偽りオメガの虚構世界

黄金 

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17 三つ目の宝箱

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 六月最終日、ハヤミ氏は2つ目の宝箱を獲得していた。
 明日にでも僕達の所へやってくるだろう。

「後5万個精霊の光玉あるけど、どうする?」

 今日も夜の九時に全員でログインしたので、僕はアイテムをどうするか尋ねた。
 もう一度ドライアドを倒すには後5万くらい必要になる。全然足らなかった。

「負けてはいないけど、勝ってもいないな。」

 ハヤミ氏も残りの精霊の光玉で三回目挑戦したようだが、数が足らずに森の外に飛ばされたようで、討伐失敗と出ていた。

「宝箱は現在七つ出現って事は、後三つあるねぇ。」

「ダメ元でチャレンジしてもいいんじゃ?」

 ミツカゼ君とアゲハはやろうと言う。
 まぁ、負けてないし遊びならと、僕達は挑戦してみる事にした。

 挑戦ボタンを押して、巨木の根元で眠るドライアドに近付いていく。
 アゲハが僕の肩をトンと叩いた。

 (なあ、ものは試しにさ………。)

 コソコソっとアゲハが耳打ちした話に、僕はええ~と顔を顰める。

「折角だしやってみようぜ。」

「うーん、じゃあ僕以外全員討伐不能になったらだよ?なってなかったらしないからね?」

 僕が渋々承諾すると、アゲハはポンポンと背中を叩いて、討伐の為に前へ出て行った。


 ドライアドが目を覚ます。
 僕は精霊の光玉を使用して、前衛三人を弓矢で補助しつつ回復を掛けて行った。

「おい!フミも攻撃入れば!?少しは出来るんだろ!?」

 アゲハが声を張り上げてフミ君を前衛に誘った。

「あー確かに。回復はジンのエフェクトで全快してるもんね。じゃあ、やろうかな。」

 フミ君も迷っていたようで前へ出て行った。
 チラリとアゲハが意味ありげにこちらを見る。
 あーはいはい、分かったよ。
 どーしてもさっきの提案をやってみて欲しいらしい。

 攻撃が四人になった事で、この前よりドライアドのHPは減っていった。
 が、やはり足りない。
 精霊の光玉の数が0になり、ドライアドの瞳が開いた。
 僕は目を瞑る。
 戦闘する為には目を開けておく必要がある。だが、目を開けるとドライアドに魅了され森の外へ弾かれてしまうのだ。

 四人の気配が無くなり、僕は一人森の中へ取り残された。
 ドライアドの攻撃が飛んでくるが、僕はエフェクト神の癒しで直ぐ様完全回復してしまう。
 ゲームの中では痛覚はほぼ感じない様に設定されているが、ツキンツキンとした痛みは多少感じる。
 
 僕はサブ垢から本垢に変更した。
 元の男子高校生オメガの僕に。
 オメガで、火傷の痕があって、ひょろっと細い身体の僕は、大きな漆黒の鎌にボロボロに見える漆黒のローブ、エフェクト不穏な気配の黒い霧を纏い、まさしく死神。
 装備変更でアクセサリ天使の憂翼を装着する。攻撃MAX効果により、レベル上げしまくっている漆黒の鎌の威力が上がる。
 キラキラエフェクト神の癒し効果の完全回復は無くなるが、純粋に漆黒のローブと不穏な気配の防御MAX効果により、僕は攻撃を受けてもたいした痛手にならなくなった。
 
 完全なる攻撃防御MAX装備。

 僕は目を開けずにトンと飛んだ。
 天使の憂翼は少しだけ飛べる。
 ドライアドの斜め上から、大釜を振り下ろした。
 黒い軌跡を残して大鎌は真っ直ぐにドライアドを切り落とす。

 ビリビリと大気を揺らし、ドライアドのHPは消滅した。

「…ふぅっ……。」

 目を開けて息を吐く。
 ちゃんと一回で切れてよかった。
 これでダメなら僕も強制退場だっただろう。
 本垢からサブ垢に変更して、現れた宝箱を収納すると、画面が切り替わり元の場所、喫茶店へ移動していた。








 結果、ツキ君、ミツカゼ君、フミ君の三人からどうやって倒したのかと質問攻めにあった。
 実は強力な武器を持っている事を明かすと、見せてとせがまれる。
 それは丁寧にお断りした。
 サブ垢に死神装備をつけてもいいのだが、ハッキリ言って見せたくない。
 ジンは僕の理想なのだ。
 ベータでツキ君が唯一甘えていい優しい大人でありたい。
 こんな暗そうな装備は見せたくなかった。
 ゲームの世界くらい理想でありたい。

「いつか見せてくれる?」

 必死な顔のツキ君には申し訳ないけど、僕の返事は生返事になった。







 僕達パーティーはハヤミパーティーに勝ってしまった。
 
「なっ!どうやって三つも!?」

 そうだよね~普通季節イベントで十個中三つも宝箱取れるパーティーはそうそういない。
 まあ、そのうち一つはどっかの国から出たものだけど。

「いろいろ。」

 ツキ君の説明は不親切だった。

「勝ったから渡せ。」

 そして横柄だった。
 約束の天使の靴を出せと請求している。

「ぐぐぐ……、ツキ君との夢の逢瀬が……!」

「わぁ、キモい~~。」

 ミツカゼ君がツッコミを入れている。
 自分も話を聞いた限りではアルファのアゲハに手を出しているらしいのに、それはそれ、これはこれ、というタイプなんだろう。

 こうやって僕は天使の靴を手に入れた。
 天使の靴は白のショートブーツで、外側側面に羽がふわふわとついていて可愛い感じだ。早速履いてみる。
 
 トン、と地面を蹴ると天使の憂翼がフワリと広がり、身体が空に舞った。
 浮かぶだけだったのに、天使の靴を履くことによって空中を移動出来るようになった。

「おお~これってセットで手に入れないとダメだったんだ?」

 僕が嬉しそうに空を飛ぶと、下で嬉しそうに笑うツキ君と目が合った。
 手を振ると振り返してくれる。なんか可愛い。
 その姿を他の人達は、おいおいと言いながら呟いていた。
 
「な、なぜアイツにだけそんな………っ!」

 ハヤミ氏も愕然としている。

「ツ、ツキ君!私とフレンドになってくれ!」

 ハヤミ氏が叫んだ。
 フレンドにすらなってあげてなかったのか。ツキ君がハヤミ氏を嫌煙している。

「ギルドくれたら考える。」

 これまた無理難題をツキ君が吹っかけていた。

「分かった!」

「え!?」
「いいの!?」
「マジで!?」

 僕達は驚愕した。あの廃課金ギルド銀聖剣をあげちゃうの???
 
「私が十年かけて育てたギルドだよ!専属の町もあるし絶対気にいるから!」

 凄い自信だけど、十年もかけて大きくした町をそんなポンとやるの???

「そ、じゃあ、ありがと、速水重成さん。」

「…へ?なぜ私の本名…?」

 ハヤミ氏は驚いた顔をしていた。
 ツキ君は学校で見せる薄っすらとした笑みを浮かべた。

「知ってる。会社の秘書でしょ?父さんの。」

 ハヤミ氏の顔がかああぁと真っ赤になる。
 分かる、知られてないと思ってたから堂々としてたのに、本当はとっくの昔に身バレしてたと知ったら無茶苦茶恥ずかしいよね。

 あれ、でもそれ僕とツキ君の関係にも言える様な………。
 恥ずかしいくらいで済めばいいけど…。

 その日早速ツキ君はギルド銀聖剣を譲り受けていた。茫然自失になったハヤミさんは、言われるがまま譲渡してしまっていたけど、本当に良かったのかな。

「ジンにギルマスなって欲しい。」

「え!?」

 ダメ?と眉を垂らして聞いてくるツキ君の顔面に僕は負けた。
 特にギルド月雫にいる必要も無かったのもあるけど、なんか最近この顔に弱い。
 アゲハにも一緒に移動してもらうと、ミツカゼ君とフミ君も一旦抜けていたけど戻ると言って、ギルド銀聖剣に入り直していた。
 ハヤミさんは早速ツキ君の使いっ走りをさせられていた。人員移動とか、町の運営について話してるけど、ギルマスになっても特に何もやらなくていいと言われた。
 アゲハがすすすと隣に寄って来て、こそっと耳打ちしてくる。

「………………下僕が増えましたな?」

「………………下僕、言わないであげて?」

 バレたら怖いから。








 翌日学校から帰ると皓月伯父さんがいた。

「おかえり。昨日はおめでとう。」

 一瞬何のことを言われているのか理解出来ずキョトンとすると、宝箱と言われた。

「あ~うん、そだ!僕が死神装備でドライアド切ったやつはPV載せないでね!」

 ハッとして思い出し、すかさず頼んだ。
 折角識月君達にバレない様に、一人になった時を狙って上手くやれたのに、変な所でバラされたくない。

「えぇ~~~、すっごい迫力ある映像撮れてるのにぃ。」

 パタパタと足音を立てて雫父さんが台所から出て来た。

「うっ、やだよ。真っ黒で恥ずかしいもん。」

 仕方ないなぁ~と、腰に手を当てて父さんは不満気だ。
 皓月伯父さんはそんな僕達のやりとりを嬉しそうに見て微笑んでいる。

 僕は自室で着替え、伯父さんが座っているコタツの反対側に座った。
 お茶を飲んでいた伯父さんと目が合う。

「識月君は伯父さん似だね。」

 顔は元々そっくりだなと思っていた。
 切長の黒い目も、シュッとした鼻も、上品な口も、表情を読ませない微笑みも。
 そんな皓月伯父さんが唯一笑うのは、実の弟の前でだけ。
 僕にすら伯父さんは表情を隠しているのだと、つい最近気付くようになった。

「そうだな……。だからこそ、仁彩と仲良くなって欲しいんだけどね。」

「……どゆこと?」

 伯父さんは答えてくれなかった。

「識月君とは相変わらずアナザーの時だけお喋りしてるの?」

 父さんが僕の分のお茶も持って部屋に入って来た。
 お礼を言ってお茶を受け取る。
 
「うん、ジンが僕って教えてないもん。」

「教えないの?」

「教えない。………だからPV載せないでね!?」

 はいはい、と父さんは諦め顔で返事をした。
 
「もう、すっごく格好いいのにっ。」

 父さんがこの前の戦闘シーンだよと見せてくれたのは、顔の左側面に引き攣れをもち、白い羽を羽ばたかせて、黒い霧と衣装を纏う、死神の大釜を振るう僕だった。
 無情にも鎌は振り下ろされ、斬られたドライアドは悲鳴をあげて真っ二つになる。
 瞑られた僕の目が開き、黒い瞳は本物の死神の様に無表情だった。

「僕の戦闘ってこんな感じなんだ。」

 春イベの時の、アゲハに雷神の槍を渡す時の天使の面影はどこにも無い。
 死の象徴を彷彿とさせる自分の姿が、自分自身で怖い。
 こんなの識月君に見せられないよっ!

「ぜぇーーーたい、ダメだからね!?」

 父さんは渋々了解してくれた。














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