やすつもりだったらしい。

「いいの?王妃様が怒るんじゃない?」

 リュハナも心配そうに尋ねている。

「構わない。」

 なんで王妃様?

「王族用の強抑制剤に使われている植物は王妃が育てることになっているのです。王妃宮にある庭園で育てられているのだと言われています。国王の許可が降りても、王妃の許可もないと薬草を手に入れることは出来ません。」

 つまりそんな希少な植物をあの王妃様が独占してて、それが気に入らない息子が無断で育てていると。ジールさんに頼んで。
 ジールさんは管理室ではなく、作業室に行くというので後ろからついていっていたら、背後から声がかかった。

「わぁ、なかなか興味深い話をしているねぇ。」
 
 穏やかで優しく、ゆったりとした声に聴き覚えがあった。
 お、お父様!?それに、ヘミィネとルヌジュも?あ、フブラオ先生が困った顔で最後尾をついてきていた。
 あからさまに三人の肩が小さく震えた気がした。何気にお父様って王太子とラニラルとリュハナに恐れられてる?もしかして。

「久しぶりだね?ヨフ。」

「お久しぶりです~。」

 お父様は僕の側に近付きニコニコと話し掛けてきた。

「公爵夫人……。先程の話は…。」

 レジュノ王太子が小さな子猫みたいにお父様の顔色を窺っていた。ラニラルとリュハナは押し黙っている。

「ふふふふふふ。何をコソコソとしているのかな?」
 
 お父様の笑顔は妖精さんのまま大変愛らしい。歳をとっても愛らしいとか凄いと思うよ。でもなんで気温が下がった気がするんだろう?

「ラニラルとリュハナが一緒に屋敷を出たから怪しいと思ったんだよ。」

 ヘミィネがポロッと告げた。

「お父様がまたヨフが巻き込まれるんじゃないかなって心配してたよ?」

 ルヌジュはそう言いながら僕の腕に腕を絡めた。ルヌジュはスキンシップが多い子で、すぐにくっついてくる。

「………申し訳ございません、公爵夫人。」

「えぇ~と、ちゃんと治療薬が完成したらと思ってぇ……。」

 ラニラルとリュハナも謝りだす。
 お父様はフッと笑った。おおっ、新しい表情!
 なに、その微笑みぃ!強者が弱者の思い上がりを鼻で笑うかのような?儚く美しいのに何故かそこには溢れんばかりの力強さが漂うようなぁ!?

「わぁっ!美の神降臨~っ!」

 思わず叫んだら全員キョトンとしていた。
 あ、ごめんなさい、興奮しちゃったぁ!てへっ!

「ヨフって変なのぉ~!あ、そうだっ、ソヴィーシャはいないの?」

 僕の腕に腕を絡めたままルヌジュはキョロキョロとソヴィーシャを探していた。

「あ、温室の中で補修してるよ。カンカン聞こえてるとこ。」

 既に僕達は温室を出ていた。遠くからカーン、ガーンと音が響いて聞こえる。

「行きたいっ!」

「行ってくるといい。」

 レジュノ王太子が許可を出すと、ルヌジュはじゃあねぇと言って走って行ってしまった。慌ててお父様が公爵家から連れて来た護衛騎士を何人かつけていた。

「ヘミィネは行かないの?」

 僕が尋ねるとヘミィネは行かないよっ!と否定した。

「なんで僕がソヴィーシャのとこ行かなきゃなのさ。」

「………ヘミィネはソヴィーシャとあんまり仲良くないの?」

 ルヌジュを見送り今度はお父様とヘミィネを加えて僕達は作業部屋に向かいながら話していた。
 難しい話よりこっちの方が楽しいなぁ。

「本当にね。ソヴィーシャが小さな頃から一番遊び相手してくれているのにね。」

 お父様まで入ってきた。遊び相手はソヴィーシャというイメージは確かにあり得そう。

「やだよ。ソヴィーシャは荒いもん。」

 荒い……。確かに僕も小さい頃頭を叩かれたような気がしないでもない。思ったことをバッと言っちゃうんだよね。

「ヘミィネはすぐ転ぶからいつも泣いちゃって抱っこして慰めてもらってたのにねぇ。」

「ななな、そんなことっ、覚えてないよっ!」

 おお、真っ赤な顔のヘミィネも可愛いねぇ。

「わぁ、ピュア~。可愛い~、天使~。」

 ついついニコニコと笑顔で言っていたら、お父様がすごく嬉しそうな顔で僕を見ていた。

「ヨフもだよ。」

 おおぉぉぉ……。お父様の優しい笑顔が眩しぃ~!恥ずかしぃ~!











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