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26 残念な成績表
しおりを挟む僕の発情期が終わるまで、識月君は毎日僕を抱き締めて過ごしてくれた。
夜の九時から深夜0時までの約三時間の幸せな時間。
識月君がログアウトした後、気をきせて時間をずらしてログインしてくれていたアゲハが入って来て、課金しろよと言われてしまった。
だって、セックスなんて、そんな……、と恥ずかしくてまごついたら、純情かよと呆れられた。
「まぁ、課金セックスを強要せず、最後まで耐えたアイツは偉いな。」
と識月君を褒めていた。
僕の発情期が終わると雫父さんの発情期が来た。
相変わらずホテルに行くので、もう知ってるから家で過ごしても良いのになとは思ったけど、恥ずかしいものがあるのかなと思って何も言わずに送り出した。
だいたい僕が一週間家事に洗濯にと世話出来る自信も無かったし。
いつも家事は父さん任せで手伝って無いので、少し手伝って出来るようになった方がいいんだろうか。
夏休みは暇なので鳳蝶と遊んだり、入院しているお父さんの様子を見に行ったりして過ごした。
ベットで静かに眠るお父さんは、とても綺麗な人なんだと思う。
記憶の中の厳しい顔付きとは違う、穏やかな寝顔を見ると、なんとなく安心するようになった。
今日も生きている。
閉じていた目をパチパチと開ける。
目の前には先程まで痩せこけたお父さんとは違う、元気で若いお父さんが笑っていた。
「どうしたんだ?急に目を瞑って。」
何処かのお店の中にいた。
空調が効いていて涼しい。目の前には大きなかき氷が置いてあった。
フワフワの氷が平たいガラスの器に山盛りに乗せられ、いろんなフルーツが綺麗に盛られていた。練乳がたっぷりと掛かって美味しそうなかき氷を前に、僕がボンヤリしたので心配そうにお父さんが覗き込んでいた。
「んーん、何でもないよ。食べれるかなぁ?これ。」
「食べれなかったら手伝うから。」
僕が笑うとお父さんが楽しそうに笑った。
夢の中のお父さんは朗らかで優しくお喋りだ。
一掬いスプーンで掬ってメロンと氷を食べた。
「ん、美味しい!」
「こっちも食べて良いぞ。」
お父さんは抹茶のかき氷を食べていた。
粒あんと団子まで乗っている。
スプーンで掬って口の前に抹茶のかき氷を持って来てくれたので、僕は迷わずパクりと頬張る。濃厚なお茶の渋みと甘味が口の中に広がる。
「こっちも美味しいね。」
僕がそう言うと、お父さんはふんわりと笑った。
「………………学校、楽しい?」
今日のお父さんは、いつもと違う事を聞いてきた。
「ふぅん?うん、楽しいよ。」
「友達は?仲良い?」
???確かウチの両親は同じ高校に通っていたと思うけど、何で聞いてくるんだろう?
雫父さんの友達とか知らないので困った。
「う、うん。仲良しがいるよ?……一人だけど。」
「そっか。一人でもいるなら良いんだ。」
お父さんは嬉しそうに笑った。
どうやらおかしな返事にはならなかったようだ。
その後はお互い食べ合いっ子してお喋りしていたけど、10分は短くあっという間に過ぎてしまった。
ふっと目を開けると、いつも通りの静かな病室に戻っている。
今日は少しいつもと違ったけど、お父さんと喋る時間は楽しい。
いつまでも続けば良いのにと思ったが、お父さんが眠り続けてもう四年も経っているらしい。
その時を覚悟していてくださいと、この前言われた。
「お父さん、また来るね。」
そう声を掛けて、僕は病室を後にした。
長い夏休みがあっという間に終わり、九月から新学期が始まった。
九月の季節イベは秋イベント。『another stairs』の中も秋に彩られ始める。
告知の通り始まるイベント《夢みる卵》が始まる。
ゲーム内容はこうだ。
パーティーリーダーに卵が一つ配布される。その卵を育て羽化させる。卵から羽化するのは動物で、産まれた動物をより強く育成しランキングを決める。上位十匹の動物を育てたパーティーに宝箱が配られる。
前回宝箱を重複して取るチームがあった事に対してクレームが入ったらしく、宝箱が少ないのだから特定チームが多く取るのはおかしいと言う意見が殺到したらしい。
しかもそのチームが最終的に同じギルドに統合され、次の季節イベが更に厳しくなると批判が殺到。今回は重複取得が無いようランキング形式で上位10パーティーに満遍なく受け渡せるようにと報酬形式を変えて来た。
「ふんふん、動物選べるのか。」
「わぁ、何の動物が良いかな?」
昼休み、二人で校舎の影に入り込みお弁当を突きながらスクリーンをのぞいていた。
何でこんな建物の隅っこで食べているかと言うと、単に涼しい所を探した結果だ。
花壇側は暑いし、屋上テラスも暑い。校舎内はエアコンが効いてて涼しいけど、涼を求めた生徒でごった返している。
僕達は弾き出されるように外に逃げ出した。
八月に行われた学校イベント、陣取りゲームの映像内容で識月君の人気が更に高まった。教室には常に誰かしら集まり人が多い。違うクラスの奴らまで食べに来るので、僕達がいるスペースが無くなってしまった。
まぁ、僕もお小遣い叩いてゲーム映像買ってしまったので、わからないでも無い。
僕が買ったのは識月君の編集映像だ。
全体映像と人気のある生徒の編集映像が売りに出され、その売上金が今回行われた陣取りゲーム費用に当てられるらしい。フィブシステムを通して仮想空間を借りたので、いくら識月君の口利きで安くなったと言っても、とても高くついている。なのでいっぱい買って下さいと生徒会がアナウンスしていた。
「そー言えば、鳳蝶は青海君の映像買ったの?」
鳳蝶がグホッと咳き込んだ。
鳳蝶のお弁当は今一段になっている。それでも僕のお弁当の二倍はある。
鳳蝶はお茶を飲んで誤魔化した。買ったのかな?
「そーいう仁彩は従兄弟どののを買ったのかよ?」
「うん、買ったよー。」
ニコニコ笑いながら言うと、鳳蝶はへーと気のない返事をする。
「今月いっぱいまで販売してるらしいからね。」
「いや、陣取りゲームの話ししてたか?何でそっちに行ったんだよ!何の動物にするかだろ?」
鳳蝶に言われてもう一度スクリーンを見る。
動物リストが一覧で載っていた。
数百種類の中から一つ選んで育てなければならない。
「僕は狼かなぁ。」
識月君に似合いそう。
今回の宝箱はいつもと違う。選んだ動物の職業獣人が貰えるのだ。毛並みなんかも細かく選べるので、最終的に宝箱をゲットした場合、選んだ動物の職業が手に入る事になる。
ついこの前識月君が希少な黒兎獣人をトレードに出した時、欲しがる人間が大量にいたらしく、運営側がそこに飛びついた。
獣人は人気がある。
季節イベは宝箱が少ない分、弱小チームはあまり乗り気にはならない。なので課金してまでやり込むプレイヤーは少ない。という事で課金アイテムは無い。
そこら辺の仕様を少し変えようかなと皓月伯父さんが溢していた。
もっと大勢に参加して欲しいらしい。
プレイヤー数が多いのだから宝箱を増やして欲しいとは言っておいた。
「ワンコ下僕、似合いそうだな。」
鳳蝶は誰に、とは言わない。
「そう!ワンコの耳が伏せった時なんか似合いそうだし、戦ってる時ピーンとしてる時も似合いそう!」
「…………だんだん否定しなくなってきたな。」
鳳蝶は今日も呆れた顔をした。
本日実力テスト。
昨日のログインはお休みした。何故なら成績がちょっとヤバいから。昨日の夕方まで鳳蝶にテスト勉強を見てもらっていた。
理数が苦手なのだ。
テストは二日間行われる。終わるまでゲーム禁止を父さんから言い渡された。
結果がまずまずならゲーム再開して良いよとも言われているので、結果発表されるまでゲームお預けだ。
約一週間の禁欲を経て、漸く成績表がデータとして届いた。
席替えで僕は廊下側の一番後ろの席になった。
ドキドキしながら僕はスクリーンに映る成績表を眺める。
「ドキドキドキドキ……ド、キ?」
思わず自分の心情が言葉に出る。
いや、これは、うんうん、ギリセーフでは?赤点無いし!
下の下に近い中の下なのは変わらないけど、すこーしだけ上がってる!
鳳蝶に徹底的に数学を教えてもらった成果が出ている。
背後からフッと笑う気配がした。
鳳蝶かと思い振り返ると、なんと識月君だった。
「ピョエ…。」
変な悲鳴が出てしまった。
バッチリ僕の成績が見られてしまった。
いつもは無表情に近い識月君の目が僅かに笑って廊下に去っていった。
撃沈だ………。僕のHPは0になった。
「なに寝てんだよ?」
鳳蝶が近付いて来て声を掛けてきた。
「僕はもう立ち直れない……。」
鳳蝶が僕の成績表を覗き込んだ。僕と鳳蝶はお互い成績表を見せ合いっ子する仲だ。
「……………卒業は出来るから大丈夫だろ。」
「識月君に見られた………。」
「………ご愁傷様?」
因みに鳳蝶の成績は五番でした。クラスでじゃ無い。全学年で五番だ。
上位陣なんか殆どアルファの子達ばかりなのに、何故鳳蝶はそんなに頭がいいのか…。
いや、努力してるんだろうけど。
「あげは~~~。」
「ほらほら、今日は一緒に帰って雫さんの説得手伝ってやるから。」
「鳳蝶、優しい!」
鳳蝶はなんのかんの言いながらも優しいのだ。
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