偽りオメガの虚構世界

黄金 

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20 夏休み突入

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「おはよう。」

「はよ~。」

 教室に行くと相変わらず鳳蝶は先に登校している。
 今日は終業式だった。
 教室の中はエアコンが効いて涼しく快適だ。外は暑くて自分の左顔が赤くなってないか少し心配だ。普段火傷痕は目立たないのだが、体温が上がると赤くなるのが嫌だった。
 伸ばした左髪で左耳の辺りを押さえると、鳳蝶が気付いたようで、大丈夫だと教えてくれた。

「鳳蝶、少し痩せてきてる?」

 毎朝登校すると何かしら食べていた鳳蝶が、最近食べなくなっていた。
 心なしか痩せたような気がする。

「あ~、まぁ、後で……。」

「ん?うん………。」

 どうしたんだろう?何かあるようだ。
 そんな鳳蝶が心配で見ていると、窓際席の方から騒がしく喜声が上がっている。
 そちらを見ると、識月君、青海君、麻津君が集まっていて、その周りに取り巻きの子達が固まっていた。
 最近見なかった浅木楓君もいた。サラサラ黒髪に幼い顔のオメガ男子だ。
 しきりに自分のスクリーンを開いて、集まった子達や識月君達に見せて何か喋っている。

 (どーしたの?)
 
 いつもの談笑とは違う賑わい方に、何かあったのかと鳳蝶に尋ねた。

 (あーなんか浅木がグランプリの最終に残って準優勝したって。)

 グランプリ?と首を傾げると、鳳蝶は自分のスクリーンを開いてちょいちょいっと検索すると、一つの情報を見せてくれた。

『めざせ!『another  stairs』アイドル⭐︎美しきリアルを世界に発信!』

「おお……。」

 思わず小声ではなく普通に感嘆してしまう。浅木君、これ出たの?

 (発信してるのは日本だけです。)

 何故そこ敬語になる。
 内容を見ると、『another  stairs』内で某芸能プロダクションがギルドを作り、『another  stairs』内にアイドルを流行らせようとしているらしい。そこでグランプリを開きアイドルの卵を集め、宣伝をした。

 (こんなのやってるんだ?)

 (伯父さんは何も言ってないのか?)

 (どうかな?知ってそうだけど、宣伝になるなら放置してそう。)

 (あー、なる。)

 浅木君はどうやらアイドルになる気満々のようだ。可愛いし良いのかもしれないけど、最近姿を見なかったのはこれで忙しかったのか。
 リアルではほぼ関与無しなので知らなかった。

 そこまで話して担任の先生が入ってきたので会話を止めた。








 半日で学校も終了ということもあり、僕達はお昼ご飯を食べに来た。
 鳳蝶のお父さんが経営しているレストランの内の一つで、個室でランチが食べれる店だ。
 内装はこぢんまりとしているものの、大きなクッションとテーブルに、ステンドグラスの窓が明かり取りで壁際に設置され、絵画や置物、花が飾られて小洒落たお店だ。
 どことなく『another  stairs』のアゲハの喫茶店に似ている。

 運ばれてきたランチプレートに仁彩の顔が輝くのを、鳳蝶は嬉しそうに眺めていた。
 この後にデザートとコーヒーもくる。
 仁彩がもぐもぐと食べていると、鳳蝶の箸があまり進んでいないのに気付いた。
 最近鳳蝶の三段弁当が一段になっているのだ。朝から自分で手作りしているのは変わらないが、明らかに食べる量が減っていた。

「それで、どうして食欲が落ちてるの?」

 仁彩の質問に、鳳蝶はぼんやりしていた視線をあげた。
 鳳蝶は太ってはいるものの、本当はとても可愛らしい顔をしている。つるりと白い頬にはフワッとした色素の薄い茶色の髪がかかり、同色の睫毛は被る程に長い。
 背も165センチと低めなので、痩せると天使になれるのではと思っている。

「んーーー、実は最近親にも言われて病院行ったんだけどさぁ……。どうやらホルモンバランスが崩れてるらしいんだ。………というか、今までオメガとして未発達だった部分が成長してる、とか言われた。」

 医師の話では、オメガとして発達していなかった為発情期がくる予兆も無かった。二十歳過ぎれば医薬療法も検討していたのだが、おそらく身近にアルファのフェロモンを浴びる機会が増えた為、鳳蝶の中で停滞していたオメガホルモンが動き出したのでは……、と説明されたらしい。

「……………それって。」

 僕が言い掛けると、鳳蝶はぽっちゃりとした手で顔を覆った。

「………言うなっ!もうっ、親に説明するの無茶苦茶恥ずかしかったんだぞ!」

 説明したんだ。そりゃ恥ずかしかろう。

「お父さん達なんて言ったの?」

「…………連れてこい、言われた。」

 ………………あの青海光風君を?

「連れてくの?」

「んなわけねーだろ!」

 だよねぇ。
 そもそもゲーム内の関係だしね。
 
「でも、肉体的には何も繋がってないのに、関係あるの?」

 僕の質問に、鳳蝶も悩み顔だ。

「精神的なものが関係してるって言われた。フィブシステム自体元は医療用で治療に使われるシステムだから、発情期緩和も出来るし、促進も出来るんだと。だから『another  stairs』はフィブシステムを使ったゲームだから、同じ効果が出たんだろうって。実際それで番から結婚まで進んだカップルいるんだと。」

「へえ~~~。」

 病院でこの説明を受けて、両親に問い詰められ、ここ最近鳳蝶はグッタリしたらしい。

「それでオメガホルモンが動き出した関係で、オメガとしての機能を取り戻そうと身体が変化してるから食事が入っていかない言われた。病気では無いから良いんだと。」

 という事は、オメガとしての機能が動いて食事量が減ったけど、健康には問題ない。元気が無いのはそれを知ったショックと、お父さん達に色々言われちゃったからと。

「じゃあ鳳蝶はオメガとしてこれから可愛くなるんだ?楽しみ~!」

「…………んな、呑気な。」

 オレは大好きなご飯が入らなくて楽しくね~~~、と鳳蝶はぼやいていた。







 夏休みに入り、夏期講習的な授業はあるが、それはスクリーン動画閲覧可能な為、殆どの生徒は自宅学習を選択する。
 学校で授業を必ず受けないとならない普通授業でも無い限り、態々登校する人間はいない。

「ふ、ふ~~~ん♪」

 仁彩は座敷で鼻歌まじりに課題を進めていた。あまり頭も良く無いので、早めに終わらせないと終わらないのだ。

「ふん?」

 調子っぱずれの歌が止み、仁彩の不審げな声に、冷たい麦茶を持ってきた雫が近付いてきた。

「どーしたの?」

 仁彩が覗いていたスクリーンを一緒に後ろから覗き込む。

「なんか学校が次の学校参加日にイベントするって。」

 参加日とは昔行われていた登校日に当たる。今はフィブシステムで映像参加しておけば出席扱いになる。
 必要事項などの連絡を受けて終わるだけの日になるのだが、今年は生徒会が何やらイベントをするので参加して欲しいと通知が来ていた。

「なになに~?陣取りゲーム?」

 内容を読むと、他校と合同でゲームをすると書いてあった。
 そんな学校ぐるみで親交のある他校なんて無かった筈と思って読んでいくと、その学校とはつい先日、鳳蝶と話していた浅木君が準優勝をとったグランプリで、優勝になった子の学校らしい。
 向こうの申し込みでフィブシステムを使って仮想空間を作り、陣取りゲームをしようとなったと説明書きがあった。

 フィブシステム内で必要容量を借りれば、その借りた容量に合わせた仮想空間を使用する事が出来る。
 今回は学校二つ分の敷地を展開できる容量を借りて、うちの学校と向こうの学校で対戦する事となっていた。

「え!?ほぼ強制参加!?」

 何とよっぽどの理由や、ログイン出来ないほどの体調不良でない限り参加と書いてある。

「ま、良いんじゃ無い?どうせ身体はベットの上で寝てるだけだし、開始が朝の九時から十二時までなんだし。」

「そうだけど……これに入るとその日の分のゲーム時間が減るのに…。」

 そう、フィブシステムの仮想空間に入れるのは決まった時間内になる。ゲームの中だけの話では無いのだ。仕事の会議などでも使用される仮想空間だが、身体は安全な場所で待機する状態になるので、仮想空間に入れる制限時間は結局のところ変わらないのだ。
 仁彩はオメガなので五時間潜れるが、普通の人は三時間だ。
 その日は丸々三時間学校イベントに制限されるので、識月君達は夜の『another stairs』には入って来れなくなるだろう。

 鳳蝶にどうするか聞いてみようかなぁ~。

 そう思い鳳蝶のアドレスを開いてポチポチと内容を打つ。

ー学校通知見た?ー

ー見た~。めんどいな。出ないわけにもいかんけど。ー

 やっぱりそうか………。
 出なきゃかぁ~。

ー何で向こうの学校言い出したのかな?ー

ーグランプリ優勝した女オメガが識月狙いらしいぜ~ー

 その内容に仁彩は愕然とした。
 え!?優勝者オメガだったの!?しかも女性!
 仁彩の周りには、仁彩自身が男オメガな為、男性のオメガが多いが、一般的には女性オメガの方が圧倒的に数が多いのだ。そしてアルファは逆に男性が多いので、女性オメガを好きな人が多い。

 グランプリで優勝しちゃうくらい綺麗な人なら、きっと可愛いオメガなんだろうな…。
 ドキドキしながら浅木君が出ていたグランプリ情報誌を検索して開く。
 そこには茶色の髪を肩まで伸ばした儚げながらも美しく瞳を輝かせる、美しいオメガの少女が載っていた。
 桃色のぷっくりとした唇が恥ずかしそうにほほえみ、白い肌をほんの少し赤く染めている。

 うわ、綺麗な子だ!

 こんな子が識月君に……。
 
ー大丈夫だ、仁彩。下僕はお前しか見ていないー

 鳳蝶は何も打ち込んでいないのに、こちらの様子が分かるかのように送信してきた。

 そんな子供達のやり取りを後ろで見ていた雫はププっと吹き出す。

「………下僕………。ふっ…はははっ、それ!識月君のこと!?おかしっ!あははは!」

 ツボに入ったのか雫の爆笑は、皓月が帰って来るまで続いた。













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