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14 六月、夏イベント
しおりを挟む六月に入り、事前告知通りに夏のイベントが始まった。
今回のイベントはパーティーリーダーが精霊の光玉を守り抜く攻防バトルになる。
基本パーティーは最大七人までしか組めない。参加は自由だがパーティーリーダーは必ず一つ精霊の光玉を配布される。パーティーを組んでいないソロは一つ貰えているって感じだ。
既にこの光玉、オークションで出回り始めている。
ソロでバトル参加して他パーティーに獲られるより、さっさと売り払ったほうが良いという人達だ。
そして何故かニコニコと手に大量に精霊の光玉を持って来た識月君に、僕とアゲハは顔を引き攣らせた。
「ど、どーしたの?かな?それ……。」
僕の疑問に、識月君は嬉しそうに精霊の光玉を僕に渡してきた。
「イベント参加するって言ったらくれるって言うから貰ってきた。」
イベントリに片付けると、精霊の光玉は213個あった。
いや、君は無意識に貢がれ体質なの?
そして識月君ほどじゃなくてもアゲハも13個、フミ君は52個、ミツカゼ君は78個持っていて、全てリーダー登録されている僕に渡してきた。
パーティーメンバーは前月の末日に登録されているメンバーが固定になり、季節イベントが始まると追加も削除も出来ないので、昨日のうちにこの五人で登録している。
僕のパーティーは戦うことなく既に356個+1個所持になった。
しかし季節イベントは最後の最後まで精霊の光玉を守り抜き、最終日にボス討伐でこれを使う必要がある。
今回のボスは森の精霊王ドライアド。美しい木の精霊は、その美貌で人を惑わし森に引き摺り込む。魅了されない為には、この精霊の光玉を使ってドライアドを眠らせ、倒さねばならない。
という趣旨である。
光玉1つでも倒しに行くのは可能だが、大量のHPを持つドライアドに、光玉1つ使って挑んでも直ぐに消費されて魅了され、森の外に放り出されるだろう。
ドライアドを倒すまで精霊の光玉を所持する必要がある為、この光玉を大量に集めなければならない。
総登録者数を考えると最後の十個の宝箱を獲得する為の光玉の数はかなりの数になるのではという意見が多い。
「何個必要なのかなぁ?」
「俺が集めるから。」
僕の手を取って識月君が熱く主張する。
「う、うん、ありがとうね。でも無理しないでね。」
前回はアゲハの為に頑張ったけど、今回絶対宝箱が欲しいわけでは無い。
「今回の報酬、ジンに似合いそうだから頑張る。」
識月君はやるつもりだ。
今回の報酬はボスがドライアドで必要アイテムが精霊の光玉という事で分かると思うが、森の精霊装備になる。
森の精霊の杖、ローブ、手袋、靴、花冠、木漏れ日(エフェクト)、アクセサリはブレスレットだった。十個の宝箱を獲得すると、どれか一つが出てくる。
どこら辺が似合いそうなのか分からないけど、期待せずに楽しもうと思っている。
識月君のレベルが134になっていた。
僕は伸び悩みでレベル200。ホント上がらなくなってきた。追いつかれそうで怖い。
僕の場合取得経験値を死神の鎌にも振ってるので、レベルが上がりにくい。でもいざという時、戦闘が苦しくなると死神の鎌に装備しなおすとなんとかなる事が多いので、武器レベルを上げないわけにはいかないのだ。
「そう?………ところで、後ろの方は?」
先程から気になっていた人がいる。
どーみてもギルド銀聖剣のギルマスに見えるのだけど、気の所為だろうか。
ギルド銀聖剣のギルマスは20代後半のアルファ男子アバター。勿論サブ垢使ってるけど、廃課金者なとこを見ると良いとこのアルファなのは間違い無いと思っている。
真っ直ぐな長い銀髪に青い目といかにもなゲームキャラ仕様、装備は過去の季節イベントを盛りに盛って、なんだがゴテゴテしている。今の感じはパッと見何処かの王子様風。
「この前入ってたギルドのギルマス。脱退したらついてきた。」
ついてきたまま来ないで欲しかった。
「どうも今晩は。銀聖剣のギルマス、ハヤミと言います。」
「こんばんは。ジンと言います。」
とりあえず挨拶されたので挨拶したけど、睨みつけられていて怖い。
「どうも、アゲハと言います。何かご用で?」
アゲハが前に出てくれた。アゲハって何時も頼りになって強いなと思う。
ハヤミはチラリとアゲハを見て無視した。
「私はツキ君にパーティーを申し込んだのに君の所為で断られてね。どんな人物か見にきたんだ。」
わざわざ?
識月君を見ると無視していた。もう存在無視もいいとこだ。
「ツキ君を返してもらおうか。」
「俺はジンのものだけど?」
え!?
識月君、当たり前の様にそんな返してるけど、僕が酷く恨まれてしまいそうなんだけど!?
案の定ハヤミ氏の顔付きが更に険しくなった。
僕は争い事は好きじゃないのに。なんならこの対人バトル系イベントも苦手部類。
「賭けをしましょう。見たところ貴方がたもイベント報酬を幾つか持っている。ならば私達に対抗出来るはず!勝った方がツキ君を貰う。ああ、なんなら貴方が勝てば私が持つ天使の靴を差し上げますよ?」
「よし、受けよう。」
ええ!?勝手に受けないで!?
識月君が餌に釣られて勝手に喧嘩を買ってしまった。
識月君、もっと冷静沈着な子だと思ってたのに!
楽しみです、と言ってハヤミ氏は帰って行った。
「………わぁ、楽しみぃ。」
呆然とする僕の後ろで、ミツカゼが楽しげにそう言った。
「おはよう。」
「はよ~。」
今日も朝から鳳蝶は菓子パンを食べていた。ポイップクリームたっぷりの甘そうなパンだ。
そして窓際では、最近お馴染みとなったアルファ三人を囲んでのゲーム話しに花を咲かせている。
識月君が本気を出した為、彼等の取り巻きが精霊の光玉を集め出したのだ。知り合いに声を掛けて譲り受けたり、オークションに出品されれば値段関係なしに即買いしている。オークションに出品されると廃課金者勢も買い込もうとするので、常に誰かが見張って買い込んでいる。
識月君がお金を出す場合もあるけど、殆どが周りの貢物では無いかと思われる。
それが僕にあげる為の天使の靴装備の所為だと知られれば、僕は今この場にいる人達からタコ殴りにされ、金を返せと言われるのでは無いだろうか……。怖い。
「今日も愛が深いですな……。」
モグモグとパンを咀嚼しながら、鳳蝶が揶揄ってくる。
「……………やめて。」
ここ最近の朝の風景だった。
土曜日、僕の日課に病院通いが加わった。
寝たきりのお父さんのお見舞いだ。
皓月伯父さんは好きな様にしていいと言ったので、僕は可能な限り通う事にした。
幸せな夢を見るお父さんは、何時も幸せそうに雫父さんに話し掛けている。
僕はそれをほんの少しだけ、雫父さんに入り込んで、雫父さんの視点から覗かせてもらっていた。
こんなにお父さんが喋るところを聞いたことがなかったから、新鮮だ。
僕の中のお父さんは何時も無表情で静かな人だった。
病室に入れるのは10分程度。
本当は担当医師か技師しか入れないのを、皓月伯父さんのコネで見せてもらっているので、そんなに長くは居られない。
看護師にお礼を伝えて出口に向かって歩いていた。
ーーーガツッーーー
こんな所で知り合いに会うなんて思っても見なかったので、僕は避けようも無く頭に衝撃を受けた。
「………いっ!!!」
何か固いものが頭に当たったと思った。
「母さん!!」
次に聞こえたのは知った声。
最近よく聞く声だった。
横を見ると伯母さんが硬そうな皮のバックを持って般若みたいに僕を睨み付けていた。
その奥から走って来て、伯母さんを捕まえる識月君が見える。
ここは精神神経科と心療内科が入っている棟と、末期患者の為の入院患者が入る棟の間になる。
「………え?…識月君?」
何故彼がここにいるのか分からなかったが、伯母さんの目を見て納得した。
昔見た聡明で美しいアルファの女性では無く、何処か虚な感情を昂らせた目をしていた。
識月君は僕を見て複雑そうな顔をした。
「大丈夫か?怪我は?」
「ああ、うん、大丈夫。少したんこぶ程度だよ。帰ったら冷やすから。」
気付いた看護師さんが近寄って来て、僕に診ていくかと聞いて来たが断った。
「すまない、少し混乱してるんだ。」
「うん、ごめんね。すぐ帰るから。えと………。」
なんと言っていいか分からず口篭ってしまう。お大事にとか言っていいのか分からなかった。
「いい………。じゃあ。」
識月君が暴れる伯母さんを看護師さんと押さえながら診察室の方へ消えて行った。
伯母さんは離せ、誰だ、と自分の息子に怒鳴りつけている。
僕の姿を見つけた伯母さんが走って来たのだろう。憎い人間の息子の顔は覚えているのだ。自分の息子よりも。
伯母さん、あんな状態になってたんだ……。
教室での識月君は堂々としていて何も迷いも悩みもない顔をして過ごしていたから、全然知らなかった。
伯父さんも何も言わなかったし、伯母さんには嫌われてても、普通に元気に暮らしているのだと思っていた。
髪もパサパサで数年前よりも格段に老けていた。
この病院はバース性専門医がいる病院になるし、伯父さんの会社の医療機器と提携しているので伯母さんも受診しているのだろう。
雫父さんにはこの病院に来ている事は教えていない。伯父さんが教えていないと言っていたからだ。だから僕もここの事は喋っていない。
伯母さんの事も雫父さんに黙っているのだろうか。
何もかもを隠して、伯父さんは雫父さんを大事に囲っているのだろう。
あの離れは伯父さんの宝物入れ。
排除されたお父さんも、伯母さんも、心を病んでしまっている。
そんな大人に囲まれて、識月君は生きているのだ。
夜の九時、ログインした僕に識月君が嬉しそうに笑って走って来た。
僕は二十五歳のジンというベータ男子の仮面を被って、識月君に笑い掛ける。
識月君は現実ではこんな風に笑わない。
年相応の少年の様な笑顔は浮かべずに、大人顔負けの冷静な瞳しか見せない。
子供を見ない父親と、子供を忘れた母親に囲まれて、自分よりも年上の人間に傅かれ、同級生からは王様の様に見られる識月君の本当の顔は、今僕の前で笑う顔なのだとしたら、僕は彼のこの笑顔を守る必要がある気がした。
識月君から当たり前の愛情を奪っている一因が、僕達親子にある気がして。
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