偽りオメガの虚構世界

黄金 

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24 死神の笑顔

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 ミツカゼが加勢に入ると、フミは漸く来たと文句を言った。
 フミは攻撃力が微妙な職業になる神官を選択しているので、この場を持たせていたのは謎に料理人スタイルの男子生徒だった。

 クルクルと包丁を手のひらで回しながら、敵のHPを削っていく。
 攻撃力があるわけでは無いが、装備している包丁のレベルが高いのかもしれない。
 刃の長さも他の武器に比べて短いし、殺傷能力があるようにも見えないが、ヒットアンドウェイでチクチクと攻撃しては倒している。
 戦い慣れている様に見えた。

 見た事あるけど誰だっけ?あれ。

 ミツカゼはクラスメイトの顔を覚えていなかった。なので鳳蝶がそもそもクラスメイトと気付いていない。

 ミツカゼの登場によりあっという間に廊下にいた敵は消えていった。

「あーヤバかった。ツキは中に入ったの?」

「とっくに入ったし、終了ベル鳴らないから防衛成功したんじゃ無いかなぁ?あれ?さっきの包丁君は?」

「ん?あれ?どっか行った?」

 戦闘終了と共にミツカゼとフミが近寄って話している間に消えてしまった。

「格好から料理人っぽいのに強かったねぇ。だれかな?」

「誰ってミツカゼのクラスの奴だろ?湯羽鳳蝶だよ。」

「あげは?」

 ミツカゼは追いかけている人間と同じ名前に反応した。

「知らなかったのか?」

「知らなかったねぇ。アナザーのアゲハと関係ある?」

「さあ?一番最初に少し聞いてみたけど、よくある名前だろってゲームのアゲハの方は言ってた。」

 史人は識月の父皓月の依頼で張り付いているだけなので、関係のないアゲハには興味がなかった。お金が発生しない。
 湯羽鳳蝶に関しては、料理が上手で、お弁当の無い史人にとってオカズをくれるクラスメイトという認定だ。

「ふう~~~ん。でもあのアルファのアゲハが太っちょ君ってのもやだねぇ。」

「お前失礼なやつだな。クラスメイトの鳳蝶は料理上手で唐揚げ美味しいんだぞ。」

「うわ、手料理貰う仲なの?」

「ちがうわっ!多少仲良い奴なら皆んなアイツのオカズ何かしら貰った事ある筈だよ。」

「えー?実は仲良しなんじゃ無いのぉ?」

 二人は揶揄い合いながら図書室の方へと向かって行った。
 その会話を階段の下から鳳蝶が黙って聞いている事には気付かなかった。





 陣取りゲームは大将である泉流歌が討ち取られた事により、旗が獲られる事なく勝負が決定してしまった。
 勝者側の要求は、泉流歌が雲井識月に二度と関わらない事を条件に出されて幕を閉じる。

「ふふ~~~ん。」

 陣取りゲームが終わった後の夜、仁彩と鳳蝶は喫茶店にログインしていた。
 今日はもう識月達は制限時間を使い切っているので入ってこない。

「ご機嫌ですな。」

 コーヒーとクッキーを置きながら、鳳蝶は苦笑した。
 今は二人とも本垢で入っている。
 どうせだからと鳳蝶は喫茶店の仕込みをしたいと言ったので、仁彩も少なからず手伝いをしていた。

「だって、邪魔できたし、識月君は泉流歌に興味なかったし。」

 仁彩は邪魔なオメガを退散させれて満足だった。
 
「でも死神装備見られたんだろ?なんか言われた?」
 
 ピキンと仁彩は固まった。
 あの後ミツカゼ達が入って来て合流したので、そそくさと逃げて来たのだ。
 後ろから名前を呼ばれたが、聞こえないふりをして逃げてしまった。

「うう、何か言われる前に逃げて来ちゃった。嫌な奴って思われたかな?」

 鳳蝶は苦笑した。
 仁彩は長めの黒髪で顔を隠し俯きがちなのであまり認識されていないが、鳳蝶から見たら綺麗なオメガだと思う。
 背筋を伸ばし前を向いて微笑めば、絶対にそこら辺のアルファはコロリと落ちる筈なのだ。
 それこそサブ垢のジンのように振る舞えばいいのにと、いつも思っている。

「従兄弟どのがジンと仁彩が同一人物と知ってどう出るかは分かんねーけど、ウジウジ悩むよりスパッと言った方が良いと思う。」

「そうかなぁ?スパッと振られそうで怖いんだけど………。」

 仁彩は自信なさげだが、鳳蝶よりはマシだと思う。
 識月は決して仁彩を邪険にしているわけでは無い。父親の命令通りと言えばそうなのだろうが、仁彩の高校生生活を安全に過ごせる様配慮しているのは識月なのだ。
 一年の入学時、顔に火傷痕を作って入って来たにも関わらず、いじめられる事も班活動などから外されることもなくクラスに馴染めていた。
 一人は寂しいと言っていたが、仁彩の性格は大勢に囲まれるより少人数でずっと一緒にいるのが好ましい。
 それを理解している識月は、鳳蝶を仁彩の友人枠に置いている。
 充分可能性がありそうに見えるのだ。
 
 鳳蝶は今日の午前中に行われた陣取りゲームで、ミツカゼとフミの会話を聞いて若干ショックを受けた。
 いつもゲームの中でアゲハに話しかけてくるミツカゼは、現実世界の鳳蝶と同一人物だとは知らない。
 今日だって同じ人間だったら嫌だと言っていた。
 自分の体型が太っているのは分かっている。食べ過ぎなのも理解しているし、それは誰の所為でもなく自分の所為なのも理解している。
 鳳蝶の方こそ可能性皆無…………?とここまで考えて、いやいやミツカゼとかどうでもいいしと軌道修正する。
 
 アルファもオメガも嫌いだ。

 頭をふるふると振って気持ちを切り替える。
 今日は大好きな親友と久しぶりにゆっくりとしているのだ。楽しまなくてどうする。
 ケーキもあるよと勧めながら、制限時間ギリギリまで仁彩と陣取りゲームの話で盛り上がった。







 今日は既に制限時間を使い切ってしまった為手持ち無沙汰になってしまい、仕方がないので仕事と本日の学校イベントの回収作業をするのに時間を充てた。
 フィブシステム使用解除申請を済ませ、作った仮想空間を消してしまう。
 取り残された人間がいないかどうかは確実に確認しなければならない。もし誰かがここに残った状態でデータを消しても、一応その取り残された人間の精神は戻ってくる。
 だがその人間が取り残された、死んでしまう等といった思い込みにより、精神的外傷や苦痛を残す場合もあるとされている。
 そうなると裁判沙汰だ。
 慎重にデータを洗い、まず先に仮想空間を閉じた。
 次に今日の録画映像を切り分けていく。
 あらゆる角度から膨大なデータが撮られている為面倒だ。ばつばつと誰も写っていない画像や粗が入った画像は消していく。大分データ量を縮小したところで、コピーを作ろうとして手を止めた。

「仁彩…………。」

 今日識月は仮想空間を壊しかけない攻撃を放っていた仁彩を止めに入った。
 咄嗟に前へ出て大鎌を日本刀で受け止める。よく受け止めれたなと、自分で感心するくらいの攻撃力だった。
 
 見開かれた切長の大きな目は、黒く揺らいで識月を見つめていた。
 何故邪魔をするのかと悲しげに潤む目から、視線が外せなかった。
 思いついた会話でなんとか攻撃を引かせ、データを壊さない為だと説明すると納得したのか、ホッとした顔をした。
 じゃあ、そいつは要らないよね、とばかりに、仁彩は無邪気に鎌を振って泉流歌を切った。
 
「…………もう一度。」

 見たい。
 検索して味方本陣の仁彩が現れた所から再生する。
 誰もいなかった様で、暫く一人で椅子を持って来て座っていた。この時は制服をまだ着ている。
 片膝を椅子の上に上げて、抱え込んで座る姿に、一緒にいてやれば良かったと思い浮かび、何故そんな事を思うのかと自分自身で狼狽える。
 
 泉流歌達が現れた。仁彩側からと流歌達側から、そして真横からのものを並べて同時再生する。
 
 泉流歌が叫ぶのを、仁彩はふわりと笑って受け流していた。
 その笑顔が目に飛び込む。
 止めて、戻して、もう一度。
 優しく、でも強く、柔らかに微笑む笑顔に見覚えがある。
 識月は仁彩と正面から話をした事がない。まともに会話をした覚えが無かった。
 仁彩の親、雫はどんな顔をしている?
 考えてみれば叔父親子とまともに会った事が無いのだ。
 上手に父皓月が合わせない様にしている?
 だが、仁彩の世話をさせる為にと、この学校に無理矢理入れられた。
 雫には合わせないけど、仁彩は世話をしろと言う意味は?
 雫は皓月の大事な番だ。どんなに忙しかろうと暇さえ有れば離れに行くし、発情期は必ず休みを取って相手をする。
 他の誰にも雫を合わせず、皓月が世話をする。識月も用事があってホテルの部屋に入る事はあっても、叔父本人と話した事はなく、ほぼ対面することもない。
 
 画面の中の仁彩が一振りすると、サッと目の前にいたプレイヤーが一瞬で消えた。
 とても強力な武器だ。
 飛び上がると、仁彩の髪と漆黒のローブがふわりと広がる。
 左顔の側面と左耳に引き攣れが見える。
 母親が負わせた傷だ。 
 仁彩がそれを隠したがっているのは知っている。その所為で髪を伸ばし、隠して俯いていることも。

 美しい死神は画面の中で艶やかに笑っていた。
 作り物の青白い満月を背に背負い、窓から入る光の中の麗しい少年。

 識月は指を動かし、この仁彩が写っている部分だけを切り取りコピーを取った。
 次に全体画像から先程の仁彩の部分を、今度は完全に消してしまう。
 消したものをコピーして、一つは自分が通う学校へ、もう一つは今回対戦した学校へと送信する。
 後は各学校の生徒会が考えるだろう。識月の知ったことじゃない。

 陣取りゲームに『another  stairs』を連動させたのは、ある一つのことを確認したかったから。
 ジンと仁彩が似ているようで、どうか気の所為であって欲しくて、もしかしたら何か分かるのではと繋げてみた。
 少々費用は高く付いたが、生徒会を上手く丸め込み、削れるデータは削ってレベルと装備だけを繋げてみた。
 『another  stairs』のジンのアカウントなり、装備なり仁彩が使えば確定だと思った。
 実際はジンのアカウントは現れなかったし、仁彩は見た事もない装備をつけていた。
 それでもあのふわりと浮かぶ笑顔が、頭に焼き付いて離れなくなり、より一層疑惑が深くなる。

 人はいっぱいいる。ユーザー数も多い。直ぐ近くにいる身内が、ジンだという確率はどのくらいだ?
 現実のジンを知りたかったのに、今は知るのが怖い。
 ………それでも、知りたい。

 切り取った仁彩の微笑んだ画像をもう一度眺めた。
 識月は目を瞑り心を落ち着かせてから、残った作業を終わらせるべく、また黙々と仕事に戻った。













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