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3 どうしよ
しおりを挟む「いらっしゃいませ。今日は営業しないんだけど?」
アゲハは何食わぬ顔で声を掛けた。
こういう時アゲハは表情を取り繕うのが上手だ。僕は基本無表情。
「いや、ここに最後の宝箱開けた二人がいるって聞いたんだけど………。」
僕とアゲハはサブ垢でアバターの容姿は完全に作った物を使用しているが、識月君は彼の容姿そのままだった。なんの手も入れていない、彼自身の姿は未加工とは思えない程に綺麗でカッコいい。
フィブシステムのアカウントは本垢は必ず本人の容姿になる。それは学校や市役所、職場などの個人情報に繋がる為、嘘偽りない本人である必要性がある為だ。
そしてサブ垢はその本アカウントをコピーして、元の自分の容姿に肉付けしていく形になる。
身長、体重、髪や目の色、肌の色、手の大きさや目の大きさ、耳の形、いろんな物を作り変えれるのだ。なんなら黒子や傷痕なんかも作れる。僕の場合は火傷の痕を消している。
識月君はゲームアバターなのにサブ垢を作らず、本垢を使っていた。渾身の作品であるかの様な見た目だが、識月君本人の容姿そのままである。
「最後の宝箱って、イベントの?」
「そう、友達にPVを見せてもらって、本人に会ってみたかった。俺は雲井 識月。」
教室とは違い、識月君の話し方は控えめだった。
学校では先生以外、同年代アルファその中でも特に上位にいる様な識月君は、誰よりも上にいる。話し方も態度も王様の様だ。
今は相手が知らない人間で、どんな人間なのかも分からないので、丁寧に対応しているといった感じだった。
中身が学校でキモオタと言われる底辺の僕達と知ったら殺されるかもしれない。
僕とアゲハは特に言葉を交わすでも無く、同じ様に背中に汗をかいていた。
なんせ今の僕達は容姿も綺麗に変えてるし、年齢も25歳に設定しているのだ。バース性も二人とも違う。
僕達も名前を名乗ってから、アゲハが怪訝そうに聞いた。
「なんで?フレンド申請したらいいんじゃ無い?」
昨日の夜から僕達のスクリーンにあるフレンド欄は凄い数になっている。申請が殺到しているので、僕もアゲハも無視している。
フレンドは協力体制も取れて得する部分もあるが、仲間同士歪み合いなんかも発生して面倒臭いのだ。
僕達のコミュニケーション能力では捌ききれないのでフレンドは最小限にしている。
「したけど見てないっぽいから。」
「……………。」
アゲハは笑って返事をしなかった。
今回槍を手にしているのはアゲハの方。なのに識月君はなんでか僕の方を見ている。
え?まさかバレてないよね?怖い。
「どんな人間か話してみたかっただけだ。ここは店?なに屋さん?」
なんだか識月君の口から『なに屋さん』って言葉が出てきたのがおかしくなって、ふふっと笑うと識月君が少し嬉しそうに笑った。
「ここは喫茶店だよ。でも営業日は決まってないんだ。」
僕が答えると、識月君は頷いて笑った。
「ね、フレンド登録してよ。」
識月君は僕の手を握って目を輝かせていた。
僕はタラリと内心汗をかく。
「………えっ…と。」
どうしよう。
チラリとアゲハを見ると、識月君の斜め後ろで若干困った顔をしていた。
出来れば受けたく無い。
フレンドになって関わっていく内に従兄弟の仁彩だと気付かれたくなかった。
学校での識月君は僕に無関心だ。
学校で王様している識月君が従兄弟である筈の僕に関わろうとしないので、周りの対応もかなり冷たい。一年生の頃は無視されたわけではないが、仲良くしてくれる人もいなかったし、顔に火傷まであって誰も友達になってくれなかった。
暫くして鳳蝶と仲良くなって、クラスが違うから体育とか行事は楽しくなかったけど、昼ご飯は鳳蝶と一緒に過ごせたので、そこから漸く楽しくなったのだ。
今年は鳳蝶と同じクラスになれたし、修学旅行もあるしで、凄く楽しみ。
だからおかしな波風は立てたくない。
友達も鳳蝶しかいないけど、それでいい。
鳳蝶はぽよんとした身体に愛嬌のあるベータ男子と思われている。僕以外にも仲良くする人はいるんだけど、いつも僕が一番の友人だって言って一緒にいてくれるのだ。
迷惑を掛けたくないし、友達付き合いが無くなるのも怖い。
「オレたち二人でペアのパーティー組んでやってるんだ。このお店もそう。レベルの違いもあるし、よく分からない人間とはフレンドにならないよ。」
アゲハが助け舟を出してくれた。
会話を邪魔したアゲハに識月君が一瞬無表情になる。これって内心怒っている時の識月君だ。
識月君は僕の手を離してアゲハの方を向いた。
元々の識月君もアルファとして身長が高い。
今のアゲハよりも大きいみたいだ。流石生粋のアルファ。
「分かった。じゃあレベル上げしてここに通う。」
アゲハは少し嫌そうな顔をした。
僕にも少し感じる。
アルファの威圧だ。
識月君はアルファ設定しているアゲハに威圧をかけたんだ。僕は直接では無いしベータ設定だからそこまで感じないけど、アゲハの顔色が若干悪くなる。
カラン、コロン………。
入ってきた時同様、識月君は静かに出て行った。
僕とアゲハは暫くしてプハァと息を吐く。
「な、……何だあれ!?」
「分かんない。………何で来たんだろ?明日も来るつもりかな?」
アゲハは直接怒りを向けられて、慌てた様に叫んでいる。
「やばいよ!あいつジンに目をつけてる!」
「ええ?僕ベータ設定だよ?識月君は本垢のままだからアルファだよね?」
アゲハはアクセサリに真眼というのを装備している。真眼はちょっとした鑑定が出来るやつだ。レベルもわりと上げているので、人物の基本情報くらいは見えた筈だ。
「アルファだったよ?だからだよ!オレもアルファ設定して分かったけど、アルファって気にいると執念いんだよ。相手がアルファだろーがベータだろーがオメガだろーが、気に入れば抱え込もうとする性質がある!」
ええ!?
オメガだけじゃ無いの?
驚く僕に、アゲハも僕に対してはゲームの中では特別感情はあると言ってきた。
「あ、でもジンに対しては家族愛かな?弟って感じ。流石にセックスしたいは出ねーよなぁ~。」
僕はゴンと机に頭を打った。
「え?元々オメガでも『another stairs』でアルファにしちゃうと、本物のアルファみたいになっちゃうの?」
それって凄くない?
「だから政府公認なんだろ?ジンだって本垢の仁彩に戻ればオメガのままだから、アルファに惹かれるし自分が抱く側になるなんて思わないと思うけど、ベータのジンの時はどう?今の雲井に惹かれた?」
惹かれ………。いや、惹かれないかな?
カッコいいなぁとは思うけど、抱かれたいとかはないかな?
学校では…………、うん、カッコいいし、あんなアルファ様が見初めてくれたら良いのになぁっていう願望は芽生えるか?根っこは抱かれたいだ。
「あ、なんか分かったかも?でもそうなるとさっきの識月君は…………。」
本当に僕目当てで来た?
さっきここに通うって言った?
何故、僕?
僕は壁にかけている鏡の前に移動した。
フンワリウェーブの黒髪は横は肩あたり、後ろは背中まで長く、前髪は目の高さあたりで緩く顔にかかっている。目は切長で、元の自分を大人っぽくして身長高くして筋肉質にした身体だ。どこと無く元の自分だけど、自分じゃない大人びた自分。火傷の痕もなくて、綺麗な白い肌。
この姿はもし僕がベータだったらっていう理想の自分なのだ。
「意外と従兄弟どのの好みなのかなぁ?」
アゲハはふざけたように隣に並んだ。
「やめて…………。」
僕はこの先を考えるとゲンナリとした。
翌朝いつもの通りに起きて台所に向かうと、ダイニングテーブルに皓月伯父さんが座ってコーヒを飲んでいた。
「おはよう、伯父さん。泊まったの?」
伯父さんは入ってきた僕に、和かに笑顔を向けてきた。
「ああ、おはよう。遅くなってしまったから泊まったよ。」
テーブルに手早く今日の朝ごはんが並べられていく。
朝から味噌汁、白ご飯、漬物、何かしら一品という感じで用意してくれる。
朝ご飯を食べながら、昨夜の『another stairs』の話をした。主に識月君が来たことを。あの後近くの狩場に出てモンスター狩りで経験値貯めながら、識月君をどうしたもんかとアゲハと話したけど、結局結論が出なかったのだ。
「…………ぷっ。」
笑い出した伯父さんに、僕はむーっと睨み付ける。
「伯父さん、笑い事じゃないよ!毎日通われたら困るよ。」
毎日来る人間を無視出来る程、僕は度胸がある人間じゃない。
来たら話しちゃうし、多分仲良くしちゃうし、仲良くなると直ぐバレる。
「ああ、ごめん。おかしくって……。出来れば二人には仲良くして欲しくて同じ学校に通わせたんだが……。母親の影響が強すぎて無駄かと思ったが、ゲームの方で近付いてくるとはね。」
伯父さんはまだ可笑しそうだ。
「ねぇ、僕の事バレてるのかな?」
知ってて近付いて来たとしたら、何を考えてるのかさっぱり分からない。
「いや、知らずに来たんじゃないかな?この前のPV見て来たって言ったんでしょ?」
父さんも席に着いてお茶を飲みながら話に入ってきた。
イベントボス討伐の映像を宣伝としてよく流しているので、それを観たのではと言われ、そう言えば学校で青海君がスクリーンで見せていた事を思い出す。
「でも何で態々会いに?というか何でお店知ってたのかな………。」
伯父さんが可笑しそうにまだ笑いながら種明かしをした。
「昨日聞いて来たんだ。十番目に討伐した羽のあるやつって誰かって。」
「ええ!?」
「教えたの?」
驚いたのは僕で、尋ねたのは父さん。
「誰かは教えてないが、店にいると言って場所だけ教えた。多分ギルド名から知っていると思ったんだろう。」
ボス討伐者は討伐時のアカウント名とレベル、所属ギルド名が載るので、それを見て伯父さんのギルドだと知って聞いてきたのだという。
でも伯父さんのギルドは………。
「ギルド月雫はゲーム管理用のギルドだから、会社の人間と思ってる可能性はあるがな。」
だよね。
ギルド月雫はゲーム内の治安維持やバグ発生時の早期解決などに対して作られたギルドだ。知っている人間は関係者しかいない。
「じゃあ、会社の人と思ったから大人しかったのか。」
昨日の様子では敬語って程でもないが偉そうでもなく、こちらの様子を伺う様な対応だった。
アゲハに対しても怒って威圧はしてきたけど、大人しく帰って行ったのだ。
「仲良くしたらいいんじゃない?学校では喋ったことも無いんでしょ?」
父さんはそう簡単に言うけど、学校の識月君を知らないからそんな事が言えるんだ。
「どうしてもダメなら教えてくれ。アカウントを止めてでも離れさせるから。多分大丈夫だと思うけど。」
何で大丈夫と思えるのか分からないけど、大人しく頷いておいた。
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