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4 昼休み
しおりを挟む教室に入ると青海君が騒いでいた。
その隣に座って識月君は何やらスクリーンに向かって集中しているし、周りの子達も識月君に話しかけながら一緒に自分のスクリーンに向かって何やら一生懸命やっている。
皆んな何やってるんだろう?
「おはよう。」
今日も先に来ていた鳳蝶に挨拶をする。
「あ、はよ~。」
鳳蝶は今日は朝から甘そうなパンを食べていた。
(皆んな何やってるの?)
(あー………、従兄弟殿が『another stairs』やるからって周りにやり方聞いてる。)
(マジで!?)
(マジマジ。)
(青海君はなんか違う感じだけど?)
(あれは………。)
鳳蝶が言うには、青海君は昨日『another stairs』で知り合ったセフレとリアルで会ったらしい。セフレとは仮想空間でのみ遊んでた可愛いオメガ女子だった。
「絶対っ!可愛い子だと思ったのにぃ!」
「うるさい……。現実も可愛いかどうかは会わないと分からない。」
叫ぶ青海君に識月君は冷たく言い捨てていた。
「オメガじゃなくてもベータでも絶対可愛いと思ったんだって!識月だってジンが可愛いか分かんないじゃん!でも絶対可愛いか美人だと期待してるでしょお!?」
青海君の叫びに僕はブッと吹き出した。
「……………。」
識月君は無言で青海君を睨みつけている。
鳳蝶はあちゃーという顔をしている。
ジンって僕のネーム………。
昨日毎日通うってのは本気なのだろうか………。
えらい事になったと頭を抱えた。
「ほうほう、じゃお父さん達は仲良くして欲しいと思ってるんだ?」
昼休み、校舎から出て人気の無い花壇の隅でシートを広げてお弁当を食べる。
鳳蝶の弁当は三段もある。
よく食べるなぁと感心しながら僕もお弁当を広げた。
「うん、でも今日の教室での様子から僕って気付いて無いし、僕ってバレたら怖そうだし、仲良くなんて出来ないよ。」
そう言いながら僕はスクリーンを出した。
目の前に出た三十センチ程度の長方形の画面。
「下へ。」
スクリーンは地面に下がり地面に沿って平行に広がった。だいたい広さは一メートル程度。
広がった画面の真ん中には黒い小さな人影が立っている。漆黒のローブに大きな鎌。
僕の本垢のアバターだ。
『another stairs』のゲームは本垢でも遊ぶ事が出来る。
殆どの人がサブ垢を使うのは自分を隠したいから。本当の自分を偽って、綺麗な姿で欲しかった性別で好きな様に生きてみたいから。
本垢で遊ぶメリットはあまり無い。
本垢を使う人は偽る必要がない人だ。識月君の様に。
僕が今本垢を使うのは単に貰った装備が勿体無いからだ。
このゲームはサブ垢を一つまでしか作れない。
伯父さんが適当にくれた希少品が勿体無さすぎて、でも全部をサブ垢に装備させるにはなんかおかしくて、本垢とサブ垢に分けて装備させたのだ。
アカウント名 雲井 仁彩
職業 死神 レベル182
装備 防具 漆黒のローブSSR
防御MAX 売買不可
イベント報酬(希少)
武器 漆黒の大鎌SSR
売買不可
イベント報酬(希少)
エフェクト 不穏な気配SSR
アカウント作成時入手
売買不可 不人気
頭 手袋 靴R
村人の服装備
アクセサリ なし
かなり前にあったイベントの装備品らしいのだが、あまり人気が無かったらしい。
余り物を回収して取っておいたのでと、僕にくれた。
貰ったはいいけど、天使装備と死神装備という何だか真逆の装備。
僕の理想を詰め込んだサブ垢に死神装備をつけるのも何だか嫌で、本垢に死神、サブ垢に天使を装備させたのだ。
本垢もサブ垢も元は同じアカウントなのでレベルも強さも変わらないが、装備分だけ総戦力が違う。
死神の鎌は強い。
身体よりも大きな漆黒の鎌。刃は銀色に鈍く光り、闇を溶かし込んだ様な漆黒のローブと共に装備すれば、まさしく死神。
しかもゲームアカウント作成時に貰える装備にエフェクト不穏な気配が出てきた。このエフェクトSSRの割には見栄えが良く無いので不人気。装備すると黒い霧を纏うのだ。売買不可だしゴミにしかならない。
死神には似合うかなと思ってとりあえず装備させている。SSRなだけあって防御力があったからだ。
オメガなので一日五時間ログイン出来るが、僕は九時から十二時までしか遊ばないので、隙間時間を使って残り二時間を本垢の死神装備で経験値稼ぎをする事が多い。
『another stairs』は2パターンの遊び方がある。完全に身体を休めて仮想空間に入り、まるでリアルの様に仮想世界の中で遊ぶか、身体は起きていてスクリーンを出してアバターを外側から見ながら遊ぶか。
僕は学校で遊ぶ時はスクリーンを地面に出して死神装備の本垢で自動討伐をさせている。
自動討伐は勝手に近場にいるモンスターをやっつけてくれる。狩場のモンスターよりある程度強く無いと、知らぬ間に死亡してる可能性があるので、より装備が強い方の本垢を出して自動討伐をする事にしている。
学校の中だと他人のスクリーンを誰でも観覧できる仕様になっているので、態々見られない様に校舎の外でしている。
校舎の中は授業でスクリーンを開くので、教師が外からもチェック出来る様、画面公開されているのだ。
外に出ればその制限も無くなり、スクリーンを覗かれる心配も無い。もし誰かに自分のスクリーンを見せたい場合は許可を出せば見る事が出来る。
オタクがゲームしてるって思われるのも嫌だし、死神装備着けてるって思われるのも嫌なので、自動討伐をしている時は誰にも見られないようにしている。
「あ、今開いてるの?オレもやろうかな。」
珍しく鳳蝶がスクリーンを開いた。
「今やっちゃうと夜の分が少なくなるよ?」
「うん、暫くはジンと一緒にログアウトするかも。共有しようよ。」
うん、と頷いて僕のスクリーンからも共有OKを出す。
お互いのスクリーンが一つに重なり、二人分のアバターが出現した。
お弁当を食べながら二人で討伐地域を設定して眺めながらお喋りをする。
「昨日なんかあったの?」
アゲハとは十二時になると別れる。
その後だいたい二時間程度アゲハは一人で遊ぶ事が多い。
「あー、うん………。まぁ、変な人に関わっちゃったなぁって……。」
「え………?まさか。」
鳳蝶はチラリと僕を見た。
そしてテヘっと笑う。
僕は溜息をついた。鳳蝶は元々サブ垢をアルファにしたのは戦闘力を上げる為だったのに、今やそのアルファ性を楽しんでいる。
サブ垢アゲハは人の目から見るとどうやら魅力的なアルファに映るらしく、そういうお誘いが絶えない。
そしてアルファ性に感化されたアゲハは拒めないのか、遊ぶ様になってしまった。
鳳蝶本人はオメガで処女。なのにサブ垢のアゲハは僕がログアウトした後に遊び歩いている。詳しくは聞いた事ないけど、セックスありでの遊びだ。
「変な人って?」
「多分、クラスの………。」
こしょこしょこしょ………。
僕がえぇ!?と驚くのを、鳳蝶は舌を出して可愛らしく戯けた。こういう仕草はオメガ男子ならではの可愛らしさがあるのに、何故アゲハになるとあんなアルファらしい悠々さがあるのか。
アゲハはアバターの性を戦闘力重視でアルファ男性に変更した。容姿もそれに合わせて男らしく変えていった。
色白の肌は健康的な褐色に、淡い茶髪は金色に、瞳の色も青に。百六十五センチの身長は百八十センチに高く、ぽっちゃりとついた脂肪は痩せて筋肉に、でもゴリゴリのマッチョは好みではないので細身に。
出来上がりに満足して、お小遣いを叩いて騎士の装備を揃える。
騎士にしたのはなんとなくだ。
モンスターを倒す感触は薄いとは聞いていたけど、剣で切るのは気持ち悪そうなので距離を取れると思って槍にした。
仁彩のアバターであるジンと一緒にレベル上げを楽しんで、本垢は料理人で設定。
料理人のオレは本来のぽっちゃりとした姿のオメガだ。
仁彩の伯父さんが喫茶店をするつもりならと、本通りから一本入った裏路地の小さな店舗をプレゼントしてくれた。
二人でレベル上げしながらついでに素材を集めていく。
肉も魚も野菜もモンスターが落とすとは笑える。
集めた素材で料理をして、たまにお店を開いて喫茶店をする。
そんな遊び方をしていた。
十二時に別れてオレは一人街をプラプラと歩いている事が多かった。
現実にはたまにいるってくらいのアルファもオメガも、『another stairs』の中ではいっぱいいる。
皆んなオメガやアルファになってみたい。
ゲーム性を楽しみたくてアルファを選ぶ人達は理解出来るけど、態々弱いオメガを選ぶ人達の心情が信じられない。
こんな性に縛られたオメガの何処がいいのか………。
現実でオメガな自分達はオメガを選んでいない。
基本情報だけなら意識を向けると見る事が出来る。オレがアクセサリでつけている真眼は、要は鑑定だ。最初は物しか見れなかったけど、レベルを上げるとモンスターや他人のアバターの基本情報を見れる様になった。
料理人として食材を集める目的と、他人のアバター情報を見る為に、この真眼を付けている。
この『another stairs』というゲームは位置情報が繋がっている。
現実の場所と繋がっているのだ。
今この周囲にいる人達は実際に近くにいる可能性の高い人達となる。直ぐに隣を歩いているから現実でも隣にいるわけじゃなく、半径三十キロメートルくらいにはいるらしい。
だから、目の前から歩いてくる人物に目を見張った。
見た事ある…………。
真っ黒なサラサラの黒髪にあどけない黒い瞳。キラキラと目を輝かせて街並みを眺めながら歩いている。
真眼を使って基本情報を見る。
名前 浅木 楓(あさぎ かえで)という欄にギョッとする。
こいつ本垢だ。
日本人の名前じゃ無かったらまずサブ垢。サブ垢でも名前を日本人名で付けられるとどっちか分からない。
そして浅木楓という名前とこの容姿に見覚えがある。
クラスメイトじゃーん。
クラスのオメガ。性別男。
可愛い容姿がオメガらしく、アルファとベータ男子に人気がある。ベータ女子とオメガにはあまり好かれていない。
何故なら純情ぶってあちこちに手を出すからだ。
ゲームするって話は聞いた事ない。
レベルも1だし、ゲームを楽しむ為に来たわけでは無さそうだと推察する。
アルファあさりか男あさりか……。
無視して通り過ぎようとして、バチリと目があった。
(やば………。)
逃げ遅れたアゲハは浅木楓に腕を掴まれる。
「ね、ごめんね。君優しそうだから聞いてもいいかな?」
首を傾げて可愛らしく話しかけてきた。アゲハの腕はしっかりと握りしめたまま。
「いいけど……少しだけな。」
何を聞くつもりだ?流石にクラスメイトとはバレてないはず。
「一緒に少し遊んでくれないかな?初めてゲームに入ったんだけど、やり方分からなくて………。良かったら教えて?」
潤んだ黒い瞳で見上げる浅木楓は可愛らしかった。
「それで?まさか……。」
仁彩の胡乱な横目に、鳳蝶は目を彷徨わせて冷や汗を流す。
「う、う~~~ん、アイツ怖いよ。オメガの匂いプンプンさせて擦り寄ってきてさ、ついつい…………。」
ついついって………!
どうやら最後までやってしまったらしい。
君はオメガだよ?
「そんなにアルファ性って強く出ちゃうの?ゲームの五感は三割減、性欲は五割減だよ?おかしくない?」
そう、『another stairs』の世界は味覚、嗅覚、視覚、触角、聴覚の五感を現実と遜色無く体感できる。しかしそうであると、ゲームの世界に依存し戻れなくなる人間が出るのではという懸念から、制限時間と共に感覚器官も制限されている。
現実よりは劣る現実。
面白いと思わせつつ、現実に戻りたくなる様な、そんな微妙な均衡は日々模索され続けている。
性別を自由に選べ、性交も可能とされているが、性欲は現実の半分になっていたはずだ。
ただお互いの知り合うきっかけ、相性の確認。それが目的だった筈だけど。
「いや、半分とは思うよ?のめり込むわけじゃないし、絶対次も会いたいって程でもないし。アルファ性でこの程度で済んでるんだから、確かに半分だと思う。」
でもなんかやっちゃんうんだもん~。
鳳蝶は信じて~と縋り付いてくる。
「そんなにアルファって性欲強いの?」
「うーん、人によるかも?じゃないと現実でアルファは性犯罪だらけになる。」
ケラケラと鳳蝶は笑ってるけど、『another stairs』の世界は好きでもその生々しい性実態だけはあまり好きになれない。
「ま、遊びだし、現実の身体には影響ないしさ?オレのこの身体見てアルファが言い寄ってくることもないし、だったらゲームの中だけでも恋愛楽しみたいっていうオレの欲望に叶ってるし。」
「いいけど、あんまり危ない事はしないでね?それで?浅木君から何かされたの?」
僕は本垢の死神と騎士アゲハが今まさにモンスターの群を切り捌き、経験値を吸い込んでいる姿を見ながら鳳蝶に尋ねる。
「あ、知り合ったのは実は先週でさぁ、それから毎日の様に付き纏われてんの!で、オレが雷神の槍取ったのPVで見て昨日執念かったんだよ。フレンドなろうとか現実でも会おうとか。金髪碧眼褐色肌の日本人なんかいないんだからさ、現実とは容姿違うっつーのっ!わかれよ!?」
鳳蝶は興奮して叫んだ。
あー言い寄られてうんざりしてるのか。
じゃあ、暫くは十二時まで一緒に遊ぼうねと約束をした。
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